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「い」


1999年鑑賞作品

イタリアの麦藁帽子Un chapeau de paile d’Italie
1927年 123分 フランス モノクロ
監督:ルネ・クレール 脚本:ルネ・クレール
撮影:モーリス・デファシオ 音楽:――(サイレント)
出演:アルベール・プレジャン オルガ・チェホヴァ マリーズ・マヤ アリス・ティソ


1999/3/24/水 京橋フィルムセンター
いやー驚いた驚いた。この時代にこの長尺、じゃなくて(それも驚いたけど)、おそろしく面白いんだもの!サイレント映画で、フィルムセンターは音楽も何もつけてくれないもんだから(普通、サイレント上映の時はピアノかなんかつけるよねー)、ひどくシーンとしてて最初のうちはカサと音を立てることも出来なくって逃げ出したくなるほど窮屈だったけど、全篇に渡るギャグに場内が次第にノッてきて、笑いの連続!サイレントだから言葉ではなく動きや表情で笑わせる。その表情も大げさで笑わせたり、実に微妙な表情で笑わせたり多彩なのだ。

結婚式当日、不倫のカップルの女性の帽子を探し回って四苦八苦するうちに、その女性の夫まで出てきててんやわんや。新郎の家に押しかけてきたその二人、女性はやたら失神して誰彼かまわず倒れ掛かり、その家の下男(?)がドアを開けるたびその抱き着きシーンを目撃して何ともいえない表情をするのがやたら可笑しい!男性が激昂してきて手当たり次第に家の中のものを外に投げ出すと、往来にいる男がそれを投げかえしたり、廃品集めの男に手当たり次第拾われたりする。

靴や手袋、そして表題の帽子もそうだけど、それらをやたらに探し回って人のものをかすめてサイズがあわずにバタバタしている様がとにかく可笑しくて。この、身につけるものに異様に執着する描写はフェティシズムそのもの。

家の中を荒らしまくっているのを下男に報告された、結婚式のパーティーでダンスを踊っている最中の新郎が、くるくる踊りながら男が家の中のものを黒ずくめの男達に運び出させている様子や、はては家そのものをぶっ壊す様子を(ミニチュアで作ったと思しき建物の破壊シーンが可笑しい!)一人勝手に想像しているのが可笑しくて可笑しくて!お目当てのイタリア麦の帽子が見つからず、それを買った女性の家まで訪ねていく新郎、そこの主人とおっかけっこに銃のつき付け合い(これが実に可笑しい!ジャッキー映画を思い出す秀逸なギャグアクション!)しながら、帽子を探しまくる新郎、そこに立てかけてある写真で、何とそこが当の不倫カップルの女性の家であることが判明して……。そんなことしているところに、新郎の家と間違えて、結婚式に出席していたメンバーが押しかけてきて(いくら似ている家だからって、間違えるか?普通……その辺のアバウトさも好きだなあ)一悶着。

でまあ、何とか帽子をゲットして家に戻るも、新郎が浮気したと早合点した人々が勝手に家のものを持ち出したせいで部屋の中は見事にがらんどう!そこに押しかけてくる、不倫女性の旦那の目を何とかごまかそうとして傘だのドレスの裾だのでさっと目隠しさせるそのアクションの可笑しさ!何とかすべてがもとのサヤに収まった後、不倫カップルの男性の方が忘れ物を取りに来て、新婦に色目を使うその微妙な表情!彼はつまり人妻が好きなのねー(笑)。登場人物みんな可笑しいんだけど、耳が遠くてどんなに周りで騒いでも居眠りしているおじいさんが一番最高だった。彼は実に我が道を行っていて、結婚式で新郎の動きや表情をマネてみたりして実にキュート!

とにかく笑い通しだったんだけど、ただ一つ、私がちょっとうとうとしてしまったら、場内今までにない大爆笑!で目が覚め、一番面白いギャグを見逃してしまったらしいのだ。どういう場面だったんだろう、あー悔しい!★★★★☆


イフ・オンリーIF ONLY
1998年 92分 イギリス=スペイン カラー
監督:マリア・リポル 脚本:ラファ・ルソ
撮影: 音楽:
出演:リナ・ヒーディ/ダグラス・ヘンシャル/ペネロペ・クルス

1999/6/1/火 劇場(シネ・ラ・セット)
不思議でキュートなおとぎばなし。タラレバがほんとに起こったら、という設定はもしかしたらありがちだが、ありそうでなかった気もする。こういう場合不可欠な、女は美しく可愛く、男は(いい意味で)バカで情けなく、が徹底しているのがいい。

明日が恋人との結婚式だという女(リナ・ヒーディ)がかつての恋人(ダグラス・ヘンシャル)に「君を愛している、結婚するな!」と言われるシーンから始まる。あわててこの恋人のもとに駆けつけるこの男、生乾きのパンツをレンジでかわかしたりして、一発でかいしょの無い男だと判る。しかし同時に、どこかほっておけない憎めなさも内包していることも。八ヶ月前、彼女に浮気を正直に告白してしまったことで、それまでの六年間の同棲生活が終わりを告げてしまった二人。八ヶ月たち、ようやく本当に愛しているのは彼女だけだと男は気付く。遅いっちゅーの!と突っ込みたくもなるが、そのトロさもどこか愛しい。

売れない役者である自分には彼女を引き止めるだけの力もない。うなだれて男はバーにいき、酒をあおる。「ヤケ酒なのね」赤毛に青い瞳が印象的なバーテンの女性がすべてを了解したような表情で彼に付き合ってくれる。「八ヶ月も経ってからヤケ酒もないもんさ」そんな彼を意味ありげな微笑を浮かべて眺めやるピアノマン。

外は雨。「ボロだけど、役にはたつわ」と小さな女物の折り畳み傘を貸してくれるバーテン。ふらふらと外に出る男はごみ収集車の男にカラむ。「俺はゴミなんだ。放り込んでくれ」「ゴミの中は止めた方がいい。すごい匂いだから」これまた事情を察したような顔をして二人の収集人は男を車に乗せてくれる。ついたところはまだ使えそうなゴミが山積みにされたゴミ収集所。その中にある冷蔵庫がなぜか稼動していて、中からワインを注いで持ってきてくれる。やはりゴミのソファに座って飲み直す男。ひとしきり愚痴を聞いた二人はおもむろに男に目隠しをし、ぐるぐると回転させる。男がふと目隠しを取ると……!

といった、不思議な導入で物語ははじまる。男は浮気を告白した場面の直前の時に戻ることができ、恋人に隠したまま浮気相手とは別れ、彼女の理想の恋人になろうとあいつとめる。そして最初の世界で彼女の結婚相手となる男と何とか引合わせないようにと涙ぐましい努力をするのだけど、これが運命の不思議、女の親友の紹介によってその男と(実はその親友が狙っていた男)“正式に”出会ってしまうのだ。その彼とはインド人で、森林保護のために働いているという、エキゾチックとインテリを同時にあわせ持つ背の高いハンサムなものだから、もう男は嫉妬に狂って、女が彼に惹かれる前からなんだかんだと彼の悪口を言い立てる。ベッドに二人並んで、ひとしきりある事ない事言い立てる男に肩をすくめるようにして明かりを消す女、再び点けてまた愚痴り出す男。ユーモラスながらも、雲行きのあやしさをひしひしと感じる。

女は精神分析医。インテリということでもインドの彼と波長が合うわけで、当然のようにどんどん急接近していく。車の中で交わすキスが挨拶から恋愛に変わっていく。そして彼女もまた男と同じ選択を迫られ、最初に男が選んだ答え……浮気を告白すること……をしてしまうのだ。愕然とする男。

男は以前に行ったバーに行き、かの赤毛のバーテンを探すが、そこには新米バーテンの若い女しかいない。どうやら、赤毛の女がここに勤めるまでにはまだ間があるらしいのだ。最初から男に惹かれるものを感じているらしいこの作家志望のスパニッシュ美人のバーテンなのだが、男はあの赤毛の女にまた話を聴いて欲しいという頭しかなく、何回となく店を覗いては、そのまま帰ってしまう。しかしある夜、気をきかせた、かのピアノマンの計らいで彼と女は接近する。これまた当然のように惹かれあっていく二人。面白いのは男のかつての恋人の女もインド人というエキゾチックな男に惹かれたように、ここでもまた男はスパニッシュの女に惹かれるのだ。しかも彼女が作家志望で、スペイン語の詩をそらんじたりして話がはずむ。ある意味、自分の日常から外れた世界に、憧れにも似た思いで、それぞれの相手を“愛する”男と女。しかしそれが本当の愛だったかというと……?

しがない役者だった男は、あるコメディテレビ番組に出演が決まり、次第に人気を博していく。ある日、プールバーで女と彼女の親友が遭遇する。彼女の親友はかのインド男性に最初に出会ったのは私なんだと恨み言を言う。そして話題は彼女のかつての恋人の話に。「あの番組観た?」「一度だけ」「サイテーよね。でもあの回は笑えたわあの……」「そうそう、あれは可笑しかった」「それからあの回……」「あれ、可笑しかったわよね!」「一回だけ見たんじゃなかったの?」「……実は二回」そしてここでふと気付くのだ。この、女の親友である彼女、実はこの男が好きだったのじゃないかと。男が浮気をしているのをうすうす気付いていて、彼に「彼女を泣かせないで!」なんて言って、男にうるさい女だと疎ましがられていた彼女。……そう考えると哀れな女性なのだ。親友はもちろん大事。彼女の幸せを願いたい。でも自分の好きな人は皆その親友が持っていってしまう。この主人公である女は美人で、ぶっちゃけて言っちゃえば男好きのするタイプだ。反対にその親友の彼女は男と対等にガンガンと口はきくけれど、いざ恋愛として異性とぶつかるには不器用なタイプ。そんな彼女の本質を知れば、こんな可愛い女もいないと思うのだが。

その年のテレビ番組の中で最も注目すべき男性なんていう賞までもらうほどにのぼりつめる男。そのころ彼のかつての恋人である女は、この男が冒頭でそうだったように、本当に愛しているのが彼だということに気付く。授賞式が行われている会場に駆けつけ、彼に思いのたけをぶつけようとして、反対に彼から今の彼女を愛している、と告げられてしまう女。彼女は悲嘆にくれて会場を後にする。外は雨。彼女にドアマンが、あのバーで男が受け取った、同じ折り畳みのボロ傘を、同じ台詞で手渡す。そしてベンチに意気消沈して座り込んだ彼女に、あの二人組が挟み込んで腰を下ろしてきて……。

そしてラストクレジット。同じように彼女は過去へと戻り、また別の物語が語られるのだろう。あるいは男が浮気を告白するバージョンがまた繰り返されるのかもしれない。そうだとしたら、まさにメビウスの輪。どこまで行ってもきりがない。でも願わくば、彼と彼女がお互いにお互いを本当に愛していると気付く、その瞬間が同時に起こる物語に到達して欲しい。そう願わずにはいられない。少女マンガチックなファンタジックラブストーリーではあるけれど、これがなかなかどうしてあなどれない構成力と面白さ、胸キュンさを兼ね備えているのだ!★★★★☆


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