いや、それだけではない。最近の外国人観光客の方々は、カッコも気合いが入っている。
先日道を聞いてきたドイツ系と思しきお兄ちゃんは、ヤンキー鳶にーちゃんがはいていそうな、裾が太く膨らみまくったニッカボッカに、植木職人が着ているような藍の模様の入ったポリエステルの七分袖(判ります?)、しかも足元は雪駄履きという微妙に間違っているよーなジャパニーズスタイルで(どこであんなもん調達するんだ)、しかもナップサックに突き刺してあるのは、玉露入り緑茶のペットボトル。
しかも、以前なら「Excuse me」と声をかけてきた彼らは、最近「スミマセン……」と言ってくるんである。
あら、この人日本語を勉強してきたのかしらと警戒心を解くのは早い、スミマセンの次からはバッチリ英語なんだもん。
これ、意外にアセる。
多分、日本人に話しかけるにはまず、スミマセンと声をかけるべしという指南がガイドブックに出ているんだろうけど。
で、私は、つきじまーけっと?ごーすとれーと、あんどたーん……えーと……らいと!とか汗だくで教えると、お兄ちゃんにんまりとして、「Thank you」
……このお兄ちゃん、実は道なんて判ってて、ただ単に長靴はいた河岸の日本人に道を聞いてみたかっただけなのでは……。
さて、今年の夏はあまりの暑さにビールを飲むのもへたばるようなありさまでしたが、ようやくしのぎやすくなり、よりおいしいお酒の季節となりましたなあ。
最近、場外の事務所の近くに立ち呑み屋ができたので、一度行ってみたいと思っている今日この頃。
これは、先日しゃけこさんに連れて行ってもらった築地かちどき橋近くの、しゃけこさん曰く“レゲエ風居酒屋”。
厨房カウンターの中央に見えているのは生ハムのかたまり。これをスライスしてくれるのだ。そして世界中のビール。素晴らしい。
オリーブでビールを飲むなんて洒落たことをしたのは初めて。美味しいのね。
ふーむ、築地もなかなかに奥が深いんである。
しゃけこさん、今度はぜひ、あの立ち呑み屋さんに行きましょう!
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さて、世は夏休みに入りまして、小さな子供の手を引いて仕入れに来る光景が見られるようになりました。
普段はセクハラオヤジなおっちゃんたちも(もー、ホンット、挨拶代わりにオゲレツなこと言うからねー)、パパやじいじの顔になっているのが微笑ましい。
しかもそんなムサ苦しい(失礼)オヤジどもとちゃんと相似系であるのも、微笑ましいんである。ま、当然だけど。そうでなかったらヤバいもんね。しかし、それが子供となると、なぜこうも愛らしいのだっ。
魚屋さんや定食屋さんや飲み屋さんといったお店を構えている彼らが連れてくるのは大抵男の子なのは、やはり後継ぎとして将来の仕事を見せておこうということなのだろーか。
しかしこっちとしてはそんなことは関係なく、もうその男の子たちの愛らしさに釘付けなんである。
だって、普段はこんな、セクハラ大爆発なオヤジどもを相手にしているわけだからね。
寝ぐせのついた髪の毛もそのままに、そのもみじのような小さなお手手を引かれて眠そうにやってくる男の子たち。
あああー、もう、なんてめんこいのだ。癒されまくるー。
帳場から手をのばして、その桃のような産毛に包まれたほっぺをふくふくとつまみたくなる衝動を必死に抑える今日この頃。
さて、話題変わりまして、先日の日刊食料新聞に、来年度の開市日の予定が出てました。
来年度は、四週八休(つまり、週休二日)制度の試行を3月と6月に行うということで、この二ヶ月は毎週水曜が休みになっている。
おおー!!
今までは四週六休制、水曜休みは基本的に隔週といえど、連休が入ったりすると省かれる形の不定期。やっぱりね、休日が少ないとそれだけで人材も集まらないのですよ。募集しても全然来ないし、来ても実体を知るとすぐに逃げられてしまう。
まあ市場という性格上、休日をイコール罪悪視する向きもありそれも判るんだけど、ある程度休みがあった方がメリハリがつくというもんです。
水曜休みのないぶっとおしの週は逆にダラダラ感があってお客さんの出足も鈍いもの、水曜休みのある週の方が、仕入れ意欲が大きいのは店にいると実感するんだもの。
試行で終わらずに、次年度からは毎週水曜休みってなってくれたら嬉しいなあ。
で、今はこのボイルのベビーホタテがウチの店の大プッシュ商品なんであります。1キロ1200円と超お手頃価格。そのまま自然解凍していただくのだけれど、ドリップがまったく出ず(これが出ると、うまみ成分が流れ出てしまう)担当君曰く「生と遜色ない味。チョー美味い」
実際、店頭で試食を出しておくとどんどんなくなり、味を見てくれた人は大抵仕入れてくれるのですよ。
このドリップの出ない加工技術は、世界一のレベルなのだそうな。最初、日本一と言っていたのに、次に聞いた時には世界一になってた。次は宇宙一になるんじゃないのかしらん。
私も試食してホレこんで、買いました。しかも2キロ。最近はこればっかり食べてる。もう酒のアテにばっちり(こればっかり)。マジで美味い。仕入れたい方は私に連絡ちょうだい(笑)。
ところで、マグロショックに続いて、ロシア産のカニの輸入禁止のニュースが出ておりましたが、現時点では以前とほとんど変わらずに入荷されております。うーむ、これは一部の報道で言われている、正規の貿易より密猟の方がフツーに横行しているという話も、あながちデマじゃないのかもしれない?
実際、大卸のお兄さんたちは冗談ぽく、「密猟で入ってきてるからねー」などと言ってるぐらい。つまりは売りたい思惑と買いたい思惑が合致する、純粋なる商売が国の思惑を超えて成立してしまっているということなのでしょうな。いいのか悪いのか判んないけど。
さて最後に、この間、老舗の魚屋さんが言った衝撃?のひと言でしめてみようっと。
「孫よりチワワの方が可愛いよ。だって口答えしないし」
そんな哀しいこと言わないで!
……えっ?
「いや、ホント。甘くて案外美味しかったよ」
…………ええっ!!
なんとタフな……無害を自ら証明しようとしたらしい……。
都知事選が近づき、築地市場移転問題再考、などと言われ出して、ホントかなあ、と半信半疑ながら、ちょっと期待してみたりする今日この頃。普段は移転反対の運動なんか全然参加しないし、もうムリなのに、みたいにどこか冷ややかに見てるのに、ゲンキンなもんだよなあ、我ながら。でも、やっぱり築地市場はなくなってほしくないんですもん。
移転反対のデモなんかがニュースになったりもするけど、あれはごくごく一部で、河岸で働いている大部分の人たちは、どう頑張ったって移転するんでしょ、みたいなアキラメムードの方が強い感じがするのです。
今回の知事選の争点になっていても半信半疑なのは、知事が全てを決められる訳じゃないし、石原知事になる前から移転に関してはずっとゴチャゴチャしていたから。
ただ、石原さんが一番乗り気って感じだからなあ。銀座に近い一等地に、あんな汚い市場があるのを苦々しく思ってるんだとか、オリンピック招致もそうだけど、あの場所をのけてカジノをやりたいんじゃないかとか、かなりまことしやかに囁かれてたのよね。
場外市場は、場内に引きずられる形でなくなってしまうことを危惧して、独自に頑張って宣伝して、今や外国人観光客も押し寄せる、日本の有名な観光スポットのひとつとして認知された感があります。最近では、「場外市場は移転しません」の幕が張ってて、なんかうらやましい。確かに場外は都の持ち物じゃないから、頑張りがいがある。だけど、場内は結局は東京都の店子だし、言いなりになるしかない部分は否めないし。
それに、実は東京都は「築地市場を豊洲に移転する」とは言っていないんだ、という話もあったりするんですよ。豊洲に市場を作る。そして築地市場は廃止する。これがホントのとこなんだと。
以前、豊洲市場に関するアンケートを東京都の職員が聞き取りに来た時、こんなことを漏らしてた……「まあ、仲卸さんに聞いたって、しょうがないんだけどね。移転はイヤだって言ったって、豊洲の市場に入りたいっていうトコはいっぱいあるし」
つまり、豊洲に来たくないなら来なくていい。商社とか市場に参入したいところはいくらだってあるんだから、というのが本音らしい、と。
場内に数百ある仲卸の店は、大きくたってせいぜい社員20人程度だし、自転車操業で家賃が遅れがちなところも多い。そんな効率の悪い仲卸はいっそのこと切って、商社にでも市場を任せてしまう方が、東京都としては合理的だし、利益も上がると、こういう腹積もりがあるらしい、みたいなね。
信憑性があるだけに、実にコワい話なんだよなあ……。実際、豊洲の予定地は、今の仲卸がせいぜい3分の2入れるぐらいのスペースしか用意されていなくて、もう移転に向けて閉める決心をしている、小さな店や後継ぎのいない店が沢山あるんだもの。
どんどん豊洲市場の整備も進んでて、もう5年後とか期限も切られて、本当に築地を離れなくちゃいけないのか、いや、市場に残ることが出来るのかどうかさえあやふやで、不安がいっぱいなわけです。
河岸に勤めちゃうと、もうこれほど潰しが効かなくなるのもないっていうか、他になんか絶対に行けない。放り出されたら私、一体どうすればいいんだろう……。
ああ、何だか暗くなってきた。
とりあえず、石原さん以外に投票するけど。ホント、久々に投票に行こうと思ってます。うーん、誰だ、私はいまだにフロッピーディスクのお世話になってるから、感謝を込めてドクター中松?
で、ですね。そんなことじゃなくて、そう、ネタはいっぱいある!のですよね。
例えば、案外知られていない築地トリビア。広大な場内(東京ドーム5個分なんだという。へー)はただひとつの住所だっていうの、知ってる?
私の勤めている仲卸のお店は数百あるし、大卸、冷蔵施設、東京都の事務所や組合、診療所、郵便局、銀行、一般の人も多く集まる飲食店などなど、合わせれば1000は楽に越えるであろうすべての住所が、ぜーんぶ「中央区築地5−2−1」。この住所一発でそのどこにでも届いちゃう。郵便屋さんは大変だ……。
もちろん、区分けをするために、仲卸の場合だと、タテを走る大通路と横路を区割りして割り出した、店番と呼ばれる四桁の数字によって場所が示されているわけだけど、これは場内に流通している仲買人名簿というものがなければ判らんのですよ。
あ、でもこの仲買人名簿、どっかでえらく高く売ってるって話、聞いたことあるような……どうすんのかしら、そんなもん手に入れて。
さらにもうひとつ、これも案外知られていないトリビア。河岸の中はですね、いわゆる治外法権なんですねー。この中で事故とか事件が起きても、警察は介入しないんすよ。東京都の持ち物だからなのかなあ……東京都、という名の元に、全てが処理されてしまうんですねー、ある意味コワいですねー。
まあでも、世間一般と同じように保険会社などを立てて、きちんと解決はさせるけれどもね。だから、外にもれない事件や事故がいっぱいあるんだろうなあ。マグロ盗んで人刺して逃げたとかね。いやー、怖いなあ。
さてさて、そんなちょっと怖い?築地の一年も、もう終わり。来年からマグロ半減のニュースが出たからってわけでもないんだろうけど、年末の出足がなんとなく早かったような。
マグロといえば、そうこれもよく聞かれるんだけど、判んないんだよねー。そもそもマグロは「大物」と呼ばれて特別扱いで、扱うのはマグロだけを専門に扱っている仲卸がほとんどで、そーゆー店は「大物業会」に属しているわけです。
「大物業会」うーん、なんか偉そうでいいな……ウチはしがない中小物業会だからなあ。
とりあえず年内は通常通りの流通のハズなので、食べおさめをしとこうかと思いつつも……どうなのかなあ、なんかここ数年、やたらマグロマグロ言い出したような気もするし。
ところで、今回のマグロ制限は、世界中に寿司が定着して、マグロを食べるようになったから、日本にばかり回せなくなった、ということが言われているんだけど、マグロだけでなく、輸入の冷凍魚類全般、日本に入ってくる数が激減してんですよ。なもんで、ウチの店もかなりの打撃を受けてるわけで。
特に、中国、ロシアがガバーッと持ってっちゃってるんだって。中国は来たる北京オリンピックのための好景気、ロシアは……武器密輸のための好景気?などと囁かれているけど、ホントのところはどうなのかしら。
どっちにしろ、日本は品質にはうるさい一方で、買い叩くというので、輸出国が日本に出し渋っているってゆーんですよ。中国、ロシアは何にも言わずにバンバンカネを出すんだって。なんか、コワいな……。
なんて、経済番組みたいなシメで、今年は終わりですかあ?あらら……。
さて、来年はマグロを食べられるのかしら。
ま、私はシメサバを肴に出来りゃ、それでいいけどね。
河岸を走ってるターレと呼ばれる運搬車は、この通り柵もなんもないので、気をつけてカーブ切らないと荷物がブン落ちちゃうのよね。
私ゃ、このターレに左足を轢かれたことあります。つーか、私の左足の上に乗り上げて走って行っちゃった。
轢き逃げだよー!
しかし本人は多分気づいてないだろう。そーゆートコなの河岸って。
ズームで盗撮。おっちゃん、ゴメン。
このターレに轢かれた訳じゃありませんよ〜。
私はあまりの痛さに声も出ずうずくまったが、そういう時は大げさに痛がって騒がなきゃだめよと後で言われた。
そ、そんなこと言ったって(泣)。
ターレの走る音ってすんごいうるさいんですよね。だからちょっとやそっと声上げたって気づかれないで行っちゃう。
最近は電動ターレも出来てるんだけど、それはそれで音もなく近づいてくるので怖いし。
ちなみに、私の轢かれた足は見事に腫れ上がり、半月足を引きずって歩いていたのでした。
骨折しなかっただけでもめっけもの。冬で、長靴の下に厚手の靴下を重ね履きしてたのが良かったのね、多分。
普通の靴だったら絶対危ない。河岸に遊びに来る人はホント気をつけてね。
さて今日も、あのお客さんからすまなそうに注文の電話がかかってまいりました。
何もそんなに、すまなそうにかけてくることないのになあ。
「あのー……すみません……「玉きん」ですけどもお……」
そうなのだ。こんなとんでもない名前のお客さんがいるんすよ。お好み焼き屋さんなんだけどね。
しかもね、仕入れにくるお兄さんのTシャツに描かれてるロゴまで、リアルにそんな絵なんすよ。毛まで生えてる(!)。すまなそうに注文する割にはそんなもんを堂々と着てるあたりが、オイオイだが。
この店の子供は学校でいじめられたりしないか、心配になっちゃうなあ。
あるいはこの店に食べに行こうという時、「今日は「玉きん」で!」とか言うわけでしょ?言えるかっ。
最初のうちは、店の名前を言うのもやっぱり恥ずかしくて、注文を受けてもメモで渡したりしてたんだけど、エビ課のIさんはそーゆーところイジワルに楽しむ人なもんだから、「何?どこから注文?」とニヤニヤしながら聞き返してくるのであった。
もー。
でも最近じゃ慣れたもんで、「玉きんさんから注文でーす!」と大声で叫んじゃうもんね。
つくづく、慣れってコワイわね。