河岸のおはなし



今年の戻りガツオは最高!

まあ、ちょっとねえねえ、今年の戻りガツオときたら、最高じゃあないのお、ほんと、尋常じゃない旨さですヨッ!もう、食べました?旨いっすよねえー。私は毎週末呑みに行っちゃあカツオの刺し身ばっかり頼んでますわ。この時期のカツオはマグロのトロなんかより、ずーっと、ずうーっっと美味しいッ!ほんと毎回ビックリするんだから、口に入れるたび。うっわあ、何この脂の乗り具合、何このとろける食感!!カツオだから生姜と一緒に出されるけどそんなの乗せなくたって!臭みも全然無いし。もうたまんないっす。これが、いわゆる縁起モノとして食べられる初ガツオと、あの鉄分タップリだけどそれだけ!って感じのあれと同じ魚なのかと思うとびっくりですね。

あ、そうそうこないだとあるフグ料理屋さんで、戻りガツオ入ってる?って聞いたら、聞かれた店の女の子、え?戻り……ガツオですか、ちょっとお待ちくださいっつって奥に入って、すいませんが、普通のカツオならあるけれど、戻りガツオはありません、だって。オイオイ、何言ってんの!と思っちゃったね。今の時期のカツオは戻りガツオでしょうが。普通のカツオって何よ、戻りガツオは普通のカツオじゃないのかあ?まったく、これが築地にあるお店だっつーんだから情けないわなあ。それとも外国産の冷凍モンでも使ってんの?それじゃ、余計情けないわなあ。

それで、私の働く河岸の仲買でも白子、フグ、フグ刺し、アンコウ、アンキモ等々を扱うようになってきたんで、きたきたきた、この季節がッ!とね。んもう、生白子やアンキモのポン酢は最高ですよね。クリーミーでコクがあって。ああー、これらが苦手だった自分がウソみたい。これがまた日本酒に合うんだあ。それもね、やっぱり今の時期だったらフグのヒレ酒ですよ。ま、あれは日本酒じゃなくて焼酎だけど。蓋開けて、ボッと火をつけてね。コップ半分も呑みゃあ、もうポッポッと熱くなってきて。そいで、二杯目が美味しいんですよね、一杯目のヒレの香ばしさと辛めの飲み口もいいんだけど、二杯目はヒレの香りと味(?は出てるのかなあ、良く判んないけど)がよりまろやかで甘くて、こんなキツい酒なのにクイクイいっちゃうんですよね。

なんか、河岸の話じゃなくて、単なる呑み助の話になってきたんでちょっと路線変更。河岸情報(?)です。えー、今年は、カニがひどく品薄なんだそうです。毎年年末からお正月用のカニの需要が凄いんですけど、今年は河岸に勤める人も手に入れるのは難しいんではないかという話。うちの会社のカニ担当のお兄ちゃんは、夏からずーっと「今年の年末はカニないよ!」と言い続けてるし。ま、モノにもよるのかもしれないけど。うーん、ガッカリだなあ。ほんとにね、お正月にタラバのぶっとい足を食うためだけに河岸に勤めてるようなもんですよ、私ゃ!?

さて、給料も出たし、明日は“味のいし辰”で釜めしでも食べよっかなあ。築地の場外市場の手前、交差点角にある築地共栄会ビルの地下にあるお店で、ここの釜めしは日本一ウマイ!と私は思っとります。へんにおしょうゆなんかで味付けせずに、お魚のダシの味を大切にしてる、絶品です。ぜひ一度お試しあれ。




お魚の王様、タイは蒸すに限ります。

つい先頃からお魚の獲れた場所を明記しなくてはいけなくなって、ちっちゃい伝票のちっちゃい項目欄に品名と産地を書かなくてはいけないのでなかなか大変なのですが、おかげでどのお魚がどこで獲れるかとか、冷凍ものの輸入先はどこなのかとかが判るようになってなかなか面白いものです。今迄はわりと知らなかったんですよね。聞く暇もなかったし。冷凍ものの輸入先なんてほんとにバラエティに富んでて面白いですよ。中国、ロシア、カナダ、オーストラリア、アラスカあたりまではまあ予測がつくけど、アルゼンチン、ニュージーランド、インドネシア、マダガスカル、果てはモーリタニアにカナリア諸島と、アラ行ってみたいわあ、なんて思ってみたり。そんでここでも河岸の人たちの短気があらわれてて、短縮しちゃうんですよね。いわく、ニュージーランドはニュージ、インドネシアはネシア、オーストラリアはオースト、マダガスカルはマダガスといった具合。

新鮮がウリの鮮魚や活けじめのお魚はもちろん国産であります。三陸、青森、境港、房州、といった地名が並びます。こんな不景気な時期でもおめでたいタイはコンスタントに出ているのですが、はー、タイって、三重から来るんだ、などと思ったり。タイはさすがにお魚の王様、骨もしっかりしてて素人が頭を落とすのもなかなか大変なので、お店で頭を落としてあげた状態の、身ダイ(身だけのタイ、ということですな)が結構出ます。でもねえ、頭を落としてもらうのはいいけど、その頭を持ってかないってのは絶対もったいない!私はこうして身ダイが出て、残ったタイの頭を持ってく?と言われると、ハイハイハイハイ!と手をあげて、嬉々として持っていきます。でも、この頭だけで500円くらいで売ってたりもするんですけど。実際、和食屋さんなんかでは、タイの頭煮って、結構な値段を取りますよね。

でもでも、タイは蒸し物が絶対に美味しい!私は築地に勤めるようになってから、このタイのために大きな蒸し器を買ったくらいですから。旨みを逃がさず、緻密な肉質がふんわりしあがって、夢のような美味しさ!もちろん身の部分もあればベストですけど、頭だけで充分です。タイは、目の周りの肉が一番脂が乗っててしっとりもっちりしてるし、思い切って眼肉をすすってみなさいな、そのとろけるようなゼラチン質の味わいが、ああ、あなた……口の中から白い小さな玉だけがコロンと出てくるのは、結構残酷というかグロテスクかもしれない。

と、いうわけで、タイの頭を蒸す時は昆布、長ねぎ、お酒、おしょうゆの四つがあれば充分。ひとつも欠けてはいけません。頭を乗せるお皿に昆布とねぎのぶつ切りを敷き、頭をのせ、さらにその上にねぎをのせ、上からたっぷりお酒と、少々のおしょうゆ。蒸し器に入れて中火で20分強ぐらいかな?それをそのまま食卓にドン!あちこちあちこちしぶとくほじくりまわして、しゃぶり尽くせば、たっぷり二人分は満足できます。

もし身の方も手に入ったならば、ぜひオススメしたいのは中華風蒸しです。身の、皮の方に切れ目を入れまして、先述のように蒸し、蒸しあがったタイの身に、白髪ねぎをたーっぷり乗せます。小なべにサラダ油を弱火でじっくり熱し、そこにおしょうゆを適宜加えます。恐ろしくハネますので、覚悟!そうして出来たタレを、先ほどのあつあつのタイの身の、そのねぎの上からかけますと、じゅっ!といい音といい香りが……。で、出来上がり。簡単でしょ?大切なのは、蒸しあがりたてのあつあつにかけること。そうでないと、音も香りもなくて、油っぽくなってしまいますから気をつけて。

いよいよ新サンマが出てきました。待ちに待った食欲の秋!です。




シマエビは甘えびより美味しい!

先日シマエビをいただきましてねえ、美味いんすよ、これが。その名のとおり殻に縦縞模様(横縞ではないところがミソ)がある赤い海老で、お刺し身で頂きます。味は甘えび風ですけど、食感も含めてシマエビの方が美味い!と思います。しかしこれ、あまり流通量は多くないらしく……そういやあ、私も河岸に来てから初めて見たもんなあ。いくら美味しくても、お寿司屋さんは嫌がるんですって。なぜかと言うと、シマエビの赤い色がシャリについちゃうからです。お刺し身で食べてても、乗せてるお皿にべったり赤いのがついちゃいます。ちょっとグロテスクかも。そういうのって一般消費者にも嫌われるだろうから、だからあんまり見ないのかなあ。でも美味しいからいいんだもーん。

ちなみに、このシマエビの正式名称はモロトゲアカエビ。その名のとおり、頭についてる刺が凄いんですわ。大体頭部だけで体の半分くらいあって、処理するのに頭とっちゃうといきなり小さくなっちゃうので、結構ガクッときちゃうんですよねえ。しかもこの刺に指なんか刺された日にゃ、ぶわーっと腫れあがる、んだそうです。海老課の常務は、だからシマエビの処理はもう絶対やらん、と言ってます。こんなに刺が凄いと、甘えびみたいに頭をから揚げとかいうことも出来ないし(口中血だらけになっちまわあな)……いや、取っちゃえばいいんだけど、取る時に刺されるの嫌だしなー。

と、今、「ポケット図鑑 魚と貝」(主婦の友社刊。私の愛読書。これ結構笑えるのだ)を見ていて気づいたのですが、シマエビって(ちなみに甘えびも)雄から雌へ性転換するんですねえ。なんか性転換って言うとスゴイ言い方だけど。食用になる頃の大きさになるとすべて雌なんだそうです。海老はわりとそういうのが多いみたいですね。大人になると雄に必要性がなくなる、と。人間もそうだったらいいのになあ、なんてね。あはは。

さて、いくら不景気とはいえ、河岸の中はほんっとーにヒマです。よく食産業は景気に左右されないって言うけどありゃ嘘ですね。みんな何食べてんのかねえ、肉食べてんのかねえ、インスタント食品食べてんのかねえ、てな愚痴ともボヤキともつかない会話で日々過ぎていくという感じ。じゃああんた、昨日の夕食魚食べた?いや、食べてない。河岸の人間が食べてなきゃおしまいだわなあ、などと不毛な会話を続けてるというありさま。

来年の夏前には数年ぶりの場内店舗大移動が実施されるようです。これだけ広大な場内だと、例えば入り口付近の店と奥の店では相当売り上げに差が出てくるからです。どこに移動するかはくじ引きで、今不利なところにいるからって、いいところに行けるとは限らないんですけどね。本来なら四年に一度行われるのがのびのびになったのは、豊洲への市場移転問題が再三浮上し、市場自体が移転するなら今ここで場内移動で余計な金を使うことない、と見送られてきたせいで。しかし結局反対運動などゴタゴタした結果、豊洲への市場移転は行われないだろうというのが大方の見方です。来年の実施決定はそのためでしょうか。

しかしこう景気が悪いまま行ってしまうと、場内移動の資金が出せないままつぶれてしまう店も相当数出てしまうだろうというのです。実際、過去移動の度に何十軒、へたすると何百軒という単位で店が減り続けているというのですから。市場の重要性がだんだんと薄れてしまっている今、市場自体の存続もいよいよ危うくなってきそうな気がして……ああ、本当に、そんなことになったら、イヤだあ!(もう就職活動したくないし……って、違うだろ!)

築地の魚河岸は今や重要文化財状態なんだから、大切にしてくんなきゃ、と半ばナゲヤリ状態で思ってたりするんですけどね……いや、マジで、ここは戦後のバラック長屋かい!ってくらいボロいですから。今時珍しいっすよ、こんなひび割れとすすだらけのところって。市場が移転されたなら、もんのすごい近代的設備になるんでしょうけど、キレイなコンピューター管理された河岸なんて河岸じゃない!そんなの、ここで働いている人たちには似合わない!って、いや別に決してナゲヤリになってるわけじゃないんですけどね(ほんとかい!)




魅惑の生インドマグロ&ビッグコミック「築地魚河岸三代目」に期待!

いやー、びっくりしました。何がビックリしたって、こんな美味しいもの、食べたことない。噂に聞いてたインドマグロです。もうほんとについ昨日の出来事。鮭などを主に扱っている場内にお店を構える北×さんに書類を届けに行ったらそのまま店頭で大飲み大会に発展し……というより、もうそうなるのを期待してこちら二人組はしっかり缶ビールを10本持参してるんですけど。そうしたらですね、「これが世界で一番美味しい食べ物だ!」なんていって取りいだしたるが皮付きサクの「生の!」インドマグロ。マグロなんてたいていは冷凍モノなんですよ、生マグロだなんて、ああ……。北×の社長さん、ギラリと使い込まれた包丁を出してきて、豪快に大きな短冊状に切っていきます。いわゆる赤身の部分から(と言ってもその部位ですでに脂が浮き出てて、これはすでに赤身ではない!)皮に近い部分の脂ののっている部分までが層になった状態。とても一口では食べられない大きさ!料理屋で出てきたら何千円と取られそうな勢いの超贅沢。

これを、お味噌汁用お椀に一升瓶からおしょうゆをなみなみと注ぎ、そこにじゃぶんと突っ込んで食すわけです。おしょうゆにぱあーっと脂がひろがりまして……これ、お約束。肉身の見た目はやや黒ずんでいるような感じにちょっとグロテスクだったりもするんですけど。ほんとにね、口の中に入れてほおばると、じゅわあって感じで脂の旨みが広がるんですよ。……びっくりしたなあ、ほんとに。世の中にこんなに美味しいものがあるなんて!マゴロはホンマグロが一番だと言われていますが、下手なそれよりインドマグロの方が脂がのり方が明らかに違って美味だとは聞いていたけど、ほんとです。まあ、こういう脂がキツいお刺し身が苦手な人はダメでしょうけど。いや、その前にこんなスゴイの、いわゆる一般の人はなかなか食べられないもんね、ふふふふふ。

三人で缶ビール10本があっという間になくなり、その後は北×さんとっときの「剣菱」が登場!(ヨッ、待ってました!)やや琥珀色で香り抜群のコレを湯呑み茶碗でガンガン行き(美味しい〜、もう!)、そのお酒がなくなった後は、北×さん行きつけの「江戸銀」だあー!ここではもうひたすらひれ酒です。これが強烈にキクんだわ。目の前でお酒にボッと火をつけてくれて、一度ふたをしてからいただきます。黒こげのフグひれがお酒につかり、何ともいえない香ばしいかおりが……これを三杯呑んだあたりから記憶がすっ飛んでしまいました。

あー、美味しいものは、人生最高の幸せ!!

そうそう、ところで、5月10日発売の「ビッグコミック」に、築地の河岸が舞台の漫画「築地魚河岸三代目」が連載開始されるのですが、私が参加している築地魚河岸のホームページの市場リレー日記のコーナーもアイディア提供として協力してもらいたい、と、二ヶ月ほど前かな、編集者の方と原作者の方が、日記執筆者たちに挨拶に来ていました。私もほそぼそながら書いているので、HP主宰者のNさんや、他の執筆者の方たちと共にお会いしたんですけど、まあまあ、このお二人の熱いこと熱いこと!

日本が世界に誇れる文化は漫画なのだと熱を込めて語り、話が盛り上がって三次会まで突入、仕事が朝早い河岸に勤めるメンメンは、ほとんど死亡状態、なんとかお開きにしようと水を向けるのですが、熱いお二人には一向に気づいてもらえず、時計は日付を超えてしまいました。よってその日の睡眠時間は2時間を切り、次の日使い物にならないイキモノになったのは言うまでもなく……。とっても素晴らしい人たちだけど、これから三次会に参加するのだけはカンベンと心に誓ったのでした。

でも、そうした熱い人たちが作る漫画なのだから、もうとっても期待しちゃいます。今NHK朝ドラも築地が舞台らしいですが(私にとって時間外なのでどうしても観られない……)、築地は本当に本当に面白いところなので。こんなヘンなところはちょっとないですよ。ヤバイ人たちばかりだし。映画にしたら絶対オモシロイと思うのに、築地の河岸が舞台の映画って、ほとんど観たことがない、「日本侠客伝 関東篇」と、キャラの一人が河岸に勤めているという設定で海幸橋(場内の手前にある橋)だけがチラッと出てきた「ヤマトナデシコ」くらい。河岸が日本橋時代のものでは昔シリーズがあったみたいですが。

この漫画がヒットを飛ばして、ちょっと今しょぼくれちゃってる築地が活気を取り戻してくれたらな、と切に祈っている次第です。




豊ちゃんのオムハヤシだー!

夏にカレーのことを書いた時ここで紹介した、場内の洋食屋さん「豊ちゃん」、こないだ久しぶりに行ったんですよー。そうそう、カレーの「ベツのせ」お兄さんは最近某12チャンネルの某「貧乏脱出」なんたらいう番組で、カツをあげる修行先の指導する鬼教官として出て、ちょいと有名になっちゃったらしいです。それはともかく、ああ、オムハヤシ、オムハヤシ、いつ以来だろ。あの時も書きましたけど、私はここでは何といってもカレーかオムハヤシ、特にオムハヤシは思い入れがあるのです。

大皿に、たっぷりのかためのご飯、キャベせんもどっさり、そしてあれは一体何個使ってんだろ……一人分優に玉子5個は使ってそうな巨大オムレツ!中には玉ねぎとコロコロした豚肉も入ってて、もうもう、信じられないほど玉子がフワフワなのです。そしてその上からハヤシソースがかかります。オムライスではなく、オムレツライスなわけです。このハヤシソースはとても濃厚で、ハヤシライスとして食べるとちょっと濃いんですけど、このオムハヤシにはうってつけ。そしてこれをごはんとキャベせんとソースとオムレツを同時に口に運ばなければいけません。あああ、この妙なるハーモニー(??)。

つい最近、このオムハヤシもどこかで紹介されたらしく、若い女の子なんかも場外に入ってきて注文するのですけど、あなたがフツーの女の子ならば、ごはん少な目にって言わなけりゃツラいです。半分も行かないうちにバテて、「もうダメ〜!」となっちゃう子が結構いるらしいですから。

あっ、ちなみに、話を戻しますと、私が食べに行った時、隣にやはり初めてらしい男性二人組が来ていて、彼らもどうやらオムハヤシが目当てらしく、先に私の前に到着したオムハヤシをみて、あれだ、あれだ、などとヒソヒソ声で言って、彼ら二人ともオムハヤシを注文しました。そしていざ、目の前に出てきてその量に驚いた様子、そしてへーぜんと「あー、おいしい、あー、おいしい」とさかさか食べる私をなんだか驚いた様子で見てるんですわ。いーもんね、私はすでに“女の子”でも“フツーの”胃袋でもないもんね。

あっと、それと、この量なんで、お値段は¥1020と決して安くはないんですけど、もうほんと、絶品なんでぜひぜひ食べに来てみてください。ちなみに、場内のお店ですから、午後早くには閉まっちゃいます。狙い目は午前中の早目がよろしいかと。

next!