home!

「も」


1999年鑑賞作品

もういちど逢いたくて/星月童話星月童話/MOONLIGHT EXPRESS
1999年 107分 香港 カラー
監督:ダニエル・リー 脚本:ポール・チェン
撮影:姜國 音楽:松本晃彦
出演:レスリー・チャン/常盤貴子/星野有香/惠元賜/サム・リー


1999/5/31/月 劇場(有楽町スバル座)
うーん、これは……かなりツラいんじゃないだろうか。レスリー・チャンと常盤貴子が同等の主演のようにうたっておきながら、その実(出演場面の多少は関係なく)、かなりレスリー主演の色合いが強く、常盤貴子は添え物っぽい印象。しかも完全なるラブストーリーで売っているのに、実際はレスリー扮する潜入捜査官のサスペンスがその半分を占めていて、当然二人の関係にも侵食してくるし、ラブストーリーに没頭できない。しかもこのサスペンスが結構おざなりというか、アクションの方により重点を置いていて、あまり出来た内容ではない。暗闇や影、漏れる光などの中で繰り広げられるアクションは多少様式美を感じさせはするものの、取りたてて新しいものでもないし。

ラブストーリーの成り立ちからしてかなりクサいのも辛いんだよなあ。死んだ婚約者にうりふたつの彼だの、お互いに恋人が死んだ傷を抱えてるだの、いつの時代の少女漫画かと思ってしまう。いやしかし、少女漫画的ネタを巧みにキュートな佳編(例えば「君さえいれば 金枝玉葉」)、あるいは感動の傑作(例えば「ラヴソング」)にしてしまう力が香港映画にはあるから期待していたのに……。この二人のラブストーリーだけで語るのは無理があると思ったんだろうか。かつての恋人が用意してくれていたデートコースを身代わりの男とともにまわり、海の見えるレストランで結婚祝いのケーキを見て号泣してしまうというこの文字におこすと更にクサい展開!しかも一応用意されているギャグもことごとくお寒い。

常盤貴子が吹き替え無しで広東語に挑んだことを、褒め称えるべきこだわりとしてやたらと言い立てているけれど、果たしてそうだろうか?これが脚本が変化することが香港映画ほどにはない、他の国の映画だったら成立する話かもしれない。でも香港映画では現場でどんどんセリフが変わっていくといい、実際彼女もそれで苦労したという。彼女のために短い言い回しや簡単な発音の言葉に置き換えて切り抜けたというが、そのことがあだになったような気がしてならない。彼女の台詞はいつも短く、感情も込めにくそうだし、実際、こっちも感情を入れて聞こうとするとあっという間に彼女の台詞が終わってしまう。

それに加えて常盤貴子の演技は固く、悪い意味でのテレビ演技のままのような気がする(顔立ちといい、どこかケリー・チャンみたい)。彼女が注目されるようになったのは多分に体当たり演技というか、センセーショナルなシーンも辞さないことにあったみたいだけど、それと演技力とはやはり別問題なのだ。それにそういうシーンを演じていると熱演しているみたいに見えて、一瞬演技力がカバーされるようなところがある。そういう意味で彼女の演技力はまだまだ未知数なのだ……希望的観測で発展途上中という感じ。

私はテレビドラマはあまりチェックしないので大きなことは言えないのだが、以前ちらりと「愛しているといってくれ」の常盤貴子を見た時、ああ、顔と台詞で演技してるなあ、と思ったのだ。この顔と台詞での演技というのがいわゆるテレビ演技で、顔のアップとバストショットが圧倒的に多いテレビではなんとか通用していた人が、全身演技を、しかも台詞で込められない演技を要求される時に本当の演技者かどうかを試されると思うのだが、残念ながら彼女はその時の印象を一歩も出ることが出来なかった。笑顔や泣き顔を作るのは上手いが、それが非常に固定されてしまっているのだ。レスリーのような上手い役者といるとただでさえそれは目に付くのだけれど、同じ人を思う女性同士……レスリーの義姉としてミシェール・ヨーが出てくると、もう彼女の内面から出てくる圧倒的な演技力の前にいる常盤貴子が気の毒になるほど。吹き替えが嫌だという彼女のこだわりは台詞に演技を込めるという彼女の演技法を無意識に露呈することになり、それがこんな結果を招いてしまった。吹き替えにこだわらず、ただ全身全霊を役に注ぎ込んだ富田靖子が「南京の基督」や「キッチン」で見せたまさしく女優の姿をはからずも思い出してしまう。

キスシーンやベッドシーンを話題作りにするのも嫌だが、そのシーンが胸に迫らないのも弱ってしまう。設定上では、その瞬間にお互い恋に落ちたんであろう、税関の外、群衆の中での抱擁とキスシーンもただ唐突なだけで、そうした感情の高まりを何一つ感じさせることなく、ちょっとスタイリッシュな映像で終わってしまう。ベッドシーンだなんて言っても何ということはなく、しかも二人の気持ちが高まって……なんていう過程を見せることなくいきなり映し出され、彼女のロケットペンダントが床に落ちたところで唐突に終了する。感慨も何もあったもんじゃないのだ。

クライマックスは二人の恋の成就か否か、ではなく、レスリー扮する石家宝が仲間の裏切りを制裁しに銃を持って署内に乗り込み、一騒動起こす方なんだからこれまた困りものなのだ。これまた丹念に撮っちゃって、その裏切り者の友人の拳銃に弾がなくなって何度も引き金を引くとかの狂気じみた世界を楽しそうに描写している。しかしこれもまたありがちな展開。フロッピーに情報というのも微妙に古いのだ。

そして案のじょう、去ってしまったはずの常盤貴子扮する瞳が戻ってくる。最初の出会いからはじめよう、と手を差し出して「はじめまして」と言うところまであまりにもお決まりである。これで泣けというのははっきり言って無理だぞお……音楽がこれまたこっぱずかしいほどに弦楽奏を急にクレシェンドさせるが、無理なものは無理だ。物語中唐突にレスリーや森高の歌が入るのも嫌だなあ。★☆☆☆☆


燃えよピンポン
1997年 85分 日本 カラー
監督:三原光尋 脚本:三原光尋 高橋智紀
撮影:榊一史 音楽:藤田辰也
出演:高田聖子 萩原圭 桂雀三郎 重定礼子 竹葉博人 西野勝広 保井健

1999/5/20/木 劇場(THEATER/TOPS)
この三原監督の作品、去年初めて「ヒロイン!」で観たのだけれど、その時は恐ろしく引いてしまったので、今回観るのを躊躇していたのだが、どうしてもどーうしても気になるこのタイトル「燃えよピンポン」……どうしても私を呼んでいる!いつもは演劇の劇場として名を馳せているTHEATER/TOPSが、芝居の公演のない季節にここをインディーズ映画館としてオープンさせたらしいが、あまりそうした宣伝や映画の番宣もなく、本作の予告編なども全く観ていなかったのだが……。会場は狭いし、椅子も可動性のパイプ椅子みたいなものにクッションがおいてあるというえらく座りごこちの悪いもので映画を観るにはあまり適さないのだが、インディーズ映画にはいい雰囲気なのかもしれない。

その「ヒロイン!」では堂々東映のメジャー館にかかった(でも、作品の性格と劇場のギャップがきつかったような気がする)三原監督だが、本作はその前の、97年のインディーズ作品。まるで「ヒロイン!」の前身ではないかと思うくらい設定が酷似しているのだが……なにわど根性女と女王様風色気むき出し女をそれぞれのリーダーに持つ2グループの対決という……「ヒロイン!」で引きまくったのが嘘のように、そのコテコテギャグにはまりまくって、死ぬほど笑ってしまった。なぜだろう?ギャグの質や何か、基本的なことは変わってないと思うのに。やはり本物の関西人が演じるとまるで骨の入りかたが違うということか。NHK朝ドラ「やんちゃくれ」で、ヒロインの姉役をやった彼女だけが好評だったという高田聖子が本作の主役。この、ちょっと根岸季衣入った彼女が、とにかく素晴らしくくだらなくて素晴らしい(くどい)のだッ!なにわドリンクの看板OL(?)の彼女、美弥子が、その栄養ドリンクみたいな形状の(どうやら相当まずいらしい)なにわドリンクの着ぐるみを着て、たるそーに海岸をほっつき歩いて販売している。そして突然便意を催してお尻を抑えて体をくねらせながらトイレに向かい、そこでコンタクトレンズを探しているハンサムな男性に一目ぼれして突然紗がかかったキラリン笑顔になる、この冒頭一連のシークエンスで、もう降参である。ここまで腰の入った、そして完全にはじけきった関西ギャグは、やはり室井滋や中川安奈には出来なかったんだなあ。

彼が卓球好きだったことから、そしてライバル社天満ボトラーズ(これまたキツイ社名だ)の真央子が、小さな頃からの、そして今回恋のライバルにもなるということで、迷いもせず卓球の道に入る。この真央子に勝つことが、会社の存続までも賭けた対決になるということで、山の奥深くまで、中国ジークン流卓球(なんだそりゃ?)のお師匠さんを尋ねていく。途中野グソ男に会ったりしながらも無事、お師匠さんの家までたどり着き、ジークン流卓球の奥義を伝授される美弥子。ついには強盗たてこもり犯(かの野グソ男)を“鋼鉄をも通さないラケット”(!)を使って、ジークン流卓球のパワーで見事やっつける。

「見事だ。お前に皆伝を与えよう。明日にはもう山を降りなさい」「……はい!あっ、今日何日!?試合の日終わってしもた!」(おいおい!)というわけで、急いで会社に帰ってみると、今にも社長は首吊りをするところであった。悲愴な決意を胸に、宿敵真央子の元に乗り込む美弥子。彼女の元にたどり着くまでに、任侠女(へたくそな字で任侠、と書いた掛け軸が笑える!)や女子高生(美弥子の、ジークン流のパワーで風を起こす“秘技パンチラのぞき”というアホな技に倒れる!)を倒し、カルメンの格好(!)をした真央子の元にたどり着く美弥子。

ここでタイトルに意味があったことが明かされるわけで、なんとこれは「燃えよドラゴン」のピンポン版だったのだ!?バッと上着を脱ぐと、リーの着ていたそのままの、黄色いつなぎ姿に!ジークン流卓球の発する「アチョオー!」という叫びもまさしくリーで、しまいには卓球の球が火の玉になる!?ここで見せるラリーは、カメラを揺らした画像の、妙にシリアスなスポーツドラマチックですこぶる可笑しい。目にピンポン玉がめりこむわ、鼻血は出すわとまさしく流血バトル!?鋭角にショットを決めて「フッフッフ」と不敵に笑う美弥子がカッコイー!(ほんとか!?)

途中いきなり♪うちらは陽気な三人娘〜と歌うミュージカルになるのもぶっ飛びの可笑しさ!しかも、その社内ミュージカルが終わると「さ、仕事もどろか」と急に脱力するのも……!朝から声高らかに、しかもハモって、輪唱までして歌う社歌もツボである。しかもそのシメが「ナ・ニ・ワ、ダアーッ!!」と猪木やるんだから!美弥子と真央子の因縁の過去を、ランドセル時代から本人たちにやらせるキッツイ回想シーン(しかもセピア色だ!)も抱腹絶倒、かのハンサムとデートしている時に真央子がジャマしにやってきて、トイレの床に接着剤をまき、美弥子を文字どおり足止めしたはいいが、その床の一部を靴底にひっつけて(どういう力だ!)脱出し、目を丸くするハンサムに「いやーん、恥ずかしいー」と体をくねらせる美弥子にも爆笑した!うーん、さすが体のくねらせかたからして関西人は違うかも!?やってることはことごとくアホなんやけど、こっちに考える暇も笑いを休む暇もなく、まさに惜しげもなく連射してくるから、“ま、待って!勘弁してえー!”という感じなのだ。美弥子にひっついているOLの女の子がなかなか可愛いのもいいわあ。これは傑作……かもしれない!?★★★★☆


「も」作品名一覧へhomeへ