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妖怪百物語
1968年 79分 日本 カラー
監督:安田公義 脚本:吉田哲郎
撮影:竹村康和 音楽:渡辺宙明
出演:藤巻潤 高田美和 平泉征 坪内ミキ子 ルーキー新一 林家正蔵 神田隆
それでも最初は結構コワい展開をしてるんだけど。これもまた有名な「置いてけ堀」のお話。魚をとっちゃいけない聖域で釣りをした二人の御仁、「おいてけ〜」の声を無視して釣った鯉を持ってかえると、その鯉をさばいたご夫人「あなた、この鯉、どこで釣ってらしたの、鯉の血が洗っても洗っても……」と血のこびりついた手を見せる。そしてご夫人はろくろっ首に……。しかし実際にはこの二人の御仁は堀端で落雷にうたれてすでに死んでおり、彼らは死んでからもこうした悪夢を(多分永遠に)見させられるハメになっているという恐ろしいオチ。
しかし、怖いのはここくらいなんだよね。しかも、それは百物語の一つとして語られるお話に過ぎないし。そして百物語の掟である、最後のおまじないを怠ったために、前述のキッチュな妖怪さんたちがぞろぞろ現れるんである。ふすま開けたら女の顔がいっぱいに現れる、なんていう、まさしく特撮しました、てなものもあってなにか微笑ましかったりして。このまじないを怠ったのは、庶民の住む裏長屋を汚い手を使って潰そうとしている富豪一味。そしてこの妖怪たちと、(ラストにその正体が明かされる)お目付けがこいつらをぶっ潰すという、終わってみればなあんだの勧善懲悪物語。
この中でひとり異彩を放っているキャラクターが、妖怪をちっとも怖がらず、逆に一緒になって遊んでしまう新吉。ま、あの妖怪なら彼のリアクションの方が正解だとも思えるけど。いくつになっても脳タリンなようなナイスなバカキャラ、誰だろう……名前からしてルーキー新一って人だろうか。それともひょっとしてこぶ平氏のご先祖?の林家正蔵氏?彼一人がバカなのに、彼のキャラがこの作品のカラーを決定しているようなところが凄い。この俳優、一体誰!?★★★☆☆
冒頭のオープニング・クレジットからかなりキてるんだよね。水の中に、真っ黒な長い髪の毛がゆれて、次第にその量が増していくという、かなりゾッとするオープニング。現代じゃ通用しないんだろうけど、ひたすらひたすら女=お岩さんが弱くて、だからこそ怨念が積もり積もってやたら怖い。怖いといえば全く反対の意味で、その財力であっさり伊右衛門をお岩さんから奪い、それを純情けなげな感情のゆえにしてしまう娘はもっと怖い。男を感情つきで愛していない(そのこと自体愛しているとはいえないんだけどさ)ことをまったく気づいていない、ある種の無垢さと言えなくもないあたり、さらにさらにコワイのだ。
原作ではお岩さんとともに殺されてしまうはずの按摩が、伊右衛門に脅されて、彼女を不義密通の心中に見せかけるのに手を貸す。最初、彼自身がその相手と指名されていて「間男をやって脅されるんじゃなく、間男をやらないで脅されるなんて……」とぶつぶつ言うのが可笑しい。しかしこの按摩、気が弱いというか、こらえ性がないというか、お岩さんのくずれた顔を見て腰を抜かし、もうあっさり伊右衛門のしくんだ計画をばらしてしまう。そういやあ、原作と違うといえば、ここでのお岩さんは殺されるのではなく、自殺してるんだよね。壁に突き刺さった刀に自らの喉を引っかけて力入れて(……この方法はやめて欲しい……)。あっ、それとも、自殺の方が原作どおりなのかなあ?どちらにしても、最後にして唯一の彼女の意志が、死のうという決断だったというのがさらに恐ろしい。
死んだお岩さんが、妹のもとに物言わぬ亡霊となってあらわれる。この、“死んだ姉が妹のもとに何かを訴えたくて亡霊となってあらわれる”っていうのって、日本映画の怪奇もので結構よく見るパターンなんだよね……。姉妹ということよりも、女同士の巫女的な以心伝心さをそこに感じてしまう。そしてその妹と妹の恋人によって伊右衛門は仇をうたれてお岩さんと同じ水面に没する。その没した水面のショットでもういきなりカットアウト!“終”なんである。
いやあ、でもいいよね。日本ホラーは。情念ドロドロで。これよ、やっぱり。★★★☆☆
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