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「そ」


2000年鑑賞作品

続「住民が選択した町の福祉」問題はこれからです
1999年 125分 日本 カラー
監督:羽田澄子 脚本:――(ドキュメンタリー)
撮影:西尾清 音楽:高橋アキ
出演:


2000/2/11/祝・金 キネマ旬報ベストテン授賞式(朝日ホール)
'97年の東京国際映画祭カネボウ女性映画週間で前作「住民が選択した町の福祉」を観た時、イイ男の町長、それに反対する議員たちが悪徳政治家のように見えてしまう可笑しさに時に手に汗握り、時に大爆笑し、ドキュメンタリーとは思えない、劇映画のようなドキハラの展開に大興奮。事実は小説より奇なりというけれど、ドキュメンタリーとはかくも面白いものかと思ったものだった。そしてこれはその続編、おっ、またしても大興奮させてくれるかしらん、と思ったら、ちょっと趣が違っていて……。

前回の話は、いわば福祉の町にすることを公約に掲げる町長の選挙戦の話。もちろん住民が福祉の町作りを実現するために自らさまざまな活動をしていることがメインではあったのだけど、その代弁者として選んだ町長候補や町長派の議員をいかにして勝たせるかが後半の目玉になっていて、その敵・味方、善・悪の対決がめっぽう面白かったのだけど、今回はなんたって「問題はこれからです」なので、そうノーテンキに構えているわけにもいかないのだ。それこそ調子のいいことばかり言って実現できない政治家じゃ困るし、その政治家をさんざん持ち上げておきながら、自分達では何も動かず文句ばかり言う住民でも困るんである。

しかし、やはり町長も、この町の人々も違った。未だ議会には反町長派が半分ほど存在し、ケアタウン計画を通すのにさえ四苦八苦しているのだけれど、それも劇的な一票差で可決される。計画に反対する議員たちの言い分は、実にまっとうに、予算の計上に無理があるということ。彼らの言うことは現実的で正しいのかもしれないけれど、じゃあそれを何とかしようなどとは思いもよらず、ただただ立派な椅子にふんぞり返って、カネがないんだからあきらめろと言わんばかりである。町長のビジョンは彼らの言に押されて初めのうちまるで夢物語のように見えもするのだけれど、町民の圧倒的な支持はもちろんのこと、綿密な計画と住民との徹底的な話し合い、海外視察での勉強会、と着々と現実のものとしていくのだ。それも極めて満足度、完成度の高いものに。予算に関しても保険制度を採りいれて、けして福祉ばかりに没頭して他の産業をつぶすことのないように、奔走する。

それでもまだ議員達はぶちぶち言うのだが、彼らの言葉になんら共感できないのは、彼らが町長と違って住民の声を聞いているとはとても思えないからだ。町長は常に住民とともに動いている。けして一人では進めないし、決めない。一見それじゃ、指導者として頼りないんじゃないのと思いそうだが、とんでもない。町長はその住民達のすべての思いを驚くほど完全に咀嚼し、すべての責任を背負って最後の決定を下すのだから。まさしく、住民の代表をこれほどわかりやすく示してくれる人もいないであろう。住民との討論会では自ら専門的な講師を務めるほどすべてのことに精通しているし、またしても言っちゃうけどなんたってイイ男だし。そして彼が凄いのは、常に笑みを絶やさないことなのだ。それがこれほどカッコイイことだとは!

カッコイイといえば、住民達もカッコイイ。彼らが町長を選出して後はお任せではなく、ケアタウン実現のために実に能動的に動き、勉強し、時にショックを受け、涙を流し、でもそれを糧にしていく姿は、おっちゃん、おばちゃん問わず、もう惚れ惚れしちゃうんである。それこそ、政治家はダメだ、と言うことが住民の権利ででもあるかのような都市部の中年男女とはエラい違いである(もちろん政治家自体が違うんだけど)。私は最初、それがこの町にはケアタウン計画という明確な目的があるせいだと思っていたのだが、本作では、このケアタウン計画のために生み出された住民によるワーキンググループというものが、他の分野……商店街復興とか、スキー場建設とか、遺跡発掘とか……においても多数発生し、大いに活動していることが触れられており、ああ、そういうことじゃないんだ、問題意識を持とうという心がけがぜんぜん違うんだなあ、とほとほと敬服してしまった。

町長のお父上が倒れ、リハビリ中だというエピソードを話す時の、彼が初めて見せるやや曇った表情や、建設途中でモデルルームを作り、住民に意見を聞くという案を「町長の熱意で思い付いた」という建設会社社長、ケアタウン計画のために最初から奔走していた人物もまた脳溢血で倒れ、回復して完成したケアタウンを見、スピーチする姿とか、不意に胸を突かれる瞬間が何度もあって、ああ、現実の感動にはかなわないなあ、とつくづくと思ってしまう。ハコは出来たけれど、そこからどう運営していくか、町長はこれからもつつかれそうなんだけど、住民達がその「問題はこれから」だということを判っていることが、何よりも頼りになるのだ。前作のワクワクする展開とはまた違う、じっくりと突っ込んだ内容にまたしても引き込まれてしまった。その後の展開も、是非是非、是非見てみたい。★★★★☆


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