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「も」


2001年鑑賞作品

宇能鴻一郎の桃さぐり
1985年 62分 日本 カラー
監督:西村昭五郎 脚本:加藤正人
撮影:山崎善弘 音楽:
出演: 赤坂麗 江崎和代 港雄一 山本伸吾


2001/3/28/水
日活ロマンポルノではあるけれど、日活ロマンポルノらしからぬ、なんというか、わりと良くあるAVモノとか成人映画っぽいというか。ロマンポルノって、やっぱりどこかに作家性の匂いが感じられるんだけど(というより、そうしたものが残っている、と言った方が正しいのかも)、これはそういう感じは正直皆無だなあ。バカバカしくって、面白いけどね。

なんか、一応原作は有名らしい。サブタイトルっぽくついてるくらいだから。こんなとこ、絶対ねーだろうという、いかにも成人映画のために作られた設定の、お客と寝て契約を取る中古車販売店。それこそ男も女も、である。ヒロインである人妻は、夫の精神不安定から来る不能でここ最近寂しい夜を送っている。在宅仕事で家計が苦しいことを理由に、実際はステキな男性との出会いを夢見て(これほどポジティブに不倫願望を表に出す人も珍しいわ)外に働きに出る、そこがこの店なんである。もう最初っから、入社試験は社長へのフェラチオだし、それでも“仕事のためだもの、あの人だって判ってくれる”って、そりゃー、オカシイよ、あんた!しかしまあ、こう感じるのもまた彼女が天職を見つけたっつー証拠なんだろうな。職場に学生の頃好きだった人にソックリの人がいることも手伝って、彼女はそこに就職を決め、しかもナンバーワンの先輩女性に迫る勢いの業績を上げてゆく。もちろん、セックスと引き換えに、である。先輩からのあからさまな妨害、女の戦い。ううううう、なんとゆー、いかにもよく見る構図!こーゆーのを見ると、男性が女性に何を望んで何を妄想しているのか、なんか暗澹たる気分になっちゃうなあ。

ま、そんなこと考えて深刻になるようなモノでもないんだけどね。音楽はことさらにコミカルさ、カルさを強調してるし、実際かなり笑わせてもらったもんなあ。ことにこの冒頭からアホな社長が(社長なんだから、こうした経営方針を決めたのは、彼なんだろうなあ……)、自分の体を武器に会社での地位を固めようと決意してきたヒロインをよそに、彼女に手伝わせてまで(!)ダッチワイフとの情事?に興じるというあたりは、結構ウケるんである。でもこの社長と、いささかトウのたってきた件のナンバーワン女性社員が、ひょんなことからイイ感じになるくだりは、なかなか泣かせるものがある。それは、こう。ある一人の客を取り合って、ヒロインとこの先輩社員の二人のうちイイ方(勿論セックスが)と契約することになる。さすが年季の入った手練手管で(この客が、「この狭さが……」とか、「使い込んでて広いけど後からの締め付けが……」とか言う妙に分析的なのがかなり可笑しい)この先輩が勝利をおさめるんだけど、彼女、多分30は越えているって感じでどうやら独身らしく、自分の年齢や今の状況から来るどうしようもない寂しさに参ってきていて、このヒロインにちょっとヨワいところを見せるんである。……なんか最近、私こういう女の年齢ネタに極端にヨワイかもしれない。ヤダなあ。とにかく、その時に迎えに来るのがあのヘンタイ社長で、彼、しどけない姿で寝入っているこのお局社員にムラムラッと来てしまうわけで……それが、単なる本能だったのか、彼女を前から思っていたのか、……うーん、微妙なところだけど。ヒロインはそれをドアの陰からほほえましく見ている。二人はその後ちゃーんとイイ感じになってるんだな。

ヒロインが憧れていた男性社員が転勤することになる。彼が自分と寝たがっていたと知って、空港に向かう彼を猛然と追いかけるヒロイン。かつて客として世話になったインキン持ちの警官のパトカーに手伝ってもらって、彼に追いつくヒロインは、ホテルで彼と念願のひと時を過ごすのだけど、世田谷のジゴロなんて豪語していた彼が、実際はただの早漏(!笑)だったと知って、ガックリくる。しっかし、一体どんな風にアコガレてたんだか、これじゃ判りゃせんけど。そしてその夜、どうしてだか彼女が浮気しているとかぎつけた夫が、彼女を猛然と求める。不能だったはずなのに。「治ってる、治ってるわ、あなた!」歓喜するヒロイン。

まあ適度に面白かったけど、なあんか、……脱力する作品だったなあ……。★★☆☆☆


主水之介三番勝負
1965年 88分 日本 カラー
監督:山内鉄也 脚本:山内鉄也 高岩肇
撮影:赤塚滋 音楽:津島利章
出演:大川橋蔵 天知茂 桜町弘子 内田朝雄 里見浩太朗 近衛十四郎 入江若葉 新城みち子 芦屋雁之助 嵐寛寿郎

2001/12/20/木 劇場(新宿昭和館)
実は冒頭10分ほど遅れてしまったので、どーしよーかなー、と思っていたのだけれど、ああッ、敵役に天知茂がああ!というわけで、気にせず観ることに決定。まあ、定番の娯楽作だから、10分見逃したくらいではどうってこともない。かつて片倉道場を破門された夢殿主水之介が3年ぶりに江戸に帰ってくると、将軍家の指南役を選定中。片倉道場の師匠はいまや死の床にあり、かつての恋人、ミヨはその指南役の対決相手である大塚玄蕃の妻となっていた。それというのも剣の流派の伝統を引き継ぐ家を、父亡き後守るためだったのだが、この大塚玄蕃という男が帰ってきた主水之介とミヨの仲を嫉妬する。ミヨを激しく恋焦がれる故もあって、手のものを使い主水之介を斬ろうとするが、やはり一方で飼いならしていたかつて家を破門された豪腕の剣士(あー、役名、忘れたッ!近衛十四郎がメチャ良かったんだけど)によってそれを阻まれてしまう。この男、自分だけが主水之介を斬れるのだと言い、彼を果たそうとする片倉道場の後を継いだ主水之介の親友、片倉一閑斎の右腕を斬り落としてしまう。指南役の対決でまずは大塚玄蕃を倒した主水之介は、この破門剣士との一騎打ちのため、この男が剣の指南を受けた鹿島へと向かう。その間に大塚は家とミヨを乗っ取ろうとするこの破門剣士によって斬られ、命を落としてしまう。鹿島の剣の師匠によって無我の境地を教えられた主水之介は、破門剣士との一騎打ちに勝つものの、剣の道の奥深さを痛感し、また旅に出る。必ず帰ってくると、ミヨと鈴の交換をして……。

という、これぞストイックで痛快なチャンバラ娯楽作で、主人公の主水之介を演じる大川橋蔵は一番美しい頃なのだろう、目ばりと、大げさに描かれたまゆがキリリと似合い、紫の着流しも適度にしっかりとした体に似合って惚れ惚れするほどの美剣士。一方、剣でも恋でも敵役となる大塚が、我が愛しの天知茂。しかしこの大塚、私の好きな天知茂だからというわけではなく、妙に憎めないというか、可哀想というか。好きで好きで、恋焦がれて、卑怯な手を使ってまでミヨを手に入れたものの、その妻には心を開いてもらえず、姿を消したはずの主水之介が帰ってくることで、さらに夫婦仲を引っ掻き回され、指南役を得ることを条件のようにしてミヨと結婚できたというのにその対決でも主水之介に破れ、プライドをズタズタに引き裂かれている状態でも妻のミヨは主水之介に思いを寄せているのを隠そうとせず、挙句の果てには飼いならしていたはずの破門剣士に裏切られて斬って捨てられる。……ちょっとお!あんまり可哀想過ぎるんじゃないの!

しかもさあ、この妻のミヨも、「そんなこと……」とか口の中でモグモグ言う割には、大塚が指摘するとおりの態度がミエミエでさあ。劇中では、回想シーンで大塚がミヨを力づくでモノにした場面が出てくるんだけど、まあつまりは追い掛け回して押し倒してナニしたんだけど、この場面での天知茂がねー、あの低音の美声で、好きだ好きだ、好きなんだ、判ってくれ、とこう迫りまくって逃げ回るミヨを押し倒すわけ。私は、いーじゃーん、天知茂にここまで言われて押し倒されるなんて、夢だわッ、などとついつい思っちゃう。だって、主水之介は、ズルいよ。いくらよんどころない事情だったとはいえ(というあたりは見逃したのだが)恋人を残して何年も姿を消してて、いきなり戻ってきて、夫がいるのは仕方ない、とか言いつつミヨの心をあっという間に自分の手の内にしちゃって、そりゃあ、大塚が気をもむのも当たり前じゃん。しかも大塚はミヨが自分のもとから去ることを極度に恐れ、自分がどんなに彼女に恋焦がれているかを、彼女がいなくなったらおしまいだとこんなに情熱的に言っているというのに……(くっそお、うらやましいぞ!)。自分の力じゃ及ばないから、と汚い手を使うのも、この愚かな男の心の弱さが垣間見えて、しかも自業自得だとでも言うように、その手のものに裏切られて斬られるなんて、ああもう……私はシンパシイばかりを感じちゃうよー。

師匠が亡くなる間際に道場の後継ぎを命ぜられた片倉一閑斎、先述のように近衛十四郎演じる剣士に右腕を切り落とされちゃって、剣こそが自分の生きる道だと思っていた彼はすっかり意気消沈してしまう。しかし主水之介が、食べ物も口にせずにフテ寝する彼の胸ぐらをむんずとつかみ、道場に引きずり出す。まだお前には左手が残っている、この道場を盛り立てて行くのはお前だろう!と、手荒く刀を振り回すと、一閑斎、とっさに左手に刀を持って、主水之介の刀を振り払い、はっとする。まだ剣が使える、生きていける、と涙にくれて主水之介に感謝し、騒ぎに馳せ集まった道場の剣士たちも皆口々に祝いの声を上げる……この場面は、主水之介が一閑斎を目覚めさせるために手抜きをせずに刀を振り下ろすのをカメラが躍動感たっぷりに追いまくるリズム感にワクワクし、そしてこの生きる道を見出す一閑斎の気持ちがうわーっと盛り上がって、思わず一緒に泣いちゃったよ!

刀を斬り結ぶシーンはどこも素晴らしいんだけど、指南役を決める決戦の場面も、良かった。主水之介にはとても叶わないと判ってて最初から及び腰の大塚なんだけど、何とか活路を見出そうと彼らしい卑怯な手……庭の松の枝を切り落として不意をつくということをやってのけるのだが、主水之介はひるまない。この枝の落ちる不意打ちや、押されに押されまくる大塚の焦る表情、互角の戦いじゃなくても、カメラの寄り、引きがすっごくスピーディーでホント、ドキドキしちゃう。

主水之介、一閑斎の二人と仲良しで、色町にも出入りしちゃうような生ぐさ坊主、これは芦屋雁之助かな?また彼がバツグンにいいんだよなあ。俗っぽい関西弁で、酒も飲んじゃうふとどき坊さん。はっきり言ってコメディリリーフなんだけど、そんな彼だから、男二人が殺しあって、それが潔いだなんて、とんでもない、という台詞もまた、とても説得力あるものに聞こえる。

まだまだ人間未熟と悟った主水之介が、またしても旅に出る。旅に出ることこそが男なのさ、とでも言うように、涙をいっぱいためたおミヨを置いて。この別れのシーンといい、お師匠さんの死の床に皆が馳せ参じて、言うことをきっちり言ってこときれたお師匠さんに皆がむせび泣いたりとか、時代劇のお約束って、何かホッとするな。★★★★☆


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