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ムーラン・ルージュ!/MOULIN ROUGE!
2001年 128分 アメリカ カラー
監督:バズ・ラーマン 脚本:バズ・ラーマン/クレイグ・ピアース
撮影:ドナルド・M・マカルパイン 音楽:マリウス・デ・ブリーズ
出演:ニコール・キッドマン/ユアン・マクレガー/ジョン・レグイザモ/ジム・ブロードベント/リチャード・ロクスボロウ
舞台がパリなのに英語喋ってるとかいうヤボなことは、もう言わない。最初はちょっと言いたかったけど、言わない。だって、ラーマン監督にすっかりノセられちゃったんだもん!ま、それに少なくとも主人公の一方であるユアン・マクレガー演じる放浪の作家は英語圏の国(イギリス?)から来たと言っていた気がするし……。それが、才能と情熱を携えて、憧れのボヘミアン革命の根城、モンマルトルにやってきた若き青年、クリスチャン。彼がかの有名な享楽的なナイトクラブ、“ムーラン・ルージュ”と関わるようになったエピソードもキテレツで、安宿でタイプを打っていた彼の部屋の天井を突き破って昏倒した男が落下してきたという!呆然としている彼の前に、次々と部屋に入ってきたのは、ロートレックをはじめ、ムーラン・ルージュのショーの練習をしていた連中。クリスチャンが作家としての才能の片鱗を見せると(突然歌いだす、「サウンド・オブ・ミュージック!」)、彼らはクリスチャンをすぐに気に入り、新しい作家として迎えいれる。ああ、突然の「サウンド・オブ・ミュージック」だなんて!その後、彼らが出会いを祝して乾杯すると酒のラベルからはがれて舞い踊る緑の妖精の、唐突なきらびやかさといい……ああッ!
そしてクリスチャンとムーラン・ルージュのスターである高級娼婦、サティーンとの運命的な出会い。サティーン=ニコール・キッドマンの登場の何という素晴らしいこと!銀に輝くタイトでセクシーな衣装に身を包み、ディートリッヒもかくやというような退廃的なメイクで男どもを悩殺しながら、劇場の宙空を右から左へ舞ってゆく。赤い髪が白い肌に映える。熱狂のショーライブはつかみとしては充分すぎるほどの圧倒的迫力!この手の届かないスター、サティーンにすっかり目を、心を奪われるクリスチャン。一方のサティーンは彼をスポンサー候補の公爵だと誤解して、本物の女優となるために彼に近づく。でも彼女も最初っからこのクリスチャンに一目惚れに近い状態なのだ。いつものように色香の手練手管で彼を落とそうとするサティーンだけれど、純真でロマンチストなクリスチャンにそれは通じない。彼は彼女に一生懸命愛の詩を口ずさむ。それがエルトン・ジョンの「ユア・ソング」だああ!
もう、ことほど左様に、ポップスの名曲が(何とまあ、マドンナのライク・ア・バージン」まで!)思いっきりラーマン流にちりばめられていて、それがキッチュなミュージカルになり、ひと時もテンションを下げることなく全編彩るこの素晴らしさ。クリスチャンとサティーン役のユアン・マクレガー&ニコール・キッドマンはしっかり自身の歌声を聞かせてくれるのも嬉しく、すっかり気分が映画とともに高揚してしまうのだ。特にユアンがねー、詩に情熱を込めてサティーンを愛するクリスチャンのいちずさがドンピシャにはまってて、もうカワユくって仕方がない。映画を観ている間中、うー、カワイイよお、ってそればっかり思ってた。それは対するサティーンのニコール・キッドマンが呆然とするほどの美しさで、そうさせるだけの存在感で応えているということもある。ニコールがまた、イイんだ。ラーマン演出のコミカルさにもしっかりハマり、美しさにもますます磨きがかかり、鮮やかで豪華な衣装も、人工的なメイクもぴったりノっていて、ショーダンスも歌もこちらの目をそばだたせてくれる。ホント、彼女は良かったなあ。トム・クルーズの七光りなんて、何の話?別れて良かったかも!?なんて。気鋭の監督に起用され続けているというのも、彼女の才能をちゃんと立証しているのだよ。
サティーンに入れ込む公爵によって、二人の恋は危機に陥る。の、前に実はサティーンの命も風前の灯である。自分のものにならなければ、クリスチャンを殺すと脅されたサティーンは、彼を救うためにクリスチャンに、愛は偽りだったとウソの告白をする。打ちのめされるクリスチャン。全てが破滅に向かって進んでゆく……。しかしサティーンの命が燃え尽きる前に、奇跡のように光り輝く瞬間があった。それは、公爵によって結末の変更を命ぜられた初日のステージ。真実を知りたい、とクリスチャンは舞台に忍び込む。その彼を狙う銃弾がある。それに気づいたサティーンは何とか彼をここから遠ざけようとするのだが、サティーンに向かって猪突猛進の彼には通じない。
ふとステージに転がり出てしまう二人。もともとの結末である、貧乏なシター弾きにとっさに扮したクリスチャン、舞台を去ろうとする彼に、もう気持ちを偽れないサティーンは、愛の歌を捧げる。それに応えて歌いだすクリスチャン。周囲も彼らを祝福するかのように愛の歌の大合唱!ああー、もうほっんと私って単純なんだけど、涙が出たわ。弱いんだよねー、こういうふうに音楽で押されちゃうと。とこうしている間にもクリスチャンを狙う銃弾はいまだ生きているんだけど、それに気づいたロートレック(ナイス!)によって巧妙にジャマをされ、公爵もあきらめて劇場を去ってゆき、その拳銃は窓から飛び出して、夜景輝く中にそびえ立つエッフェル塔にカチーンとぶつかって落ちてゆくという(笑)。もお、好きだわあ!
鳴り止まぬカーテンコールの裏で、命を燃やしたサティーンはクリスチャンの腕の中で息を引き取る。物語中のキーワードと言ってもいい、どんなことがあっても、ショーは続けなければいけない……ショー・マスト・ゴー・オンという有名なフレーズが、ここでもふと思い出され、彼らの刹那の恋がいっそう哀しくも美しい輝きを放つ。いやあ、ユアンの泣きの演技が、イイのだよ。ほおんと、彼はカワユイね。こういうカワユイ役が似合うのよお。「普通じゃない」とかね(ま、アレは映画自体はつまんなかったけど)。彼女を失って、しばらく呆然とした日々を過ごした後、ようやく時の流れをゆるやかに感じられるようになった頃、彼は彼女の最期の言葉どおり、二人の物語をことの葉に残してゆく。
何たって、純粋に、“恋って、いいわあ”と思わせちゃうのが一番のポイントかも。女が愛される幸せと、男が恋こがれる切ないかわいさがたまらなくヴィヴィッドなんだもん。夢物語だって判ってても、ああ、こんな恋したいわあ、って思っちゃうんだよー。
数あるミュージカルシーンの中でも特に好きだったのは、公爵を皆で丸め込ませる時の、早回しの“文明堂”(笑)と、舞台を成功させるためにサティーンが公爵と一夜をともにする晩、苦悩するクリスチャンの周囲で繰り広げられる濃厚なタンゴのペアダンス。ここは「ダンシング・ヒーロー」を思い出しちゃった、ホント。口あけっぱなしボーゼンの美術、色鮮やかな中でも、どこかシックな銀が最も脳裏に焼きつくような世界感、ポップスやタンゴも織り交ぜた、耳になじんでしかもピチピチに新鮮なゴージャスな歌の数々。舞台と舞台裏が楽しげに混然となった、ニギヤカな猥雑さがたまらなく楽しい。とにかく嬉しくなってしまう、現代ミュージカルのケッ作だあ!★★★★★