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「む」


2002年鑑賞作品

ムッシュ・カステラの恋LE GOuT DES AUTRES
2000年 112分 フランス カラー
監督:アニエス・ジャウィ 脚本:アニエス・ジャウィ/ジャン=ピエール・バクリ
撮影:ローラン・ダイアン 音楽:
出演:アンヌ・アルヴァロ/ジャン=ピエール・バクリ/ジェラール・ランヴァン/アラン・シャバ/アニエス・ジャウィ


2002/1/11/金 劇場(銀座テアトルシネマ)
監督さんが女性で、今までは脚本家で、しかも本作の中ではバーのウェイトレス役の、あの女性!えー結構若いんじゃないのお!だってせいぜい30代でしょう?それで、主演のハゲ頭、ジャン=ピエール・バクリと“公私ともにパートナー”!?うおおー。と、鑑賞後、チラシをつらつら眺めながらいろいろ感激?彼女がそのまま彼のパートナーを劇中でもつとめていたなら、これは多分つまんなかったでしょ。でも、劇中での彼のパートナーはちゃんと?彼とつりあうぐらいの年恰好の女性。バクリが演じるのは、中規模会社の社長さんのカステラ氏。彼が恋するのは、ベテラン舞台女優。彼女は40になってまだ独身の自分の身を、でも男を捕まえる気力も出ないことを愁いている、何かと曲がり角のお年頃。そんな彼女と、これからの会社の方針としてイヤイヤ始めることにした英語の授業、その教師として出会ったカステラ社長は、その時は英語がイヤだということしか頭になかったんだけど、その後、姪っ子の舞台を見に行ったら偶然そこに出ていた彼女を見て、いきなり恋に落ちた!?まるで初めて恋に落ちた少年のごとく、マジメに授業を受け、舞台に何度も足を運び、彼女の仲間たちに加わってバカにされながらも何とか彼女のレベルに自らを引き上げたいと思い、自作の愛の詩を彼女に捧げ、ついには玉砕……。肩を落とすカステラ氏の哀れながらもカワユイこと!

昨今の映画では、中年男は若い女の子とばかり恋してて、年をとったら女はお払い箱かい!と思っていたこちらとしては、設定からして、嬉しい。いやあ、このあたりはさすがアムールの国、フランスだね。でもカステラさんには今ひとつうまくいっていないとはいえ、ちゃんと妻がいるのに、その辺は大して考えもせずアッサリ彼女にアタックしちゃうあたりも、アムールの国、フランスなんだわね(笑)。特にこのカステラさんなんて、すっごく社会的常識とかはありそうな感じなのに……(文化芸術には無知だけどさ)。まあ、このカステラさんの妻っつうのも自分中心主義でヒステリックで、親切の押し売りで自己満足で、こんな妻に支配されてたらそりゃさぞかし……と思う節もあるんだけどさあ。でもそのことに本当の意味で気づいたのは、カステラが女優先生に恋して、彼女につりあおうと一生懸命に努力して、その結果いろいろなことが見えてきたからであり、それにこの妻も、今までは自分の言いなりだった夫にいきなり反旗を翻されて、初めて自分の自分勝手さに気づき、夫に出て行かれてボーゼンとし……。まあ、かわいそうな人なんだよね。社長婦人で、何不自由ない生活してて、でも社長夫人という肩書きを失ったら、自分1人じゃ何もできない人。今まではカステラさんこそが、妻である自分がいなかったら何一つ自分で決められない人、ぐらいにタカをくくっていた彼女だから、本来の自分の立場に気づいて……それはこういう進歩的な世の中になっても、今だ多くの女性が抱えている問題であり、なかなか考えさせられるものがあるんだよなあ。

それは、彼女が感じの悪い女、とかって毛嫌いしていたカステラの妹や、おかしな顔、なんて言っていたその舞台女優に対して……つまりは彼女がある種バカにしていたような彼女たちの方がずっと自立して生きているということに対するシニカルな視線で。でも一方でこの妹さんや舞台女優の彼女だって、自分一人で生きていかなきゃいけない女の、不安や悩みを抱えていて、本当はちゃんとパートナーとしての男性が欲しくて、寄りかかりたくて……。その点、男の方はというと、そのあたりのナヤミはなくていいよなあ!?だって、カステラさんにしても、バーのウェイトレス、マニーと恋仲になるボディガード氏にしても、仕事や自立のナヤミは、ないとは言わないけど、いや、でもないじゃない、やっぱり。ただただ女に恋するだけ、じゃない?その割には、女は恋愛至上主義だけど、男は仕事が人生だ、なんてしばしば言われるのは、女にとっては許せん!?

しっかしさあ、さっきのボディガード氏の話だけど、そうそう、カステラのボディガードは、もともといるボディガード氏と、保険会社から派遣されている、一時契約のボディガード氏と二人いて、最初にマニーに手を出したのは、前者。んで、その同僚から後者が譲り受けて?ってあたりが……結果的に取られた形になった先の彼も、その辺何にも気にしてないんだもんねえ……そりゃ彼には遠方に彼女がいるわけだけどさあ、それにしても……。このね、ボディガード氏とマニーの関係というのが、カステラさんと舞台女優さんとの関係よりずっとシリアスで、マニーはウェイトレスだけじゃ食べてけないから、違法だけどハッパの売人なんかもやってるわけ。それを元警察官だったボディガード氏は激しく責めたてる。マニーのやってることは確かにルール違反ではあるけれど、生きていくためにそれをやっている彼女を責めるだけの説得力が、男にはないわけよ。仕事がそのまま自立になっちゃうのは、やっぱりいまだ男の特権な訳ね。まあ、ここではマニーはバイトのウェイトレスだし、舞台女優さんは言うまでもなく超自由業で常に赤字と失業の危機にさらされているわけだけど、そうでなくても、女性がいわゆるアタリマエの職業についたとしても、昇給や出世が時とともに自然に比例しちゃうような男性とはやっぱり違うんだよなあ。

そう、このあたりが、監督が女性だからこその視点?その点、男性側がただただ恋に悩んで、カステラ氏なんてその他はほとんどアホっぽい扱いをされているのは、女性だからこその偏見?って感じもしないでも……。でも、カワユイけどね、カステラ氏。カワユくて、かわいそう……あの、アーティスト達のあいだに入り込んで、知らずにバカにされている場面なんて、涙が出ちゃう。でも、彼はそれを自覚したからこそ成長し、今だバカにされているんじゃないかと心配する舞台女優さんに対して、ささやかな反撃をもする。君は僕が本当に絵が好きだということは思わなかったのか、って言われたときの彼女の鼻白んだ表情が!そして今度は彼女の方がカステラさんが気になって仕方なくなる。アーティスト仲間たちには感じられなかった、ささやかに生きているせいいっぱいの人間に対する信頼と尊敬の気持ち。舞台初日に招待した彼の姿が客席に見えず、落ち着かない様子の彼女、でもカーテンコールの時にまん前に座ってあたたかく拍手している彼の姿を見て、パッと表情が明るくなり……。でもあの場面って、まるで彼女だけが見ている夢のような感じで、あっさり拍手喝采するにはなんだか哀しいような気がしたんだけど……それは考えすぎなのかなあ。

カステラという名前がカワユイのがかなりの要ポイントって思ったんだけど、日本におけるカステラの語源ってオランダ語かポルトガル語のような気がしてたんだけどなあ……意外とフランスなどでは普通の名前だったりして?★★★☆☆


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