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「む」


2003年鑑賞作品

MOON CHILD
2003年 119分 日本 カラー
監督:瀬々敬久 脚本:Gackt 瀬々敬久 井土紀州
撮影:柴主高秀 音楽:安川午朗
出演:HYDE Gackt 王力宏(ワン・リーホン) 郭善(ゼニー・クォック) 山本太郎  寺島進 鈴木杏 石橋凌 豊川悦司


2003/5/8/木 劇場(有楽町日劇)
ファンタジーとかSFとかいう設定がまずある時、そのことがどうしても頭の片隅にあるから、それを振り切らせてまで感動へいくのは難しい……特に、頭のカタくなった、大人には。などということを考えてしまったのは、もうこれはやめようかと思っているんだけど、オフィシャルサイトのBBSでの、(恐らく)若い皆さん感動の嵐のコメントのせい。やめようかと思っているのは、そうだよね、BBSって結局、良かったと思う人が書き込む率が高いし、否定的なことを書くと追い出されるような雰囲気だし、だからその映画が良かったと思う時にはいいんだけど、そうではない場合は、その人間性まで疑われるような感じなんだもの。確かに壮大なスケール、美学にあふれてて、この映画を作りたいという情熱を見事結実させたGackt氏は凄いとは思うけど、ただこの近未来とか、ガンアクションとか、アジアのごった煮状態とか、ここ数年来何度も何度も何度も見かけた世界、という感覚は否めないのだ。多分に男の子世界。男の子の夢見る世界。確かに作品はそれひとつひとつが重要なものだし、あるいはそうした映画の中に彼自身が影響を受けているものもあるのかもしれないし、それを透過した上でひとつの優れたオリジナルを作っていれば問題はないんだけど、……やっぱり、他の優れたいろんな作品の方が頭をかすめてしまう。しかも上映時間が長いだけに、あれはあっちに似てるこれは……などと頭の中でつぎはぎ状態にさえ、してしまう。

やっぱり瀬々監督ということで期待していた向きもあったのだけれど、そりゃこんなスター二人が出ているんだから無理ないのかもしれないけれど、宣伝でも何でも、瀬々監督の名前がまるで見当たらない。瀬々監督なんだよね?監督自身も言ってたもん……などと不安になるほどに見当たらなくて、脚本も、共同脚本ではあるけれど、何かGackt氏自身、ということばかりが喧伝されてて……いや、それは無理ないというのは判っているんだけど。でも瀬々監督の最近の一般映画にどうもシンクロしない向きを感じていた私は(「DOG STAR」は観逃してしまったんだけど)、初メジャーでのこの映画が、その美学や死生観の雰囲気がひょっとしたら、もしかして、瀬々監督の本来の腕が観られるかもと思っていたから凄く期待していたんだけど。でもやっぱり、Gackt、なんである。しょうがない。瀬々監督自身、Gackt氏が企画を持ってきた時点で、完全に完成されていたというし、そういう企画を瀬々テイストに壊すわけにも、いかなかったんだろうと思う。できる限り尊重して、出来る限り彼の世界の実現に手を貸す、といった世界に思える。それは確かに切なく美しい世界なんだけど……。

内容的に、何が悪いというのじゃないのかもしれない。ただメインを張り続けるGackt氏とHYDE氏の、耽美的なんだけどちょっとビミョウな演技に、構えてしまう。いや、でも普通のレヴェルではあるとは思うのだけれど、冒頭部分で既にしてかなり……。つまり、プロローグ、ヴァンパイア仲間のルカを失うケイ、という場面、ケイはHYDEで兄貴分のヴァンパイアにあたるルカは豊川悦司。やっぱり豊川悦司相手じゃ、しかも豊川氏は、こういう死に際の色気がとても上手い人だし、正直HYDE氏の一生懸命なんだけどかなりビミョウな台詞回しにハラハラしてしまって。でも豊川氏もどことなくやりにくそうというか、すこし手前の部分、という感じがしたのは気のせいか。豊川氏は自分だけで突っ走るタイプの役者さんじゃなくて、作品なり相手なりとシンクロしていいものを作り上げる人なんじゃないかと、こんなところで気づく。それは逆にこういうところで、相手になる人のレヴェルというものがあらわになってしまうことでもあるんだけど。

ただ、HYDE氏は、そう、正直この映画世界を作り上げたGackt氏よりも美しく耽美的で、確かにヴァンパイア、そしてこの美学の世界に似合っている。Gackt氏は、こういう長丁場で見せる、しかも映画という、美しい角度ばかりを拾えない場では、正直時々ツラいものがあるのだ。というのは実は意外だったのだけど。だってやっぱりCMとか歌番組とかで折々見かけるこのGacktさんは、やっぱり耽美で美学で美しい人、だと思っていたから。しかし、これは勿論判っていたことなんだけれど、Gackt氏はきっちりと作り上げている部分での美しさであり、だから角度とか何とか、そういう部分も作り上げる部分に入っており、それが危うくなる映画世界だと、ヤバいのだ。その点HYDE氏は、Gackt氏よりも作りこんでいないんだな、と気づく。彼は素での美しさ。折れそうなほどに細くて、その点でもはかない美学を感じさせる。彼と並ぶとGackt氏は顔も体も大きめで、いやそれは、HYDE氏が極端に細くて小さいせいなんだけど、……つまりだから、Gackt氏、時々女子プロレスラーみたいな感じに見えちゃうんだよー、ゴメン!

日本の経済が崩壊して、マレッパという架空のアジア都市に多量の日本人移民が流れ込んだ近未来、である。ここで親兄弟もなく、盗みで生計を立てている少年だったショウと、すでに美しい年と姿のまま時を止めているヴァンパイア、ケイが出会う。ケイはルカと別れてから、一人孤独にさまよっており、血を吸う自分を怖がらないショウと運命の同志となる。でも、当然ショウはどんどん成長していく。見た目は自分と変わらない年恰好になって、二人して絶妙のコンビネーションでドンパチやる時間は楽しいし、新たに出会った仲間たちの中にははかない女の子がいて心を惹かれたりするのだけれど、ケイの中にはやっぱりここが基点、あとはどんどん追い越されて、自分はまたしても取り残されてしまうんだ、という思いがあるのだろう。ナーバスになり、時にはショウに当り散らし……。

そのあともどんどん展開していって、かなり大きな話にはなるのだけれど、この作品世界での基準となっているところ、そして最も魅力があるのはやはりこの前半部分に尽きる。一人芸達者な山本太郎が中盤で死んでしまうので、彼のアクティブな、引っ掻き回しが有効になっている点でも、この前半部分は魅力である。ここはつまり、青春なのだ。ちっとばかしみんなトウはたっているけど(笑)、心を分かち合った仲間たちと、その絆を純粋に信じられた青春時代。“20世紀の名器”であるカメラで、夜の海をバックにみんなで撮った記念写真。その時は、これから皆がバラバラになるなんて、思えなかった。でもこの一瞬だけが、奇跡の青春だった。それから、一度も、彼らが、カメラの前で一つになることは、なかった。いや、あのラストシーンは、違う世界で出会った彼らがもう一度……という(ま、これまたありがちな)示唆なのだろうか。

山本太郎扮するトシが死んで、そしてその際、今までずっと血を吸うのをガマンしていたケイがもう辛抱たまらん、とこの犯人どもに襲い掛かり……そしてすべてが様変わりしてしまう。ケイは殺人罪で捕まり、孫はトシを殺した中国人グループに入ってショウと敵対する関係になり、孫の妹イーチェはショウと結婚、一児をもうけている。イーチェは本当はケイと想いあっていたのに……でもそれは、かなわぬ恋。ケイは、自分が生き延びるためには、人を食い殺さなければならないこと、悪いヤツの血を吸って、何とかその罪悪感から逃れようとしても、悪い奴の血ばかりで出来ている自分は、どんどん真の悪人になっていく気がすること、そんな罪悪感の連鎖状態で苦しんでいた。そして捕まって牢獄に入れられた彼は、ひたすら死にたい、と願っている。ショウが会いに来る。イーチェと結婚して、子供ができたと。ケイだけには伝えたかったと。

前半部分ではかなりカジュアルにハジけていた、特にGackt氏の方は。正直イメージを心地よく裏切ってくれるフツウのあんちゃんっぷりで、その台詞回しも(「すごくない?」とかはちょっとネラいすぎって気もしたけど……だって近未来なんでしょ?今の言い回しはそれでなくても、数年たちゃ、あっという間に古くなっちゃうよ)かなり笑わせてくれる部分が多々あった。銃撃戦でさえ、華麗な立ち回りの中に(まあ、驚いたことに、ワイヤーアクションまで使ってる)かなり絶妙にギャグを入れてくるし、極めつけはイーチェに花束を持ってくるところで、ヤローどもが集まっているから彼女に渡すことが出来ず、後ろ手にしたまま顔は作り笑顔でニッコリ、というところのGackt氏のハジけっぷりは、あ、この人ちょっと役者として面白いかもしれない、と思ったのだが。ただ、それはまさしく前半のみで、中盤、後半と、彼はカンペキにシリアスに美学の道を突っ走り、そうなると先述した容姿のアラもいろいろと見えてきちゃって……つまり前半で、このメイクばっちりの美青年がギャグをやるからこそ、美しい容姿とのギャップで際立っていただけに、その彼が美学の道を突っ走ると、ズレる部分、つまりアラが色々色々見えてきちゃうのだ。むしろ哀しいことや切ないことも、はしゃいでいる時に、あるいははしゃいでいた時代を思い出した時にこそ感じるもので、シリアスに没頭していくほどに、心が離れていくのがどうしようもなくなってしまって。

まあ、だからそれも、やはり演者の力が大きいと思うんだけど、あんまり言うと怖いから、言わない(笑)。ま、でもやっぱり見どころはGackt氏とHYDE氏のツーショット場面、なんだろうな。耽美な雰囲気たっぷりで。ことにGackt氏演じるショウが孫との対決で命を落とさんとする場面で、血だらけでゴフゴフやっているショウに駆け寄り、「死ぬな!」と泣き叫ぶケイ、という場面は、あまりにも完璧な耽美。ただこの場面はかなり判らない部分があって……ショウは自分ではどうしようもなくなって、牢獄にいる、いまや死刑執行直前のケイを呼び出し、彼と共に孫に無謀な抗争をしかけて、最後に楽しもうぜ、とかそんな感じで、そこまでは判るんだけど。ショウってば、その抗争の最中にケイに日光を浴びせようとするんだもん。ううむ、判らない……どうせ死刑執行になってしまうなら、自分の手で、しかも自分と心中で、と思ったのかなあ?しかももっと判らないのは、最初こそ日光から逃げ回っていたケイ、途中から急に強くなっちゃって、このさんさんと降り注ぐ日光などものともしない、というところ。な、ナゼ?彼は日光を浴びたら死ぬんじゃなかったの?それに息も絶え絶えのショウを助けるために彼もまたヴァンパイアにして、そしてラストは二人して朝日が昇るまで待って、死んでしまった、訳でしょう?ならばなぜ、あの場面の日光は平気なの?曇ってたの?判んないなー。

で、いきなり時は飛んで、イーチェとショウの間の一粒種の女の子が立派にひとり立ちするほどの時間が経って。あ、忘れてた。イーチェは難病で死んでしまったのだった。本当はショウはケイに、彼女をヴァンパイアにすることで助けてほしいと思っていたんだけど、ケイは、人を食い殺さなければ生きていけないような怪物に彼女をしたくない、と言って……でもショウの方をそんな怪物にしちまったわけなんだけど。だから結局、確かにケイはイーチェに惹かれてはいたけれど、やっぱりやっぱりショウのことこそがうんと大事だったんだな。うーん、まさしく耽美。でもそう考えると、やっぱりちょっと、イーチェが可哀想って気も、するけれど。本当に好きだったケイとは結ばれるわけもなく、自分を愛してくれたショウは自分を飛び越えて永遠の命を得、しかも永遠の命を与えたのは、自分の愛したショウだった、という……。でも、まあ、いいのよ。女は愛されれば幸せなんだから。そして女は次の世代に新たな命を、自分の分身を残すことが出来る。だから永遠の命にそれほど興味はないのだ。……ヴァンパイアのほとんどが男だっていうのは、その辺に理由があるのかもしれない、などと思う。

この残された女の子を世話していたのは、ケイ。ショウはなんでだか……おめおめ生き残った自分を見せるのは恥ずかしいのか、自分の娘だってのに、ヴァンパイアになって以来、彼女の前に姿をあらわさないのだ。これも一応理由は述べられていたけど、正直不可解。というより、私としては、もうあの時点でショウが死んでしまっていた方が、この場面は生きた気がしたんだけど。というより、私は当然もうショウは死んでしまっていて、だから死んでしまったショウやイーチェのために、ケイは死にたい願望を捨ててこの娘を育てたんだと、それはナカナカいい話ね、と思っていたら、なんとまあ、のこのこショウが現われるもんだから、ちょっとビックリしてしまった。なんじゃそりゃ、と。でもそれもこれも、あの耽美100パーセントのラストシーンのため、なのかな。ショウが死にゆく先述の場面だけでは飽き足らないのか……でも確かに、より完璧なのは、二人で朝日を迎える、どこか自己犠牲的なラストシーンの美しさに他ならないんだけど……ただ、先述のシーンではやっぱりどこか切羽つまったものがあったから、少々の気障な臭さも気にならずに(いや、やっぱりちょっと、気になったかな……)観ていられたけれど、ここは、あまりにもネラい過ぎというか……いや、ネラうのは、いいんだけど、如何せんこの二人だから、なんかどこか、プロモーションビデオを見ているみたいな錯覚に陥り、それを言ったら全編、そうなんだよね、正直。だってここに出てくるGackt氏もHYDE氏も、その見えかたは私達がよく見知っているGacktでありHYDEであり、決してこの映画の中に生きるショウやケイ、ではないんだもの。百歩譲って、Gacktが演じているショウであり、HYDEが演じているケイ。そんなことを言ってしまえば確かに役者なんて皆そうだけれど、ただGacktやHYDEは普段の彼らがもう、特に外見的にピシッと完成されているから、そこを一歩も踏み出さないまま映画の世界に来ると、やっぱりプロモーションビデオ的な感慨を抱かざるを得ない。それが残念。

イーチェを演じるゼニー・クォックはなかなか良かったかな。そのほとんどが声を発することが出来ない役にも関わらず、表情と視線と、清楚なたたずまいで言葉なき言葉を感じさせる彼女。少女らしい、しかしどこか色っぽさを感じさせるふっくらとした唇が魅力的で。
あと監察官?役の石橋凌が好き。彼クラスの人が出るとホッとするというか、やはり上手さに差が出るというか。うーん、でも彼もやっぱりやりにくそうだったかな?★★★☆☆


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