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「や」


2004年鑑賞作品

ヤンキーエレジー
2003年 16分 日本 カラー
監督:本間由人 脚本:本間由人
撮影:坂元鬼啓二 音楽:
出演:蛭田正継 日置滋土 後藤史也 野尻琢磨 ワル 竹内佑輔


2004/10/15/金 下北沢短編映画館トリウッド
「この高校にしか入れなかったから」と、ヤンキーになりたくないのに、カメレオンヤンキーになってしまう、っていうのって、吉田秋生の「ラヴァーズ・キス」にあったなあ……と思いながら、それをここまで、なんつーか、なんともいえず切なく描いちゃう。本間監督作品の出ずっぱり、主演の蛭田氏がなんかもう、たまらなく、切ない。こんな、ヤンキーばっかの高校行ってて、「本当は大学に進学したいんだ」なんて言うあたりからすでに切ないのはなんでだろ。それは勿論、可笑しさを多分に含んだ切なさなんだけど……。

だって、やっぱりこの吉彦もパーなんだもん。というのは、やっぱりパーな小学生、軍司の口から言い放たれることなんだけど。それはある意味衝撃のラスト??この緑まぶしい田舎町での、カメレオンヤンキー、吉彦が、思いも寄らなかった言葉、だけど、真実をついている言葉。

一応ね、吉彦は自分がバカだとは思ってなかったんじゃないかと思うわけ。彼は確かにツラい青春を送ってた。いじめられないように、ま、基本のヤンキーのカッコは押さえつつも、勿論こんなパンチもボンタンもオーバーシャツもやりたくない。成績がいいのも、「たまたまだよ」と逃げつつ、それこそが自分の誇りだったんだけど、それも、……まあ、多分相当に底辺であろうこの学校では、その成績の良さも、……あんまり大したことじゃなかったんだな、きっと。

ヤンキーの学校とか言いつつ、学校の様子は出てこない。クラスメイトもたった一人、しかもクラスメイトなのに、向こうはボス口、こっちはタメ口ながらも思いっきり気弱なそれである。途中吉彦がイチャモンつけられる他校の生徒の方が人数が多いんである。しかもしかも、どこまで行ったら建物が出てくるの?といった感じの、のどかなド田舎。でもそれでも、「ヤンキーの学校に通っている」という雰囲気が醸し出されているのが、ちょっと凄いんじゃないかとも思うわけ。
吉彦が、成績がいいんで、この同級生の清が、小学生の弟、軍司の勉強を見てやってくれるように頼むんである。曰く、「あいつ、メガネなのにバカなんだよ。お前はメガネかけてるから頭いいだろ。なのにアイツ、メガネなのにバカなんだよ」アホ全開の言いっぷりで笑っちゃうんだけど、この言葉が、実にその衝撃の?ラストに、そう、吉彦もメガネかけてるのにバカだった、というラストにつながるんだから、侮れない。

このバカな小学生軍司君がもう、バツグンで。ケント・デリカットみたいなめがねをかけて、一見利発そうに見える子なんだけど、何というか……アホなのね。母も兄も、兄のようなヤンキーにはさせまいと、この子に一生懸命勉強させるんだけど、勉強してもしても、出来るようにならない。「もうヤンキーになるしかないよ」という台詞も凄いが、「ヤンキーになっても、いいことないよ」と諭す吉彦の台詞も凄い。「本当はヤンキーになんかなりたくなかったんだ。本当は大学に行きたいんだ。でも勉強してるなんて判ったらいじめられるから」「こそ勉なの?」こ、こそ勉……。
この吉彦の説得に深く納得した軍司君。頑張って勉強してヤンキーにはなるまい、と決意する。しかしなあ……やる気がないのかバカだからなのか、吉彦が説明している間、ずっとポカンと右斜め上45度付近を仰ぎ見て、吉彦の「判った?」に、「うん、判った!」判ってねーだろ、お前ッ!!案の定、模試の結果は散々で、母親に叱られるとうなだれている。それを救ってあげようと、吉彦が赤ペンで39点を89点にしてしまったことが、モンダイだったのだ。

公園で、うなだれてる軍司君。彼を見つけて吉彦が声をかける……ブリーフ姿で。まあその……途中絡まれた他校のヤンキーにボンタンをとられてしまったから、なんだけど、なんだけど……ブリーフ姿で、「軍司君!」とかフツーに声かけないでよーもう!この後にもう一度出てくるこの、ゆるゆるのブリーフ姿の哀愁が、哀愁が……もうたまらんて。で、この点数詐称が、あろうことか、本当にバカのはずだった清によって暴かれ、あわれ吉彦は清にドロップキックをくらう。そして軍司君、お兄ちゃんのことを「普段はパーなのに、こういうことに気づくんだよ」と言ったことを吉彦にたしなめられ、「そうだね。お兄ちゃんのこと、パーだなんて言わない。だって、パーなのは吉彦君だもんね」と!ボーゼンとする吉彦のドアップ。俺はパーなんだ……ヤンキー高校の中で、オレだけは違うと思っていたのに、こともあろうか、同じパーで、同じどころかそれより下のパーで、しかもヤンキーにさえなれていない吉彦の、ああ、哀れさよ!うう、でも……哀れだけど可笑しい、いや、可笑しいけど、切ない!まさしく、エレジー。

この、悪気はないけど残酷な、なんかものすっごくニセモノっぽいというかびんぼったらしいキャラの、クソガキ軍司君は、哀愁の歯っかけカメレオンヤンキー、吉彦君に匹敵するキャラ爆発で、この二人の間の掛け合いと、垂直に切ってく感じのカッティングが可笑しくって、実は案外静かな映画だっていうのも、イイあんばいなのだ。ゆうばり映画祭での哀川賞(いいネーミングじゃないかあ)、ナットク。★★★★☆


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