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2005年鑑賞作品

のど自慢狂時代
1949年 50分 日本 モノクロ
監督:斎藤寅二郎 脚本:八住利雄
撮影:友成達雄 音楽:
出演:灰田勝彦 並木路子 清川虹子 江戸川蘭子 初音礼子 渡辺篤 玉松一郎 ミスワカナ 杉狂児 花菱アチャコ 古賀政男 美ち奴 日暮千代子 若原弓子 柳田一夫 太田一郎 奈美乃一郎 柳家権太楼 志村道夫 和田肇


2005/11/4/金 東京国立近代美術館フィルムセンター(斎藤寅二郎監督特集)
この斎藤寅二郎監督作品はまったくの初見。21歳の若さでデビューしてその代表作のほとんどが初期の作品だということで、本数は相当撮っていながらかなりの数の作品が失われているらしい。日本はやっぱりそういうトコがダメだよなー。この作品だってね、美空ひばりの映画デビューだっていうのよ!幾つの時だったんだろう!クレジットにも彼女の名前はちゃんと記されてるけど、その部分はないの。公開時は80分の作品だったというんだから、実に30分も失われているのだ。実際フィルムの痛みも激しく、飛び飛びつなぎのところが多い。でも今見てもしっかり笑えるぐらい、優れた喜劇に仕上がっているからそれが残念で仕方ない。まあ、残っているだけいいんだろうけど……。

そう、井筒監督のはるーか前に、ちゃんとのど自慢の映画が作られていたのね!なんて。ま、これはまだラジオ時代のものだけど、でも人々の熱狂や、格好にこだわったり、あるいはその裏に様々な人間模様があるのは、もうこの時からしっかと確立しているのよね。それにしてもナンセンスだけど!のど自慢会場での、一声出しただけでカーン!と鐘が鳴らされるのは、ま、お約束。でもこんな昔にキチンと基本が確立されていたんだなあと思うと感慨深いし、やっぱりちゃんと可笑しいのよね。いまだと判らないのが残念なんだけど、「ナントカさんによく似ていますね」「いやあの、僕イトコです」とかって、あれ、きっとその有名な人そのものなんだろうなあ。あるいはのど自慢、つまり歌自慢のはずなんだけど、落語的な、ネタっぽいものを披露する人も折々いて、合格しちゃったりする。えー!?初期ののど自慢って、こういうのもアリだったの!?いや単にそれも、この人が有名な芸人さんだったりするからかな(やっぱり判んないけど)。でもそれもね、最初にカーン!って鐘ひとつで終わっちゃうの。でもその芸人さん、ゴネて、最後までやらないと判らないでしょ、って。退出させようとするアナウンサー、最初は困ってるんだけど、何たって手練の芸人さんだからだんだん引き込まれちゃって、笑っちゃって、会場もウケちゃって、で最後にはキンコンキンコンカーン!と合格の鐘が鳴らされてしまう!ええー!アリなのそんなの!いや面白いけど!

ウラの人間模様もかなり面白い。娘をのど自慢に出し続けているお母さん、結構裕福っぽい家で、お母さん、なんか高そうな洋犬なんかいつも抱いてたりする(この辺もベタで可笑しい)。このお母さんは長唄やらなんやら、とにかく音楽的なことには自信があって、だから娘も当然そうあるべき、当然合格すべきと、何度も何度ものど自慢に出すのね。実際結構この娘、上手いんだけど、なかなか合格できなくて……。もう出ない!とゴネると、お母さん、じゃあ私が出るわよ!と出てみたら、バックにタイコだのなんだののメンバーをズラリそろえて前奏させるも、彼女一声出してみたら、おそろしく調子っぱずれ!もう2秒の早さでカーン!よ!あれは笑ったなあ!

メインの話は、産まれた赤ちゃんを、どうしてもと請う友達にあげてしまった夫婦と、その貰い受けた友達、そして美しく成長したその娘、たまこと、その恋人の話である。この夫婦、昔は貧しかったからそんなことをしてしまったけど、今はすっかりもうけて、かつて子供を渡してしまったことを後悔しているのね。で、取り返したい、と思うわけ。まあそれも今更って感じで随分と勝手やなあと思いもするんだけど……。この夫婦がやっている店ってのが面白くてさ、野球好きの親父さんが趣味が高じて始めた、ホームランという喫茶店なの。親父さんはキャプテン、おかみさんはマネージャーと呼ばれ、店の女の子たちはキャンギャルチックにデザインされたスカート型の野球のユニホームを着て、テーブルには本塁とか二塁とか書かれてる。で、メニュー、やってきたお客が「フライコーヒーってなんだい」「フライは高い。つまり高級なコーヒーってことです」ダジャレかー!

この時その質問をしていたのがたまこの恋人で、彼女も一緒に来ていた。で、おかみさん、たまこを一目見て、あの時渡してしまった赤ちゃんだ!と母親のカンで気づくのね。それはちょっとムリがあるけどさ……。ホクロの位置が同じだっていうんだけど、赤ちゃんって、ホクロはないんだよねー。まあ、とにかく、それで慌てて彼女の後を追って親父さんと店の外に走り出ると、チンドン屋にぶつかる。その人こそ、昔娘を渡したキンさんという親父さんとの楽隊仲間であり、今はすっかりチンドン屋に落ちぶれているというわけである。このチンドン屋のことはたまこにはナイショにしているんだけど、そのことを云々する部分はフィルムがかなり抜け落ちており、かなり判りづらくなっているのが惜しい。でもここで会ったが百年目、たまこを取り返すために必死なこの夫婦、親父さんが、大福の大食い競争で決着つけようとか言い出して、おーい!娘を大福に賭けるなー!その時点でかなり可笑しいのだが、このキンさん、大福は大好物、いくら食べてもしれっとしてて、親父さんの腹はどんどんふくれて、ついに目を回してしまう。

キンさんとたまこの親子は実に仲睦まじいのね。たまこはお父さんのためにのど自慢に合格して、音楽家の父のあとを継ぎたいと思ってる。でもそんな中、自分たちが実の親だとこの夫婦たちが乗り込んできて、彼女はすっかりコンラン、恋人の元に逃げ込んでしまう。一晩中帰ってこないたまこを心配してキンさんとこの夫婦がまたケンケンガクガク、その間にこの恋人の父親が狂犬にかまれちゃってワンワン言ってるし……ってなんだよ!えーとね、この恋人の父親は医者なんだけど……この病院は、獣医と人間のお医者さんを兼任しているトコで、「患者は人間ですか」って聞いたり(犬と同レベルかよ!)すんのよー。アホかー!!んで、狂犬にかまれてワンワンって……そんなんあるか!たまこはのど自慢の本番が迫ってるんだけど、恋人のお父さんがそんな状態で置いていけなくて、でも恋人、なんだっけ、なんかの血清をビシッと打ち込んじゃう、聞き取れなかったー、なんかまたアホなことを言ってたと思うんだけど……とにかくそれでお父さん、ケロッと治っちゃうもんだから(それまでワンワン言ってただけに、可笑しい)たまこは恋人の自転車の後ろに乗って急いで会場に到着、見事なのどを披露して一発合格!

そのラジオを聞いて、キンさんは人力車を雇って会場に急ぐ。しかしこの人力車のじいさんがもうガクガクのおいぼれでさー、歩いている人にも抜かれちゃうの。ベタな基本ギャグ、ここにあり!って感じで嬉しくなっちゃうなあ。しかも放送局に行けって言ってるのについたところは郵便局だし!これもベタなんだけど、それに気づかず、わざわざ中まで入っていって、首をかしげながら外に出てきて表書きを確認し、ばかやろー!とじいさんを怒鳴る、というところまでのお約束に、ついつい吹き出しちゃう。いやー、王道だなー。

一方、夫婦の方は、親父さんがすっかりスネて呑んだくれちゃってて、そんなへべれけのダンナを引きずっておかみさん、車の修理工場?判んないけど、とにかく止めてあったトラックに乗せてもらえるように頼んで、ヘベレケの親父さんを荷台に押し込み、もう足とかひっくり返っちゃってるのがおっかしいんだけどさー、急ぎ会場に向かう。走っている間も、ヘベレケの親父さん、荷台から何度も落ちそうになるし、会場に着いても、人の流れに流されてずるずるおかみさんにひきずられるし、芸人さんの王道アクションの教科書って感じよ。で、その会場で、たまこが音楽のおっしょさんに、「あなたにはお父さんが沢山いること、感謝しなくちゃ」と言っていて、たまこがええ、と感慨深い趣でうなづいており、その様子をキンさんと夫婦もまた涙っぽく見つめながら、もういがみ合いはやめて、仲良くしよう、と大団円。あーなるほどこの決着のつけ方か。つまりたまこはこの恋人の青年ともう結婚ということになるから、結局娘がどうのというのも嫁入りすることで解決しちゃうわけ。

劇中、歌の指導でピアノを弾いているのは、誰ッ!?ブギウギを実に軽妙に軽快に、すんごく粋におしゃれに、ジャズのアドリブに通じるようなカッチョよさで軽やかに弾きまくるその様に、かなり見とれちゃったよ!和田肇って人だったのかなあ?


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