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「ろ」


2008年鑑賞作品

浪人街
1957年 110分 日本 モノクロ
監督:マキノ雅弘 脚本:村上元三 マキノ雅弘
撮影:三村明 音楽:鈴木静一
出演:近衛十四郎 藤田進 河津清三郎 北上弥太郎 清水元 石黒達也 龍崎一郎 本郷秀雄 森健二 水原真知子 山鳩くるみ 中島淑恵 高峰三枝子 野上千鶴子  丘寵児 田中謙三 梅沢昇 泉一郎 長田健 梅村直二郎 桜井勇 梅若礼三郎 石田守衛


2008/1/18/金  東京国立近代美術館フィルムセンター(マキノ雅広監督特集)
楽しみにしていたマキノ特集に、遅ればせながら足を運んだ第一発目。このタイトル、なんか聞いたことあるなと思ったら、黒木監督がマキノ監督監修の元、リメイクしていたんだわね。あら、なんで去年の黒木監督特集の時に観ておかなかったのかしら、残念。
しかしこれが二度目のリメイクで、しかもオリジナルが断片的なフィルムしか存在しないということで、ほぼこの作品をお手本と考えると、今後黒木版浪人街を観る機会がくることを楽しみにもできるってなもんである。

久しぶりに昔の時代劇を観るせいか、早口の台詞、女優陣の独特の発声になかなか耳が慣れず、会話がなかなか聞き取れなくて苦労する。んでもって久しぶりに昔の時代劇を観るせいか、はたまた不勉強ながらメインの三人の顔と名前が一致しないせいなのか、なかなか三人のキャラの見分けと位置関係をつかみきれず、見ていて焦ってくる。
うー、なんたって半世紀も前の映画なのだもの。まあ最後には全てが見通せるんだけど、その疲れのせいか、肝心な展開のところで眠りに落ちてしまったらしく、後半はその間に何が起こったのかつかもうとして更に焦る(爆)。

まあそんな感じで、相変わらず私ってヤツはテキトーに観ている訳だが……。とにかく「松方弘樹に顔の似ている近衛十四郎」を何とかスクリーンの中に追いかけていったら、ようやく何となくつかめてきた。
彼が演じる荒牧源内が主人公。主人公といえど、この男トンでもない女たらしのイイカゲンな男で、巾着切り(スリ)の女房、お新に稼がせて、家に帰るのはカネがなくなった時だけ、そのカネをひっつかんで酒を浴びるほど飲み、別の女のトコに入り浸る。もー、トンでもないヤツなんである。

そんな源内と出会ったのが、この浅草あたりでこれまたテキトーに浪人暮らしを送っている、赤牛弥五右衛門(河津清三郎)。
赤牛は冒頭、横柄な旗本兄弟に因縁をつける場面でさっそうと登場するので、最初のうちは彼が主役かと思ったくらいである。しかしこの場面も、そして居酒屋で源内となんちゃって一騎打ちになった時も(二人とも、全然斬り合う気なんてなくて、つばぜり合いを演じながら引く相談してんだもん(笑))、仲裁に入ったのは母衣権兵衛(藤田進)という、この界隈で用心棒をしている男。
実は彼、源内の女房、お新に……彼らが結婚する前にある縁があってそれ以来、彼はお新に恋い焦がれてきたのだった。

そしてもう一人、彼らとは少し離れた位置にいる、土居孫八郎(北上弥太郎)という若い浪人。彼は妹のおぶんと共に住んで、傘張りなどして糊口をしのいでいるけれど、故郷への帰参を夢見ている。でもそれが半ば叶わぬ夢だということを彼は薄々承知していて、それを信じてけなげに頑張っているおぶんのことが不憫でならない。
しかもこのおぶん、器量良しなもんだから、スケベな旗本兄弟に目をつけられて往来でちょっかいを出され(あの場面の、実に好色そうに彼女をなでまわし、引き倒す旗本兄弟の胸糞悪いったら!)、武士の娘である彼女はそれだけでショックを受け、辱しめを受けた時には潔く死ぬ、などというから兄の焦りは更に募る。
しかも彼は生活に窮して、帰参が叶った時には絶対に必要な、若殿拝領の短刀までも手放していたもんだから……。

と、いうような展開。そっれにしても源内はホント、トンでもないヤツ。お新はこんな源内にホレきっていて、彼が数日ぶりに帰ってくると涙を流さんばかりに喜び、おまえさんが他の女にとられるのが心底イヤなんだよ!と彼の足元で泣き崩れるのがやけに色っぽい。
しかもその台詞の後にパッとカットが切り替わって、引きのカメラが床の二人を小さく捉えるのがまた艶っぽくてさあ。いやー、こういう色っぽさは、今ではなかなかね。
で、彼がそんな女房をほっぽって始終入り浸っているのが、湯女の小芳で、彼女もまた彼に相当惚れきっている様子なんである。
奥さんの元にお帰んなさい、と言いつつ、帰ると言いながら子供のように布団にもぐりこむ彼に嬉しそうな表情を隠せず、ふすまを順繰りに閉めて行く場面も色っぽい。いいよね、こういう間接的な表現の色っぽさ。高峰三枝子はこんな若い時から色っぽいんだもんなあ。

孫八郎のもとに国許から帰参の吉報が届く。彼は一瞬喜びに満ちるも、なんたって短刀がないんだから悲嘆に暮れる。同じ長屋に住む赤牛はそんな彼を不憫に思って……というか、ピンときて、じゃあ一両で俺が探してやるから、と請け負う。ヤケ酒で泥酔している孫八郎がウンウンと頷くのをいいことに、いや、五両だな、それぐらいの価値はある、いやいや十両でどうだ、十両で帰参出来るんなら安いもんだ、などとちゃっかり値を吊り上げていく場面には思わず吹き出す。
このあたりになるとさすがにバカな私にも、キャラ分けはハッキリしてきて……源内と負けてないイイツラの皮だけれど、ひたすら女房に稼がせて、いわば金の心配などしていない源内に対し、赤牛は金のためならほいほい話に乗るヤツなのねと判る。
でも不思議に憎めないんだけど……なんかいつも酒を飲んでいるような印象でテキトーなヤツなんだけど、その酒好きってキャラもね、テキトーさを増しているんだけど、なんか憎めないのよね。

母衣は、源内が持っている短刀が孫八郎のものだということを赤牛に教えてやるのだが、このあたりから私の記憶はアヤしくなってくる。うーむ、一番肝心なところではないか。
どうやら赤牛はどこかの時点で旗本兄弟側に寝返り、源内を陥れる方向に転じたらしい。で、源内はというと、これまたどこかの時点で女房お新を人質に差し出したらしい……えっ?どういう展開になったらそうなるの?あー、ごめん、本当に寝てた。

一方で孫八郎の妹のおぶんも、かなり修羅場に突入しているからビックリする。水茶屋で働き始めた彼女は、好色な客(あの旗本兄弟のどちらかだったかなあ)に目をつけられて、身を売る寸前まで行く……ていうか、これまたどこかの時点で(爆。もう私、ダメダメだ……)彼女は源内の短刀を買い戻す算段がついていたらしく、この客の懐から三十両せしめて、逃げ出してくるんである。あれ?“身を売る寸前”じゃなくて、もうヤッた後(下品でゴメン)だっけ?そのあたりもねむねむで定かでない……ごめんなさーい!
しかしせしめた筈の三十両は、そのままそこに落としてきてしまったらしく……でもそれで良かったのよね。だって盗んでしまえば彼女、罪人になってしまうんだもん。
騒ぎに駆けつけた役人たちが「タダで娘を抱いたのか?」と軽蔑の眼差しを向けるということは、ホントにタダで抱かれちゃったのかなあ……いやいや、逃げ出していたよね?

ところでさあ、このお役人二人が実にイイ感じのコメディリリーフでね。登場シーンで二人は居酒屋に飲みに出かけるんだけど、出迎えの太鼓の音にビックリして慌てて外に出てきちゃうし、とにかくそんな弱気な二人なのだ。
ケンカに出くわしても、いやもう少し様子を見てみようか、ちょっともう一杯呑んでから……などと店に引っ込んで呑みに呑んでへべれけに酔っ払ってしまう始末。
おぶんが旗本兄弟に絡まれている時にも、人ごみの向こうからおっかなびっくり覗いているだけだったから、小芳に叱られる始末だし。もー、常に腰が引けてるんだもん。
一番笑ったのはアレだな、おぶんが逃げ出したあの客に、「このスケベ、ドスケベ」と二人輪唱するように声を合わす場面。言うにことかいて何その、子供じみた言い方、もー、笑える。この二人の息抜きがなかったら、なかなかに厳しかったかも。

さて、クライマックスは捕らえられたお新を助け出しに、源内が子恋の森で大勢の旗本集たちに殴り込みに行く場面。まさにチャンバラ映画の醍醐味を味わえるわけなのだが、ここに至るまでにはなんたってこの源内、女たらしのテキトーなヤツだからさあ。
もう、信じられないの。お新が無事帰ってきていないというのに小芳の元にシケこもうとするもんだから、さすがに小芳はイカって、彼を引き連れて家に戻る。そこへ、事を知らせにおぶんが走ってくる……というか、どういう展開で彼女はこの状況を知ることになったんだっけ?(爆。ホントゴメン……)。

でもって源内、その急報に顔色を変えるも、またしても信じられないことに、いや、やっぱりやーめた、とばかりに刀を枕に寝転がってしまうもんだから、女二人ボーゼン。観客もボーゼン(笑)。
どこまでだらしのない男なんだ……と思いきや、やはりそれはクライマックスにおける大チャンバラを控える上での布石だったワケよね。
小芳に「旗本の十や二十が怖いのかい。ナサケナイねえ」と言われたことは単なるキッカケで、源内はやっぱりお新の愛情によって生きていたんだし、ようやくよっこらしょと腰を上げ、おぶんに「オレのかたみだ!」と短刀をさずけ、一目散に子恋の森へ。

ああ、そうかあ、小芳は当然、源内を送り出すことが、もう彼との永の別れになることを判ってたんだよね。たとえ首尾よく切り抜けても、もう源内はお新のもとを離れることはないだろう、っていう……。そんな切なさを一切見せない女丈夫。
一方おぶんは、短刀を携えて兄の元に走る。事情を知り、どうしても源内どのを助けに行く!ときかない孫八郎を押さえつけ、貴殿はおぶんどのと帰参するのだ、私が替わりに行く!と母衣が走り出す。
だって、だってさ、母衣はお新のことが忘れられないんだもん。源内みたいな女たらしの女房で苦労しているお新のこと心配だけど、彼女が源内にホレているのも判ってるし……そんな彼女が今まさに「牛割き」にあわんとしている!
「牛割き」の刑にって言い出したのは旗本兄弟にすりよる両替商で、そういう外国の残酷なモンを仕入れてきてサディスティックな想像にニヤニヤしているのが、実に気味が悪い。

赤牛はというと、なかなか来ない源内をイライラしながら旗本達と共に待っている。彼は旗本側に寝返っているわけだけど、お新をこんな状況にさらしてしまったことに少々うろたえているようでもある。
源内がようやく到着する。チャンバラが始まる!母衣も加勢する。赤牛はずーーーっと、その輪に入ろうかどうしようかと行きつ戻りつしてるのね。それが実に腰抜けな感じでおっかしいんだけど(笑)。
でも、エイヤッと源内の加勢に入って、旗本集から「裏切ったな!」と罵倒されると「表返っただけよ!」と返すのが、ちょっとカッコイイかも!

母衣は源内とお新を逃がす……この時にもかなりの葛藤があって、源内はこんな自分よりも母衣に……と譲ろうとして押し合いへし合いなぞするんだけど、結局 母衣は二人を行かせるんだよね……。
で、最後には赤牛にこの場が任される。それもまた……これまでずっと笑いを起こす側にいた赤牛が、まさに男の花道を飾る場面でさ。
おっかしいなあ、主人公は源内の筈なのに、この場面でもう源内出なくなっちゃうんだから。で、赤牛、見事な立ち回りを見せるも、最後には後ろから切りつけられて無念の……いや男の最期を立派にかざるのだ。

ラストシーンがね、その赤牛の墓標(?位牌?)を眺めながら、いつも皆が集まっていたあの居酒屋で、母衣が男泣きに泣きながら枡を傾けているのね。いつも騒ぎを起こされていた居酒屋の主人も、そんな彼を痛ましそうに眺めている。
そこへ、御用提灯がどっと集まってくる。居酒屋の入り口に四方から集まってくる御用提灯の群れを俯瞰で捕らえた画は、迫力。
旗本集を斬りまくった彼らが、そのまま許されるわけがないということか。そして赤牛は死に、源内とお新を逃がし、ここに母衣だけがいるということは……。
彼は決然と刀を抜き、御用提灯の群れに踊りこんで行く……そこでラスト、なんだよね。ううう、結構笑いどころも多いし、チャンバラシーンがクライマックスであるエンタメだったのに、ラストは切なくないかあ、母衣よ!

次回からはちゃんと目を覚ましておかなきゃ……。★★★☆☆


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