home!

「に」


2009年鑑賞作品

ニッポン無責任時代
1962年 86分 日本 カラー
監督:古沢憲吾 脚本:田波靖男 松木ひろし
撮影:斎藤孝雄 音楽:神津善行
出演:植木等 重山規子 ハナ肇 久慈あさみ 峰健二 清水元 藤山陽子 田崎潤 谷啓 安田伸 犬塚弘 石橋エータロー 桜井センリ 松村達雄 由利徹 中島そのみ 団令子 中北千枝子 人見明 稲垣隆 井上大助 峯丘ひろみ 岡豊 荒木保夫 堤康久 宮川澄江 清水由紀


2009/7/16/木 劇場(銀座シネパトス/日本映画レトロスペクティブ)
いやー、これは観たかったのだよねー。ていうか私、植木等(とかクレージーキャッツの)の映画ってあんまり観れてないんだよな。
本作はある意味、とっても予想通り、期待通りで満足。植木等という稀有なキャラが完璧に表現されてる楽しさ。

彼の役名は平均(たいらひとし)。自ら、平均と書いてタイラヒトシ、どこにでもいる平凡な男ですとアッケラカンと自己紹介するも、こんなトンデモナイ男が平凡な訳もない!
ある意味この名前は詐欺にも等しいっつーか、詐欺……そうだ、この名前だって彼の本名じゃないのかもしれない??なんてね。
どこから来てどこへ行くのやらサッパリ見当のつかないこの男を、「無責任」と人は呼び、自身もそれこそが大事だと歌い踊り、ラストにはプロポーズした相手からも「無責任ね」と呆れられるというある種の完璧さ。
だけれど、無責任というより、ちょっと怖いぐらい頭がキレると言った方が正しい。だって、確かにやすやすと考えすぎて失敗する場面はあるものの、全くめげず、次の段階をひょいっと昇ってしまうのだもの。これが究極のスーパーサラリーマンでしょ!

そうなの、歌い踊る、のだよね。ミュージカル映画かと思うほどの、植木等の真骨頂が堪能できる。まあ時には呆れるぐらい背景がお粗末だったりもするけれど(それは料亭の宴会場ステージの背景なんである……)そこは植木等のお気楽パフォーマンスを堪能出来るから文句は言うまい。
そうだよなー、これって脚本は達者だし、植木等は文句なく面白いんだけど……なあんとなく、ガシャガシャとただ進んでいくようなもったいなさを感じなくもなかった、かもなあ。

しっかし、そう、ミュージカル映画さながら、なんである。改めて青島幸男の素晴らしい才能に思い至る。勿論パフォーマーが植木等であるから、なんだけど、そういう意味で言えば、青島幸男の作ったこの傑作楽曲は、まさに植木等が歌うことによって完璧に完成されたのだよね。
勿論超有名な楽曲、誰もが知っている楽曲だけれど「ハイそれまでヨ」、ムーディーな入りから「……てなこと言われてその気になって」と落とすギャグの秀逸さには、改めて舌を巻いた。
それは映画という、パフォーマーが物語の中で演じる役柄でそれを披露すると、バツグンにその秀逸さが感じられるんだよね。あの曲はスッゴイし、あの曲を完璧に表現できる植木等もスゴすぎる。百花繚乱のゲーノージンがいる現代でも、彼のような才能は見当たらない。

いやいややはり、この映画にピッタリな楽曲はやはり、「無責任一代男」だろー!世の中を渡っていくには、タイミングとC調と無責任、と高らかに歌い上げるこの歌こそ、このタイラヒトシを言い当ててあまりあるんである。
無責任こそが大事だと、あっかるく言っちゃうだなんて、それもサラリーマンにとってのそれだなんて言っちゃうだなんて、現代は勿論、モーレツサラリーマンの時代のあの頃に、トンでもない勇気だよ。今、こんな勇気のあるサラリーマン、いるかなあ……って、あの時代もいないからこそ、かあ。

でもひょっとしたら、彼よりも女の強さ、なのかなあ、やっぱり。だってタイラヒトシに絡む女は三人登場するんだけど、揃いも揃って美人揃い、しかも一様にそれぞれの分野でバリバリやってるキャリアウーマンで、地に足のついた女、なんである。
あ、この三人以外にも、タイラヒトシが下宿している大家の奥さんでさえ、嫉妬深い夫(つまりラブラブ)からタイラヒトシとのウワキを疑われ、まんざらでもなさそうにしているずぶとさが印象的だったしなあ。

その一人目は、タイラヒトシが入り込むことになる酒造会社、太平洋酒の乗っ取り話を小耳に挟んだバーの女、京子である。コケティッシュな彼女についうかうかと大事なビジネスの話をもらしてしまう男どもの口止めにニッコリ頷きながら、アッサリ口を滑らしちゃう(勿論確信犯的に)京子は、株情報をうまく利用してカネを稼ぎ、自分の店を持ちたいと思っているんである。

そして二人目は、京子からの情報を利用してまんまと太平洋酒に入社したタイラヒトシが、社長室の電話をうっかりとったその電話の向こうの相手、社長がご執心の新橋の芸者、まん丸である。
彼女もまたカネにしたたかな女で、「今銀座で買い物してるの。ねえ、あれ買ってもいいでしょう」とねだり、「そしたら後で乗せてあげるから」と、ハートマークがつきそうな勢いで囁くんである。
の、乗せてあげるって!そ、そういう意味でしょうっての!それをあんな、まっ昼間の公衆電話でアッケラカンと言うなっての!

なんかね、こういうしたたかな明るさって、性にだらしないとか、そういう現代的なユルい感覚とは明らかに違うんだよなあ。あくまで、ビジネスとしてのしたたかさ、明るさ、アッケラカンさなのだ。
いい意味でカネの価値感を信じられた、高度経済成長時代ならではなのかもしれない。それを、男は仕事に疲れるのを恐れて無責任男の植木等に憧れ、女は仕事のキャリアは勿論、それにプラスして男からカネをむしり取って、ステップアップしていこうとした、みたいな。
だから、一見植木等のお気楽さを楽しめると思いつつ、女のしたたかな強さに圧倒される作品とも言えると思うんだよなあ。

でも三人目の女、社長秘書の愛子はちょっと違う……いや、違うのは、彼女だけはこのお気楽男に本気になっちゃった点だけだろうなあ。
だって彼女は実にクールな現代的キャリアウーマンで、彼のお気楽さをタバコをくゆらしながらビシッと指摘した場面なんて、ちょっとカッコイイし、それ以降も会社に不満を持ちながらも闘い続ける彼女はとってもステキなんだよね。

彼女はね、いわば世のサラリーマン諸氏の一方での理想、なんだよね。美人秘書という魅力的なキャラでありながら、そういう、男が夢見るそのキャラに反発を覚え、「私、一応大学出てるのよ。なのに仕事は雑用とお茶くみ。他の女の子と給料も変わんないし」とタイラヒトシに不満を訴える場面から始まるあたりが、今後の、現代まで通じる社会における女の不満を切り開いていた感じが凄くするんだよなあ。
言ってみればね、京子やまん丸はしたたかで割り切っててカッコイイけど、でも彼女たちはいわば女の武器を使って男社会に切り込んでいる訳で……それは言いたくないけど賞味期限があるし、男社会と対決するにはアンフェアなわけでさ。

劇中、ワンマン社長に虐げられ続けた社員たちが、意を決して組合を結成する。その組合の存在は、乗っ取り工作の成否を握る大きなカギになる。ワンマン社長のやり方に反発を感じながらも、いわば愛社精神は捨て切れないがために、組合を作ってこの会社に残ろうとする社員たちに愛子は同感し、むしろ彼女が一番純粋にその精神を尊重し続け、タイラヒトシを守ろうともするんだけど……。
“無責任”で“C調”な彼にとって、組合を作ってまで守る自己など存在しない。そしてそれは、実際に組合結成に気炎を上げた同僚男性たちの方が、実は顕著なんだよね……つまり、自分に火の粉が降りかからなければ、他のものを守ろうとはしないわけ。なわけで、タイラヒトシは結局この会社を追われることになってしまう……。

株買い占めの乗っ取りだの、それを阻止する根回しだの、なんて、それこそ現代社会そのものだけど、そんな事態がこの時代の映画に、それも結構リアルに描かれているのはオドロキなんだよなあ。んでもって、緻密でシンラツでシリアスだったりするんだよね。
だから、その後の石狩熊五郎にはホッとしちゃうんだよなあ。乗っ取り後の新社長にも取り入ったタイラヒトシが、試金石とは名ばかりの、彼を辞めさせる無理難題を吹っかけられた、北海道の原料会社の社長へのとりなし。

その社長を演じるのが由利徹で、もう、傑作ったらないの!アヤしげな北海道弁を駆使し、まあつまりは、ザ・色ボケ。
京子やまん丸のお触りを所望しまくり、接待ゴルフ(超ドヘタ(笑))の後のお楽しみは、生ツバゴックンのポルノフィルム。もう心臓が止まりそうなほどコーフン気味の由利センセイ、満を持して登場したストリップダンサーに、もうカンペキに我を忘れちゃってる。
契約を履行させるためにと、同僚たちが一芝居打って、一時は上手く行ったかと思ったところが、アッサリバレちゃって、タイラヒトシはまたしても流浪の民になる。
だけど彼はまたしても……というか、きっと常に、また別のところに行けばいいんだから、特に気にしている様子もなく、そのとおり、次の場面で予想だにしない再会を果たすんである!

つーかさ、あまりにテキトーかつゴーインなやり方のタイラヒトシに、彼に救われた筈の太平洋酒の社長がクビを言い渡すんだけど、その、ヒドイ目に合った筈の石狩熊五郎は、ある意味彼に似ていたかもしれない……まあ、散々いい目にもあったからね……思いがけず、太平洋酒との契約を了承するんである。
その事実があれば、タイラヒトシは会社に戻れるはずだったけど、あの女三人が彼の行く末を心配して小競り合いを起こすところ、彼曰く「人頼りと、女のおせっかいはキライなんだ」と、どこへともしれず去っていく。
それで終わるのがカッコ良かったのか、それとも本作の終わり方が正解だったのか?

太平洋酒の御曹司と、この乗っ取り話でゴタゴタした会社の娘さんとの大恋愛から駆け落ちに至るいざこざ(……いろんな人のしたたかさで、こじれたのよ)に手を貸したタイラヒトシ、そのせいでクビになるものの、次に登場したのはビックリ、彼が散々接待した石狩熊五郎の会社の社長として、この二人の結婚披露宴に現われたんである。
あまりの世渡り上手に、社長も部長(谷啓)も同僚も、アングリあいた口がふさがらない。しかも彼は祝辞のまるでついでみたいに、愛子に唐突にプロポーズするもんだから、彼女は感激するよりも、「無責任な人ね」と呆れ顔なぐらいなんである。

でもさ、このラストは良かったかもしれない。だってさ、女がプロポーズに感激するって図は、その喜びのパーセンテージにいくらかは……今後の人生の安泰を喜ぶ感情が含まれている気がするんだもん。
タイラヒトシはテキトーで無責任だけど、確かに人生を生き抜くしたたかさが頼りがいがあるとも言えるし、愛子はとても専業主婦に納まるタイプには見えない……わざわざ大学出だと宣言するぐらいだから、恐らく今後も仕事を続けていくだろうし、ダンナを支えるどころか、自分こそが世帯主ってな勢いだろう。
まさしくこれは、半世紀後を予言したとも思える作品なんである。いや、それは言い過ぎつーか、……希望的言いすぎ、かな。だってまだまだ女はそこまで男を真の意味で尻に敷けてはいないからなあ。

しかし何気に積極的な植木等にちょっとドキドキしたりもしたなあ。愛子を口説き落とすために、「あ、社長!」なんて彼女の気をそらした隙にキス!なんてさっ。★★★★☆


トップに戻る