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「ぬ」


2009年鑑賞作品

濡れ牡丹 五悪人暴行編
1970年 分 日本 モノクロ
監督:梅沢薫 脚本:日野洸(大和屋竺)
撮影:音楽:
出演:港雄一 山本昌平 津崎公平 里見孝二 大和屋竺 真湖道代


2009/3/13/金 劇場(渋谷シアター・イメージフォーラム/WE ARE THE PINK SCHOOL!)
この日の二本は(誤解を恐れずに言えば)もはやピンク映画ではないと思うほどの恐るべきオーラに満ち満ちていた。
ことにこの一本目の本作は上映時間自体も堂々の85分(チラシや情報では74分なんだけど、劇場で訂正があった)、内容もフィルムノワールと言いたい圧倒的な存在感があって、カラミはそりゃあるけれど、その殺伐とした雰囲気に飲み込まれて欲情的にはとてもならないというか……。
成人映画初体験だった「荒野のダッチワイフ」の時に感じたノワール感や殺伐とした雰囲気を再び感じるな……と思ったら、この作品に大きく関与しているのが、伝説の大和屋竺であったのだ。別名で手がけた脚本と、そして本作の中で最もキーマンとなる、オシの殺し屋、クロを演じていて、彼の哀しみが全編を通して貫いていた。

私はバカだから、しばらくは物語の全容がイマイチつかめなくって、苦しんでいたんだけれど……。
冒頭、まさにギャング映画さながらの場面。双方から車がキュキュっとやってくる。片方のトランクにはギッシリと札束が詰まってて、片方には麻薬と思われる白い粉の袋。しかしその交換の場面に、あらぬ方向から銃弾が降ってきて、双方のトランクが奪われてしまう。

その取り引き現場でただ一人生き残った女、アケミが疑われ、敵方のグループに捕らえられて、誰かを手引きしただろうと散々にいたぶられるんだけど、彼女はどんな拷問を受けても知らないの一点張り。
彼女のイイ女っぷりに、いたぶっている中の男たちが一人、二人と陥落していく。
そのうちの一人、最初からアケミにメロメロだったちょっとバカっぽい男が、彼女の気を引こうと高い香水やらを用意する単純さがどうにも切ない。彼女の身体を洗ってやるだけで天にも昇る心地になる彼が、しかしかなり早い段階で始末されてしまう(彼女を自分の手で殺そうとして)のは、この後の複雑な展開を知らない段階では、妙に切ない味わいがあった。

冒頭、と言っちゃったけど、その前に真の冒頭があるんだよね。これが私の頭を最も混乱させるものだったんだけど……白いギターをかき鳴らしながら、何にもない野っ原で独白を続ける少女、マリ。この野っ原っていうのが、二つのギャングが取り引きしている場所のすぐそばだったのだ。
マリはここにお母さんが埋まっていると言う。「お空に目印を書いておけば良かったね」とつぶやきながらギターをつま弾く彼女は純真というよりは……私はちょっと白痴美のような感覚を受けてしまった。
それはあまりに穿ちすぎで、彼女はギター弾きとして生計を立てているんだし、別にちゃんとした女、なんだけど……なんていうかね、この場面から後、マリがしばらく出てこないこともあって、あのコはなんだったんだろう、現実だったんだろうか……みたいな浮き世離れした感じを受けたんだよね。
実は彼女は、クロの宿敵の情婦だったという過去が明らかにされるわけだからもの凄いキーマンなんだけど、まるで夢の中の女、みたいな感じだったのだ。

というかそもそも私、マリが“クロの宿敵の情婦”だったということを、観ている時にちゃんと理解してなかったかもしれない(爆)。
ただ彼女は冒頭、中盤、後半とピンポイントで、もの凄く印象的に登場しては、時に殺されそうになっても「なあぜ?」みたいにおっとりと構えてて……ああ、なんだか、オオカミに食われるのを判っていない赤ずきんちゃんみたいな、現実味のなさなのだ。
マリの同僚で、彼女のギター弾きの後にストリップダンサーとしてショーに登場する女が、いわゆるカラミ要員として出てくるんだけど、彼女が、マリを訪ねてきたクロを「オシと遊ぶのもいいかもね。余計なこと喋んないし」などといかにも玄人の女を押し出しているのもあって、余計にマリの現実味のなさが浮き彫りにされるんである。
ただ、この女は哀れ、冷酷なクロの手によってボコボコに殴られたうえに銃殺されてしまうのだが……(そこまでせんでも……これがR指定なら、エロの方じゃなくて、暴力の方って感じだよな……)。

むしろ、全編出ずっぱりなのは、第三の男、クロを手引きしたと疑われているアケミなんである。実際はクロ自身もトランクを持ち逃げされて、その犯人がマリだと思い込んでいたんだけど、マリの後ろにクロをオシにした宿敵の存在がいたわけで……まあ、それはまた別の話なんだけど。

アケミはクロにホレてるんだよね。だからどんなに拷問されても口を割らない。そんなアケミにウッカリほれてしまった、その拷問チーム側の男が、表向きは演技を装ってアケミの口を割らせるためにという目的で口説き落とそうとする。
そこは女だから、アケミも彼がホンキだってことも判って「ポリネシア女とはウワキしない。南の島へ行こう。俺は寒いところは苦手なんだ」なんていう、キザ極まりない台詞に、くらりときてしまうんだよね……。
でもそれは正直、意外だったんだけど。だってあんなに厳しく拷問に耐えてきたアケミだったのに、こんな甘っちょろい台詞に落ちてしまうなんて。

ただ、アケミは一度、彼の元を逃げ出して、クロの元へと向かうんである。そこにはクロはいなくて、自分はブツは持っていない、探すな、とだけ残されていた。その行動でアケミがクロとつながっていたことが判明する訳だけど……彼女がクロに惚れていたことも明らかになるんだけど……。

そこまで明らかに出来たのに、アケミを口説き落とした男が、ボスに命乞いのドジョウすくいやホンバンまでやらされてまで惨殺されたのは、うう、なんか、カワイソウ……でもそれこそがフィルムノワールの残酷な美しさなんだけどさ。
札束が舞う中、何発も撃ち込まれた銃弾にもんどりうって息絶えるふんどし姿の彼。

クロがオシになってしまった、舌を切られる描写が何度となく挿入される。これがキツい。もちろん直前でカットは変わるけど、思わず目を背けてしまう。
なんかこういうあたりも、ね。ノワール感がある。見せない美学と、見せない残酷さ、みたいな。もちろん、モノクロだっていうのもそうなんだけど。
モノクロと言いつつ、途中突然カラーになったりする場面もあるんだよね。何のキッカケも、動機もなく、ホント突然って感じなんだけど。ただそれが……妙に赤味がかった感じでハッとさせられる。夢から覚めても、まだ夢が続いているような、現実の中に、夢の続きがあるような。

クロは途中、同じオシの娼婦と関係を持つ。酒場で「同じオシなら判るだろ?彼女、気に入ったらしいよ」というマスターの言葉で振り向いたクロ、この女と彼女の部屋でまぐわう。
そこに、サルのように高みから見物している同居人の男がいて、クロはギョッとする。この男はそのしぐさから知的障害者のようにも思わせるあたり、かなりこの映画はキケンである。オシという描写を冷酷な殺人者のスパイスに使うだけでもキケンなのに(今はオシとも言えないし)。
この場面だけに気味悪く登場したかと思われたサルのような男は、後半、かなりせっぱつまった場面でも登場する。
この作品のタイトル、いくらなんでもムリヤリな、一場面だけ登場する、クロに引導を渡そうとする女極道の名前が牡丹であるってだけなのだ。
しかしその場面で、色っぽい彼女を差し置いてクロと対決するのがこのサルのような男であり、クロは瀕死の状態に陥るものの、しつこいと思うぐらい、彼は死なない。その後、追っ手から追撃されて、さらに何発も銃弾をくらっても、防弾チョッキでも着ていたのか、死なないんである。うーむ、ルパンみたいだなあ。

こうして見ると、人物も、その関係性も、もんのすごい、盛り沢山だよね。作品のカラー自体はとても禁欲的に思えるんだけど。
盛り沢山な故に、最も重要な女キャラのマリが、出ずっぱりのアケミに食われているような感も……などと思うのは、女としては天使のようで男好きのするマリよりも、意地っ張りでソンな役回りのアケミにシンクロしてしまうせいかもしれない。だって彼女、強気だけど、実はカワイイ女なんだもん。

カネと麻薬を持ち逃げしたと思い込んでマリを追い続けていたクロが、その気持ちが恋慕に変わり、彼女の驚くべき正体が明らかになり……っていうドラマチックな展開があれど、そう思っちゃうのは、やはり私が女だから、なのだろうか。
アケミに用意されていたキザ男との一瞬の恋まぼろしは、あまりに安っぽくて、彼女が彼の言葉を信じたこと自体にええっとは思うけど、確かに思うけど、純真な女として男に崇められるマリより、アケミの方がはるかに女としてリアルなんだもんなあ。

最後はクロが、ただただギターを爪弾く。マリはカネも麻薬も持ち去っていないし、彼にはもう何も残らない。
やっぱりこれって、男の美学だと思う。女は男の美学を彩る役回り。美しいけど、なんだか虚しい。ただ、その美学の美しさが完璧だと思えるのが、悔しい。★★★☆☆


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