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結び目
2010年 91分 日本 カラー
監督:小沼雄一 脚本:港岳彦
撮影:早坂伸 音楽:宇波拓
出演:赤澤ムック 川本淳一 広澤草 三浦誠己 上田耕一
でも主人公の二人だけじゃなくそれぞれの夫婦でもカラミはあるのに、そして服着てばかりじゃなくて(確かに服着てのシーンの方が多いのは、そういう逃げのような気もする……)ちゃんとした?ベッドでのシーンもあるのに、まるでトレンディドラマみたいに(古い)後ろ向いて背中だけ見せてシャツを着たりして、なあんかそれこそ古い表現だな……などと思ってしまった。
この映画のためにこだわってキャスティングしたんであろうと思われる、一般的にはあまり認知されていない(少なくとも私は知らない……)人を持って来るなら、そしてこういうテーマで、なんで脱ぎのひとつもしないんだろう……。
それともそれこそがネライなんだろうか?見せ場は確かにカラミではなく、長年のしこりが爆発した、男女の激しい感情のぶつかりあいである。確かにそれは、思わず観客席の上で身をすくませてしまうほどの迫力がある。
ヒロインの絢子は中学生の頃、教師と禁断の恋に落ちた。当然その時男女の関係になったであろうことは、彼女に執着するその元教師、啓介が「あいつは俺が作った」と言うことからも明らか。いや、その前に絢子自身が「私はあいつに作られた」と言っていた。
それでなくても女の子が女になる衝撃は大きいのに、それが中学生で、相手が教師なら尚更そんな、征服し、征服される気持ちを引きずるのは判りすぎるほどに判る。
小さな町で二人の仲はウワサになり、彼は教師を辞めた。彼女は後ろ指を指された心の傷を負い、町を離れ、結婚を機に戻ってきた。まさかその人と再会を果たすなんて思いもせずに。
観ている間、気になっていたんだけれど、なんか画面の輪郭が甘いなあと思っていたのは気のせいじゃなかったらしい。確かにね、森の中の木漏れ日とか、柔らかな光の感じは美しいのよ。でも“柔らかな光が美しい”っていうのは、シャープな画じゃないってことなんだよね……。
絢子と啓介が愛憎を衝突させる激しい場面では、その柔らかさに違和感を感じて仕方なかった。で、観終わった後、デジタル一眼レフカメラの動画機能を使って撮影されたと知り、なんか思いっきり納得してしまった。
確かにデジカメの動画としては、とても優れているのかもしれない。でもやっぱり……ことにこんな愛憎物語を撮るには、ピントが甘すぎる気がして仕方ない。
二人が生徒と教師という禁断の関係だった時に、制服のリボンを木の幹に結びつけて逢瀬の目印にするなんぞという、昔の少女マンガみたいな展開が、そっちの方に映像の甘やかな感じが引きずられてしまう気がする。
おっぱいを出さないのも大問題だが(しつこい上に、どーでもいいことだわね……)、私はいまだに、映画はフィルムの手触りがあるからこそ映画、という古くさい理想が頭のどっかにこびりついてて、もちろんデジタルでも作品力で圧倒してくれれば、あるいはデジタルの魅力を作品に反映させてくれれば全然問題ないんだけれど、なんかこうなると、うーん……と思ってしまうのだ。
実はね、根本的なところで、大人になって再会した二人に、かつては禁断の関係であったほどの年の差を感じないのもちょっとツラかった(爆)。
いや、確かにそれは当たり前なのだ。中学生と教師だからこそスキャンダルなんであって、実はその年の差なんて、夫婦と考えればなんてことないそれなんだもの。
実際、現在の啓介は絢子よりも年若いであろう、若くてカワイイ嫁さんをもらっているんだし……まあそれも、彼がかつて中学生と関係を持っていたことを思えば、彼の本質的な性癖であるなどという揶揄も浮かぶのだが、ただ、今現在の絢子との年の差を全然感じないからなあ……。
それは、彼が、意識的に枯れた感じを演出しているとはいえ、基本的に二枚目でさあ、二枚目っつーのは恋愛シーンにおいて年の差という壁を低くしてしまうものなのよ。
んでもって絢子を演じる赤澤ムック(面白い名前だ……)はもんの凄い目力が強いしさ、劇中の役柄も、一度ついた炎は全てを焼き尽くすがごとく熱いしさ、もう見た目は、禁断の年の差なんて全然感じないのよ。
むしろ、彼女の存在感の方が完全に彼を圧倒している。いや、それも確かにネライどおりだっていうのも判ってる。
二人とも、過去を捨てて、人生をある程度諦めて、ここにいる。客観的に見ればそれなりに幸せな結婚生活を送ってはいるけれども、基本的な諦めの上に成り立っているんだよね。
だけど、その諦めの本質を判っているのが絢子で、実は判ってなくて今だ夢見がちな少年のような心を持っているのが啓介、なのだ。実に典型的な、男と女の現実を見る目の差なのだ。
一見、全てに諦めきっているようにテンション低いのは啓介なんだけど、彼は自分をカワイソがっているから、そうなんだよね。
一方の絢子はトラウマを持ちながらも、諦めの本質を知りながらも、自分自身をカワイソがってはいないし、恋愛の甘さを楽しみながら、現実の生活を置く場所を知っている。
この時点で、二人にはもはや年の差はなく、むしろ絢子の方が啓介を追い越しているぐらいなのだ。
ていう、皮肉を感じさせるぐらいなら、おっぱいぐらい出してよと(しつこいっ)。確かに、二人の十数年の思いの重さを感じさせる、突然の着火、爆発、はほおんとに凄かったのだ。
今は腕のいいクリーニング職人として、遠方からも客が絶えない啓介。絢子のダンナの雁太郎もその評判を聞きつけて、わざわざ彼女に自分のスーツを持っていかせたのだ。
そこで運命の再会を果たしてしまった二人。かわいい幼な妻がいかにも幸せそうにしている差にもイラだった絢子は、それ以降、思わせぶりに彼の元に洗濯物を持って来る。
と、いうのも、絢子の義父、つまりダンナの父親はボケがひどく、世話をする彼女は日々戦いの連続だったのだ。ダンナはそんな絢子の苦労など全く判っておらず……かといって絢子もダンナに相談することもないんだけれどさ。
そもそも絢子がなんでこのダンナと結婚したのか、それまでの恋情があった感じすら正直毛筋ほどにも感じられず、いきなりこの冷め切った関係ってのは、ちょっとツライものがあったかなあ。
いやそりゃさ、結婚してそれなりに日がたって、ラブラブな時も過ぎてしまったのかもしれないけれど、ならばさ、子供がいないこととかの問題だって浮上してくるだろうし……正直、双方の夫婦に子供がいないことに大して言及していないことも、なんかご都合主義に感じた原因だったんだよね。
啓介の方は奥さんが若いし、彼女が夫の異変(絢子との再会からの確執に追いつめられて、奥さんをムリヤリ抱いたという、もうありがちな展開……)にショックを受けながらも冗談めかして「ケイちゃんおこちゃまがほしい」と中出しを恐る恐る要求する場面はあるものの、つまりそれは、今まで彼が子供を作ることを暗に拒否し続けてきたということなんだけどさ。
それが、啓介が絢子を忘れられないでここまで来たということにしても、どこかで区切りをつけてこの幼な妻と結婚をしているなら、その上でもまだグズグズそんな事態になっているってのは、うっとうしいと思う以上に、これもまたご都合主義に思えて仕方なかったんだよなあ……。
だって、子供がいたら、こんな単純な(と、言ってしまっていいと思う)展開に没頭できないじゃない?
勿論、絢子が理不尽に苦しむ認知症の義父との戦いは、まさに今の時代の苦悩に他ならない。そう、子供がいないからこそ、余計に彼女は負い目を感じているのだろうし……。
というのはちょっと好意的に推測しすぎかも。だって彼女も周囲も、子供がいるとか云々はまるで触れないから。ただ、「美人のお嫁さんでいいですね」と義父のかつての部下から言われたり、ダンナも「部下がお前を美人だ美人だってウルサイ。マジ惚れだよ、アイツ」と言ったりする。
……そんなに、美人だろうか(爆)。いや、役柄の気の強さがついつい際立ってしまうからだろうけれど……それに中学生の頃からそんなキレイな子だからこそ、教師だった啓介もクラッときたんだろうし。
もちろん再会した瞬間から、お互いを認識していた。でもしばらくは静観を決め込んでいた。だけど絢子が義父からの暴力で血がついたカーディガンを、殴られて腫れた顔を挑発的に見せてクリーニングに出したことで火がついた。
啓介は、かつて逢瀬の約束に使っていた彼女の制服の赤いリボンを、カーディガンに忍ばせて宅配した。絢子は逆上し、そのリボンで石を結んでクリーニング屋の窓ガラスに投げ入れた。
それ以降、絢子はまるで鬼神が取り付いたようになる。ヤクザのように啓介の妻に脅しの電話を入れた。お前のロリコンダンナが何をやったのか知っているんだろ……と。
もう、ホントに火がついたようとはこのことで、それまでの絢子はまるでワザとらしいぐらいに静謐な嫁で、義父に殴られようと、徘徊する義父が家に帰るのを強硬に拒否するのを腰に縄をつけて必死に連れ帰る時にも、彫像のような冷たい表情を必死に崩そうとしなかったのに。
むしろね、啓介との関係を、激しいぶつかりあいの末に取り戻す前までの方がスリリングだったかもしれない。
嫁と舅が、お互いの意思の疎通も出来ないまま、というかする気もないまま、舅がダラダラと食事をしているのを冷たくさえぎって寝かせたりする絢子にヒヤリとし、これが、これこそがリアルな現実なんだろうなと思ったりもした。
そう……絢子と啓介の、可哀想な幼な妻を巻き込んだののしりあい。それまではお互い判りきって背中あわせに座っていた喫茶店でつかみあいの取っ組み合いをしたり、もう散々言葉でも力でもぶつかり合った後……。
しかし二人の思い出の逢瀬の場所、森の中で、約束もしていなかったのに、まるで申し合わせたように居合わせ、渇きを急いで癒すように求めあうまでのシークエンスは、確かに二人はものすっごいキリキリに演じていて、先述したように劇場の椅子の上で身をすくませてしまう程だったけれど……。
でも、改めて、落ち着いて考えてみれば、やっぱりやっぱり、非現実的なほどに、甘美なロマンチックだったのだ。展開だけこうして引いてしまうと、非現実的なほどにロマンチックだと判ってしまうからこそ、そこまでしなくてもと思うほどにぶつかりあい、幼な妻を恐怖のあまり嘔吐させるほどに脅し、つまりそのロマンチックさを生々しい描写にしてリアルだと感じさせようとした……と、思ってしまうんだよなあ。
確かにね、観てる時には凄くスリリングだったし、モヤモヤした不満はおっぱいを見せなかったからだとホントに思ってたぐらい(爆)。
でもでも……正直、制服の赤いリボンを木の幹に結んで……て基本のエピソードでまず、なんか半世紀前って感じ……と若干引き気味になっちゃったのが事実で。山口百恵ぐらい溯りそうとか思って(爆)。
いやあそりゃあさ、現時点から14年前、確かにこんな、膝より下の紺サージのプリーツジャンスカが女子の制服の基本だった(男子も、こんなにブレザーが当たり前になると思わなかった……)当時は、アリかも……。
んん?ちょっと待って、私における当時じゃないよね?私における当時より10年ぐらいは若い世代じゃないの(あー、哀しい)。
そう思うとやっぱりやっぱり……リアルじゃない気がして仕方ないんだよなあ。だってさ、ずっと時代から遅れていた私の母校だって、今風の(と言うこと自体が古さ満点なのだが)男子も女子もブレザー型で、女子はチェックのミニスカになったのは、そのことに思わず嘆息したのは、もっとずっと前だったと思うけどなあ……。
うーん、うーん……考えすぎなのかなあ。若干時代から取り残された制服だって、ちょっと離れりゃ森が普通にあるのだって、日本の小さな田舎町ならそこここにあるのだろうとは思う。
それでも、ちょっと、なんか引っかかっちゃう。逆説的に、そんな小さな町だからウワサが広まっちゃう、ていう言い様が、つくろいに感じちゃう。
これは哀しいことかもしれないけれども、このヒロインが中学生時代だとしたって、女子中学生と教師がソウイウ関係に落ちるっていうのは、ここまでつきつめるほどにスキャンダルなことじゃないんだよね。小さな田舎町、と設定したって、そうなんだよね。
いや、そんなことを言うべきじゃないのかもしれない。ウチはそれが大問題になるような健全な土地だよと、反論されてしまうかもしれない。
でもね、本作の絢子と啓介は、そういうひっそりさを感じないんだよなあ……いや、啓介には感じたかもしれない。ただ絢子に関しては……彼女のキャラに関しては、現状への抑圧と過去のトラウマ、そしてそれを突き抜けて弾けてしまったギャップを強く印象づける感しかなかったから。
しかもそれが、そのキャラの強さが、目の強さがもう最初からありありと出ちゃってたからさ、飛び越えた時のオドロキを感じられなかったんだよね、正直……。
結構後半には、ハラハラする展開だって、あるのだ。啓介との逢瀬にかまけて義父をほったらかしにして行方不明になってしまった。
ダンナから叱責され、啓介との関係を吐露する。その、不倫と義父の失踪があいまったクライマックスは、ダンナと啓介がともに絢子を自らのものとすべく、お互いに凶器をその手にして一触即発の場面になり、あの啓介のカワイイ幼な妻が心配そうに送り出したりする。
その時にあの、啓介の「俺が絢子を作ったんだ」という台詞が出てきて、もうここに至るとその台詞は正直哀れにしか感じないんだけれど……でも絢子のダンナがそれをマジに受け取ってあわや殺してやろうかという緊張が高まるんだから、まだこの時点では有効なのかなあ。
でもそう考えると、やっぱり男子って可愛らしいよね、罪深いほどにさ……。
いや、その前に絢子が何を思ったか啓介達の家に乗り込んできて、もう全てを察してナキベソをかいている幼な妻の前で目線を交わしたりする場面こそ言及するべきか。
でね……こうして改めて書いてみるとやっぱり……言いたくないけど、陳腐なんだよなあ……。
この最後に書いた場面では、幼な妻(てほどじゃ、実際はないんだね。驚いた。とても若くて可愛く見える)を演じる広澤草がとても瑞々しい芝居をするので、とてもいい場面に見える……てか、いい場面なんだけど、でもやっぱり……なあ、と思ってしまう。
なんか私……自分が何を求めているのか、判んなくなっちゃったよ。おっぱいを出さないことが単に不満なのか(爆)、斬新を求めてるのか、不条理を求めているのか、それでいて基本ベタが好きなのに、生々しい感情こそが映画だと思っているのに、それを差し出されても用意されすぎた生々しさがベタすぎて、ヤだと感じちゃうなんて……。
もう、なんか自分の価値感が判んなくなっちゃったよ。この日同時に見た作品がすんごく好きだと思った反動かもしれないんだけれども……。★☆☆☆☆