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「に」


2010年鑑賞作品

苦い蜜 消えたレコード
2010年 103分 日本 カラー
監督:亀田幸則 脚本:亀田幸則
撮影:伊東伸久 音楽:
出演:金子昇 池上季実子 田中健 中西良太 高橋ひとみ 渋谷琴乃 原幹恵 鎌苅健太 森本タロー 葉月パル アーサー・ホーランド 住吉晃典 島田順司 犬塚弘


2010/4/23/金 劇場(ヒューマントラストシネマ有楽町)
この物語のキモとなっているビートルズの幻のアルバム、という存在を私は全く知らなかった。
作中のウンチクを引用すると、アメリカでは一枚のLPレコードに12曲しか入れてはいけないため、本国イギリスでのLP版には入っているのに漏れてしまう曲がいつも出てしまう。それを最後に一枚に集めてまとめたものだと。
そしてそのジャケットがひどく気味の悪いものだったため、悪趣味と批判されて即発禁、故に後に大変な高騰をもたらしたいうシロモノなのだという。

劇中でね、このジャケットをなんか遠ぉー目にしか映さないのよ。いやこのジャケットのみならずほかの13枚も遠ぉー目なの。他のアルバムジャケットに関しては、あの有名なアビーロードとか知っているのもあるし、別に遠ぉー目でも構わないんだけれど、なんたって物語のキモになっているこの幻のジャケット、通称ブッチャーカバーと呼ばれているものが「ホントだ。気持ち悪−い」と店の女の子が震え上がるほどの写真というから、どういうものなのか、もう気になって気になって仕方ない訳。
なんか赤ちゃんの人形がバラバラになって、ビートルズの面々がそれを持ってニッコリ、みたいな絵柄は見えるんだけど、なんか血みたいのも見えるし、とにかく遠すぎてよく判んない。もう気になるー!というのが劇中のずっとモヤモヤだった。

いや、今のネット社会ではさ、そりゃちょっと調べればこんな写真すぐ出てくるんだけど(実際帰ってからすぐ見た(笑))、なんでこんなアイマイ映しなのかなあ。
映画だと著作権の問題とかあるのかなあ。それともミステリ仕立てにするための一つの方法?
それでなくても物語の進行上、いくつものモヤモヤがずーっと引きずっていって、ちょっとずつ解き明かされたかと思ったらまた後戻りし、また解き明かされたかと思ったら後戻りし……みたいな感じなんで、もうそれらもあいまって、あーっ、早くこの全ての霧が晴れてくれよお!って感じだった。

そうね……だからミステリとしてはほおんとに、良く出来た話だと思う。後半は私もモヤモヤに引っ張られてかなり引き込まれた。
もしかしたらミステリ好きの人にとっては、オチは早い段階から判っていたかもと思うほどに、大きなヒントが前半で既に示されていたけれど、ミステリオンチの私は、最後の最後、直前で、それか!とギリギリ予測出来た(当たった!)に過ぎなかった。

だから、そう……面白い話だとは思うんだけど、いかんせん役者の芝居が(爆)。いや、結構なメンメンは参加しているのにさあ。
謎を暴く探偵は金子昇、なじみ客の一人に高橋ひとみ、大物プロデューサーに田中健、といった具合にさ。
でもそんなメンメンですら、この大仰な芝居に一役買っているのはどうしたことなの(爆爆)。構成上、舞台のお芝居チックになるのは否めないにしても、それにしても、恐るべき大味っぷりにはアゼン!

しかもその中に混じる若手の役者が、こっちはもう演技力からして壊滅的なので……特にいかにもカルそうなギャル男的ミュージシャンの男の子がイチイチ割って入るウザさには、心底ヘキエキして、ああもうマジ帰りたい……と思ってしまったぐらいなんである。
まあ彼がここまでワザとらしい程にウザかったのは、後半あまりにも単純に自分の意見を翻して、素直に反省しちゃうギャップがあるからだとは思うが、それならせめてこの役をやるコの芝居力がもうちょっとあったらなあ……。

てか、まあ、どんな話かというと、だよね(爆)。
メインの物語は「リボルバー」というビートルズバーの、一周年記念の日、でも皆が待っているのは、小説家デビューしたマスターの新人賞受賞の知らせ。
だけど冒頭示されるのは、そう、冒頭の冒頭……あの意味深な導入部が、頭の悪い私にはイマイチ判んなかったんだけどさ。
モノクロの映像、笑いさざめく女子高生たちが通り過ぎ、その中をすり抜けた青年が……ああそうか。疑われた柚木が飛び出したところ、なのかな?いやそれとも、彼が事故死する手前なのか……。
今思い返してみても、あそこまで意味深にした意味が良く判らない(爆)。それにこの導入部がなくても、別に物語に支障はないし(爆爆)。

そして、華やかな開店パーティーの席。熟年バンドのオジサマ方がお揃いの黄色いスーツに身を包み演奏している。パーティーの客たちは大盛り上がり。
そしてここでメインイベント、この店の名物、ビートルズのオリジナルアルバム14枚のお披露目である。ザッとカーテンが開けられると、最後の一枚のアルバムが忽然と姿を消していた。
ざわめく会場。そこに、ここに俺が持っている、と差し出した青年、柚木が、やっぱりお前が盗んだのか、と捕らえられる。
彼は必死に、違う、これは俺が持参したんだと言いつのるものの聞き入れられず、更にそこでこのバーを開店した社長が心臓発作で倒れてしまう。騒然とした雰囲気の中、柚木は、俺じゃない!と叫んで店を飛び出した……。

そして一年後、柚木の友人であるという探偵が現われて、柚木は犯人ではないと謎解きにかかるんだけれど、実際の謎解きは実にもうジリジリと進んでメンドクサイので、最初からネタ明かししちゃう(爆)。
まず、柚木は犯人ではない。ていうか、犯人などどこにもいない。ここでなぜこんなにも彼が、そう、ただレコードを差し出しただけの彼が“盗んだ”と疑われたかというと(冷静に考えると、盗んだ犯人がその現場でハイと差し出すこと自体、おかしいよね)その前にパーティーの準備金として用意されていた300万円が消えていたから。

このブッチャーカバーと呼ばれる幻のレコードはレアアイテムで、市場では何百万で取り引きされる。だからこそ、柚木が盗んでレコードを買うのに当てたんだという説も飛び出す。柚木は道端のジャンクショップで買ったんだと言っていたんだけれど、そんなのは非現実的だと。
確かにそうだけれど、でも100パーセントないとも言い切れない……というあたりから謎解きが絡まってゆくんだよね。

しかも、この300万円を盗んだ者はどこにもいない。なぜなら、最初から300万円など用意されていなかったから。
それもこれも、偶然や現場の人間のカン違いが重なって起きてしまったことなのだ。
そして、あえて“犯人”を定義するとすれば、300万円が消えた、と騒がれたことがカン違いだと知りながら、それを利用して柚木を犯人に仕立て上げ、警察には三千万と届け出て自らの横領金を隠し立てしてしまった、サッカコーポレーションの社長ということになる。
あ、この場合、これは新社長。あのパーティーで発作を起こした社長はそのまま亡くなってしまったのね。そして柚木も交通事故で死んでしまった。
その事実さえ誰もが、良心の呵責に耐えかねて柚木は自殺したんだと思い込んでいたぐらい。まさに、無実の罪をきせられていたんである。

実際、この社長さんは一人、わっかりやすい悪役なんだよね。このバーにはいわゆる「和田さん詣で」と囁かれる、元大物音楽プロデューサーだった和田さんに、何とかうだつの上がらない若手ミュージシャンを引き上げてもらえないかと訪れているんである。
で、この若手ミュージシャンってのが、さっきも言ったどーしよーもないチャラ男(爆)。彼はのちのち、単なる単純男で素直なキャラで名誉回復?するんだけれどね。

この社長はここにいる皆を、俺が一番嫌いな種類の人間たちだ、事なかれ主義で、何もせずに批判ばかりすると吠える。
そんなに言うなら社長が死んだ後、後を引き継ごうというヤツはいたのか?誰もいないから俺が手を挙げたんだ。それなのに、どさくさ紛れに社長になったなどと陰口を叩いて、それなら最初からそっちが社長を引き継げば良かったんだ。
社会は厳しいんだ。戦って勝たなくては生きていけない。皆がいい人だなんて、そんな奴らが俺は大嫌いだ!って言って……。

でもそんな彼も、最終的に頭を垂れるんだけれどね(爆)。でもそれでいいのかもしれない。それこそ彼の言うとおり、皆が皆いい人ばかりで過ぎていったら、あまりといえばあまりにリアルさに欠けるもんなあ。
でも彼の策略が柚木に濡れ衣を着せ、失意のまま不慮の事故で死んだことを考えると、いくら友人である探偵さんが、僕は犯人探しに来たんじゃなくて、彼の汚名が晴らせればそれでいいんだと言っても、やっぱりやっぱり、“事なかれ主義”と言いたくなるかもなあ……。

まあ、そんな具合に300万のことはカタがついたんだけど、レコードに関しては最後の最後の最後までモヤモヤする。
時間帯とかゴチャゴチャ提示して、だから犯人とか、だから犯人じゃないとか、もー、ゴチャゴチャでホント、意味判んなくなる!私、頭悪すぎ!
ていうかさ、観客たちは最初から最後まで、盗まれたとされるレコードが、じゃあ今は一体どこにあるのか、誰かの手元にあるのか?ということでモヤモヤしているのに、いつのまにやら柚木の無実を立証することに居合わせた人々は熱中して、ならば今ここにあるレコードが柚木のものだという証拠があればいいのね!ということになるんだよね。

で、先代社長がこのブッチャーズ版を手に入れた際に仲介した、マスターの友人でニューヨーク帰りのミッキー・カーチスばりのオジサンが、出来るよ!と叫ぶ。
先代社長に頼まれてこのLPをゲットした時、そのジャケットに郵便のスタンプが押されていたと。アメリカではレコードをそのまま郵送したりするからそういうことがあるんだけれど、このスタンプがあるってことで、値段が安くならないのかと交渉したんだと言うのだ。

そして、ここにあるレコードにはそんなスタンプの跡などどこにもない!コレで柚木の無実が証明された!と皆いっせいに晴れやかになり、まるで全ての問題が解決されたかのような雰囲気になってしまうのだが、いやいやいや、違うだろ!ずっと追い続けていたのは、オリジナルのレコードがどこに行ってしまったか、じゃないのお!
途中までは確かにその行方を追うことに腐心していたのに、レコードを盗んだ犯人はマスターかもしれない!という衝撃のエピソードを挟んでからは、ワザとらしいまでに方向転換してしまった……まあ、あのラストを迎えるためにはムリもないんだけどさあ。

そう、“マスターが犯人”説。これには、彼がやけに「僕はかまわないんだけど」と言い、あまり発言しないことが気になっていたんだよね。
あ、ちなみにこの“かまわない”てーのは、今日はマスターが文学新人賞をとるか否か!ていう晩だったから、そんな無粋な話を持ち込むな、っていう流れでね。
でも明らかに黙りこくっているマスターに、それを暴く現サッカコーポレーションの社長の追及を待たずとも、観客だってひょっとしたら……とは思ってたよ。

でも勿論、“犯人”なんて大げさなシロモノじゃなかったのよ。あえて“盗んだ”と言うのならば、レコード一枚一枚に添えられてあった手紙、である。
そのオリジナルレコード14枚は、そもそも、先代社長にゆかりのある人々にプレゼントされる予定だったらしく、それぞれのレコードに一人一人に当てた手紙が添えられていた。
でもこんな予想外の事態になって、社長の意図は予測されるものの、それを確かめるすべもなく、レコードはそのまま店に置かれ、手紙だけが各人に渡された。
でも、一枚のレコードと、一通の手紙がなくなっていた。だから最初は、このレコードと手紙は一対のものだと皆が思い込み、そのことがマスター犯人説に結びついてしまったんだけれど、実際は、レコードと手紙は別々にあったもの。対にはなっていなかった、んだよね。

レコードの紛失が判った時、カーテンを開けてポトリと落ちた手紙を、おっと、という感じでマスターが拾った。それには和田と書かれていた。それは覚えてたのに、ミステリオンチの私はその後の展開にこのことをどう結びつけて謎解きしたらいいのか、ちっとも判らなかった(爆)。
マスターが“盗んだ”のがレコードではなく、それに添えられた彼当ての手紙、つまり、盗んだのではなく、一刻も早く読みたくて、先にとってしまった、ということが判明したのは、彼の処女小説の冒頭のエピソードがその手紙とソックリだったことで明らかになる。
一時は、すわ盗作か、と騒然とするものの、先代社長の子供時代のそのエピソードはもともとマスターは聞いていて、小説の題材にするために詳しい話を聞きたいと思っていた。
それが手紙にしたためられていると聞いて、矢も盾もたまらず手紙の封を開けてしまった、という訳なのだ。

マスターはその手紙と一緒にあったレコードは、少なくとも開店の6時より前の、5時半には元に戻したと言う。そりゃそうだ、マスターにとってレコードなど重要ではなかったんだから。
そして、“一通の手紙と一通のレコード”が紛失していたために、なくなっていたレコードに手紙とが対であるとカン違いされていたんだけれど、そう、カーテンを開けて、ポトリと手紙だけ落ちたのは、あのプロデューサーの和田さん当てだった。
つまり、最後の14枚目のレコードに添えられていたのはマスターの手紙ではなかったのだよね。この現場の人たちは“ポトリと落ちた”現場など見ていないから、一人のミステリファンの推測でそこまで辿り着くんだけれど、そこからは、今あるレコードが柚木のものだという確証が得られれば……という話になっていってしまう。

そしてこのマスター当ての手紙、あるいはマスターがそれを下敷きにして書いた小説のプロローグである。
そのヒントをもたらしたのは探偵さんだった。先代社長が亡くなる直前、パラソルチョコレート、とつぶやいていたこと。そのことについて皆さん、知っていますかと。
そしてこの小説のプロローグが朗読される。ご丁寧にも当時を再現したレトロなセピア色の映像つきである。

パラソルチョコレート、私もうっすらと覚えてる。駄菓子屋に売っていた、閉じた傘の形のチョコレート、カラフルなプラスチックの柄は、確かに子供にとってはたまらないコレクターズアイテムかもしれない。
友達が黄色の柄だけを持っていないことを知っていたプロローグの主人公の少年は、たまたま手に入れたその黄色の柄を持って、ほかの友達も連れ立ってその子の家に遊びに行った。
しかしその子は偶然にも、その最後の黄色をゲットしたばかりで、得意そうに友達たちに見せた。
主人公の彼が言葉を飲み込んで、友達たちとひとしきり遊んだ後、その最後の黄色がなくなっていた。
誰かが盗ったんだ、その子は泣き出した。彼は思わず、ポケットの中の黄色い柄を取り出した。なくなったのならこれを、という思いだったのか、あるいはいたたまれず出してしまったのか。

……この時の心境は、まさにこの物語の本筋、柚木に通じるのだけれど、あの時彼はどういう心境だったのか……。
この子供たちの騒動はその場にいたその子の母親がなだめ、落着したけれど、彼女は帰り際の主人公の男の子に「もうしないでね」と耳元で囁いたのだ。
ひどく傷ついた彼は、帰り道を涙をこらえて走りぬけ、そして家のご不浄でひとしきり涙を流した……。

ほおんとにね、この話は切なく哀しくて、そしてそれを聞いたその場にいた客たちは、そうか、つまりこの主人公が柚木なのだと即座に思うんだけど、確かにそれは当たっていたんだけれど、このことで探偵さん、そして現社長が、手紙を盗んだ(というか、事前にとっちゃった)のはマスターだと判ってしまう。
ただ現社長は、それがレコードと共に盗まれたのだとするんだけれど、先述のとおりそれは覆される。でもならば、オリジナルレコードはどこに行ったのか??

もうね、元々あったレコードと、柚木が持っていたレコードと、一緒になっていた手紙と、ゴチャゴチャになって、店の従業員の女の子が「よく判んなーい」とアホ丸出しのコメントを挟むんだけど、まあ確かに、“よく判んない”(爆)。
でもね、まあなんとか最終的には、オリジナルレコードの行方の謎だけが残されて、他は全部解決するのよ。
探偵さんはしきりに「この件には犯罪の匂いがしない」と口にしていた。いかにも悪徳そうな社長も、300万円が盗まれたとカン違いしてしまったクールな秘書も、カルそうな若手ミュージシャンのギャル男も、「批判するだけなら誰でも出来る」と反省する大物プロデューサーや元従業員の女性たちと共に、皆一様に反省してミョーに気持ちよく終わるもんだから。

そう、だから……最後の謎だけが気になっていたのだ。探偵さんは「社長を驚かすために、ちょっと隠した、悪気のないイタズラだったんだろう」と推測し、他の皆もそれに賛成する。その証拠もあるわけじゃないのに。
でも、本当に、結局は、そうだったんだよね。今から思えば思わせぶり過ぎるほどに提示された、「開店パーティーの時に使えなかった」大きなくす玉。
それがラスト、じゃあ行きますか!と再登場した段になってようやく、あ、そうか!と思い当たった。スタンプが押されたアルバムがくす玉の中からジャン!とぶら下がる!

その直前、スッと姿を消した探偵さんが、商店街の、地元の学校の栄誉を宿したような小さなくす玉を見上げて笑みをもらしたのは、つまり彼は最初から最後まで知っていたということ……は、当然か。最初から最後まで知ってて、だからこそここに乗り込んだのだ。
でも、ならば、くす玉の中にオリジナルアルバムを仕込んだイタズラを仕掛けた人物も知っていたということ?それはひょっとして……柚木自身だったのだろうか?
いやそれは、その後の展開を考えるとムリがあるだろうか……この中の人物ではないのか?この場に部外者のような顔をして思わせぶりにい続け、実はサッカコーポレションの大株主であったおじいちゃんだったりして?

……んな具合で、展開には大いに引き込まれたんだけれど、やたらテンション高くどつき合う登場人物たちと、台詞を言う人たちに振り分けるカッティングもなんというか……ヤボに思えて。
なんか、まんまって感じでさ、映画なんだからもっとなんか、やりようがなかったのかしらんと思っちゃう。だってさ、この役者たちは決してこんな、ドンくさい芝居をする人たちじゃないのに、そう見えちゃうんだもん!監督さんは劇団の演出家……やっぱ、そうかあ。

ところでその、幻のアルバム、ブッチャーカバー、……メッチャ気持ち悪いジャケットだった!! ★★★☆☆


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