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「ら」


2012年鑑賞作品

ライク・サムワン・イン・ラブ/Like Someone in Love
2012年 109分 日本=フランス カラー
監督:アッバス・キアロスタミ 脚本:アッバス・キアロスタミ
撮影:柳島克己 音楽:
出演:奥野匡 高梨臨 加瀬亮 でんでん 森レイ子 大堀こういち 辰巳智秋 岸博之 春日井静奈 鈴木美保子 窪田かね子


2012/10/8/月・祝 劇場(新宿武蔵野館)
何か深い意味があるのかしらなんて、そんなに考えなくても良かったのかもしれない。キアロスタミ作品に対峙するのが久しぶりだったせいか、あるいは日本を舞台に全篇日本人キャストでという、一見して日本映画(まあ、確かに日本映画だけど)だから、殊更にそこに意味を求めようとしすぎたのかもしれない。

初めてキアロスタミ作品に出会った時の、言ってしまえば何も起こらない瑞々しさに新鮮な驚きを感じたあの感覚は、やっぱり観る私も若くて柔らかく素直に受け止める感覚があったのかなあ、などとちょっと落ち込んだりもする。
いや、でもやっぱり、あのイランの無垢な子供たちがオリーブの林を駆け抜けるだけで、もうそこには映画があったのだもの。ごちゃごちゃとした見慣れた日本の都会で、見慣れた造形の日本人がそこにいると、ついつい判りやすい意味とやらを求めてしまいそうになる。

いや、見慣れた、と思い込んでいるだけで、やっぱりキアロスタミ監督の魔法にかかっているのだから、それは錯覚なのだろうか。
私ね、このヒロインのアキコがどうしてこの仕事を断れないのか、なぜそれほどまでに彼女に自由がないのか、そこには裏世界のしがらみとか、彼女に事情があってとんでもない借金があるとか、男に貢いでいるからとか、あるいはこのデリヘルの元締めの愛人なのかとか、もうVシネあたりにありがちなことをいっぱい想像しちゃったのよね。
キアロスタミ作品と思えば、そんなヤボ極まりないことないだろうと思うのに。うーむでも、ホントにキアロスタミ作品から離れていたからさ、彼が自国ではなく撮った「トスカーナの贋作」とかはどうだったんだろうと思ったり……気になってはいたけど、未見のままだったのが今更ながら悔やまれる。

そう、それこそ日本映画ならさ、でんでんさん扮する元締め(ってほど重要なポストじゃないのかもしれんが)が、アキコがどうしても今日はムリだとあんなに言ってるのに、なかば脅迫めいた押しの強さで仕事に行かせる“意味”があるだろうと、当然考えちゃうと思うんだよなあ。
この冒頭のシークエンス、かなりの尺があったから、重要なんだと思い込んで、元締めが、万難を排しても、わざわざ上京してきたおばあちゃんをソデにしてでも、どうしても会った方がいい、会えばそれほどの人物だというのが判る、とまでいう人物であるタカシ(どうも、初老の男性をファーストネームで呼ぶのは違和感あるなあ……)が、しかしいざ会って、アキコにとってそんな重要な意味をもたらしたかというと、お互いのことだって大して話してないし、あんなに思わせぶりに言っていたのにさあ、などと、“日本映画”を見慣れているもんだからついつい消化不良に陥ってしまう訳。

解説ではデートクラブ、となっていたけど、日本人的感覚ではこりゃデリヘルだろ、と思う。アキコだってタカシの部屋につくと彼が用意した心尽くしの食事などどーでもよく、さっさと脱いでベッドに潜り込んじゃうし。アキコの“恋人”のノリアキだって、彼女がどうやら“フーゾク”で働いているらしいことを凄く気にしてるしさ……。
正直アキコがなぜこんなにも、ノリアキに対して拒否反応を示しているのかあまり判らない。いやまあ、束縛男なのだろう、彼女が今どこにいるか説明して、誰と一緒にいるかも説明して、その女友達に電話に出てもらっても信じないぐらいなのだから。
そしてアキコがテストを受けに登校した大学に押しかけて、痴話げんかを繰り広げて耳目を集めるんだからそりゃー、そりゃー、うっとうしいストーカー男なんだろう。

でも、アキコは実際、彼に“どこにいるか”の場所、ウソついているし、当然フーゾクやってることも、彼が気づいているの、感づいているのにのらりくらりとかわすし。
別れたいなら別れりゃいいじゃん、というほど恋愛がカンタンじゃないことぐらいは判るけど、そもそもアキコがなぜそこまでしてフーゾクやってるのかとか、それを責めたてる彼氏の方がよっぽど健全なのになあとか、それでも彼氏がイヤならそれこそあの元締めが、別れた方がいいと言ってるんだから、協力してもらって別れさせてもらうことだって出来そうなのに……。
まあそのあたりが人間の、男女の、不可思議さということなんだろうけれど、ただ本作の雰囲気では、というか、彼女の雰囲気ではそこを納得させてもらうのはナカナカ難しいの(爆)。

ノリアキを演じる加瀬君はね、やはりそのあたり絶妙なのよ。ちょっと見た目コワモテで、実際ストーカーと言えるぐらい彼女にベタ惚れで心配しててさ、ふたこと目には、結婚すれば大丈夫、コワッ、とは思うさ。
でも彼のこの究極的な論理にも、ちょっと一理あると思っちゃう、思わせちゃう上手さ。だってアキコはホントの事情、誰にも話さないんだもん。観客に対してすら明かさないのが一番キツい(爆)。うう、だから、そんな判りやすさを求めちゃダメだってことでしょ!

ノリアキは中卒で自動車工場を立ち上げた苦労人。本に囲まれてアカデミックな成功を収めたタカシや、事情は判らんながらもフーゾクであぶく銭を手にしているアキコと違って、正直、私的にはノリアキに一番シンクロしてしまうんである。
まあ加瀬亮だからかもしれんが……確かにちょっと思いが強すぎてコワい感じがあるけれど、タカシの車のベルトを好意で交換してくれたり、客相手の感じも好感が持てるあたり、描写が、上手いんだよなあ。彼を憎みきれなくする上手さ。
ていうか、アキコを演じる高梨臨嬢の、フーゾク嬢にイマイチ徹しきれない雰囲気と、タカシなんてそもそも、アキコを呼んだ経緯とか気持ちの強さがなんかイマイチ感じ取れなかった分、加瀬亮のインパクトがどうしても勝っちゃうんだよなあ……。

タカシが、アキコを、亡き妻に面影が似ているという理由で、つまりは淡い老いらくの恋にて、ってあたりが、何となくは示されるけど、正直あんまりピンとこなかった。アキコが、タカシの部屋に置かれている奥さんの写真を手にとって「(私に)似てますよね」と言うだけだったんだもの。
それってさ、フツーに考えれば単なるセールストークととった方が常識的やんか。だってデリヘル嬢だもん。飾られている絵画に似ている、という会話の方が印象的で、アキコがそれを、おじいちゃんが私のために描いたとかいう、まあそれはつまりおじいちゃんのウソだったというオチのエピソードが出来すぎているから。

だっていくら有名な絵画ったって、少なくとも私この絵知らんかったし(爆)、こんな偶然、作劇上の必然だと思うやんか。それが全くの偶然って(爆爆)。
いやそれとも、アキコがデリヘル嬢としてのセールストークでそんな物語をでっちあげたのかなあ、そう考えた方が自然かなあ。いや、そんな雰囲気でもなかったけど、でもそれは役者の芝居力の問題かなあ(爆)。

まあつまり、まあつまり、さ。ああ、私はいろんな瑣末なことに勝手な妄想をつけてしまって、タカシのアキコに対する、いやつまり亡くなった妻に対する純愛を、素直に信じられなかったのよ。それが一番、大きな大きな問題だったのだと思う。
再三デリヘルデリヘルと言ってしまっているが、デートクラブなんて控えめな表現じゃないでしょと思ってしまうが、つまりそこに、タカシの真意の落ちどころをね、監督の意図するところとはちがうところに、俗100パーセントで思ってしまっている、ということなのかもしれない。

困ったことにね、ほぼ三人こっきりで展開する、息詰まるような展開なのに、後半にぽこっと登場する、しかも窓から顔だけ出しているという、タカシの住んでいる小さなアパートに隣接した古ぼけた家に住む奥さんが、少なくとも私にとってはひどくキョーレツで、彼らすべてを打ち消してしまうぐらい、なのね。

アキコのおばあちゃんもそういう意味ではかなり印象度が高かったんだけど……アキコのおばあちゃん、孫娘に会いたくて上京してきて、その日のうちに帰らなくてはいけないおばあちゃん、アキコの留守電に再三メッセージを残して、駅でずっとずっと待ち続けているおばあちゃん。
アキコはタカシの元に“強制送還”される途中、タクシーの運転手さんに頼んでロータリーをぐるぐる回り、待ち続けるおばあちゃんを涙ながらに見守る。
その声だけで、姿はぐるぐる回る一瞬、顔なんて全然見えないおばあちゃんも強烈な印象だったんだけど、この隣の奥さんときたらさ!

最初はね、それこそ声だけなの。タカシの駐車位置を、もうちょっと後ろにしてくれないかと声をかける。常識的に聞こえる。
事態が切迫しているタカシが、あなたがこの位置に駐車してほしいと言ったんじゃないですかとイラつくと、だって、洗車してあげたかったから、と。
う、ウワー、出た、ストーカーがここにいた!お互いの年齢を考えても、相当長い付き合いだぞと思ったらヤハリで、ノリアキとケンカして殴られたアキコがタカシに助けを求め、血の出た口元を押さえながら、薬屋に行ったタカシを待って玄関に座り込んでる。
そこにその隣の奥さんが声をかけ、一方的に喋り倒すんである。あなたのおじいさんと結婚したかったんだけど、あなたのおばあさんが現われちゃったから……と始まり、アキコのことを孫娘だと思い込んでいるから、なんか事情があるらしい親子関係のこともほのめかしちゃうんである。

まあそれは世間によくある話だからナと思うが、ただそれを切れ目なく喋り続ける、木枠の窓から顔だけ出してる奥さんの顔が、……すいません、私この方、存じ上げないんだけど、なんか骨ばったアクマ的な顔つきで(ホントゴメン!)、木枠の中だけで笑顔で喋り続けるのが、ホント、コワいんだよー!!
しかもね、彼女が結婚したかった一番の理由は、……そこまでハッキリとは言わなかったけど、知的障害の弟を抱えていること、だというのが……。アワアワとした発声の声だけが聞こえてるこの弟、うー、いいのかなあ、こういうの、いいのかなあ。
そりゃ、意味なくタブー扱いするのは嫌いだし、良くないと思うけど、これはかなり差別的描写のような(汗)。でも確かに、日本はまだまだその程度の認識ではあるけどさあ……。

なんたってエーゴが判らんヤツなもんで(汗)、このタイトル、恋に落ちた誰かのように、てな感じで、いいの?それとも、誰かに恋に落ちるように、かなあ?どっちにしてもよく判らんけど(爆)。
in loveだと、愛というより恋だよね、きっと。恋かあ、恋、恋恋恋……タカシはアキコに恋していたの?あの切りそろえられた白い口ひげはどうも御伽噺チックでね、アレなんだけどね(微笑)。★★★☆☆


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