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「す」


2012年鑑賞作品

スープ 生まれ変わりの物語
2012年 117分 日本 カラー
監督:大塚祐吉 脚本:大塚祐吉
撮影:豊田実 音楽:安部潤
出演:生瀬勝久 小西真奈美 刈谷友衣子 野村周平 広瀬アリス 橋本愛 大後寿々花 入江雅人 堀内敬子 凜華せら 堀部圭亮 池田鉄洋 谷村美月 山口紗弥加 伊藤歩 羽野晶紀 古田新太 松方弘樹


2012/7/19/劇場(有楽町スバル座)
この監督さんの名前初めて見るし、プロフィールを見てもどうもピンとこない。などとまず書き出したのは、結構な規模の劇場と公開形態なのが、そういう側面からなんだか不思議な気がしたから。
なんか色々キャリアのある人みたいなんだけど、段階を踏んでいる感じがしないというか……その割に新鮮味も感じないというか(爆)。

新鮮味、そう新鮮味!なんか本作見てて、もぞもぞと居心地が悪い感じがしたのは、その一点が大きかったかもしれない。アイディアとなった書物はあれど、オリジナル脚本というのは昨今の商業日本映画においては実に頼もしいことなのに、その新鮮味が今ひとつ感じられない。
一番判りやすくそれを感じたのが、全篇に渡って切れ目なく流れ続ける甘美な音楽。私がこういうの苦手なだけということなのかもしれんが、うっとうしくてしょうがない。
なんていうか……こういう音楽のタイプ、そして使い方、古臭い気がする。今時こんな、盛り上げて盛り上げてカンドーッ!みたいな使い方しないような気がする。

そしてまあ、そう。これはなんたってノンフィクション小説が元になっているというぐらいだから、作り手自身はそれなりにリアリティなるものを追求しているんだと思うんだけど……キビしいよね。
というか、ノンフィクション書籍がアイディアの元になっているということ自体、ビックリした。何でも中国の奥地に前世の記憶を持った人たちが多数生息(生息という言い方自体おかしいよな……)していて、そこを徹底取材したという書籍らしいんである。
そう聞くとまあ、ちょいとマユツバっぽい気もしないでもないがそれなりにリアリティの魅力があるんだけど、本作は思いっきりファンタジー、だよね。

それはそれでもいいとは思うのさ。それを目指しているのなら。本作の一番のモティーフとなったスープの伝説も、実際にその書籍の中で語られていることらしいけど、それってなんかグリム童話あたりにありそうなファンタジックな魅力があるしさ。
でも、でも、でもでもでも……。うーん、なんだろ、なんで私こんなにイラッとしてるんだろ。
ファンタジーは結構好きさ、いや、大分好きさ。本作は、死後の世界、というか、生まれ変わるまでの途中経過の世界というべきか、を結構楽しげに描いているとは思うし、ファンタジーとして見れば、死んでも楽しそうじゃん、などと思うかもしれない。
生きている間の後悔や、来世への希望や、そう思えば、これは人生讃歌と思えなくもない。でも、なんだろ、なんだろ、なんだろう……。

なんかモヤモヤしているので、とりあえず仕切り直して最初からいこう。
主人公は生瀬さん演じる渋谷健一。彼が映画単独主演は初めてというのは確かに意外かもしれない。コミカルな役を見慣れているので、最終的に、こにたんとシリアスにラブラブ抱きあうのには結構腰が引ける。
まあ腰が引けるのは、それがいきなり、唐突感があったからだけどさ。じわじわ気持ちが高まった感じがしないもんなー。……仕切り直して最初からのつもりが……。

気を取り直して。渋谷は離婚して娘と二人暮しなんだけど、お年頃の娘はわっかりやすく父親に冷淡。彼は仕事にも身が入らず、一件も契約のとれない腑抜けな状態が続いている。
娘が友達と万引騒ぎを起こして、ふてくされた娘から「お母さんに逃げられたくせに」なんて台詞を投げつけられたもんだから、思わず殴ってしまう。
その気まずいまま、出張先で落雷事故に遭ってしまい、昇天。娘を殴ってしまったことをじくじくと思い悩み、何とかして記憶をとどめたまま生まれ変わり、娘にもう一度会いたいと願うんである。

こにたんが演じるのは、この腑抜け男の若き上司、綾瀬由美。“あの世”に行ってから気安くなった渋谷から、由美ちゃんと呼ばれるのをひどく嫌がる気持ちがなんか判る気がする(爆)。
最終的に、それも彼への思いの変化によって受け入れることになるんだけど、先述したとおり、その変化はどーにも感じ取れなくて……ムニャムニャ。

後に語られることなんだけど、綾瀬は子供の頃、粗暴な父親に母共々苦しめられ、大人になってから結婚した相手とは冷ややかな関係しか築けずに別れ、今に至る、なんである。
だからという訳でもないんだろうが、彼女のモットーは、とにかく前を向いて生きる、前に進む、である。渋谷に惹かれても、その記憶を捨てた方が幸せになれると思う、という決断を下す彼女はオトコマエで素敵だが、子供の頃のトラウマ的記憶、大人になってからの失敗の経験は口先でさらりと語られるだけで、彼女がそんなにも前向きになれる理由にはなっていないような気がする。
こにたんは素敵だけど、それはうじうじする年上男をかっとばす、形の上でのカッコ良さであって、それを乗り越えた彼女の根っこの苦悩が、台詞上でさらりと語られるだけだから、ピンとこないんだよね。

まあでもそんなことは、瑣末なことかもしれない。何より重大なのは、本作における一番のキーマンである渋谷の娘、美加を演じる刈谷友衣子嬢の終始一貫のボンヤリぶりなんである。
これは彼女の演技力の問題とかではなくて、やっぱりやっぱり、演出の問題だと思うなあ……。なんか眠たそうにぼーっとしてるようにしか見えない(爆)。

いや、ね。最初、“お母さんに逃げられたお父さん”に冷淡に接している時点では、まあこんなもんかなと思ったんだよ。でもそのお父さんが不慮の事故で死に、その逃げたお母さんに引き取られるにあたっても、同じようにぼんやり顔で、どうやらお母さんこそが、不倫を長く続けて家を出て行ったということを知るや、またそのぼーっと顔でお母さんに冷淡に当たる。
いや……冷淡に見えるならいいんだけど、やっぱりぼーっとしてるように見えちゃう(爆)。潔癖な年頃の、反抗期の、ナマイキなエネルギーが感じられないんだよね。

それにさ、お父さんが腰抜けだからお母さんに逃げられたと思って冷淡に接してて、そのお父さんが死んでしまって、自責の念を感じている……というのを一応、墓に真紅のバラの花束を供える描写を何度も繰り返すことによって示しているんだろうけど、それもまたぼーっとしてるし(爆)。
お父さんが、死んでなおあんなにも苦悩してるのに、娘は常に現在の状況に不満げにしか見えないこのキビしさ。お父さん、判ってあげられなくてゴメンね、みたいな雰囲気がちっとも感じられない。

なんてことを期待すること自体が、年寄りくさいのかもしれないけど(爆)。でもね、これはヤハリ、彼女の芝居の問題だと思うなあ……。
渋谷が生まれ変わって、男子高校生となった時に、その娘がヨメに行くのだが、その成長した娘を演じているのが伊藤歩でね、その不満や物足りなさを、さっすが伊藤歩、彼女の存在感一発で帳消しにしてくれるのが素晴らしいんだけどさ!
今まさに結婚式直前、チャペルで下見をしていた彼女に、生まれ変わった渋谷が花を届けるこの場面、お父さんしか知る由もない事実を突きつけられて一瞬にして、その非現実的な事実を察する伊藤歩はもう、さすがのひとことでね!!

……おっと、おっとおっと。またしても先走りしてしまったぜ。えーと、修正。まあでもついでだから(爆)言っとくけど、渋谷に生まれ変わった男子高校生を演じる野村君も、刈谷嬢と似たり寄ったりのボンヤリぶりで(爆)。
おーい、せめてもちょっと声張ってくれないと、台詞自体が聞き取れないよ!とどつきたくなるぐらいなんである。

まあそれは、同僚からゾンビと言われていたぐらい、生きながらにして死んでいた渋谷を体現しているのかもしれないが、渋谷は生きる希望を持って、前世を捨てることを捨て(ややこしいな)、川に飛び込んだ訳だからさあ。
前世の記憶を取り戻したばかりで戸惑っている感じを出しているのかもとも思うし、綾瀬の生まれ変わりの女子に遭遇したテンションと対照にさせるつもりがあるのかもしれないけど、基本暗めのコだから(爆)、対照的になってるとは言い難いし。
そうなんだよなー、このキーマンとなる、ほんっと、メイン、大メインのキーマンとなる若手二人がどうにもぼんやり演技を繰り広げるもんだから、締まらないのよ、正直。

そう、ワキは、多少ウザいぐらいな人もいるぐらい、やりきってる。ウザいぐらいの人は、まあ松方弘樹と古田新太かな(爆)。
松方弘樹は渋谷たちが死後の世界で出会う、母親を探すまでは生まれ変わりのスープを飲まないでいるオッサンで、渋谷の取引先相手。いつも安っぽいパジャマみたいなカッコして、バーだのクラブだの、ハデに遊ぶ場所を良く知っている。
古田新太は、記憶を保ったまま生まれ変わる方法を知っている、まさにキーマン中のキーマン。その方法でもって前世の記憶を持ったまま三度も生まれ変わっているのに、まあソレゆえではあるけど、その方法を教えてほしいとしつこく食い下がる渋谷を、ロクな結果にはならんとけんもほろろに追い返す。
……かと思いきや、渋谷を追い出した直後、憤然と追いかけてきてその方法を教えるのが、まるで根負けしたように見せてるけど、違うだろー。

この場面、同行した綾瀬がさ、ここまで相当苦労して行き着いたのに、オッサンの頑なな態度一発で、まさに瞬間で、話にならないわ、他を当たろ、行こ行こ、とあっさり諦めるのも、はぁー??って感じで……。それこそ綾瀬は、腑抜けの渋谷をサポートすることを任されたぐらいの敏腕ウーマンなのにさあ。
あ、そういや、綾瀬が彼らの勤める会社の社長と不倫していた、とあっさり告白する場面があって、渋谷が、ありえないだろ、と驚くんだけど、そのエピソードは一体どう生かされたのだろう……。なんか全く意味がなかったような……。
奥さんに浮気された渋谷を、そんなことは良くあることと慰めるつもりだったとか?てゆーかそもそも、渋谷の告白と綾瀬の告白のどっちが先だったかすら、忘れたしな(爆)。

古田新太オッサンの元に案内してくれるのが、ここに来たのは自殺したからだという、アウトローな雰囲気万点の大後寿々花嬢。
絶対見たことあるコ、しかも達者なコだ!などと思い出せない私は相当バカ(爆爆)。いやあ……ちょいと見ない間にすっかり大人になっちゃってたから(言い訳)。
「色々嫌なことはあったけど、やっぱり女に生まれ変わりたい」と笑った寿々花嬢、私も、と返すこにたん、このシーンだけは、良き見ごたえがあったな。
寿々花嬢が、古田新太オッサンの居所を「グーグルで検索すれば出てくるよ」とさらりと言う雰囲気とか、やっぱり上手いよなーっ、て思う。彼女に渋谷の娘役やらせれば良かったのに(爆)。

でも、そうか渋谷の娘は中学生役だもんな……でもやれそうな気がするけどな。まあそれはおいといて。
松方弘樹はねー。彼はちょっと、生理的にあまり好きじゃないので(爆)。そういうこと言うと、ホントダメだとは思うんだけどさ。
彼は幼い頃死に別れたお母ちゃんと無事再会、自分の方が年をとってしまったけど、でも本当に幸せそうでね。
その後、渋谷たちとはいったん行動を別にし、彼が生まれ変わる直前に再会する。渋谷と綾瀬の目の前で、光りながら、笑いながら来世へと生まれ変わっていく。そう、スープを飲まない選択のままで。

松方弘樹が女子高校生に生まれ変わるというのは、考えただけでおぞましいが(爆)、それを体現する「こんなべっぴんさんに生まれたから、大変よ」と言う広瀬アリス嬢ははきはきと達者で、魅力的。
まあ相対する野村君、そしてそこまでのヒロインだった刈谷嬢のぼんやり度との対照が鮮やかだからかもしれないけど。それがネライという訳では、ないよね?

初体験はもう済まされたんですか……と、前世の渋谷よろしくおずおずと聞く野村君に「まあ、ぶっちゃけ、女の方が気持ちいいから」とニヤリとする場面とか、メッチャカッコ良かったなあ!
男から女に生まれ変わるという役柄としてのもうけどころはあるにしても、べっぴんさんがオトコマエというギャップのもうけどころはあるにしても、それにしても彼女のさっそうとした美少女っぷりは、もやもやしっぱなしの本作の中で一服以上の清涼剤だったわあ。

記憶を保ったまま娘に会いたい、その一心で、スープを投げ捨てて川に飛び込んで来世に生まれ変わった渋谷は、ちらと先述したように娘の結婚式の日、奇跡のように二人きりになれて、思いを伝え、涙ながらの娘との抱擁を得られる。
古田新太が彼を止めたのは、そんなに首尾よくいく筈がないと経験上思ったからだろうし、松方弘樹の生まれ変わりの美少女がいさめたのも、そう。

でも、でも首尾よくいっちゃうんだよなーっ。これをカタルシスに感じられれば良かったんだけど、出来すぎな気がしちゃうなあ……。
彼が、この問題に決着をつけるべく学校さぼったり、成績も下がったりすることに、お母さんが心配して怒ったりする描写がはさまれたりするんだけど、それも怒りっぱなし、彼がゴメン、感謝してるから、と言いっぱなしで特に収束もナシ。

まあそりゃあ、前世の記憶に従ってなどとは言えないのかも知れないが、いやでも、信じてくれなくても、生まれ変わったこの世での愛する家族に対してなら、言ってほしかったよ。
尺の問題もあるのかもしれないけど、生まれ変わった彼らは、その生まれ変わった子供としてのキャラは全て放棄して、前世のキャラに基づいてのみ動いてるんだもん。生まれ変わりの面白さが、アリス嬢の「なんかヘンな感じだった」とかいう台詞一発で終わらせられるのもさあ。

どーでもいいことだが、渋谷の別れた妻と、渋谷の生まれ変わった先のお母さん、違う女優さんだけど、頬のふっくら加減とか、なんか似てる感じ。シークエンスが変わった時、ふと、あれ??と思って……意図的にしては微妙すぎるというか。
てゆーか、渋谷の別れた妻の描写に関してはさ、キャリアウーマン、その不倫、不倫相手のチャラさ、「籍は入れてないけど、ずっと一緒に住んでるから、結婚してるようなもんだよ」という、フランス婚かっ、とツッコミたくなるベタないい加減さ。

それを「大人になると選択の自由がある。大人になれば判る」とかなんとか、言うにこと欠いて家族を捨てた理由をそう来たか、という母親の言い様といい、なんつーか、なんつーか、カチンとくる理由がすべて、ベタすぎる(爆)。
判りやすく子供から憎まれる母親。でもその理由を全て、お父さんが死んでから知ったのに、お父さんに対する贖罪の気持ちを全く感じられないこの娘(爆爆)。
いくらバラをお父さんのお墓に日参しても、そのぼーっとした顔と、何よりお母さんの財布からお金を失敬しちゃったら、もうダメよ。
あー、私、つまんない大人??でもさ、映画として観客に提示する構成、キャラの構築の問題はまた、別だからさ……。

渋谷の墓が、欧米かっ、と突っ込みたくなるような、ローマ字表記の平べったい個人墓というのも現実感のなさをあおったなあ。まー、古い日本人なんで(爆)。
だってさ、渋谷は別に、天涯孤独とか、そーゆーキャラづけな訳じゃなかったじゃん。メッチャ有名な著名人という訳でもなければ、ふつーはあのつまんない、先祖代々の墓に入るでしょ。ちょこちょこちょこちょこっと、こういう安っぽいリアリティのなさが、ガクッとさせるんだよなあ……。★★☆☆☆


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