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「け」


2015年鑑賞作品

警察日記
1955年 111分 日本 モノクロ
監督:久松静児 脚本:井手俊郎
撮影:姫田真佐久 音楽:団伊玖磨
出演:三島雅夫 森繁久彌 十朱久雄 織田政雄 殿山泰司 三國連太郎 宍戸錠 伊藤雄之助 小田切みき 東野英治郎 岩崎加根子 飯田蝶子 杉村春子 左卜全 多々良純 三木のり平 沢村貞子 二木てるみ 坪内美子 千石規子 香川良久 稲葉義男 天野創次郎


2015/11/22/日 劇場(神保町シアター)
女たらしでもなく、喜劇シリーズでもないモリシゲはまだあまり観たことがなかったのでワクワクとする。まだまだ観てないモリシゲに続々出会えると思うと、ああ生きててよかった、元気があれば何でもできる!
本作はまだ戦争の傷跡が色濃く残る時代だが、舞台がのどかな田舎のせいか、そのズーズー弁にも癒されて、深刻なエピソードもなんだかほのぼの、しみじみと見せてくれる。そう、深刻なエピソードのオンパレード。惚れた相手と結婚できない、身売り、万引き、子捨て。そのすべてが、貧乏のせいなんである。そしてそれはやはり当然、戦争が引きずった影なのである。嗚呼。
しかしのどかなんである。このヒマソーな田舎警察がなんとものどかなんである。でも警察官たちはのどかながらも、この哀れな民衆を救わんと一生懸命なんである。ただひとり、オツムの軽そうな署長をのぞけば(爆)。

いや、このオツムの軽そうな署長がモリシゲではないのよ!!一番笑いをとる、長いものにはぐるぐる巻きなぷくぷくと太ったこの署長、三島雅夫がサイコーでさ!えー!!私この人知らない!ショック!!なんかこぶちゃんに似ている(現正蔵のこぶちゃん時代とゆーこと)。まさかモリシゲより笑いを取っていく人がいるとは!!
若すぎて顔が判らないとゆーのがまた昔映画の面白さだが、宍戸錠はわ、判らなかった(汗)。当然ホッペもしぼんでいる(訳ではないのだが。これがフツーなのだが)、フツーの美青年なので、まるで判らない。後からキャストと照らし合わせてもえーっという感じ(汗)もうどうしよう。

まあそんなことはどうでもいい。エピソードがいろいろあるからとんとんと行かねば。そうそう、ところでね、これって舞台、福島だよね。東北のどこかみたいな雰囲気でデータベースには書いていたけど、合図磐梯山〜♪だもの!なんか嬉しい!でも貧しい東北の田舎町、ということがここだってことな訳だけど(爆)。
冒頭は花嫁さんの道行。花嫁さん一行がバスに乗る、というのがのどかで可笑しくって、いい。この冒頭が、ラストの、もちょっと遠くに嫁に行く花嫁さんが汽車に乗る、というのにつながっていくのもイイ。
そしてそこには同じ青年がいる。その冒頭の花嫁さんと恋仲だったのに、好き同士なだけでは成就出来なかった、つまり家族の貧しさゆえに、というこの哀しき時代に、恋人の花嫁道具を運ぶしかない馬引きの青年。

彼は周囲にも同情されて酔いつぶれて、道路に寝込んだところに神社荒らしの盗品を落としていった男がいて、濡れ衣を着せられる、というところから警察と庶民のかかわりがスタート。
そして最後には、この青年、自衛隊に入隊することになり、まだ戦争が終わっていないと思っているおじいさんに万歳三唱で送られ、汽車に乗って去ってゆく。その汽車に乗り合わせているのが、彼はあずかり知らぬ、別の花嫁さん。
後からこの構成を思うと、実に上手いなあ、と思うのよね。この二人目の花嫁さんは、この青年には何のかかわりもない。ないけれども、彼にとって花嫁さんと見れば好き合っていたのに一緒になれなかった相手、が思い浮かぶわけでさ。詳しい事情が明かされる訳でもないのに、この彼の様子にはなんだかホロリときてしまうの。

しかしまぁ、言ってみれば彼は、ツカミと結末の役割に過ぎない。早くモリシゲの話に行かなければ、こんなとこで立ち止まっていては筆疲れ?してしまう。
モリシゲ扮する吉井巡査が関わる”事件”は子捨てである。まだ乳飲み子の男の子の赤ちゃんと、幼い姉。
恐らく本作のウリは、この幼い姉、ユキ子を演じる二木てるみであろう。現在まだ66歳。ひえっ!こんな昔の映画に出てて、まだ66歳、そしていまだバリバリ!
……ものすごく稀な例ではないだろーか。だってさ、いたいけなお姉ちゃんに、きっと当時の人たちはものすごく泣かされたに違いないもの。スターダムだわさ、今も昔も”天才子役”に対する興奮はきっと同じだろうもの。
まだまだ親が恋しい年頃、もちろんお母ちゃん、とも言うんだけれど、彼女がまず心を砕き、心配してやまないのは、まだ言葉も発することのない赤ちゃんである弟なのだっ。

吉井巡査は赤ちゃんだけでも頼む、とこの町一番の料亭に預け、ユキ子は自分のうちにとりあえず引き取る。奥さんはただいま出産したばかり。この時代だからそう簡単に床から上がれず、登場している間はずっと布団に横になっているんだけど、ユキ子を快く迎え入れる。
「そうだな、5、6人ゴロゴロしているんだから、一人ぐらい増えても一緒だ」この吉井巡査、いやさモリシゲの言い様に噴き出してしまう。実際、夕食の時に頭数を数えて、あれ足りない、てな感じで、こーゆーのって、現代じゃとても出来ないよなあ……。
だからといって、子供に対する愛情が薄いっていうんじゃないの。なんていうのかなあ、そう、「5、6人ゴロゴロしているんだから……」という台詞に象徴されていると思う。愛情は分けるものじゃなく、増やすものだと、何かで聞いたなあ。簡単に増えるのさ、そんなもの。そして子供はみんなの子供。共産主義じゃないけど(爆)。

一方、料亭に預けた赤ん坊は、そこのおばあちゃんが溺愛。弟を心配するあまり、幼い足で一人、会いに来たユキ子にすっかり心酔した女将さんはユキ子を溺愛。「競い合って可愛がってる」と、その子捨てをした母親に吉井巡査は言うんである。
そう、子捨てをした母親が現れる。でも泣き崩れて言うんである。これから心中するつもりだったと。本作のエピソードの中に重く影を落とす、戦争が原因の父親の不在。まあ、戦争が原因じゃない場合もあるけど(爆)。
この時代、男の働き手がいなくて、子供を育てるだけで精いっぱいの女に働くことも出来ない訳で。
せめて子供たちをちらりとでも見たいという気持ちを汲んで、そうは彼女は言わなかったのに、吉井巡査が汲んで、署長のジープを勝手に借りて、意味なく二回も往復して(笑えるのに、泣ける!!)、子供たちを涙ながらに見つめる母親に、それに気づいたようにも見えるユキ子の、二木てる美のいたいけな瞳にグッとくる!!

あぁ、子役に泣かされる、って本当にあるのね……と思いつつ、でもね、そう、先述したような、皆の子供として育てられるような地域のコミュニティもあるんだろうけれど、ユキ子と弟が引き取られることになった料亭は子供を子供として愛し、いつくしんで育てる家庭であって、それが必要な子供たちはやはり、いるのだと。吉井巡査のトコのごろごろいる子供たちは幸福だと思うけど、それではダメな場合もあるんだよなあ。
そういう、なんか深い部分、家族や子供の置かれる立場やなんかが、ホント、深いというか……。

モリシゲ以外では最も大きいのは、三國連太郎。若い頃の彼はしびれるほどの美青年。劇中、「でも、イイ男だったね。活動の役者にでもなったらいいんじゃない」と言われる。実際活動の役者だし!
てか、”でも”って部分はつまり、カンタンに騙されるってこと、更に言うと、世の中のキビしさなんて判ってない、警察官になれるってことはエリート、ボンボンで(いやでも、モリシゲを見ると、そういう感じはないんだけどさ)、百姓の貧しい暮らしなんてなんにも判ってない、ってトコでさ。
“百姓の貧しい暮らしなんて何にも判ってない”って部分は、宇宙一の怪優、てゆーか、人間離れしているとゆーか、左木全が、凱旋周遊している大臣を案内するのにトラックの荷台に乗るのを許してほしい、と陳情に来る場面で秀逸にあらわされる。
今は交通安全月間だからとにべもなく断る署長は、しかしなんたって長いものにはぐるぐる巻きだから、自分がその任を担うとなると、カンタンにジープで先導してパレードして花火まで上げちゃう。

陳情に来た左木全たち、いやさ、左木全の、いくら拒否されてもそこをなんとか、とのんびりと食い下がる、いや、あれは既に食い下がるというもんじゃない、聞いてないでしょ、って感じの泰然さがサイコーなの!
だから、署長がそんなことも忘れたかのように(忘れてるんだろう)、意気揚々とパレードを率いているのを、他の仲間たちは唖然として見ているのに、なんか左木全は楽しそうに見物しているのがコワいというかなんというか、なにもかもを超越している!!

……左木全に気を取られてしまった。だからね、百姓の暮らしなんて判ってない訳よ、三國氏演じるワカゾー巡査は。
工場の仕事をあっせんするというのは表向きで、実際は色を売る、つまりは女衒への橋渡し。勿論売り飛ばされる女の子たちもそのことは知っているのだ。摘発されても、あっせんする側も、される側も、懲りることなく繰り返すのは、貧乏だから、なのだ。

それにしてもその斡旋人、杉村春子のキモの太さっつーか、ズーズーしさにはあぜん!!この人はこういう役をやらせたらほんっとに、天下一品だよね!!
売り飛ばしたはずの女の子を連れて警察官が来たのを目にすると、しゃがみこんで井戸端会議していたのをチッ!とばかりに立ち上がり、彼女の母親に知らせに行く。
母親は病気ということなんだけれど、実際そうなんだろうけれど……あっせん人からの知らせで体の弱い母親、を演じ、騙された青二才巡査が去っていくと、ケケケとばかりに笑って布団から這い出して来るのには本当にアゼン!私の知らせが早かったネ、とばかりに得意満面なあっせん人としてやったりの笑顔にアゼン!!

後に事態を知ったこの青二才が、再び身売りに行こうとする彼女を追いかけるシーンは、本作のひとつのクライマックス。すすきの野の中に姿をくらまし、それを必死で追いかける巡査、パーッと視界が開けて、稲刈りした田んぼの中を疾走、走っていく二人を俯瞰で追いかけるショットは、のどかさと緊張感があいまって、実に魅力的なのだ。
ホントに判ってないの、この青二才は。今何ともならないんだから、行った先のことなんか考えられない。前金がもらえるのは貴重なんだと言われて、何を言うことも出来ないんだから。

とりあえずこのお金を、と、財布から取り出して渡そうとするなんて、サイテーだよ。焼け石に水とはこのことなんだから!!
でも……本当に彼女を心配してのやさしさ、なんだよね。それを彼女は判っていたから、あのラスト、なんだ。
そう、最後の花嫁さんは彼女。年の離れた男に嫁ぐ決心をする。この時押し付けられたお金を書留できちんと返した。あの時交わした会話、もうすぐここも真っ赤な紅葉になる、と言った、そのもみじの葉を同封して。

ああもう、モリシゲを観に行った筈なのに、なんかいろいろ盛りだくさんすぎなんだもん!万引き母子のエピソードも、母親にしっかとしがみついている男の子が凄く心に刻み込まれて、ああ、二木てる美だけでなく、本作は子供たちのけなげな芝居にヤラれるんだなぁ、と思う。
彼は不安さゆえにしがみついているのもあるけれども、その眼の光は、母親を守ろうとする気持ちも、きっと、いや絶対、ある筈なのだ。そのせめぎあいが、泣かせるのだ!

夫が家出してとたんに食うにも困ってしまうというあたりが当時の時代背景の哀しさで、女が身売りをするのも、万引きするのも、すべてが……。
まあ逆を返して言えば、女だから身売りも出来るし、男ならどんなに困窮してもプライドが邪魔して万引きも出来ないだろう(爆)。その前に心中を選ぶかも(爆爆)。あれ、なんか論点がズレてるかなあ……。

モリシゲ目当てだった筈なのに、二木てるみにまずヤラれ、三國氏、三島氏……いや、モリシゲの人情味あふれる、ちょっとヌケてる巡査はとっても素敵だったが!!
とにかくのどかな田舎町で、ぽんこつ消防車がのろのろ走ってはフシューーと止まり、「早く行かんと、火事が終わってしまうべ」とおばちゃんにツッコまれるのに思わず噴き出したりしてしまう。何とも愛しいのよ。★★★★★


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