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七つの顔
1946年 81分 日本 モノクロ
監督:松田定次 脚本:比佐芳武
撮影:石本秀雄 音楽:西梧郎
出演:片岡千恵蔵 轟夕起子 喜多川千鶴 月形竜之介 原健作 月宮乙女 丸山英子 服部富子
観て“しまった”だなんて(爆)。いや、本作のシリーズは大当たりはしたものの批評家の評判が悪くって色々ごたごたがあり、片岡氏自身が自らシリーズを離れてしまってたった四作しか作られていない、という経緯があった、と後から読むと、いつの時代もそういう、観客とおエラい批評家さんたちとのズレってあるんだなあ、と感慨深く思ったりする。
いやでも、今は一億総批評家のような時代になって、批評家並みにエラぶったことを言うネット民がうようよしているからなあと思うと、まあ私も結構そういう時もあるかもしれないなあと思うと、なかなかに肩身が狭いものを感じるんである……いやいや、そんなつまらないことばかり言ってもしょうがないんだけど。
そう、私にとっては剣劇スターの片岡氏が演じる現代劇、ってところよ。それこそ後解説を見れば、観客の誰もにとって、七変化する男たちが片岡氏だってのはバレバレ、いやそうなのだろう。でも私のよーな無知な現代の観客、しかも役者のお顔がなかなか認識できないバカな輩にとっては、案外彼の七変化に騙されてしまうところがある。
え?そんなのは私だけだって??そ、そうかもしれないけど(爆)、でも冒頭、思わせぶりに登場するステージの奇術師はとてもハンサムで、あら、イイ男、しかも思わせぶりに登場するのにその後出てこないわね、などと思っていたぐらい、本作の主人公、サエないおじさんと言われてしまう私立探偵、多羅尾伴内とは一致しなくて、そのネタが明かされただけで充分、私にとっては“楽しめてしまった”んであった。
でもアレかな、片岡千恵蔵主演というのは判っているんだし、その彼が、二枚目スターということも判ってるんだから、冒頭、レビューのステージ上で二枚目の奇術師として現れる彼こそが、誰もが知ってる片岡千恵蔵であり、それを最初に示されちゃったら、でも主人公は私立探偵の多羅尾伴内、こんなに片岡千恵蔵が化けちゃうんですよ!という手の内を自ら明かしているようなモンかもしれない……。
実際、多羅尾伴内が登場してしまってからは、調査のために色々に七変化する人物がどれも、彼自身だということは確かにバレバレなんだもの。
それは“調査のために”という流れがあるというのが最も大きいし、多羅尾伴内自身が、太眉、メガネ、おひげ、だぶっとしたスーツ、ひょこじょこ歩き、なまったような語り口調、と、サエない男をプログラミングしたらこうなる、という形をまず体現していて、そのバリエーションのような形で様々な人物……新聞記者やら運転手やらとしてどんどん登場するから、そりゃ、多羅尾伴内が入り込んでるんだよなあ、と判っちゃうからさあ。
でもだからこそ、全ての謎解きをした時、「またある時は奇術師」と言ってヒロインのみどりがハッとした、ああ、あの二枚目奇術師も!というのが効いてくる、少なくとも私にとっては効いてきたのよ。
で、まあこれじゃどんな話しかトンと判らないから……。元ネタはモーリス・ルブランだというんだから、そりゃあまんまルパン、なのだろう。多羅尾伴内自身がもともと、日本のルパンと言われた藤村大造がその正体である、という設定なのだから。
みどりに初めて接見する多羅尾伴内が、探偵小説好きだという彼女の話を聞いて、「ほう、あなたはルパンを探偵だと思ってらっしゃる」と嬉しそうな顔をする。義賊の側面もあるルパンは、いわば時代劇スターの単純な正義と相通じるものがあるかもしれない。
この物語のスタートが、歌姫のダイヤの首飾りを狙った放火事件で、その首飾りの貸主である金持ち(つまりはスポンサー、タニマチ、だよね)がネチネチと男気のないことを言い募ったり、事件の真相を暴いていくと、政治家の足の引っ張り合いがあったり。
ああもう!今の時代だって良くある話だよ!!快刀乱麻でズバッとやってほしい!!といつの時代だって思う!!それが出来ないことが判ってきている現代ではなかなか出ない、この世界感……。
歌姫、みどりの活躍するステージから始まる物語は、その当時の華やかさを十二分に描いてくれて、楽しい。
群舞で出てきてラインダンスよろしく足を上げる女の子たちは、生々しい足のぷよ感とあんまり上がってない足についつい微笑ましさを感じてしまうが、でもセンターとしてどーんと現れる歌姫はヤハリ、いつの時代も輝かしい。
楽屋には大きな花が届けられ、その名前に心当たりがないみどり。でも岡惚れしている人の名前になんだか似ている……とこのあたりは、古いフィルムのせいかどうも台詞が聞き取りにくくて自信ない(爆。言い訳!!)。
放火騒ぎのどさくさで、なんか嗅がされて連れ去られたみどり(こーゆー描写は、王道よねー。やっぱりクロロフォルムでしょ!)は、目を覚ますと目の前に仮面の男女がいる。
相当に動揺する状況の筈なのに、後に多羅尾伴内が聞き取りをすると、「きょうだいだと思います。お兄さまと呼んでいたもの」「女の指に三つの真珠を組み合わせた指輪がありました」「二階の書斎までの階段は18段、門から玄関までは22歩」てか、ここまで覚えていた私の方をホメてほしい(爆)。
他にも数字的な記憶も含め、指示されていなければ記憶しているなんてとてもありえないと思えるデータ的記憶がズラズラと。こ、これをツッコまずして、どうするの!!ご都合主義に他ならないんだけれど、これをツッコむ気持ちは、なんか可愛らしい気持ちがするからよ。このツッコミどころが、さあ。
だってみどりは百戦錬磨の売れっ子歌姫なのに、結構シンプルに多羅尾伴内にホレちゃう可愛らしさが、あるんだもの。
あ、でも彼女を誘拐した兄妹仮面が「これで新聞に記事が出れば、あなたには同情が集まって、有名になれる」なあんてことを言っていたから、いわば場末の歌姫という程度だったのかしらん。
いやいやそんな雰囲気ではなかった。会場はとても大きく超満員だったし、新聞記事にも人気歌姫として大きく名前が出ていたんだもの。まあ当時の芸能事情は判らんのでなんとも(爆)。
でも、そう、ホレちゃう。このどーみてもサエない、風変わりな私立探偵さんに。自分の方がイケてる女子なのに、イケてない男子にホレちゃって、彼の優位に立てないイライラって、現代にまでメンメンと通じてる少女漫画文化で、楽しい!!
さすが歌劇団のスターだからピアノも流麗に弾けちゃうんだけど、そんな名演奏もこの私立探偵さんは調査の考えごとをしていてロクに聞いちゃいない。も、萌えるーっ(爆)。ハイソなお嬢=おうちにピアノの図式は、過去の昔映画でも覚えがあって、その時もお嬢はイライラを流麗なピアノ演奏にぶつけるという、妙にシュールな場面があったことを思い出したわ……。
こういうハイソなお嬢と、いろんな過去が隠されていそうな、一見すると風采は上がらないんだけどミステリアスな男、ってのは、似合うのよー。お嬢の鼻っ柱が折られる、それも初めての純粋な恋心によってね!というのがさ!!
……うーむ、自分のシュミで、本作の基本要素からすっかり脱線してしまった(爆爆)。本作の最も大きなキモは、みどりが誘拐されて連れていかれた洋館、なのよ。原作のタイトルが「謎の家」、まんま、なのよ。
みどりが詳細に記憶していたこともあり、何より当時は洋館、というだけで相当に珍しかっただろうこともあり、すぐに“現場”は特定されて、真犯人の思惑通り、濡れ衣を着せられた兄は逮捕されてしまった。妹の方は多羅尾伴内の直感により、真犯人ではないと断定され、かくまわれることになった。
そして後に、この家とそっくりそのままの洋館が真の現場であることが明かされる。つまり、真犯人の父親が愛人の自尊心を抑え込むために与えたソックリの洋館。
……ならば、こっちの洋館の方が最初の疑惑の現場として何故あげられなかったんだろうとかいうつまんないツッコミはしてはいけない(爆爆)。つまりそれだけ世間から隠していた存在だったんだろうということぐらいは推測してあげなければいけない(爆)。
うーむ、でも、日本のような狭い国土の、狭いコミュニティで描かれるとなると、この原作の感じをそのまま移してくるのはやっぱりちょっと、難しいのかなあ、という気もしているのだけれど。
でも勿論、この洋館の存在が一番のドキドキ!だってやっぱり、現代ではなかなかない、洋館自体が醸し出すモダンさ。モノクロが醸し出すミステリアスな空気感が、飾り物の下にボタンがあるだけでとびきりの謎解きに思えちゃう。
考えてみればこんなぐずぐず変装している間に(爆)、女が殺されちゃうんだから、ここはツッコミどころ、どころじゃないかもしれない(汗)。
そして、政治家同士の足の引っ張り合いや、ついには飛び道具(という言い方自体が、古いっ)でカーチェイスをやるってあたりが、当時のモダンな私立探偵モノって感じでワクワクする。
ラスト、自分は前々から名前が出ていた伝説の日本のルパン、藤村大造だと明かし、どーゆー理由だか判らないけどすがるヒロインを吹っ切って、この場をさっそうと去っていってのラスト。
藤村大造が多羅尾伴内になった経緯や理由、去っていくそれもさっぱり判らないけど、多羅尾伴内が充分にチャーミングだったから、ま、いいかあ。みどりはじめ、取り巻きの女たちがみんなして、この冴えない探偵にキャーキャー言っているのも可愛かったしさ。
やっぱあの、当時は珍しい自家用車、しかもそれがオープンカーで、その後部座席に女の子たちがキャーキャーと乗り合わせるのも可愛かった。放送機能もついてて、さっと警察とのやりとりして、大勢の応援が来る痛快さは確かにメチャかっこいいもんなあ!!★★★☆☆