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「よ」


2016年鑑賞作品

よみがえりの島
2015年 70分 日本 カラー
監督:山内大輔 脚本:山内大輔
撮影:田宮健彦 音楽:T&K Project
出演:朝倉ことみ 真木今日子 和田光沙 川瀬陽太 小鷹裕 森羅万象 リチャードTH


2016/8/22/月 劇場(テアトル新宿/レイト)
ピンク大賞がゴールデンウィーク期間中の開催になってしまって、すっかり行けなくなってしまって……てゆーか、その前にピンク大賞はオワリと言ってなかったっけ?
続いているのは嬉しいけれども、とにかく私のようなヘタレが足を運べる唯一のチャンスも失われて、それでなくても目の前でどんどんピンク劇場が潰れていくのを目の当たりにして、正直もう、ピンク映画は終わりかなあと思っていた。ピンク大賞終了、という話もそのあたりから出ていた記憶があるし……。

しかしそれこそそのあたりから、ピンクの作り手が積極的に一般映画や一般劇場に、ピンクのテイストを残しながら進出してくる動きが見られ、今回の企画もまさにその一つだろうと思う。
もともとはR18のまごうことなきピンク映画として作られた映画がR−15に作り替えられている、というのは真のピンク映画とは言えないだろうしオリジナルでもないのだから邪道なのかもしれない。
そのあたりはもうすっかりオトナを通り越したこちらとしてはオリジナルを観れない悔しさはあるにつけ、やはりこのような機会を設けてくれたことが嬉しいんである。ああ、久しぶりだなあ、焼き直しとはいえ現代ピンク映画を観られるなんて。

それはやはり、直営館を持ち、その直営館がただ漫然と配給されるんではなく発信し続ける基地でもあるオークラ劇場であるという、大蔵映画だからできたことなのかもしれないと思う。
誤解を恐れずに言えば本当に、ピンク映画とは思われない夫婦の情愛物語で、ファンタジーの要素も大人の味わい色濃く、じんわり胸に迫るんである。

ヒロインの朝倉ことみ嬢は、これで女優賞を撮ったのだという。これは今でもフィルムでアテレコかな?それゆえのハリキリ発声はちょっと気になるけれども、これは新人女優さんの初々しさといったところだろうか。確かに可愛らしく、今では珍しくなった八重歯がなんともキュートである。
相手となる川瀬陽太氏とは劇中設定の「10歳離れている」より、もう10歳、いや20歳は離れているんじゃなかろうかと思われるようなベビーフェイス。もっとかな。

それは、川瀬氏が実にイイ感じでやさぐれているからに他ならない。彼は私とさして変わらない年だと思うが(改めて調べてみたら三つ上だった。うん、そのぐらいか)、本当に近年イイ感じにでっぷりと中年太りになり(イイ感じにね!)、ダメダメ中年男が本当によく似合っている。
それでいてまだ、老いるまでにはいかない何とも言えぬ色気がある。こーゆーのはウレ線俳優ではなかなか到達できない境地。特にまだ40代のこのお年頃ではね……。吉岡睦雄ともども、ピンクと一般映画を見事にクロスオーバーしてくれる素晴らしい役者さん。

彼が演じるのは売れない官能小説家。このあたりの設定がいかにもピンク映画らしいが、その官能小説の文脈を実際に描出してエロ場面につなげるのかと思ったがそれは全くなかったのはちょっと、意外だった。
それならばただの売れない小説家でも良かったような気が。いやいや、「初めて一般小説を書いてみたんだ」というあたりが重要なのか。あるいはR−18版ではそのあたりの描写が違っていたのかな?
正直観る限りではセックス描写を避けている訳でもないし、18歳以上OKと15歳以上でもOKも境目がよく判らないんですけど。
てゆーか、これ15歳以上観られるんならイイネ!とコーフンしちゃったり(爆)。あれかな、性器を想起させる描写とかがダメなのかな。必須だもんね、ピンクだと。

うーむ、脱線。ゴメン。で、川瀬氏演じる吉岡は食つなぐためにカルチャーセンターで小説の書き方講座で教えていて、生徒であることみ嬢演じるミチルこそが運命の相手なんである。
吉岡のファンであるというミチルが、「大学では純文学とか私小説とか、そんなことしか教えなくて。そういうのも好きだけど」とこぼすのに対し、「大学とはそういうもんだ」と吉岡が返す、この会話がなんとも感慨深いんである。

実際問題、大学というのはそーゆーところである。最初、私は宮沢賢治がやりたかったが、こんな有名作家でさえ、文壇から離れているという理由で(少なくとも当時は)専攻出来なかった。
それこそ現代作家や大衆文学といったカテゴリーであれば余計にそのハードルは高くなるのは必至。教授や博士になって自ら研究するのは出来ても、学生としては学べないのがいまだにそうなのか、と思う。

そしてそれは……うがちすぎかもしれないけれども、一般映画と線を引かれているピンク映画というカテゴリに対する自嘲のようにもとれるんである。
いや、この会話の文脈からは自嘲よりも誇りの方を確かに強く感じることが出来る。そして、そこからより広い世界とクロスオーバーしていく彼ら自身を象徴するかのようである。

吉岡は劇中、売れない官能小説家から、「一般小説を書いてみたんだ」と言い、しかしそのタイトルは「情念の島」であり、きっと彼自身の官能小説家としてのキャリアを反映させたものであるだろうと想像されるんである。
ヘンタイだよねと揶揄される向きもある過激な作風だった彼が、それでも才能があると女房だけでなく編集者からも押されている描写は、ピンク映画や、その作り手に対する強烈な矜持を感じたりもするんだよなあ。

物語の冒頭、彼らはある島にいる。いずれ開店するゲストハウスの準備に余念がない。そして時間が巻き戻り、彼らの新婚旅行のシーンとして同じ場所にいる。
劇中ではここがどこか、と明言はしていなかったが、ロケーションは石垣島らしい。めちゃくちゃ風の強い海岸での結婚式シーンは、風やみ待ち出来なかったのかしらんなどと思ったりもするが(爆)。
「誰も言ってくれる人がいないから」と、お互いに結婚おめでとう、と言い合うのが、ああなんていう脚本の妙!と思うんである。いや、この子の口からそんな気の利いた言葉が出てくるとは思えないとか、言ってる訳じゃないが(爆)。

時間が巻き戻る、というのは、このシーンから冒頭のゲストハウス準備に至るまでには、数年の月日が流れているからなんであった。先生の才能をただただ信じて支え続けるミチルに対し、その期待が重荷になって一時はセクシーなスナックのママのところに入り浸りになるようなダメダメ夫の吉岡であった。
まあこの辺はピンク映画らしい、実にセクシーバディなママ。つまり比してミチルは華奢でおっぱいも薄くって、何かこう、壊れそうなガラスの人形みたいな魅力なんである。それこそうがって言えば、そんな雰囲気がもう暗示していたのかもしれないと思うような。

吉岡がママの元を追い出されたのが、「ダンナが出所したのよ」というひと言に震え上がったというのが期待通りのヘタレ夫なのだが、そんな彼をミチルは静かに迎える。「残り物しかないけど」と食事をあつらえるこのシーンは正直、ちょっと女の怖さの方を感じたけれど、実は男性はこういうのを待っているのだろうか。
吉岡はそれまでとは人が変わったように執筆に没頭、持ち込んだ小説が見事新人賞を受賞するまでに至る。苦労をかけた女房に約束した、あの島に住んでゲストハウスを開く、というのを実現するために……そして物語の冒頭に時間が戻ってくるのだが……。

妻は死んでしまったんだ、と島で飲んだくれた吉岡は泣きむせぶ。新人賞を祝うための鯛のおつくりを魚屋に取りに行って、トラックに轢かれたんだと。
ええ!と思う。じゃああの冒頭の彼女は一体、ナニ!?と思う間もなく、その涙の告白を受け取った島のスナックのママは、彼を奥の部屋に誘う。
つーか、もう連れ込むってゆーか、押し倒すってゆー感じで、彼の上にまたがって、ハイサイみたいに腕をくねくね上にあげてイっちゃう様子に思わず噴き出してしまう。

このママが凄くイイキャラで、もう彼の状況はお見通しなんである。なんたって、ユタだから。霊感があるのだ。ただし、男とセックスしてる時だけ、というのがいかにもピンクらしい。
騙されたと思って行ってみなよ、という彼女の進言に従って出かけた灯台で見事、死んだはずの愛しきミチルと再会した吉岡。ミチルのために用意したゲストハウスの準備、毎日セックスして沢山子供を産もう、とそれまた本気で……表面上本気で、そう思っていたのだ。

島でのママや物件を紹介してくれる老人とか、ひょっとしたらそのシマンチュ訛りは怪しげなのかなとも思うが、なんともこのママがチャーミングで、ステキなんである。彼女がくれた匂い袋の匂いが消えるまでが期限。それが消えたら、もうミチルは……。
だからその別れの場面はとても切なく、吉岡が、演じる川瀬氏の演技が素晴らしくて、この愛しい年若い妻を死なせてしまったことへの後悔に、すっかり年を取ってやさぐれた男が身も世もなく悲しんでいて、本当に、彼は素晴らしくてさ!

でもビックリなどんでん返し。パッとカットが切り替わったら、病院のベッドに横たわっている吉岡。そばに付き添うミチル。周りに配置されている看護婦やら医者やらは、それまで登場したセクハラ客やらスナックのママやらで、ええっ、と思ってる間もなく吉岡ご臨終。
ミチルは夫の遺稿の続きを書くために、島へと帰っていく。ええ、ええ、どーゆーこと!?死んだのは実は夫の方って、うそ!?新人賞をとったのもまぼろし?だって、それをとった筈の作品が“遺稿”、未完ってことな訳で。じゃあ実際、彼は本当に才能があったのかどうなのか。

……そして匂い袋を抱きしめて崖に立つミチルが振り返ったら……。
うーむ、そこまで手の込んだファンタジーとは。ちょっとやりすぎな気もしたが、これは川瀬陽太の映画だったと思うなあ。彼は年々横幅も出てくるが、比例して滋味もあふれてくる。とてもいい役者なの!★★★☆☆


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