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「ゆ」


2018年鑑賞作品

友罪
2018年 129分 日本 カラー
監督:瀬々敬久 脚本:瀬々敬久
撮影:鍋島淳裕 音楽:半野喜弘
出演:生田斗真 瑛太 佐藤浩市 夏帆 山本美月 富田靖子 奥野瑛太 飯田芳 小市慢太郎 矢島健一 青木崇高 忍成修吾 西田尚美 村上淳 片岡礼子 石田法嗣 北浦愛 坂井真紀 古舘寛治 宇野祥平 大西信満 渡辺真起子 光石研


2018/6/6/水 劇場(TOHOシネマズ錦糸町)
斗真君と瑛太君のダブル主演。しかもめちゃくちゃヘビー。それぞれで一本ずつ映画が作れそうなほど。
勿論、本来なら交わることのなかったこの二人の邂逅こそがこの物語に化学変化を起こす訳なのだから、一本の映画でなければいけないのだけれど、こういう時、映画の尺の限界を感じてしまう。きっと原作では……と思ってしまう。だからって苦手な前後編やら、やたら長尺で作られても困るけど(そういや、瀬々監督はどっちもあったな)。

ちょっと前ならば、こういう話は作ることさえ難しかったかもしれない、と思う。猟奇的な少年犯罪が頻発してきた二十世紀後半、そのこともあるけど、近年ようやく、罪を償った後の社会復帰を、社会全体で後押しすることを国が声をあげて推進するようになって、やっと“こういう話”が成立したように思える。
罪を犯した人間に、社会は徹底的に冷たい。もう死ぬしかないだろ、ぐらいに許さない。誰もが震撼する残酷な犯罪だけではなく、情状酌量してもいいんじゃない?とか、本人が激しく反省している様が見えていても、そうなんである。社会復帰推進のポスターも、日本っぽくゆるキャラなぬるさで、こんなんじゃみんな真剣に考えないよと思う。

それを対照的に象徴しているのが、息子が死亡事故を起こしてしまった山内(佐藤浩市)と、瑛太君演じる青柳を更生指導した白石(富田靖子)。山内は判りやすくそんな日本社会をそのまんまとらえてる。絶対に許されないと判っているから、親である自分も息子を許すことが出来ないんである。被害者から罵倒されるのは当然のことながら、それが社会のすべてだと思ってる。
てゆーか、その通りなんだけど。無責任に社会は、自分に起こったことのように糾弾するから。頭を下げてばかりで家族をバラバラにしたままの彼に妹婿が憤るのが、凄く頼もしいというか、嬉しい反応だな、と思って……。そんな風に思ってくれる身内がいるのに。

白石はその点、充分過ぎるほどにその社会の風当たりを判っているからこそ反転しているというか……私がそんな子供たちを守ってやらなきゃ!という使命感に駆られるあまり、自分の子供を顧みることなく、望まぬ妊娠をしてしまった娘から糾弾されるんである。
「他人の怪物に夢中で自分の子供のことは……」と、恨み言を言う娘の描写は若干古臭い感じがしなくもないが、古今東西、親子の感情というものは案外変わらないものなのかもしれない。

てゆーか、メインは斗真君と瑛太君なんだってば。でもそんな具合に色んな“点”がそれこそ点在し、それが後半になっていろいろな線で結ばれて行き、まるで夜空の星座みたいな具合になっていくから、人間関係をなんかいろいろ推測しながら見ていくと私みたいなバカはこんがらがっちゃうんである。
私は最初、子供を三人も死なせた息子を持つ父親、佐藤浩市が、瑛太君演じる青柳の父親なのかと思いながら見ていたもんだからさ。斗真君演じる益田もまた、実は青柳とどっかでつながっているのかと思ったり……だって年恰好が同じで、なんか時代を共有している感じがするんだもん。勝手にこんがらがってる私がアホなんだけど(爆)。

で、まぁ、整理すると……益田はイジメに遭っていた友達を救うことが出来ず、それどころか自殺を考えた友達に対して、保身から「勝手にすれば」と言ってしまい、そのまま彼は自殺してしまった。青柳は、……益田たちの前では鈴木と名乗っているのだが、中学生時代に犯した殺人事件から出所して、今、類似した手口の事件の容疑者として追われている。
えーと、そもそもなぜ、偽名を使って町工場で働いているのか。ヤハリ、また疑われていることを知ったからなのか??いや、事件が起きたのは、彼が働き始めてからだったような……うーむ、判然としない。

瑛太君はこういう、どこか壊れた役が続いているような気がする。壊れた、なんて簡単に言うべきじゃないのかもしれないが。なんていうか、言ってしまえば無邪気で、だからこそ恐ろしい。
更生後の社会復帰を国で後押しするならば、キレイごとではなく、本当に根本から見直さなければいけないと思う。それを瑛太君のちょっとゾッとするような無邪気な演技からリアルに感じる。

つまり彼は、誤解を恐れずに言えば性的倒錯者なのだ。同級生の男の子を殺害し、まるで儀式よろしく手厚く葬ったその場で、自慰をした。彼にとって逃れられないことであり、それが社会において許されないことであると実感するのは、それこそ更生を施されてからであり……。
町工場で働き始めた彼は、とにかく無口で、先輩たちから怪しまれて、ガサ入れされる。やったら絵が上手い彼のスケッチブックに、母親のような年頃の女性のヌード写真が描かれている。マザコンかと彼らは口をゆがめて笑ったけれど、母親ではなく、指導員の白石なんである。
かつては同じ年頃の同性に向けられていた性的嗜好が変わったのか、それとも……。このあたりこそ尺の難しさでなかなかに判然としないのだけれど。

これはあくまで個人的な意見なのだけれど。日本は性的嗜好のマイノリティに厳しすぎると思う。それこそLGBTという言葉さえ知っている日本人が何割いるのか。
児童ポルノのことは騒がれるが、だったらどうしても少女や少年しか愛せなかったり、暴力でしかエクスタシーを感じられない人の先行きまでは考えない。犯罪を犯すことになって、どうせヘンタイだからさ、と冷笑するばかりである。ダッチワイフどころか、エロコミックですら、摘発するんである。だったら彼らに犯罪を犯せと言わんばかりじゃないか。

そんなことを個人的意見として言うだけで、糾弾されそうな日本社会だから、私もこわごわなのだ、情けないことに。
成人して社会復帰した青柳は、ただひたすら耐えていた。自分を律していた。ただ、彼が今どういう衝動を抑えているのかまでは見えてこないことが、若干の歯がゆさを感じた。
DVストーカー男に悩まされている藤沢さんとお互い好意を持ち合うも、彼女が決死の覚悟で青柳にキスをしても、彼は彼女に踏み込むことはなかった。

そして、指導員である白石さんの、恐らく想像で描かれたヌードである。えっ?想像、だよね?実は二人の間に何かがあった??そういう示唆だったのだろうか……うわっ!うーん、でも違うかなぁ。
私の勝手な印象としては、いまでも彼は少年的少年愛(ややこしいが)の世界に生きている気がした。時々やけに悟ったことを言うこともあるけれど、「友達だから」と無邪気に益田に笑いかける彼は、本当に、まるで小学生の男の子のようなのだもの。

一方の、益田である。青柳を演じる瑛太君がかなりさらっちゃうので、若干ソンな役回りではある。
ただ、彼は、友達を自殺に追いやったということプラス、ジャーナリストになりそこねた、いわば、社会の汚さに耐えられなかった青さを持ち、住み込み町工場なんてところまで落ちぶれちゃったんである(そんな言い方をするのはよくないかな)。

益田の元カノであり、今、まさに彼の夢を歩んでいる清美(山本美月)である。彼女が追っている少年A、青柳が、益田が友達になった鈴木であることをかぎつけ、表面上は益田を心配するフリをしながら、彼のスマホからスクープ画像を盗み取るという愚劣なことをやってのける。
しかし劇中ではあまりそれが明瞭じゃないというか……確かに彼女がそれをやったのは確実なのだけれど、原稿は益田君のを使ってないから、と彼女は悪びれない以上に、なぜそんなに怒っているの??と純粋にいぶかしんでいるぐらいな感じなんである。そりゃー、悪かったけどー、みたいなさ(爆)。
ここが、益田が感じた世間との境目であり、益田は、……自分が死に追いやってしまった(と思い込んでいる)友達の姿を青柳に見ることで、その世間との境目を突破しているんだよね。

点と点が、線と線になる。図形になる。作業中の事故で指を切断してしまった益田を病院まで送り届けるのが、タクシー運転手の山内。益田の指を丁寧に氷水に入れてタクシーを追いかけて来た青柳を顧みる。まるで、息子を見るみたいに、ハッとした表情で。だからヘンな推測しちゃって混乱するんだよー。
今は鈴木と名乗っている青柳が、白石と再会する。みんなが君を探しているんだよ、という意味を、彼はよく判ってる。探っているのだろう、この信頼している先生でも、本当に自分のことを信じているのかと。

ここで彼が語る、先輩たちや益田との良好な関係は、必ずしもすべて真実ではない。彼女もすべて真実ではないと判っていて、聞いているだろう。それが、それがさ!!
……それこそ、それが、人間同士のリアルな会話なのかもしれない。でも、哀しい。青柳は白石のバックに組織としての更生施設があることを知っているし、白石もまた、それがあるから百パーセント対個人として相対できない。
てゆーか、でなければ、そもそも彼と出会ってない。そしてそこに彼女の親子関係が介入してきて、それは百パーセント対個人の話であるのだ。もううっとうしくも!!

個人的には、成人してしまえば、てゆーか、成人前でも、親が子供の責任を負う必要はないと思ってる。育て方がどうこう言うのは、日本だけじゃないかという気がしている。
だってそんなことを言い出したらキリがない。罪を犯した後、40になっても50になっても、親の育て方を言われるのかと思うと親だって、罪を犯した当の子供だってやりきれないだろう。それこそ、子供は大人になれない。
だからこそ、山内の息子のエピソードがあるのだろう。家族を作ることを父親は許さない。母親やその兄弟たちは、むしろ寛容である。そして何より息子の嫁が、シンプルに、罪を犯したらその後、幸せになってはいけないのか、と問う。これぞ、前述した、日本社会の基本的な懲罰思想であり。

なーんか、こう書いてくると、斗真君、瑛太君に負けちゃってるよね。まぁ、役柄的なインパクトもあるだろうが……。
ラスト、二人がそれぞれ、自殺した友人のその現場、自分が殺した男の子の儀式の場に訪れ、時空を超えたように顔を合わせた??なんてことを予感させて終わるが、それはいくらなんでもなぁ、と思う。てゆーか、さすがに重さというか、ベクトルが違い過ぎるんだもん。★★★☆☆


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