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ヲタクに恋は難しい
2020年 114分 日本 カラー
監督:福田雄一 脚本:福田雄一
撮影:鈴木靖之 音楽:
出演:高畑充希 ムロツヨシ 菜々緒 山崎賢人 若月佑美 内田真礼 斎藤工 今田美桜 佐藤二朗 賀来賢人
もはやオタク(本作に習ってヲタクと言うべきなのだろうか……)というカルチャーはすっかり浸透して、ふた昔前のように誰もが共有する流行や文化というものの方が少なくなっている昨今、むしろオタクという価値観はその意味するほどにマイノリティーではなくなっていることを考えると、そもそもオタクってなんなのかなあ……とふと立ち止まって考えてしまうが、でも真性オタクである人は「私オタクだから〜」とは言えない、のかもしれない、とか思ってしまった。
結構いるよね、この台詞で話題に入っていく人って。私かもしれない(爆)。でも本当にオタクの人は……つまりプロフェッショナルに自分の好きなものを突き詰めている人は、愛を捧げている人は、言えない、つまりカムアウトできない、のか、と改めて思ってしまった。
ヲタバレ、というらしい。それは恋愛を破壊し、職場に居づらくなる、ということ。でもそれって、本当の自分を隠しているってことって?なあんて深遠なテーマを投げかけているのかもしれない!とか思ったり。
でも正直、そーゆーことはどーでもよく、隠れ腐女子、成海に扮する充希ちゅわんにただただ、カワイイわー……と嘆息するばかりなのであるが。
今を時めく山ア賢人君とダブル主演ではあるが、終始無表情を決め込むゲーヲタという役柄が損をしている点を差し引いても、充希嬢のかわゆさは尋常じゃなく光り輝き、彼をすっかり出し抜いてピン主演と言いたいほどの魅力を放っているんである。
ああそれは、可愛い女の子大好きな私の偏見だろうかっ。そもそもベビーピンクのツーピースなどとゆー、20代半ば社会人女子としてはかなりあり得ないラブリーなカッコがイヤミなく似合ってしまうあたりが。
しかしてこのチョイスはどういうキャラ設定なのだろーか。社会への武装??いやいや……。宏嵩との「オタ語禁止デート」の時には、年相応の常識ラブリーファッションを身にまとっていたのになあ。
まあ、可愛いから、いいんだけど(爆)。そうそう、ふと思ったのは、オタクという語が使われ出した時代には、それはイコール引きこもりぐらいの価値観で、社会生活どころか人間関係も築けないぐらいの、かなり偏見があった印象。
しかし、先述したようにオタクが決してマイノリティーではなく、自分らしさのプロフェッショナルぐらいの認知度が高まると、つまりそれぞれのマイノリティーかもしれないものが集まるとマジョリティーになってしまったような、むしろ自分の好きなものを突き詰めていない側の方がマイノリティーではないのだろうかという感覚を起こさせるんである。
そう、それこそその昔は、オタクと言われる人たちは恋愛どころか人付き合いも出来ないぐらいに思われていた。でもここで、成海は「オタクだとバレてフラれた」と言う。オタクに没頭して恋愛とか興味ないんちゃう、というつまらんマジョリティーの偏見をあっさり超えてくる自嘲である。
しかもそこには、つまらんマジョリティーと同じ葛藤がある。自分自身をさらけだしたら、フラれるかもしれない。可愛く見られたい、否、成海の場合は普通に見られたい、ということだったのか。そのあたりの差異が面白いが、そのまんまの存在を受け止めてくれる、いや、お互いを受け入れ合う存在こそが恋愛の理想の姿であると、まさかのオタクさん同士のラブストーリーで説かれるとはっ。
成海と宏嵩は幼なじみ。互いにオタク同志として気の置けないラクチンな関係を築いてきた。だから、恋人同士としてもいいんじゃない?と提案してきたのは宏嵩の方だが、後から考えると、彼はそもそも成海のことを好きだったということなんちゃうん、と思わなくもない。
彼からの提案を結構あっさり受け入れる成海だけれど、その後は割と防戦一方で、彼の自宅に招き入れられて下着の色を心配したり、いつものように一緒にゲームをして盛り上がったその隙間にキスされて動揺したり、ああこれは、何、ツンデレですかーーい!!
賢人君のクールさをひたすら崩さないのには段々イラッとする気持ちも正直あるのだが(爆。そういう意味では結構難しい役柄かもしれない……)、彼がその無表情の下で、成海の世界を理解しようと努める涙ぐましい努力が、泣き笑いしちゃう。
声優好きの彼女の趣味を理解しようと有休をとってまで、ドルオタ(声優アイドルオタ)の先輩にライブに連れてってもらって、一糸乱れぬオタダンスを習得したりね!!あの場面は圧巻だったなあ……色んな意味で……。
ドルオタ先輩、賀来賢人(あ、これまた賢人だ)がかなりサイコーである。本作は福田組人脈生かしまくり!!といったゴーカキャストなメンメンが揃っているのだが、個人的には彼が一番、お気に入りである。
簡単にイケメン枠に放り込む昨今だが、彼はぜっっったいに、イケメンではない、と思う。その奇妙な整い方と、絶妙にタイミングをずらしたようなたたずまいが、たまらない喜劇役者のポテンシャルを感じさせる。
ポテンシャルだなんて失礼か。充分に喜劇役者だわ!!そーゆー意味では、充希ちゃんとは別の意味で主演の方の賢人君を食っちゃってる。クセモノばかりで主演賢人君は大変だな……頑張ってるんだけどね……正直印象薄い……。
本作の一番の魅力は、難解で独特なオタク言語であり、超早口でまくしたてる充希ちゅわんはめちゃめちゃキュートである。こういう、その時代の瞬間を切り取ったものっていうのはすぐに古びてしまうから、まさに今しかない勝負と言えると思うのだけれど、でもひょっとしたらオタク文化が定着し、オタク言語も整えられて、これが意外に古びず後世に伝えられるのかもしれない??
しかし聞き取れないわー。それが面白いんだけどね!!腐女子である彼女が駆使する言語とその世界観は、ほぼほぼ妄想によって構築されていて、すべてがハッピーに変換されるのが可愛くて可笑しい。
そんな彼女を無表情に眺めている宏嵩だが、つまりそんな彼女が好きだから、ということなのだろう……ちょっとね、そのあたりの感情があまり感じられなかったのが、賢人君が充希嬢に食われてしまった原因なのかもしれず、恋愛の胸キュン度としては行き切れてなかったのも……。難しいわね。
そりゃクールな男子が彼女のことを理解しようとムリしてドルオタ世界にもぐりこむとか、かなり攻めた描写があるんだけど、徹頭徹尾無表情な宏嵩からそこまでの決意がなかなか……。あるいは、上司との関係を(あ、同じ会社ね)疑うとかさ、なんとなく修羅場になりそうなのも割とあっさりスルーしちゃったのも、まあそれをやっちゃうと、本作のテーマそのものが失われてしまうというのはあったのかもしれないけど。でも嫉妬がないラブストーリーなんてないと思うんだけどなあ……。
一歩間違えれば偏見、差別と思われるようなオタク的動きというか……エレベーターのボタンをトトトトト、と必死こいて押す様とか、しかしてそれがことごとく充希嬢がキュートで、もうたまらんのである!!コミケに出品する原稿の締め切りが迫り、目の下にクマこしらえてる様さえ可愛いなんて、あ、あありえない。
デジタルで原稿描いてる彼女をオンラインで宏嵩が手伝うシーンとか、部外者にはうかがい知れぬ描写も楽しく、素晴らしきオタクワールドを勉強させてもらったという感謝の気持ちさえ浮かんだり。ザ・福田組俳優の佐藤二朗の可笑しさと言ったらなかったし。いやー、楽しかったなあ。★★★★☆