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「け」


2021年鑑賞作品

現代任侠史
1973年 96分 日本 カラー
監督:石井輝男 脚本:橋本忍
撮影:古谷伸 音楽:木下忠司
出演:高倉健 梶芽衣子 中村英子 成田三樹夫 郷^治 夏八木勲 今井健二 内田朝雄 林彰太郎 沢彰謙 有川正治 北沢彪 北村英三 川谷拓三 阿波地大輔 舟橋竜治 成瀬正孝 鈴木康弘 堀正夫 岩男正隆 野口貴史 高並功 福本清三 北川俊夫 宮城幸生 唐沢民賢 島田秀雄 東竜子 丸平峰子 林三恵 青木卓司 友金敏郎 矢部義章 西山清孝 島巣哲生 松田利夫 ダリーン・ヒサシマ 土橋勇 佐々木俊志 森源太郎 木谷邦臣 田中邦衛 南利明 笑福亭仁鶴 三益愛子 辰巳柳太郎 安藤昇


2021/8/16/月 録画(日本映画専門チャンネル)
ホントにヤクザものは組だの傘下だの配下だの分家だのといった構造が複雑なうえに、その分人数もやたらいるので、判りにくいことこの上ない。いわゆる任侠ものというか渡世ものならば、そのあたりはもちょっと単純なんだけど。
なるほどタイトルに現代、とつくとなると、欲得ずくの人間模様は蜘蛛の巣、網の目、そんな風にこんがらがってくるもんだから、自信がなくて、何度も繰り返し、行きつ戻りつ見てしまった。

主人公は確かに高倉健、なのだが、これはちょっと不思議な構造で、彼はその輪の中からいったん、外れている。今はカタギのすし職人である。
しかも面白いことに、冒頭彼は国際線の飛行機のタラップを降りてくる。その時にはそれこそ、現代とは程遠い、古き良き時代の渡世人のかっこ、着流しに刀を抱えて降りてくるんである。

それはペリリュー島で戦死した父親の形見である。不思議な縁で、博物館で発見されて彼の手に遺品として帰ってきたんである。
そして彼、島谷良一のそのエピソードを取材するのが、週刊誌記者の二木克子である。なんとまあ、美しい梶芽衣子である。梶芽衣子と高倉健のカップリングというのも新鮮だが、強い女のイメージである梶芽衣子が、すっかりこの寡黙な男に恋しちゃって、最後には行かないで、死なないで、とすがりつくっていうのは見ない図だなあと思う。

いまはやくざ稼業から離れているが、かつては松田組の最高幹部、跡目を継ぐと誰もが思っていたほどの実力者だったが、親分の実子の存在で内部をややこしくすることを避け、母親の遺言だからという言い分の元で、島谷は足を洗っているんである。

島谷が飛行機のタラップを降りてくるのと同様に強い印象を残すのが、その次に描かれる、関東、関西のヤクザさんたちが一堂に会する大会議である。音頭を取るのは関西の永井組の若頭、栗田である。ひそかに大好き(なぜひそかにやねん……)安藤昇である。
結果として見れば、こんなに冷徹に頭の切れる栗田が、実は一番純粋で、それゆえにすっかり利用されていたということなんだろう。何度も繰り返して見ても、なんだかそのことが信じられなかったけど、そういうことなんだろう。

栗田が永井の親分の肝いりで持ち込んだのは、競馬や競輪といったバクチのノミ屋を整理統合、その金の流れも一手に整理し、警察からの一斉摘発を逃れ、関西、関東の組が手を組んでいこうというものである。
関東側の関口組がその世話役となり、金を管理する。永井組は必要資金としての数十億単位の金を融通することも辞さない、という内容である。

真っ先にいい話だ、と手を叩くヤカラがいたのには、まあそれなりの根回しはあったんだろうなとは推測するものの、なんたっていかにも切れ者である安藤昇だし、彼は終始、本当に終始、真摯、紳士(シャレじゃないよ)で、彼自身に腹蔵は本当に、なかったのだ。
だからこそ、見ている間、どこを信じていいのか、悪役は確かに判りやすいけれど、その悪役に安藤昇がやすやすと与するなんてなんか考え難くって、だから余計な推測の元にぐるぐるしてしまったのだ。

この、悪役どもの腹蔵を最初から見抜いていたのが、一見して単細胞で短気、あんまり実力がなさそうに見えた(爆)松田組二代目、初治であったこともそんな見方に拍車をかけた。ただただ、気に入らねえな、といちゃもんをつけているだけのように見えた。
それぐらい、栗田が、つまりは永井組、関口組、バックについてる黒幕の政治家、湯浅の陰謀に気づかずにいたってことが、キモだったのだ。理路整然と、これぞ素晴らしき関西と関東が手を組み、警察の手入れなんぞに屈しないで厳しい渡世をわたっていける画期的な作戦だと、めっちゃ説得力あるたたずまいで論じる栗田、それにかみつく松田こそがアホに見えた。

それこそ、配下の中山(成田三樹夫!!ラブ!!)や、分家の船岡(夏八木勲!!めっちゃ泣ける!!)がアホな松田を諫めるようにしか見えなかった。でも松田は頑固に言い募るのだ。総長でなければ見えないものがあると。
観てるこっちも、配下の男たちも、無能(と言ってしまうのは、最終的にはそうじゃなかった訳だからな)な二代目に、もう、イキっちゃって、大人になりなよ、ぐらいに思っていたのだ。

でもそうじゃなかった、そうじゃなかったのだ。確かに彼には最初から見えていたのだ。無能な二代目だと思われていたからこその苦悩、だからこそ見えていたもの。
安藤昇というクールな切れ者の存在感を発揮する栗田でさえ(いやだからこそ、なのだが)見えていなかった老狸たちの欲得ずくの陰謀が、最初から、彼には見えていたのだ。

松田を演じる郷^治氏は、そんな具合に早々に姿を消すんだけれど、まあその死にざまは鮮烈である。大体がさあ、これははぁさっすが石井輝夫、色々ムチャで、色々ハデだから(爆)。
松田が関口をたった一人で襲撃してその命を散らすのは、なんとまあ、ゴルフ場である。あの広大な敷地を、ヤクザさんたち全力疾走である。疲れる(爆)。そしてぶっさぶさに刺されて血だらけにもほどがある鮮やかな赤にまみれた松田=郷氏の死にざま!!

彼はこの決行の直前、本当なら実力から自分ではなく跡目を継ぐはずだった島谷に会いに来ている。つまり、今生の別れに。
てゆーか、島谷にはあらゆる男たちが会いに来るんである。かつての兄弟分である中山が、カタギになったとはいってもそれは変わらないだろう、と、助力を望んでやってくるのは当然としても、意外というか、栗田までもが。

もう結局さ、女なんかいらない、男同士の兄弟分な、腐女子ですら若干イラッとするぐらいの(爆)ヤクザ者同士の相愛感さ。栗田は関西だし、それまでは行き来はなかった筈だし、もちろんこの物語の中でがっつり関わることになるとはいえ、栗田が訪ねてきた時は初対面で、ヤクザとしての訪いではなかったのだ。
戦地で、島谷の父親の部下として共にいたというんである。島谷の父親の、「一世一代の出入りだ」と笑って出ていった姿に彼は感銘を受けている。島谷自身もそうした、まっすぐな正義感を受け継いでいるし、栗田はそれ以上かもしれない。

だからここ一発で、二人がいわば同じ価値観、いやそれ以上に、同じ血を分け合っていることが示される。
やたら兄弟兄弟言われる本作のヤクザ世界だが、二人は地域も違うし、島谷は足を洗ってるし、決して兄弟じゃないんだけど、この序盤のシークエンスで、二人は兄弟だよね!と示しちゃってる訳だ。でもそれこそが、兄弟っつーことこそが、男たちを苦しめまくることになるんだが……。

それにしても、さあ。冷静に考えれば、黒幕どもがバカとしか言いようがない訳よ。黒幕は、栗田の親分の永井、永井が子飼いにしている関口、バックについている政界の黒幕の湯浅といったメンメン。
栗田はその誰もと懇意であるのに、彼らの黒い腹に気づかず、全ヤクザのために自分が働いているんだと思っていたんだから、彼こそがバカというべきなのかもしれないけれど、でもやっぱり、違うよね。

ここまでは彼ほどの切れ者をだまし切って使ってたのに、いわば慢心して、栗田がどうやら事情を察知したと判ると、斬って捨てる方向に出る。
つまりはね、身の程知らずってことよ。カネと名誉の欲にくらんだヤツらは、自分たちに従順な素晴らしい人材を、自分の愚かさ、価値のなさに気づかず、気づいていないのに、自分たちのそのマイナスに彼らが気づいたら、斬って捨てる。それが何を意味するのかも気づかないぐらいにバカなのにさ!!

ああでも、本当に、栗田は、あんなに頭が良くって、親分に崇拝してて、親分が考え出したアイディアだからこそ、関東に対して勝ちたいと思う親分の想いもくんだからこそ、いろいろ動いたのに。
結局は結局はさ、親分が考え出したんじゃなくて、政治家、黒幕、そしてそのあたりのみんなが、自分たちだけの欲得ずくなのだ。いや……人間なんて、いやそこまで言ってしまったら酷なのだとしたら、”現代任侠”だなんてそうだろう。そして、私たち観客が、現代に生きている私たちが、判っているがゆえにバカバカ!と思うけれど、でも……。

ほんっと、悪役どもがバカすぎて(爆)。配下を手名付けてれば手名付けてるほど、自分の欲得で斬って捨てれば、自分に帰ってくるのは明らかなのに。
斬って捨てる、というのが、その存在を消す、つまり殺すことで決着すると考えてしっぺ返しを食らうとは、任侠稼業に生きているとは考えられない。

栗田ほどの人物、彼の死に義憤を感じる人が自分たちを襲ってくる可能性を感じないとは、ああでもそれこそ、現代任侠史、だからなのか。確かに、この義憤で、愛する恋人を抱きしめて「幸せだったよ」(!!!高倉健が言う台詞じゃない!!)と言い捨て、死にゆく斬り込みに向かう島谷はさ、ぜんっぜん、”現代”じゃないさ。

うーん、なんだろうなあ……。最初から高倉健とその他の違和感というか異物感というか、価値観の離れた感じというか、ていうのがあったんだけれど。

ノミ屋を整理統合するという冒頭に象徴される、現代のヤクザ像はそれとまさに正反対で、一見してその旗振りをしている栗田は島谷と真逆に見えるんだけれど、それもまた違う。

いつだって、時代と人間の才能と、その国の社会はうまく合致しない。そして、ヤクザ社会はその中でバンバンその才能が死んでしまうんである。

エロ好きの後輩すし職人、田中邦衛がなんか、癒された。張り詰めた時々に、親方にドヤされながらも、お調子者で、島谷も寡黙ながらも可愛がってさ。
でも、男連中、ヤクザ男連中、みんな死んじゃう。冷静に考えると、笑っちゃうほどみんな死んじゃう。純粋な男気に、溜飲が下がるのかもしれんが、女から見たら、アホか!!と思うさ。梶芽衣子がこんなアホな男によよよと泣き崩れるかっての!!ないない、悔しいわー!!★★★★☆


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