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「ろ」


2021年鑑賞作品

ロボット修理人のAi(愛)
2021年 108分 日本 カラー
監督:田中じゅうこう 脚本:大隅充
撮影:本吉修 音楽:Yuusuke
出演: 土師野隆之介 緒川佳波 金谷ヒデユキ 亮王 岡村洋一 堀口聡 野口大輔 水沢有美 丸山ひでみ 亜湖 ぴろき 大村崑 大空眞弓


2021/7/14/水 劇場(新宿K's cinema)
ラストに驚愕してしまった。ええ、えええ、それまでの展開のテイストから考えれば、私を驚愕させた“解釈”じゃなくって、彼のロボットへの愛が真摯に昇華したとゆーことだと作り手さんが考えているとしか思えなくって、そうだとしたらまた別の驚愕!!
ああ、最初からオチバレはなんだからガマンして書き進めるが、ラストシーンで一気にホラー映画になっちゃったと言ってもいいぐらいだよ!

あ、クレジット後の最後の最後の挿入場面が更にホラー感を加えてくるのだ。まさかあれが、感動を盛り上げるもう一押しだと、作り手側が考えているとしたら……更に怖い!!
そもそも、作り手側の熱い思いはのけぞるほどに伝わって来るけれど、だからこそなのか、すべての要素でモリモリ過ぎてて、なんか疲れちゃう。

一番気になったのは、音楽が最初から最後までドラマチックに彩りまくりなことだった。劇伴という言葉はあんまり好きじゃないが、でもやっぱり映画における音楽というのは、物語やお芝居に寄り添うことが重要なのだ。
それを、普段は考えもしていなかったということは、大抵の映画はそのことをきちんと踏まえているということなのだ。大事なところでグワッと盛り上げてこその、音楽は印象的になる。

本作は画がメッチャキレイで、舞台となっているこの地の美しいロケーション、ことに湖、湖面、墨のような、暗い青の静かな美しさ。まあだからこれが最終的になんかホラーに感じちゃうんだけどね(爆)。
んで、やたらと説明的台詞が多いのも気になった。その人物がこうなった状況を、その場に居合わせた関係者が、そういえばさ、みたいに話し出す。ない、ないわ。そんなことは彼らの間ではすでに周知の事実の筈でしょ。その方法でしか観客側に知らせるすべがないと単純に思っているのならば、これはかなり脚本力に難があると言わざるを得ないなあ。

そもそものテーマ自体は魅力的である。ロボット修理人。実際は電気製品の修理を請け負うラボなのだが、最近特に持ち込まれるのが、メーカーのサポートが終了してしまったAIBOである。
実際、モデルになっている職人さんがいるんだという。AIBOの修理、というのは知らなかったが、かつてワープロ修理に特化して請け負う職人さんのドキュメンタリーを見た覚えがある。

勝手に需要がなくなったと斬って捨てて、サポート終了という形で自分たちが作った製品の責任を放棄するメーカーの姿勢をずっと疑問に思っていた。
それが、代替品のないもの、ロボットとはいえペットとして提供したものなのだから、なおさらこんな非情な話はないんである。

だから、なぜその職人だけのお話で作ってくれなかったのかと、思う。先述した音楽にしても説明的台詞まわしにしても、ここまでやんないと観客は満足してくれない、みたいな、観客を信頼していないような、焦りのような、もっと言っちゃえば自己満足のようなものを感じてしまう。
孤児、児童虐待、祖母との奇跡の再会、それとつながる亡き父、亡き妹との奇跡の邂逅、いやいやいや、盛り込みすぎ以上に、ありえない偶然と奇跡の連続は、最終的には死者か亡霊か、そんなファンタジックに突入し、ええー、AIBOの修理人っていうすごく魅力的な題材だったのに、もりもりすぎて、なんか判んなくなっちゃったよ、とすんごく残念な気持ち。

この修理人、まだ16歳なのに天才的な技術を持つ少年、倫太郎のキャラクターはなかなか魅力的である。演じる土師野隆之介君の、決して演技達者なタイプじゃないけれど、初々しく、劇中の大人たちに可愛がられまくるというのがめっちゃ判る感じ。
それにしても清掃バイト先の色っぽい奥さんに、風呂場で身体洗われて、バラのとげで負った肩のかすり傷にチューされるなんて、あのエロ場面はなんだったんだ。これまた盛り込みすぎのひとつかしらん。なんか、思いついたものはとりあえず入れとこうみたいな、まとまりのなさはそこここで感じるのよね。

倫太郎は修理ラボ、清掃業者で働き、夜には旅館に顔を出して皿洗い、ほかにも声をかけられてボートのエンジンの修理やら、博物館のおもちゃの修理などを請け負う。高校には行っていない。彼はかたくなに、自分でお金をためて大検を受けるんだと譲らないんである。
後々判ってくることには、倫太郎はネグレクトに遭い、瀕死のところで助け出されたという経緯がある。しかし彼には養母的な存在がいるらしく、アメリカに行っている彼女から養育費を送ってもらっている。

そして、この地方都市で彼を心配し、可愛がり、重宝する大人たちに見守られながら生活しているんである。
実際、修理の腕、清掃の腕、旅館の洗い物のバイトまで重宝されまくる彼は、皆が大好き倫太郎なんである。こーゆーとこも、盛り込みすぎなんである。

本作の大物ゲスト、大村崑がまた、盛り込みすぎを加担する。湖畔で釣りをしている彼は、今やこの世の人ではないことが後に明かされる。湖畔で彼が妻と共に待っているのは、死んでしまった娘がよみがえってくること、なんである。
この湖にはそんな伝説があると、ボートのエンジン修理を頼んだおっちゃんが倫太郎に語る。この時点ではまさか倫太郎自身にその伝説が関係してくるとは思いもよらなかった。そんなモリモリの展開にしてくるとは。

倫太郎は清掃のバイト先で言葉の不自由な女の子、すずめと出会う。発声と足が不自由なのは、見つかった時に仮死状態だったから、というのがあの説明的台詞で解説される。
見つかった時に??とゆーのがね……そんな偶然あるかいな。あーもう、オチバレもいろいろ面倒だからこのあたりからはじゃんじゃん明かしていきますけれども、すずめちゃんは倫太郎のまぶたの妹さ。

まぶたの、で判るでしょ。倫太郎は淡い初恋みたいな感じで彼女と出会い、お祭りに行ったりなんだり胸キュンな時を過ごすけれど、それもみんなまぼろし。手引きをしてくれたガスタンクとあだ名されている巨体の青年もまぼろし。

すずめちゃんが倫太郎にくれたお守りの中に入っていたメモリーカードには、赤ちゃんのすずめ、妹が気になってならないお兄ちゃんの倫太郎、そして、お父さんの姿が映っていた。
そして、そのお父さんの姿は、修理を依頼されたAIBOの中に入っていたメモリーカードの中に、赤ちゃんを抱いて映っていた男性であり、その口の動きですずめちゃんが、「名前を言ってるよ。リンタロウ、同じ名前だね」と言っていた、同じ人だったんである。

そそそ、そんな偶然あるかい!!依頼者からのAIBOに差し込まれていたメモリーカードに父親と赤ちゃんの頃の自分が映っていたってだけで、ないわ!!ぐらいに充分すぎるのに、亡き妹て!そりゃないわ!!これぞ運命とか言いたい訳??
……気持ちは判るが。社会的訴求をしたい気持ちは判るが。でもだめだよ。分裂しちゃうよ。逆に、こんな重い社会的テーマを片手間に、あるいは自己満足のために入れ込んだと感じてしまうよ。

あるいは……倫太郎が家族を、家族の愛を求めて、あのコワいラストに到達したというんなら、このとっちらかりをなんとか収拾できなくもないかなと思う。でもそうじゃないでしょ。
倫太郎はロボット工学の才能、それへの向上心がハンパなく、若さゆえのプライドで自分自身の稼ぎでその学びの道に進みたいと思う、ほんっとうに、理系男子、機械を、ロボットを、愛する男子な訳さ。

倫太郎が清掃のバイト中に開発中のロボットを覗き見る場面があり、これこそホラー的なラストに通じる重要な場面である。私も見覚えのある、かなり話題になった、人間そっくりのロボット、というか、こうなるとSF的にアンドロイドと言いたくなるリアルなロボット。
倫太郎はうわあ……という表情で覗き込んでいる。この時点では、あくまでロボット少年がその技術に感嘆し、自身が鼓舞された、ぐらいに見えていただけだったのだが。

だからさあ、もりもりなのよ。AIBO修理というだけで、魅力的だったし、それだけだからこそ、魅力的だったと思う。なのに、おもちゃの修理、ボートの修理、そこまでならいいわさ。アンドロイドに遭遇しちゃったら、そりゃその後の展開を考えるわさ。
後から考えればそりゃまあね、倫太郎が所属しているラボの所長は、いずれロボットは心を持つようになる、とは言っていたさ。私だってそれなりにSFエンタメに触れて来たから、それに異存はない、そう思ってる。

でもさ、本作の展開の中では、それは正直後付けとしか思えないよね。倫太郎が淡い恋をしたすずめちゃんが、まぼろしだったと知り、しかも妹だったと知り、自身虐待を受けていたこともあって妹の存在をすっかり忘れ果てていたことに苦悩し、エトセトラエトセトラ、でさ!!盛り込みすぎだろ!!
んで、ちらりとバイト中に出会っていたリアルアンドロイドをさしはさみ、大学進学を控えたとおぼしき三年後がクレジットされたら、彼の目の前には、幻の筈だったすずめちゃんが、別れを惜しんでいる。

えー!?どーゆーこと??そしたらカメラが引き、すずめちゃんには電源が引かれていて、赤くランプが明滅しているのだ。一気に、ゾッとした。アンドロイド。彼が作ったアンドロイド。
それを、なんかこの展開の雰囲気では、倫太郎がロボット工学に邁進して、こんな境地にまで到達したよ、と言わんばかりの雰囲気なのだから!

倫太郎は、修理の依頼で奇跡的に祖母に出会い、知らなかった過去に次々遭遇する。
祖母は息子の忘れ形見と奇跡の再会を果たしたことに歓喜、一時は倫太郎と暮らすプランまで行ったのだけれど、倫太郎自身がこれまで通り、この静かな湖の町で暮らし続けることを望み、大学進学の折にはお世話になるかもしれない、と告げる。

しかして、3年後、アンドロイドのすずめに彼が告げるのは海外留学であり、倫太郎、いろいろヒドすぎない!!と、もう、なんか、頭クラックラしちゃう。
いろいろ社会問題モリモリにした結果、倫太郎は妄想の中で出会った亡き妹を造形し、それを恋人にし、せっかく(奇跡の再会を果たしたおばあちゃんを捨て置き、海外に留学するってーのだ。何それ!!

しかも先述したが、ラストクレジット後にわざわざ付される乙女チックなワンシーンが、コワすぎる。それまでは静かな湖面を見せていたのが、ザザー!!と海みたいな寄せては返す波を見せ、その中から現れ出て、満面の笑みを浮かべて近寄ってくるすずめちゃん。コワすぎるだろ!!
劇中、死んだ筈の娘がよみがえって静かに湖から現れ出る場面があったが、それは神聖な雰囲気だったけれど、この無邪気なすずめちゃん、めっちゃ怖いんですけど!!もうこうなると、作り手さんの意図が判らないよ……それが一番怖いかも……。

でも一番怖いというかビックリしたのは、金谷ヒデユキ氏の老け具合だったかも(爆)。キャストクレジットに名前を見つけた時から、どれ?誰?え、まさか……が当たっていた衝撃はまあその。ボキャブラ世代はいろいろ変遷がありますなあ。★☆☆☆☆


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