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猫のように 不倫妻の吐息(爛れた関係 猫股のオンナ)
2019年 70分 日本 カラー
監督:工藤雅典 脚本:工藤雅典 橘満八
撮影:村石直人 音楽:たつのすけ
出演:並木塔子 相沢みなみ 長谷川千紗 佐々木麻由子 竹本泰志 深澤和明 古本恭一 森羅万象 飯島大介 なかみつせいじ
しかし彼、雄一はさっそく愛する妻、鈴にLINEを送る。しかして彼女が返信することはない。なぜならその時、ダブル不倫の相手とズッコンバッコンやってるから、なんである。
いかにもピンク的な始まり方だな、と思うが、そのすぐあとに悲劇が待っている。鈴の不倫相手、雄一の同期であった砥部と、雄一が戻ってくることを起因にしてもみ合いになり、砥部が鈴を走りくるトラックに押し出すような形で事故になった。
砥部は死に、鈴は軽傷だったが病院から姿を消した。つまり雄一は本社に呼び戻されてから一度も鈴に会っていない。しかも彼女はスマホを置いて行ってしまった。連絡のつく筈もない。
てゆーか、観客の私たちも事故後の鈴を一度も見ていない、ということがなんとなく異物を飲み込んだような違和感があるんである。
中盤、雄一は鈴にそっくりなデリヘル嬢と出会う。その内ももに鈴にはある筈のほくろがないことで、しぶしぶ別人だということを雄一は認めるけれども、この時点でなにかこう……幽霊に会ってでもいる気分になってくる。
あるいはそれほど似てもいないのに、雄一がことさらに錯覚を起こしているのか。でも雄一は少しほっとしている、と吐露した。吐露した相手はふらりと入って常連となったバーのマスター。
その店はまさに招き猫がごとく、カウンターにおとなしいにゃんこが鎮座しているという、私のよーな猫信者にとってはよだれの出るような店だが、雄一以外に客のいたためしはない。まあ予算上の都合もあろうが(爆)、飲食店で、猫の毛を嫌う向きは多かろうと思うが……もはやそこは、猫カフェならぬ猫バーという入り口にしとかないと成り立たないだろうな……。
何故地方にトバされていたのか理解に苦しむほどに、雄一は本社に昇進の上呼び戻されるだけの実力があったらしい。
着任して早々、亡き砥部(の、後任だった訳)のミスで取引先を怒らせたのを、ご挨拶がてら、と相対して、逆に新口の大きな取引を引っ張ってくるもんだから、部下たちはすっかり雄一に心酔しちゃうんである。
それというのも、どうやら前任の砥部が雄一とは対照的にいい加減なヤツだったらしいことが、口さがない部下たちの口調の端々から察せられるのだが……部下たちっつっても、二人しかいないけど。
プレハブみたいな社内の一室といい、本社に呼び戻されるとか、この会社の体質はとかいうほどの組織めいた雰囲気が感じられないのは、まあピンクではありがちだが、なかなかキツいものがある。
だって脚本上は決してそうじゃなく、それなりに組織立っていて、その中での人間関係や問題が起こる、という図式が見えているし、社長室だけは立派なんだもの(爆)。
砥部の葬式で、砥部の妻と娘に遭遇した。娘は憎しみをあらわにし、妻はそんな娘をたしなめた。お互い、知らない間に浮気されていた同士。そして砥部の妻、まなみは夫に死なれてしまった。
ある意味当然のごとく、お互いの喪失を埋めあうように雄一とまなみは、一度だけ関係を持つ。一度だけ、そう、一度だけだった。でもその一度も持つべきじゃなかったのかもしれない。
まなみに扮する佐々木麻由子氏、いや御大、いや巨匠と言いたくなる。彼女のもつ、人妻感、未亡人感、喪失感、エロさが痛ましいまでの哀しさを持つ、これはキャリア以上のものを持っていなければ得られないものだ。圧倒的な説得力。
彼女の娘がパパ活してて、うっかり雄一と親子どんぶりになりそうな妄想になるけれど、そうはならない。佐々木麻由子が母ならば、この娘ちゃんなんて、そりゃ美人でスタイルも良くて、裸も見せちゃってくれるけれど、あったかくして帰って寝なさい、と言わせちゃうぐらいの、母、佐々木麻由子の存在感が、あるんである。
でも雄一は、部下の女性、美和とうっかりヤッちゃう凡ミス犯しちゃうのは、いくらピンクでもダメでしょと思ったけどねー。
だって一度は美和からの誘惑に、妻の喪失に落ち込んでいた彼は、そんな気にはなれない、と冷たくあしらって、彼女の方もハッとして、胸元を掻き合わせたぐらいだったのに、その後、休日出勤している雄一を訪ねた美和と、あっさりズッコンバッコンやっちゃうんだもん。なんかガッカリしちゃう。
そして、美和にホレてる彼女の同僚男子が、彼は有能な上司の雄一に心酔していたし、雄一は彼の美和への想いを見抜いてて、アタックしなきゃ、とけしかけていたんだから、そりゃーこんな裏切り、とゆーか、雄一のあまりの軽率さに憤るのは無理ないことだわさ。
これはいっくらピンクとはいえ、やっちゃいけなかったよねー。砥部の妻、鈴にそっくりのデリヘル嬢、までは、説明がついたけれど、これはダメだよねー……。
ピンクだからカラミ要員、カラミ尺は必要だけれど、物語自体がシリアスなだけに、やっちゃいけない相手や気軽さが、もったいなかった気は、するんだな。
だってさ、雄一は当然、姿を消してしまった妻、鈴こそに、心を寄せ続けて、でも砥部と浮気されて、砥部は死んでしまって真相が判らないまま、連絡もつかないまま、残されたスマホはロックがかかったまま、そんなもやもやした中なのだからさ。
でも、砥部の娘である茜との交流はちょっと、心に響くものがあった。砥部の葬儀の時、吐き捨てるように雄一に悪意を見せたのは、そりゃ当然のことだった。偶然の再会は、雄一の取引先の部長が、アパレルの経営者だと偽って、茜のパパになっていたことだった。
パパ活なる昨今の不可解な社会現象は聞き知っているが、雄一にはセックスなしにそんな都合のいい関係が築けることがにわかには呑み込めなかったし、なんたってその相手が、森羅万象氏はどっちのキャラもできる役者さんだからなあ……。
案の定、茜はある日、SOSを雄一にかけてくる。何か飲まされた。助けて、と。雨の中慌てて駆け付けた雄一は、身分を偽っている滝口にその事実を突きつけ、ふらふらの茜を抱き取った。
風呂場でゆっくりと温め、衣服を脱がせたり、ヤバい雰囲気はありありだし、茜も好きにしていいよとか、ピンクありがちなこと言うし(爆)、心配したけどそうはならない。あー良かった。この展開で親子どんぶりはサイアクだもん(爆爆)。
ホント、ここが、決め手だったなと思うんだよな。雄一は部下ともズコバコ、妻の不倫相手の妻(ややこしいな)ともズコバコ、妻にそっくりなデリヘル嬢ともズコバコ、こう書いてみると結構サイテーだが、茜とはヤラなかったのは心底ホッとした。
茜がパパ活なんぞやっているのは、死んだ父親の砥部が、部下たちの評価だけでなく、娘からの評価もサイテーだったことからも判るように……つまり茜はパパに飢えていた訳で。
だから雄一は確かに憎むべき相手だけれど、それは母を悲しませた一端を担っているという意味合いであり、父親の不倫相手の夫だから、ということじゃない、んだよね。
なんとまあ、フクザツな。そして雄一もそれを充分判っているからこそ、一糸まとわぬ姿になった妙齢の茜の姿に動揺することなく、妻が残していった服を、まるで幼子に対するように着せてあげて、気を付けてお帰り、と送り出すんである。
雄一は、妻のスマホのロックを解除できないでいた。パスワードがどうしても判らない。でも一方で、判ってどうなるものかとも思っていた。
自分に隠れて不倫して、相手を死なせて姿を消した妻のスマホの中身をのぞいたところで、更に傷つくだけではないかと思う気持ちは、判りすぎるほど判る。
それを、バーのマスターがあっさり解読した。それは雄一の誕生日。彼にとってはまさか、だった。妻の誕生日やらなんやら、彼女周辺の思いつく限りは散々試してダメだった。
まさか自分のと思わなかったのは、ヤハリ彼女の浮気の末にこの事態に至っているからというのがあったんだろうが、結局はそれが、愛の証明になり、スマホを残していったということが、私を探してということだと雄一は思い、観客だって思い、マスターも探しに行くんですね、と優しく微笑む。
しかしここからが、なんというか、何とも言えぬ展開になる。展開、と言っていいのかどうか、という感じである。
雄一は、妻のスマホに残された自分たち二人の仲睦まじい写真の数々にまず涙し、その愛を再確認する。そして、妻の行き先の手がかりを、無数に残された海辺の写真に得るんである。
マスターの慧眼で、九十九里ではないかと推察される。美和とのズコバコを彼女にホレていた男子部下にバラされて辞表を出した雄一は、妻を探しに行こうと思い立つ。そしてここからが、……夢か現実か、という感じなんである。
海岸に立ちすくむ妻の姿を、とらえはする。でも一度目は、彼女は振り返らない。そのシーンの後、夢かうつつかの、雄一は妻と睦ごとをする。
”あっち”で私を想ってオナニーする?”あっち”に行っちゃうんでしょ?そう彼女は言って、お互いオナニーを見せようと言う。あっち、って、どういうこと?雄一はどこに来ているの?ここはどこ?これは夢じゃないの??
やっぱり最初に感じたように……姿を消したっきりの鈴はこの世におらず、雄一は夢の中であの世の彼女に会っていて、そして最終的には、”あっちからこっち”に吸い寄せられたんじゃないの??
途中はいかにもピンクっぽい、下世話なセックスシーンも多いし、それやっちゃダメだよ!!とかゆー展開も多いんだけど、冒頭の異質感から、夢か幻かのラストシーンに挟まれると、なんかすごく、悲しく美しい愛の物語だったのかもしれないと思っちゃったりして……。
猫のいるバーを雄一が継ぎ、また彼があらたなる猫を迎えるあたりに、猫好きはキャーと思っちゃうしさ!★★★☆☆