home! |
ノイズ
2020年 128分 日本 カラー
監督:廣木隆一 脚本:片岡翔
撮影:鍋島淳裕 音楽:大友良英
出演: 藤原竜也 松山ケンイチ 神木隆之介 黒木華 永瀬正敏 伊藤歩 鶴田真由 寺島進 余貴美子 柄本明 酒向芳 迫田孝也 波岡一喜
最初から、判り切っていたじゃないか。わざとらしく繰り返し中学生の頃の彼らの、運命が変わってしまったその時を回想しなくたって、判っていた。
圭太と加奈はその時から想い合っていて、純は加奈に片思い、の図式。ただ、“運命が変わってしまった”その時ってのが、あまりにもシビアなそれだったものだから……彼らの親たちの乗った船が荒天で、もう救出に行くのも出来ない、荒れ狂う嵐の海に絶望のまなざしを投げるしかない、そんな出来事だったのだから……。
一気に両親を失った同世代の島の子供たち、ことに仲良し同級生の三人は、大人になった今でも家族のように付き合っている。ただその二人は夫婦、一人は独身、また言っちゃうが、何度も繰り返し回想しなくたって、角度を変えて純が二人を見ているのを確認させなくたって、純が加奈を好きで、今でも好きであることは判り切っていた。
角度を変えて、は現在の時間軸でもあった。これも判り切った確認だった。車から降りずに二人が抱き合っているのをじっと見ている純。
……物語の経過を何にも進めずに純の、つまり松ケンのことばかり書いてしまうのは、私が彼のファンだからに他ならないのだが(爆)。
さっきオチバレと書いちゃったけど、ホント、彼をキャスティングした時点でオチバレだったかもしれないと思うほど、なので、結構こういう、しつこい回想の繰り返し、しかもわざわざ一度目には見せなかった角度を二度目にとか、なんかバカにされてる気がしなくもないなあ、と思っちゃうんである。
オチバレマックスで言っちゃうと、純が加奈のことを想い続けていたことを究極の形で、圭太一人に罪を科す画策をしていたことが明かされる大オチが披露された後に、純の一人暮らしの部屋に加奈の写真が無数に貼り付けられているのを示すのは、うーん、どうなのかなあ。
だって彼らは「すぐそこ」であるほどの近所で、行き来する仲だったんでしょ。自室に入れなかったということなのかもしれんが、それにしてもあんな判りやすく、ちょっと気持ち悪い粘着質を示すような描写は、不自然っつーか、なんかいきなり、コイツはキ印だと言っているような気がして、ないかなあと思っちゃったんである。
本作にはところどころ、そうした部分が見え隠れするような気がする。かなりマンガチックにキャラづけされる余貴美子氏や永瀬正敏氏もそんな匂いがする。
この島の町長を演じる余氏に関しては、彼女自身がそれを充分に判っていて、振り切って演じているのが面白いのだけれど、永瀬氏に関しては、彼はそういう余剰がもともとないというか、それが素晴らしい役者だということなんだけれど、本作、この役に関して言えば、うぅ、なんかクサすぎる……とついつい、思っちゃう。
ポマードで固めたオールバック、黒いコートを翻し、鋭い直感で彼らを追い詰める刑事は役に没頭する永瀬氏ならではのカッコよさなのだが、悪い意味でのマンガチック、深刻なクサさというか……上手く言えないなあ、この違和感。
そろそろどんな話なのか言えよ、って(爆)。平穏な島に侵入してくる不審な男。そう、これも見るからに不審な男。渡辺大知君は、純情な男の子のキャラクターを持っているからこその、この不気味な不審者がおっそろしくリアリティがあって、そうか、こういうことが出来ちゃう、裏返しに出来ちゃうんだ!!と思って、慄然とする。だってこれまでは、彼の純情キャラに癒されてばかりきたからさぁ……。
ペットボトルのいちごミルクをがぶ飲みしながらフラフラ島を歩いている彼が何者なのか、最初から彼らが知っていれば、事故で死なせてしまったと素直に認めることが最善だとそりゃ判ったに違いない。
でもこの時には判らなかった。圭太の娘が行方不明になり、慌てて探し回った先に、見かけた不審者である彼がいて、幼児性愛者の言動ダダもれだったもんだからさ。
圭太と純、そして彼らの弟分で、島の駐在として着任したばかりの守屋真一郎、皆から真、真ちゃんと呼ばれる可愛がられまくっている神木君演じる初々しいおまわりさん、もうこいつはヤバいともみあいになり、突き飛ばした拍子にコイツが頭の打ちどころが悪くて死んじまう、んである。
冷静に考えれば、ぜぇんぜん、フツーに申し出ればいいだけの話。しかも警察たる真一郎がその場にいて、すべてを目撃しているんだから。不可抗力。それで済む話。
なまじ、正当防衛なんて言葉が出てきたからいけなかったのかもしれない。言い訳のように、隠蔽のように聞こえなくもないから。不可抗力だ、どう見たって。もみあって、振り切ったら、勝手に頭を固いところにぶつけた。それだけだったのに。
歯車が狂っていく、というのはこういうことかと、目の当たりにする感じである。今、島が大事な時期にあるということ。過疎状態、若い人はどんどん島を離れていく、その中で圭太が島の名物として黒イチジクの栽培を立ち上げ、全国から注目されるまでにした。テレビの取材が来て、国からの交付金も内々に決まって、圭太は島の救世主だと持ち上げまくって大盛り上がり。
そんな時に事件が起きた。先輩駐在からこの小さな島を守るためには、がちがちに法律を守るのではなく、柔軟になれと真ちゃんは言われた矢先だったことが、不幸だった。
見誤ったのだ。柔軟な忖度の尺度を。島民のかさぶたになれと、先輩駐在は言った。いい言葉、いい考え方だと思う。でもそれは、かさぶたになれるだけの経験とスキルがなければこうやって見誤ってしまう。
かさぶたどころか流血してしまう。真ちゃんがこの不審者を埋めてしまおうと言ってしまったことが、確かにすべての始まりだった。
でも、そう……永瀬氏演じるベテラン刑事から問われるように、純はいつから、誰も悪くない筈の始まりだったのが、もうのっぴきならない犯罪になってしまっていくすべてを、圭太のせいにして、刑務所に押し込んで、加奈のそばに自分がいる状態にすることを、目論んでいたのだろう??
不審者の死体の処理を巡ってすったもんだしているところに、偶然の目撃者であるボケかけたじいさま(柄本明)の進言によって町長が入り込んでくる。ピンクピンクの派手な町長、サイコーである。いかにもワンマン、それでいて自分は島のために働いていると信じてやまないあたりの狂信的な傲慢さ。
彼女が純に言い放った、「あなたが罪をかぶりなさいよ。一度ぐらいは島のためになったら」というあの台詞が、純を狂わせた。いや、単なるきっかけだったと言った方がいいかもしれない。純にとっては本当の自分になるためのキッカケをくれた恩人と言ってもいいかもしれない。
そのためにはこの町長をぶっ殺し、死体を増やして、島のスターである親友をさらなる窮地に陥れなければならないんである。
予告編を観た段階では、こんなに死体が増えるとは思わなかった。うっかり死なせてしまった不審者のことで右往左往するってだけかと思ったら、なんか次々に死んじゃうし、三人だけで隠蔽し続けていると思っていたのが、どんどん島民を巻き込んでいっちゃうし、ええーっ!?という予想外の展開。
それがゆえ、本土から乗り込んでくる永瀬氏や伊藤歩氏演じる刑事たちは、島民みんながグルだから、敵意まる出しに拒絶されちゃう。永瀬氏演じる畠山はそのあたりいかにもな、キレものの、嗅ぎまわる刑事だからそらそうだよなと思うが、ふっと落ち着いて考えれば、有効な情報を得たいと思うなら、したたかに下手に出て、聞き出す技術を持っている方が本当のキレ者なんじゃないかなあと思っちゃう。永瀬氏の演じ方に感じるウソっぽいクサさはそこかなあと思っちゃう。
それはもちろん、彼のせいではなく、作劇のせいに他ならないんだけれど。まぁとにかく、そんな感じで、死体は増えるし、共犯者は増えるし、もうのっぴきならない状態になって、何より真ちゃん追い詰められて、ウソをつくことが耐えられなくなって、でも最後の最後にまさにウソをついた動画を残して自殺してしまう。
マジメな性格故、汚さないように、駐在所を丁寧にビニールで目張りして、口にピストルをつっこんで、発射した。
すべてを見通していた畠山は純に、守屋(真ちゃん)が死んだことだけが予想外だっただろうと図星を指す。純は当然渋面を作って知らんふりをするけれど、そのとおりであり、そして畠山だって、それを追及することはできないのだ。
いやでも、どうなんだろう。畠山は、このままで済むなよ的な台詞を吐いていたし、この後純を追い詰める気なんだろうか……??でもさ、追い詰めたのは純じゃないよね。畠山だというのも単純すぎる。真ちゃんにこの島を守る秘訣を教えた先輩駐在であり、それが起点になっての、抗いようもない流れ、だったのだ。
純が圭太を陥れた経過だって、上手く行くかどうかさえ判らないイチかバチかだ。自分が自首して圭太を守るというぶつかり合いを充分にした後の、圭太が決断した自首だったのだから。でも……。
結果的にはさ、すんごい人間心理の深さを描いている作品なんだけど、ところどころにこんな具合にほころびがあるというか。個人的には大好きな松ケンの熱演が、こんな具合になんとなーく、薄く着地してしまった気がして。
刑務所に入った圭太が妻の加奈に「純のことを信じてやってくれよ」というのは、つまり、彼も、そして彼女も、そらー純の気持ちも、そして今回の経過も、判ってたってことじゃん。
つーか、気持ちに関してはずっと判ってたに違いなく、その上で、仕事を手伝ってもらったり、子供をあやしてもらったり、一番ヤバいのは、うちの社員になれよと言ったりさ!!
純は猟師で、害獣駆除の仕事をしており、銃を使える、害獣を保管する冷凍庫がある、ってことがこの物語のキーポイントになる訳なんだけれど、純がこの仕事を得た経過、その仕事へのプライド、プライドのある銃を向けた犯人とのやり取りでの、そのプライドの持って生き方とか、すんごく、深いと思うんだけれど、そこんところは、これで終わり?と思っちゃった。
片思いの女の子の写真貼りまくりの描写で終わっちゃうってのはさぁ……。純のことを信じてやれよ、なんて憐れまれて終わりなんて、あんまりだわ。勇者の視点で終わりじゃん。★★★☆☆