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「そ」


2022年鑑賞作品

それぞれの花
2022年 80分 日本 カラー
監督:中前勇児 脚本:中前勇児
撮影:斑目重友 音楽:
出演:尾上寛之 齊藤英里 山口大地 君島光輝 永山竜弥 高橋健介 仁科貴 岸明日香 西本ヒカル 藤江萌 橋本一郎 鈴木秀人


2022/11/6/日 劇場(池袋シネマ・ロサ)
若き名バイプレーヤーと言いたい尾上寛之氏の初主演ということと、80分という見やすい尺とで心惹かれ足を運んだけれど、まぁちょっとまぁ、厳しい厳しい。

全シーンをワンシーンワンカットで撮り上げた、というのをウリにしているのだけれど、それって果たして効果があったのかしらん……??確実にワンシーンワンカットだと判る、動線に注力し、演者とカメラが縦横無尽に、それだけ緻密に計算されて撮られている、というシーンは2つぐらいかなぁ、という印象。もうそれを最初に示しちゃって、そしてこのクライマックスに持ってくるんだなと判ってしまうもんだから……。
確かにどのシーンもワンシーンワンカットだったのだろうが、シーン自体の尺が大した長さじゃなかったりすると、例えば居酒屋の動線を計算されてカットを割らずに撮られているからといって別に臨場感は感じないし、逆にヘンに厨房の中とか不自然に見切れちゃったりして、ダレた印象にもなったしなあ。

そしてワンシーンワンカットにこだわったが故の弊害は、その中で芝居を成立させなきゃいけないがために、なんというか舞台調というか、何とも言えずわざとらしい、声を張ったクサい芝居(爆)になってしまって、興ざめしちゃうのだ。
決して芝居がヘタだというわけではなかろうが……まさか……でも尾上氏以外、同僚役の同じ世代の役者さんたちが総じてヤバい芝居に見えるのを、ワンシーンワンカットのせいにしちゃいけないのだろうか、どうだろうか(うーむ、段々危険な方向へ向かってる……)。

ことに首をかしげてしまったのは、尾上氏演じるまりおのチクりによって更迭されてしまった元上司とその子分が、職場であからさまに暴力行為に及ぶシークエンス。
いかにもなチンピラ芝居だし、そもそもこんな、職場で胸倉つかんで殴りつけるなんてことが、誰も止めずに横行していることが疑問で、しかもこの上司と子分の芝居がサイアクにクサいし(爆)見てられないんだもの。

……なんかどんどん、口が悪くなるばかり。物語に行かなければ。
ここはどういう企業なのだろう。研究所兼工場、みたいな。まりおは技術や発明に長けているらしく、上からの覚えめでたく給料もいい、らしい。というのはまりおの親友、という仮面をかぶって実は裏切り者の(あ、もうオチバレ言っちゃった(爆))幸太郎が懐事情のいいまりおから習慣的にカネを借りまくっている冒頭からなんとなく察せられる。

そしてこの冒頭から、幸太郎はいかにもまりおを心配しているように見せながらも、オクテな彼を実は見下していることが、なんとなく判っちゃうのは何故だろう……。だって幸太郎は普通にイケメン君、こんなこと言っちゃアレだけど、まりおのような男子と友達になるタイプじゃないし、いかにもそこには裏がありそうなアリアリなんだもの。
まぁでも、正直見ている時にはそこまで思っていた訳じゃない。ただ、芝居がクサイなぁと思っていただけ(爆)。

まりおは技術に長けた、つまりは機械オタク、工学オタク的なところがあって、その腕が会社に評価されているんだけれど、それを感じさせる描写が何一つないのがツラい。
まりおを逆恨みする元上司や、まりおを裏切る幸太郎の台詞から察せられるばかりで、まりおを認めている上司なり幹部なりの言葉がかかるとかいう場面もないから、まったくリアリティがない。
まりおが突然会社を辞めても引き留めるあれこれもないし、組織としての描写があまりにも空疎というしかない。まりおの秘密の性癖が物語のメインになるのだけれど、社会での、職場での彼のスタンスがきちん観客に伝わらなければ、結局ただのやべぇやつ、共感なんて一ミリも出来ないヤツになっちゃう。

共感させる気がなかったのかもしれないけど(爆)。まりおの秘密の顔はストーカー。でも、これはストーカーと言うべきなんだろうか??ストーカーっていうのは、相手にそれと知れていて、恐怖を与えて、そのことを楽しんでいるサイコパス、みたいな認識で私はいたんだけれど違う??

まりおの場合は、相手に知られずに侵入、飲みかけのお茶やら部屋干しの下着をちょうだいして興奮し、彼女のベッドにもぐりこんでご自愛に至る、という、まあサイアクのヘンタイだし、完全に不法侵入罪で捕まる案件だけれど、これはストーカーじゃない、よね??
交際を迫ったり、脅したりなんてことはまりおには出来る訳もなく、ただただ、気になる女子を覗き見したい、そのパンツを嗅ぎながらシコシコしたい、時には彼女が連れ込んだ男とセックスしているベッド下に潜んで最高のコーフンを味わうだなんていう……ストーカーじゃなくって、不法侵入したヘンタイ男なだけ。

ストーカーという犯罪が、現代において重い社会問題になっているだけに、この決定的なはき違えは重罪だと思っちゃう。まりおのしている行為は確かに犯罪だけど、彼が同僚たちに趣味だと言い張っているように、見つからなければ、迷惑を賭けなければ、痕跡を残さなければ、趣味だと押し通すことも出来なくもない、かもしれない。
浮気はバレずにやれよ、というのと一緒?ちょっと違うかなあ……。でも絶対これは、ストーカーじゃないもの。アダルトものによくある、覗き見、盗撮の興奮ネタなんだもの。だってまりおはストーカーになれるだけの、相手との交渉を持っていない。あの人に付きまとわれている、という恐怖を与えられていない。ストーカーの意味合いを間違って発信していることが本作の最大の過ちだと思う。

一人、ベテラン役者が目を惹く。彼ら行きつけの居酒屋店主、演じるは仁科貴氏である。彼はまりおの理解者、というのも、自分もストーカーだったから。
まりおがストーカーであることが明かされない前に、ワカモンたちの飲み会にしれりと参加して吐露する衝撃の告白、の筈なのだが、へーそうなんすか程度にスルーされる。まさかそれが、後々まりおに投影されるとは思いもよらず、なのだが。

この店主はまりおが幸太郎にハメられて悄然としているのを見かねて、話を聞いてくれる。ズバリと、あいつに裏切られたのかと切り込む。長年店をやっていれば、そういう人間性は判るんだと言う。
まりおの性癖とやっちまったことも聞いてくれて、あたたかく肩を叩いてくれるけれど、結局この居酒屋の大将は、まりおに何一つ実のあるアドヴァイスを出来たとは思えない。やたら巨乳を強調し、日本酒好きのバイト女子も全くインパクトなかったし。

店に飾られている造花の花ことばがキーポイントになっているんだけれど、店主が関わっている訳じゃなく、幸太郎がその花言葉を頂いてまりおを誘い込んだにしても、あんまり効いてないっつーか……結局はパソコン画面でのやりとりでまりおを陥れるだけで充分だったんじゃないの??
……ああそうか、タイトルにしちゃってるからな、それぞれの花、って。花言葉、だって。それが造花だという哀しさを描ければよかったと思うけれど……。

技術力の高さを買われて給料はいいけれど、今風に言えばコミュ障であるまりお。演じる尾上氏は、うっそうとのばした髪に、ちょっとたるんだ体形に見えるのは、役作り、なのだろうか?
彼が恋する、他部署の女子、杏奈は、いかにも別世界の女子だった。同じ工場内なのに、部署が違うだけでこれほど違うかというほど。まりおが従事する工場、というか、研究所、というところとは違う、可愛い制服を着て、ばっちりメイクをした女子社員たちがわらわらいる、よれば合コンの話しかしていないような。

これもねぇ……。正直、制服着て女子会という名の合コンの打ち合わせしている20代OL、という図式が、うっわ、いまだにこんな描写すんのかい。平成のバブル期でそんなんも崩壊したんちゃうの、と思っちゃう。
今度こそいい男捕まえるとか、めちゃくちゃバブリーで何十年前よ、と思っちゃう。それともいまだにそういう感覚なのだとしたら……めちゃくちゃガッカリと思うが、これは、ないよ、ないよね??作り手さんがいまだに本気でこういう感覚なんだとしたら、問題だと思うなあ……20年前の感覚だよ、これは。

幸太郎が、杏奈と付き合ってるんだと、侵入してきたまりおに居丈高に言い、キモいんだよ、友達だと思ったことなんてない、と吐き捨て、嘲笑し、ついには警察に張らせて引き渡しちゃう。
正直、まりおの完全に犯罪行為である、自身の性癖を満足させるためだけに不法侵入する様には、そらあ、杏奈でも幸太郎でも誰でも、キモいんだよ!!と言うだろうし、ダメだし、これがやめられないんだとしたら疾患として治療すべきだし。

……という根本的な部分をしっかり踏まえて作劇していたのかという疑問が、もう冒頭から、ずーっと、思っちゃう、思い続けちゃう訳。
正直言って、主人公であるまりおへの愛が、まず感じられない。彼がこの欲求をどうしようもなく繰り返してしまうことへの共感、はムリにしても、理解が観客に得られない。ワンシーンワンカットに気を取られているだけに思ってしまう。

どうしようもない性癖へのジレンマとか、友達の定義とか、打ち明けたらひょっとしたら恋人になれたかもしれない相手とか、めちゃくちゃイイ感じのエサは投げているのに、全部スルーしちゃう、って、だったらなんで、そのエサを投げさせたんよ!

つーか、ラストがヒドすぎる。バカにしまくりの幸太郎にまりおがキレて、ブロックでぶん殴って殺しかける、までは、まぁ……判らなくもないわ。
でもそこに、まりおが恋していたのを幸太郎が判ってくわえ込み、修羅場となった杏奈、彼女がうわ―!!!な感じで参戦、まりおをナイフで刺す、んである。

マジか。バカじゃねーの。まりおは幸太郎から、なんたってイケメンのチャラ男の幸太郎だから、付き合ってるけど、まあ遊びだけどね、という言葉を聞いていた。だからこそ許せなかったんだけど、杏奈はそんなことを言うまりおこそが許せず、なんとまあ、彼を刺す、何度も何度も刺す。
お前、バッカじゃないの。ストーカー被害を訴え出てたって、おめーがまりおを殺傷、、あるいは刺し殺してしまったら、殺人罪だよ。元も子もないんじゃんかあ。

結局はどうなったのか……結局は。かなり厳しい。実力のある尾上氏の初主演なのに……と残念に思ってしまう、のは、うーん……。★☆☆☆☆


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