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「う」


2022年鑑賞作品

宇宙人の画家
2021年 97分 日本 カラー
監督:保谷聖耀 脚本:京阪一二三
撮影:新谷瞭 畠山康平 保谷聖耀 クーロン黒沢 音楽:yuichi NAGAO
出演:渡邊邦彦 丸山由生立 呂布000カルマ 桐山瑠衣 大迫茂生 シソンヌじろう みやたに 平澤由理 稲生平太郎 八木光太 伊能昌幸 近藤佑磨 杉本心 グーギンズ古田光 山本詩 阿部賢太 石澤彩 速水胡太郎 小林優太 菅原聡 高井咲綺 吉本恵莉菜


2022/7/25/月 劇場(新宿K's cinema)
さぁて困った、さっぱり判らない。二つの違った時空間が存在してて、一つの時空間の中の、一人の少年が描くディストピア漫画がもう一つの世界で現実に起こっている……ぐらいなことしか確信が持てない。
公式サイトには双方の物語がかなり詳細に描かれてて、ネタバレいいのかと思うが、私のようにさっぱり判らないと思う人が駆け込むのかもしれない。

むさぼるように読んだが、衝撃だったのは、そのディストピアが現実に起こっている世界での物語が、えーそんな展開だったっけ、と全然自分の中に取り込めていないことなんであった。
まずそもそもの、「“虚無ダルマ”を首領とする国際的犯罪組織が支配するこの街に、米国のスパイ、ジョージ・ワタナベが送り込まれる」という最初の一文で、そ、そんな話だったっけ……と思っちゃうんだからもうオシマイである。

この世界は……裏日本K市というこの世界は、一見して現代日本のどこかの地方都市にソックリだけれど、殺伐とした空気の中、謎の空手軍団が型を見せたかと思えば、一人暮らしの女の元に押し入り、それを聞きつけたジョージ・ワタナベがこの空手家を窓の外にぶん投げてしまう。って、なんですと??しかも下にたたきつけられた死体は消えてしまう……。

いや待て待て、それが冒頭ではなかったっけ。冒頭は、なんかラッパーさんが恋人乗せて逃避行?いやただのドライブデートだったのか??
本作は全編、説法のようなラップがちりばめられ、虚無ダルマなるカリスマも信奉者の前でラップを繰り広げ、その後ろには金色に輝く巨大な 仏像がそびえ立ち……。

ああやだやだ、私この、無意味にでかい人型建造物ってのがすんごい怖いの、苦手なの。想像しただけでゾッとしてしまう。ルックアップフォビアっていうんだっけ。
本作の登場するそれは実際の建造物ではなくって、映像として組み込まれたものであろうが、この小さなさびれた殺伐とした裏日本K市なる町を、やたら巨大で存在感だけはあるけど、結局は人工物にしか過ぎない無機の塊が見下ろして、支配している感じが凄く怖い。
そしてその足元で人々の信奉を集めているらしいラッパーの虚無ダルマは、“宇宙人の画家”からその力を授かったっていうこと??

タイトルが凄く魅力的だったからなぁ。かつての大戦や国際的な暗黒時代の様々なことがシンボリックに示されるから、歴史苦手な私はだんだん訳判らんくなってきちゃったのだが(爆。頭悪い……)。
満州への従軍画家、とか言っていたっけ??挿入される写真は、てかこの設定も、まことしやかだけどこの映画で作られたフィクションなのかなぁ……巧みに実際の暗黒歴史的キーワードを並べるもんだから、自信がなくなってしまう。
実際の記録写真かと見まごうが、加工されたものか、巧みに作られたものだよね、でもそれも言い切ってしまう自信がない。粗いモノクローム写真で、かつての大日本帝国が犯した罪が、今、裏日本国という現代日本のパラレルワールドを思わせる世界の中で、罰せられようとしているかのような。

そしてそれを描き上げているのが、別のパラレルワールドにいる片田舎の中学生、という認識で、いいのだろうか??
裏日本K市の世界はネオヤクザ映画みたいな、マットな色味のアクション映画、といった趣であったが、その世界とぬかるみでつながっているとおぼしき、こちらの方がリアルな現代社会の一ページと思しき世界。一見野暮ったいが、その中身はドロドロに腐った現代日本の中学生日記である。でもそれが、モノクロームで描かれているというのが、マットカラーのスタイリッシュな裏日本K市と比して、一体どちらがリアルなのか、判らなくなってしまう。

このモノクロームの中学生たちは、むしろ私ら昭和世代をほうふつとさせるような泥臭さ。
紺サージの制服はひざ下のスカート丈、小学生と地続きのような子供のような男の子たちの、いつまでも着なれないワイシャツにぶかぶかの黒スラックスとか、本当にこんなん現代の中学生もこんな感じなの、と思うが、それは私が独女で子供を持っていないから判らない世界なだけかもしれないんだけれど……。

でも、彼らが交わす会話の感じは、素人演技というのを、明らかに意図して演出している、よね??ことに、謎めいた美少女、サチが、校内のプリンス、ケイに見初められたが故のおぞましい経験を、ケイの彼女に吐露する場面は特にそう。
詩を朗読するような、まるで、そう……アメニモマケズ、と吟じているような、ってあっ!そういえば、裏日本K市の方で、この、宮沢賢治の詩を掲示していたところ、あったっけ……でもだからどうだというんじゃないけど(爆)、とにかく哲学的というか、形而上学的というか、上手くついていけないので、どっかにとっかかりが欲しいと思っちゃう。

で、なんだっけ(爆)ああ、そうそう、モノクロームの中学生たちの、外見は初々しく野暮ったいのに、スクールカーストというか、小さな独裁者というか、その取り巻きの女の子たちといい、見た目が野暮ったいからこそ、妙にリアルで恐ろしい。
ディストピア漫画を描く少年は、なんつーか、逆右翼な知識(ヘンな言い方だが、左翼じゃないんだよな……意識するがゆえに、妙に詳しいっつーか)をその中に込める。日本が肯定も否定もせずにうやむやにして言いたがらない、かつての大戦での汚点の歴史をベースにした、ゆがんだ画力が恐ろしい虚無ダルマなる漫画に全投入される。
そしてそれは、一人の優等生女子によって、薄っぺらい正義の主張によって担任の先生にチクられる。いつの時代も先生は、とりあえず理解を示し、先生もそんな時があったと言い、大人になったら判ると言う。

何の解決にもならない。そもそも、裏日本K市の世界とずぶずぶの沼でつながってしまっている。裏日本K市でミックスかと問われる、つまりは混血かという意味合いだろうけれど、もうそれだけで現代国際社会では、だから日本は遅れてると言われかねない、マルヤマの登場である。
結局マルヤマは、裏日本K市と、このモノクローム中学生日記双方に登場はするものの、日本語もロシア語も一言も発しないし(発してなかったと思うけど……もう頭ぐちゃぐちゃで、自信ない)凄くキーパーソンだとは思うんだけれど、なんかホントよく、判んないんだよなー。

何より印象的なのは、達磨光現器なる究極の武器である。武器、武器なのだろうか……この機械を自信もって使える人物なんて、いるのだろうか。独裁者であればあるほど、ムリだろう。どんな聖職者だって、むしろ敬虔であればあるほど使えないだろう。
罪びとだけが、死に絶える光線を発する武器だというんである。無垢な子供や動物たちに影響はない。罪びとだけが、この光線によって死に絶える。この究極の武器を旧日本軍は持っていたのに、怖くて使えないまま、原爆を二発も落とされて終戦を迎えたんだという設定なんである。

こ、これは……フィクションにしてもトンでもない設定であり、それを、実際に起こった過去の戦争の歴史に真っ向からぶつけて、物語を構築してくるっつーのは、なんという心臓の強さ!!
いや、頼もしさかもしれない。正直言って本作にバンバンちりばめられるあの暗黒の戦争歴史は、ネットがなかった私ら世代にとっては、知りたいけど知ることが出来ず、でも、きっと隠された恥ずかしいものが沢山あったに違いないという片鱗が見え隠れしている、本当に歯がゆい時代だった。

今はあまりにも情報が無数過ぎて、その中からどうチョイスするのか、そもそも正しい事実だの史実だのってのは、どこかからの視点におけるそれに過ぎなくて、ことに国によっては大きく違ってくるし、本当に難しい。
でも、明らかに客観的に、世界的な客観で確定されつつある史実もあるし、でもそれを、頑なに否定する向きもあったりして……その、古い思想でがちゃがちゃ言ってるのを、こういう、若い世代がスパーン!と切って割って入る、ということなのかもしれんなあと思う。

裏日本K市の描写の中で、もう一つ衝撃的だったのは、小学生も含めたまさに老若男女が、不審侵入の町内放送に、笑いながら、ゲームに参戦するがごとく、楽し気に銃を用意し、サザエさんの世界みたいな裏長屋の雰囲気の路地で、町のお祭りで水をぶっかけるみたいな笑顔で、疾走するワタナベにバンバン銃撃する場面である。
……この演出はなかなかである。コンセプトは判るけど、こんな楽しそうに銃を撃つ演技をつけるってのは、だってシチュエイションとして想像できないなあと思うし……日常的に見えるのが、すんごく恐ろしくて、そんな演技が出来ちゃうのが恐ろしくて。

もうなんだか、結局どうなったのかよく判らん。哲学的すぎる。その武器が、罪びとを駆逐する武器が使われた?ケイはサチによって殺された?そもそもマルヤマは何者だった??
流行らない蕎麦屋でアルバイトをしていたマルヤマを、虚無ダルマの部下の弁護士がスカウトしたんだけれど、ロシア語喋れそうだからというアバウトな理由と、この弁護士とチームを組んでいるイチロー、ジローがバカすぎて、もうよく判らんのよ。
虚無ダルマの下での仕事の流れを、イチロー、ジローがサディスティックな欲望に耐え切れずに拉致したターゲットを虐待死させちゃったりして、それに弁護士が激怒したりして。それでパラレルワールドなんだもん。判らんわさー。

なんか、試練だった。難しかったわー。凄く哲学的な魅力はあったと思うんだけど、モノクロへの転換で、一旦キャストクレジットが流れたりして、意図が、強烈にあるんだろうけれど、判りにくいっつーか、見えにくいっつーか。そんなことは気にする必要はないとは思うが、でもなんか、見てる方は疲れちゃった(爆)。★★☆☆☆


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