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「ら」


2023年鑑賞作品

ラブ&ソウル
2012年 99分 日本 カラー
監督:城定秀夫 脚本:城定秀夫 貝原クリス亮
撮影:ソン・サンジェ 音楽:
出演:ヨ・ミンジョン 辰巳ゆい キム・ジテ 吉岡睦雄


2023/9/24/日 録画(日本映画専門チャンネル)
いやーなかなかになかなかに、ハチャメチャ。AV作品を撮るために韓国に乗り込み、しかしノープランで現地で男優調達、アイドル志望の女の子登場、なぜか殺し屋、そしてラストは日韓アイドル!ムチャクチャすぎる!!
しかしこれが……映画愛やアイドルへの夢やらに満ちていて、捨てがたいところがいっぱい。露骨なパロディもオモロすぎるし。

すっかり貫禄たっぷり辰巳ゆい姐さん。最初にお目にかかった時の可憐な美しさから段々と貫禄を増してくる(爆。いや、素敵よ!!)。でももう10年も前なのか。それにしてもこーゆーキャラはホント、安心して観ていられる。
ベテランAV女優、それはつまり、落ち目になりつつあるというということ。後に語られる、ダメな事務所に入っちまって、宣材やらレッスン料やらの名目で借金まみれにされちまった過去。本当はフリフリのアイドルになりたかったんだという気持ちが、この期に及んで、AV女優はAVアイドルとも言うでしょ、というところに至るんであり。

そんな彼女が放り込まれた韓国。予算がなくって宿泊はラブホテル一室に監督、カメラマン、メイクの男女混合。怒りまくって帰ろうとするも、その借金や、ホストにつぎ込んでいる痛いハラをつかれてしぶしぶ撮影に臨むのだが……。
それにしても、めっちゃ寒そう!こんなに息が白い会話シーン、見たことない!もう全編、息が白いのさ。時に水着シーンなどもあり……うっわ寒い!韓国、やっぱり寒いんだなぁ……だからキムチ、辛いもので身体をあたためなくっちゃ。

いやその、飛躍したな。もう一人のヒロインが、韓国の女の子、ユナ。本作の冒頭が彼女と、幼なじみのテジンの幼い頃のシーンから始まるから、彼女こそが第一のヒロインかもしれない。
日本の古いアイドルソングにずっと憧れ続けて、アイドルになりたいとずっとずっと思っている彼女は、でも辰巳ゆい嬢演じる日本のベテランAV女優、涼子に語るように、テレビも映画も見たことがなく、祖母と二人暮らしでラジオしかないんだと。
そうなると、私たちが想像するようなスタイリッシュな韓国アイドルというよりも、やはり彼女がイメージしているのは、日本の伝統的アイドルなのかなぁ。

そこらへんは、難しいところ。日韓といえばやっぱりいろいろ難しいし、なんたってユナはおばあちゃんと二人暮らしである。認知症気味のおばあちゃんだが、日本人に対しての敵対心はハッキリと出す。
でもそれは、私たちが想像するような向きではなく、ユナの母親つまり、彼女の娘が、日本人の男と出て行ってしまったからなのだ……このあたりに少々の甘さを感じもするが、ここまでハチャメチャな日韓エロコメディだとそこまで掘り下げるのはさすがに難しいかなぁ。

ただ、AVという一つの業界を通して、監督は映画への愛を、涼子やユナはアイドルへの夢を投影し、なにかそれが、いとし哀しといったところ、なんである。
韓国に旅立つ前のAVの撮影現場では、もう監督なんて全然やる気なくって寝ちゃってる。スタッフに起こされて、カット!良かったよー!!なんていい加減さなんである。

なぜ韓国へのロケなんて無謀なことに出たのか、予算がなくて男優まで現地調達だなんて無謀すぎるのに。まぁ本作自体の企画と言っちまえばそれまでだが(爆)、日本のAVの現場ではいねむりこいてた監督が、ポン・ジュノやパク・チャヌクに負けない傑作作るぞ!!と雄たけびをあげ、いやいや、AVっすよ、とカメラマンからたしなめられる。
スカウトした素人韓国イケメンが、声をかけたカメラマン(男)とセックスがしたかったことが判明、思いがけないアへ映像(爆)を撮ることができ、パゾリーニもデレク・ジャーマンもみんなホモなんだから!と嬉しそうに言い放つ。

あぁもう、なんかいろいろ間違ってるけど(爆)、映画を撮りたいんだなぁ、映画監督になりたいんだなぁ、と思い……。
AV、ピンクやVシネ業界を描いたり語ったりされる時、やはりこれは、必須だよね、あるよね。でもそれぞれの業界はそれぞれにプロ集団で成り立っていて、その現場でプロとして闘っている誇りも矜持も確かにあるんだけれど、でも映画監督になりたかった、アイドルになりたかった、っていう、さ……。

監督はもうすっかり、映画を撮る気にしかなってないの。最初こそ、韓国イケメンと涼子のガチファックという企画に燃えていたんだけれど、韓国入りした最初から先述したようにポン・ジュノだなんだと雲行きが怪しかったし。
ユナという、一見地味に見えて、メガネ外してメイクしたらめっちゃ美人!という、いつの時代の少女漫画だよ!という素材を手に入れちゃったら、そりゃあもう、映画愛に突っ走っちゃう訳で。

メイクの女の子が、イイんだよね。アフロヘアで、いつも何か食べてて、だからおなかぽっこりで、派手なカラーパンツのボタンは開けっ放し。
なのにどうやら、ハリウッドでのメイク時代という経験があるらしく、ペネロペとそりが合わなくて辞めちゃったけど、みたいな(笑)。ユナの素材の素晴らしさにすぐに気づき、美しく仕立て上げる。
……まぁ正直、そんなにビックリはしなかったけど(爆)。メガネかけてたって彼女の可愛らしさは隠しようがなかったし、むしろメガネっ子の状態の方が可愛いと思ったけどねぇ(爆)。

まぁとにかく、そんなユナをだまくらかして、女優として迎え入れることになる。てゆーか、泥酔した涼子を介抱したユナが、彼女とスタッフとの会話から、撮影?台本??芸能人デスカ!!となっちゃった訳で。
日本のアイドルソングに憧れているユナは日本語が判る、という設定。ユナを演じるヨ・ミンジュン嬢のその日本語は、……ひょっとしたら喋れる人ではなく、音で覚えて対応しているんじゃないかというぎこちなさと、韓国語の時にはやわらかで可愛らしい声なのに、日本語台詞になると力が入っているのか妙にドスがきいていて、ドキドキしちゃう。
でもそれも、悪くない。彼女のお顔の可愛らしさと、母国語のナチュラルさとのギャップがあって。

監督は、もうすっかり映画人に没入しちゃう。書き上げた脚本は大作、でもまぁ冬ソナのパクリで、なんとそのタイトルは冬のスマタ(爆)。
それなのに、もう冬ソナを撮ってる気持ちなのよ。出前持ちの青年を言いくるめてヨン様ならぬヨム様にして、ウィッグに眼鏡させて、あなたのことが好きだから〜と台詞を言わせ、それチャン・ドンゴンだから!と涼子からのツッコミ(笑)。

タイトル通り、冬ソナのパロディのAVを撮るのかと思いきや、ちっともカラミを撮ろうとしない。マジでラブストーリーを嬉々として撮り続け、周囲は不安に陥っちゃう。
涼子だけが日本語台詞なのも、キム・ギドクもやってるから!と言い放つあたり……確かにそうだけど、とギドクファンが心の中にしまってたツッコミをここで言うかぁ。
やっぱり、そうなのかな、AVは、なんたって日本のAVは世界に名だたる市場とクオリティだと思うけれど、やっぱりやっぱり、映画を撮りたいと思って、その想いを抱えながらのクリエイターたちがいるのかな、と思う。
そして、アイドルや女優やタレントを目指していて、今AV女優として活動していて、その想いと言うのは……でも本作が、10年も前のものであり、こうしたジャンルの垣根はどんどん取り払われているし、どんなジャンルの中でも、良質なものとそうでないものはハッキリと淘汰されていくし。
とは思うけれど、四半世紀前あたりから、そうした区分けのあれこれをファンとして、観客として見てきた立場からすると、なかなかに、言及するのが難しいんだよなぁ。

ユナは最初、この現場がAVだとは気づいていなくて、涼子もそれを、なかなか言い出せずにいた。AVベテラン女優として誇りを持ってはいても、騙されたように使われているユナ、アイドルへの夢を持っているユナに、AVなんだと切り出せずにいた。
作品のために裸になれる涼子さん、凄いです!!と尊敬のまなざしで見られるもんだから、余計に言えない。作品のために単に裸になるのと、AVとは違う……違うのは、どこが違うと、区別するのか、差別するのか。本番だからなのか、顔射があるからなのか、カラミの長さや赤裸々さなのか。

ついに、カラミの現場となって、ユナはどうしても出来なくって、見かねた涼子がワザと立ちくらみを演じてカメラを壊して、撮影を中止させる。ユナを連れ出し、しこたま飲む。
薄々気づいていた、AVなんだと。でも撮影が楽しくて、というユナに、涼子もまた、アイドルを目指していて、お金のために風俗かAVかでAVの世界に入ったけれど、仕事はキライじゃないし、スタッフバカだけどイイやつらだし、私、スケベだからさ、と笑う。ユナも笑う。

AVか否か、あるいは風俗か、ってのは究極の選択だけれど、涼子が語る、一緒に仕事をしている仲間が“イイヤツ”かどうかが、一番大切で、劇中、涼子とスタッフが遠慮なく、もう一触即発ぐらいにバトれるのは、それだけ言い合える関係性だから、なんだもんね。

ユナを慮って、つまり、AVの現場でセックスするんじゃなくって、好きな男としなきゃいけない、好きな男とするセックスが一番気持ちいいんだと、ユナを送り届けた先で、そこに来ていたテジンを見てもう一発で、ユナにとってのポラリス(冬ソナのね、アレよ)だと見抜いて、背中を押す。

テジンはなかなかに、イケメン君なのよ。私の感覚によるイケメン君、私のだーい好きな中国のスケーター、ハン・ヤン風の誠実系イイ男。ずっとずっと幼なじみだった二人、絶対にお互い思い合っているのを判ってるのに、こんな年になるまで、それを言い出せずにいた。
うっかりAV現場で破られるところだった、あぶないあぶない!恐る恐る、キスから始まる二人のセックスは、あーもう、これよ、これをAVでも描けたら、という想いが、本作に投影されているのかもしれない。

涼子はさ、やはりスタ―なのよ。この地でもそうして、迎えられている。韓国の青い少年たちが涼子のビデオをこっそり鑑賞してコーフンしている。その涼子が来韓しているところに遭遇し、彼女の撮影現場を追いかけまくる。そして……「いつ脱ぐんだよ!」となる訳である。
監督、すっかり映画監督になりきっちゃったもんだから、AVを撮ってるってことを忘れた……訳じゃないけど、忘れたかったんだろう、冬ソナならぬ、冬スマに没頭している現場を追いかけている少年たちは、エロを求めている。
劇中、語られるほどなのか、韓国のAV事情が実際そうなのかは判らないけれど、実際、だからこそ日本のAVアイドル(この場合、ヤハリアイドルと言っておきたい)が、スターとして迎えれられるのだろうなあ。

で、最初に言っちゃったけど、うっかり殺し屋とのかかわりから、捕まっちゃって、でもあっさり、空手の使い手の涼子と、おばあちゃんにテコンドーを習っていたユナにあっさりボッコボコにされる。簡単すぎる(爆)。
しかもその格闘シーン、殺し屋を油断させるために下着姿になった二人が、華麗に立ち回る動画が出回り、それがアイドル発掘しているプロジェクトの目にとまり、涼子とユナはセクシーアイドルユニットとしてデビュー、大ブレイク!そんなんあるかい!

そして、涼子のAVにコーフンしていた少年たちは、近所のばあちゃんであるユナの祖母を背負って、その晴れ舞台に駆けつけている。
ばっちりメイクに超ミニホットパンツ、バックダンサーを従えてセクシーに歌い踊る涼子とユナのユニット、今や涼子は韓国語でユナに話しかけ、苦手だったキムチを美味しくいただき、夢をかなえちゃってるんである!

まぁなっかなかにムチャクチャだったけど、夢への想い、かなえ方、日本と韓国のメディア、恋愛とセックス、あれこれ改めて考えちゃうファクターが満ち満ちていて、人生まだまだいろいろあるんだなぁと思ったり。★★★☆☆


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