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「ふ」


2024年鑑賞作品

フィリピンパブ嬢の社会学
2023年 114分 日本 カラー
監督:白羽弥仁 脚本:大河内聡
撮影:森崎真実 音楽:奈良部匠平
出演:前田航基 一宮レイゼル 近藤芳正 勝野洋 田中美里 仁科貴 ステファニー・アリアン 津田寛治 飯島珠奈


2024/3/3/日 劇場(池袋シネマ・ロサ)
原作は新書なのだというんだから、もっと理論的、アカデミックなのかもしれないけれど、映画となった本作に関しては、翔太とミカのボーイミーツガール、フォールインラブ物語という感じ。
正直言うと、それこそアカデミックな内容を見てみたかったと思う。なんたって翔太は大学院の修士論文のテーマとしてこれを選び、その研究対象の相手と恋に落ちた、というのはそれはそれ。そのテーマを、もっともっと見せてほしかった。

いや、見せてはいるのだろうが……ミカに出会う手前、多くのフィリピーナの母親的存在の女性と、そこに集まる女性たちの生きづらさ、故郷への思慕が苦し気に語られるのだから。でもそこは掘り下げないんだな、そこは調査しないんだな、と思ったのは正直なところ。

だって翔太は、若い子を、と言うんだもの。自分と年が近いなら、話が合うんじゃないか、だなどという軽いノリである。最初に出会った女性は、今は若い人はぐっと少なくなっている、それはビザが厳しくなったからだという。
そして、今いる若い女性たちは……バックにヤクザがいるのだと。偽装結婚をさせて、安くこきつかっているのだと。それこそ映画やドラマのような世界が、本当にあるのだということだろう。そしてそれを描くのも確かに、映画向きではあるんだからいいんだろうけれど……その手前の、割とすんなり日本に来たがために苦しむ多数のフィリピーナ達の方にこそ興味を持ってしまうのは、私がそっちに年齢が近いからなのかもしれないが。

翔太を演じるのは前田航基氏。おっとっと、ずいぶんでっかくなっちゃった。子供の頃からの印象はそのままではあるけれど、それにしてもだいぶでっかい。
ちょっと心配になっちゃう。てか、このビッグサイズはキャラに意味づけを感じてしまうもんで。新卒で就職するというのがピンと来ずに、どこか漫然と大学院に進学したという、しかも自宅通いだという現実の知らなさを、この豊満なボディにキャラづけしたのかと勝手に想像したが、そうでもないっつーか。

正直、翔太は、ミカに恋して、彼女との関係性には一喜一憂するけれど、フィリピーナ達への、研究した筈の彼女たちへの結論は、強くたくましいんだという、平凡極まりない一語で終わっちゃってる。
もちろん、論文にまとめあげたんだから、新書にもなっているんだから、そこにはきちっとしたリサーチが収められているんだろうけれど、こと映画作品においては、論文の存在は、ミカの故郷のフィリピンに行くことを渋る材料として落ち着いちゃうという存在感のなさで、めちゃもったいないと思っちゃうんだよなぁ。

ミカを演じる一宮レイゼル氏はめちゃくちゃ可愛くて、そりゃ翔太は恋に落ちちゃうであろう。ミカ自身はどのタイミングからだったのか。

いわゆるフィリピンパブに勤めているミカ。ここを紹介してくれたのは、他のパブで出会った、フィリピンパブ常連の金持ちオヤジ、シバタさん(近藤芳正)で、キャバクラ行くより格安だろ、とにやりと笑ったもんだった。いかにも羽振りが良かったけれども、その台詞から思うと、本当の意味での金持ちではなかったのだろう。後に行方不明になってしまうのだから。
そうした事情も特段明らかにされることがない。なんていうか……上滑りという感覚がどうしてもしてしまう。客に妊娠させられたパブ嬢、泣いて悩んで大変だったのに、里帰りして出産して家族に面倒見てもらって万事解決、それがフィリピンの家族の当たり前なんだと。

そうなのだろうとは思う。ミカが帰った時も、大家族おおらかな愛は感じたけれど、その一方で、日本で稼いでいるミカに買い物に行くからとか、iPadを買ってほしいとか、たかりまくる両親親戚むらがりまくりに戦慄する。
戦慄するだなんていうのは大げさということなのだろうか。ミカもちょっと困った顔はするけれど、気前よく出した後は愛情たっぷりのハグを交わすのだから。
こういうカルチャーギャップを、ただ映し出すだけで、翔太は絶対にそれに対して違和感を感じている筈なのに、なんだかぼんやり見ているだけなのが、歯がゆいのだ。

ヤクザがバックにいて、偽装結婚によって監視的生活をしているミカ。月に二日しかない休みも、電車やバスの乗り方も判らないから、外に出たことさえないと言った。店からは同伴を取るように言われているんだから、そんな金のない、外でのデートを望む翔太と付き合ったって、ペナルティの天引きをされるだけでなんの得もない。
ミカも最初は、翔太は金づると思っていた筈。そこまでは言い過ぎかもしれない。彼女が言い募るように、若くて可愛いけれど手練手管のない彼女は、この水商売の世界で上手く立ち回れていなかったのだろう。

でも一方で、違う意味で上手く立ち回れなかった先輩が客の子を身ごもってしまったりする。このあたりの生々しさ、厳しさを、もっと追究してほしかったと思う。だって、許せないことじゃん。それきり姿をくらました客、リアルに刑事罰じゃん。
泣いて悩んで苦しんでいるのに、次のシーンでは、フィリピンで産んでくる、そして戻ってくる、あっさり笑顔で復帰だなんてさ!子供と一緒にいられないのに……その時ばかりは、フィリピンの大家族感覚がよし!みたいなさ、そんな簡単なことじゃないじゃん……。

てな具合に、なんかまるめこまれ感が侵食してくる気がしちゃう。翔太の学校での描写も、物足りない。翔太が提出した修士論文のテーマに、教授は面白いね!と背中を押したし、その研究対象の一人と恋に落ちた翔太を見て取って、その彼女をゲストスピーカーとして招きたいと言ってくれたり、ここはさ、先述した、アカデミックな面白さが出て来そうなところだったのさ。
ミカが学生たちの前で何を話すのか、めっちゃ興味深々だったのに、そんな場面はつゆほどもない。珍しいもんを見物しに来るがごとき学生たちにしり込みするミカを、同じく外国ルーツである女子学生が、大きなハグで出迎え、そして日本人学生の女子が、キラキラメイクをしてあげる。それだけである。

いやいやいや、なにこれ。ほどこしかよ。ゲストスピーカーとして招いたってことは、翔太の論文テーマである、来日したフィリピーナ達のナマな声を聞き、討論するってことじゃないんかい。
いつでも私たちはあなたを迎え入れるわよ、ピース、みたいな、なんじゃそりゃと思っちゃうよ。

ミカは、日本人の女の子と初めて話したと言った。先述した、電車にもバスにも乗ったことがなかったということもあって、つまり、ヤクザにがっちがちに監視されている状態から、日本という国をただ稼ぐだけの窮屈な地獄から、翔太によって世界が開けたということなのだろうと思う。
思うのだけれど……それが、あまりヴィヴィットに感じられない。そもそも翔太が、彼女が感じたであろうその感覚に関して、ぼんやりとし過ぎている気がする。
外でのデートを思い切って申し出たのは確かに翔太の方だったけれど、決死の覚悟で、彼と付き合う、交際する、と宣言したのは、ミカであった。その重要性を、どれだけ重い決断かということを、翔太はどれだけ判ってたのかと、思ってしまう。

それは、一番思うのは、ミカとのフィリピン旅行に乗り気じゃなかった場面から、特に決心する場面もなく旅行となるところからの一連のシークエンスである。
帰国していきなり両親にミカを紹介し、特に母親が拒否反応を示した時に、翔太が、顔面は妙に立派に大人ヅラしてたけれど、つまらない偏見を持っているであろう親に対して、まったく説得力のあることを言えないくせに、はいはい、みたいにその場面を終えちゃう、ってなんなの。

いやいやいや、何それ、そりゃないだろ。普通に恋人を紹介するだけでも決心がいるのに、こんないろいろ事情を抱えた恋人を、何の前触れもなく連れてきて、そりゃないだろ。
まぁ正直さ、両親、特に母親の反応は、翔太の親世代にしては古いというか、昭和か、と思っちゃうけれど、どうやら一人息子らしいし、息子に対する母親の愛は、古今東西、そんなもんなのかもしれない。でも不満なのは……この確執をなんら解消しないまま、終わってしまうことさ!

そりゃね、そりゃ、ヤクザとの対決はクライマックスだろうよ。でも妙に優しいヤクザさんであり、ミカが思い込んでいた契約期間の齟齬がこの対決を産んだわけだけど、その齟齬に関してミカは意見することもなくあっさりと承諾しちゃう。だったら死ぬ思いでこの対決の場に駆り出された翔太はなんだったん。
翔太の覚悟を試す気だったのかと思うぐらいの大きな転換点だったのに、それも追究することないし、親との確執もそのままスルーして、指輪買って、就職して、結婚しちゃう。

就職活動しているシーンで、修士論文のテーマにいつも差別的に反応されるんだと面接現場でとうとうと訴え、仕事をください!!と絶叫して頭を下げる翔太。
本作はいつのまにやらミカとのラブストーリーにすり替わって、フィリピーナ達の苦悩は表層的に点在するだけで、伝わってこなかったというのが正直なところなので、ことここに至ると、論文テーマをネタにして、自身の現状を訴えているだけという気がしてしまう。ミカも翔太も魅力的ではあるんだけれど、深く理解し合う手前で後戻りしている感じがどうしてもしてしまう。

キャストクレジットの最後には、原作者の幸せな家族写真が示される。幸せな家族、そうではない家族、いろいろ、いろいろいたに違いなく、それをこそ見たかったのだと改めて思い……なんか、なんか、歯がゆかったのだよなぁ。★☆☆☆☆


無頼非情
1968年 92分 日本 カラー
監督:江崎実生 脚本:山崎巌 江崎実生
撮影:山崎善弘 音楽:伊部晴美
出演:渡哲也 松原智恵子 扇千景 和田浩治 内田良平 藤江リカ 郷^治 高品格 渡辺文雄 名和宏 玉川伊佐男 内田朝雄 富田仲次郎 中平哲 吉田武史 根本義幸 晴海勇三 葉山良二 木島一郎

2024/1/9/火 録画(日本映画専門チャンネル)
無頼シリーズは何本か観ていたかしらん、だいぶ間が空いてしまったからなぁ。人斬り五郎、そうそう、そんな呼び方してたっけ。渡哲也が壮絶にカッコいいが、ヤハリこの時代のヤクザ者は男同士の義理と友情なもんで、妄想女はあちこちでキャーキャー言いっぱなしである、相変わらず(爆)。そう、あちこちよ。一組じゃないんだもん。

五郎はまず、義理のある三木本からの依頼で沢田という極道を殺しに行くのだが、身体の弱い奥さんを気遣っているのを見てあっさり彼らを逃がそうとしちゃう。おいおいおい、ヤクザの義理はそんな簡単かい。こーゆーツッコミどころがありまくるのが、当時の任侠映画の楽しいところさ。
沢田を演じるのは葉山良二。いやー、いいねいいね、青春スターの甘やかさを渋くなったお年頃に残し、美人でいかにも薄幸そうな奥さんを守るためにこんな状況に陥ったという、いわば結構甘甘なところが似合ってる。

沢田は組長で、でも三木本にイカサマ賭博で陥れられたことで子分たちは散り散りとなり、今や彼一人、そして今、三木本からの取り立てに絶体絶命のところという冒頭、五郎が逃がそうとするも、結局三木本の子分、新関の刃に倒れてしまう。
沢田は五郎に、身体の弱い奥さんを長野まで送り届けるよう頼み込む。きちんと仁義を切って乗り込んできたのは五郎が初めてだと、気に入ったから、と言って。

そう、ここでもう一組目の妄想が終わっちゃう訳さ。そりゃね、沢田は女房を愛している。もうそれは、このテーマで最後まで貫かれる重要なファクターである。
でもさ、雨が降りしきる中、血だらけの沢田を抱き起す五郎、その願いを聞き届ける、もはや奥さんなんて画角の外よ(いや、映ってるけどね)。はぁもう、キャーキャーが止まらんわけよ。くぅーっ!!

あーあ、死んじゃったから妄想ストップかと思いきや、間髪入れずに二人目の男が現れる。この現場で一部始終を目撃、そもそも三木本にアイソをつかしていた久保である。舎弟にしてくれと五郎にしつこく食い下がり、沢田の女房、亜紀を長野に送り届ける旅に強引に割り込んでくる。
久保を演じる郷^治氏が抜群にイイ。渡氏の甘いマスクと対照的な、そのお顔立ちの野性味。もちろんこれまでいろんな作品で遭遇してきたが、なんか改めてグッと来たなぁ。この悪漢ヅラ(失礼!!)なのに、イイ男の兄貴にぺったりなんだもの。

長野に向かう途上、列車の中で亜紀は倒れてしまい、横浜の病院に緊急入院となる。五郎と久保は日雇いの肉体労働に汗を流す。屋台の店にケチをつけているヤクザ者どもを二人が仲裁したことで、五郎は昔なじみで今はカタギの土建屋を営む相良と再会する。
はーい、三人目である。演じるは内田良平。東南アジア系を思わせる堀の深い顔立ちがエキゾチックな激シブイイ男である。

相良は戦後の混乱期に五郎に助けられたことを義理に思っている。この世界の男は何かと義理を重んじまくる。実際はラブじゃないのと妄想女はニヤニヤするのだが(爆)。
しかしてこの相良には恋女房がいる。沢田が妻を残して死んでしまい、今この状況にいることを考えると、切ない呼応である。
しかもこの恋女房、クラブの歌姫である百合は、この地を取り仕切る古賀の妹なんである。沢田を刺した三木本の子分、新関が五郎が横浜に来ているらしいことを聞き及んで応援を頼んだのが古賀であり、相良は今はカタギと言えども、女房の兄が古賀という、ややこしい因果関係にあるんである。

この百合、演じる藤江リカという女優さん、私多分初見だと思うんだけど、めちゃくちゃ色っぽい!!マジックで書いたんかいと思うような、目をぐるりと縁取るアイライナーと、妙に多い毛量が気になるが(爆)、目の下のほくろの絶妙さといい、イイ女!!と何度もつぶやいちゃう。
クラブで歌う姿は一見してジャズシンガーのように見えるのに、実際は情念演歌風味で怖いぐらいのねちっこさなんだけどね(爆)。それで言えば、本作のヒロイン、と言っていいだろう、松原智恵子氏はお父さんの経営するバーでピアノを弾いていて、本当は音楽学校に行きたかったんだと語るほどの腕前らしいのだが、店で弾くのは月の砂漠オンリー。このオシャレなバーで、それはないやろ。

言い忘れていたが、そうそう松原智恵子氏演じる恵子は、先述した、古賀組のチンピラたちがいちゃもんつけてた屋台の店の娘で、そこを五郎に助けられて、ピッカーン!と一目ぼれしたってところだわな。
お父ちゃんはかつてヤクザものだったらしく、娘の世間知らずを心配して牽制するのだが、そらーあんないい男にうっかりチューまでされたら、もう恋は盲目さ。

チューまですることはなかったよね、あの展開は。五郎が追手を路地の奥に目撃し、見つかりそうになったところを恋人同士のフリして恵子を抱き締め、チューをする。
チューまですることないやろ、そら、恵子は陥落しちゃうさ。ちょいとこのお嬢さんに興味持っちゃったんだろー。それなのに、決死の告白した彼女に、俺にホレるとろくなことはねぇ、と言うし!!マジでこんなセリフ、マジな顔して言えちゃうなんて、この時代だよなぁ!!

で、三人目。沢田の弟である。大好きなお兄ちゃんを殺した(と思い込んでる)五郎を許せなくて、後を追っている。白いスーツにサングラスというバカまる出し(爆)のスタイルで、登場した途端にそのバカさ加減が何とも愛しく、そして……あー、この子、きっと死んじゃうんだろうな、って判っちゃう。
演じる和田浩治氏の幼さの残る素直な雰囲気が、他のシブい男たちに比べてただ一人、ここに来んなよ、と諭したくなるような子供っぽさで、なんだか胸を締め付けるのだ。

お兄ちゃんもそうだし、お兄ちゃんの奥さんである亜紀のことも慕っていた彼が、誤解がとけて五郎側に着くことになると、ますます、ああ、この子、死んじゃう……と思っちゃう。
私がニヤニヤ妄想するような五郎との熱い絆は直接的には交わされないのが残念なところだが、せいいっぱい、せいいっぱいお姉ちゃんや五郎たちを助けて助けて、古賀側に討ち果たされるのが切なくてたまらない。

いや、その前に久保だよ。久保には死んでほしくなかった。古賀側との攻防が激化する後半になると、もはやほとんど台詞もなく、趣向を凝らしたアクションシーンが満載になってくる。
亜紀をさらいに来た古賀側の子分と一騎打ちになって、なんか制御室みたいなところで、ガスだか高温の空気だかを、破壊された管からブシュ―!!と浴びちゃって、それ以降目が見えない状態でバトルして、そりゃ当然……やられちゃう訳さ。
この時点で、ずいぶん手の込んだ設定でアクションするなー、と思ったが、ラストには更に手の込みまくった、これがやりたくて作ったやろ、という場面が用意されているんであった。

古賀の上にも、大物がいるんである。そもそもあの三木本でさえも、五郎が三木本の賭場に乗り込んでイカサマを暴き、沢田の取り分だからと三百万円を強奪していったことでメンツをつぶされ、引退させられている。
実はその上、その上、と、コワモテでハバ効かせているように見えているヤクザたちが、結局はその上の親分、幹部たちに使わされているコマに過ぎないということがじわじわと示されてくる。

そういう意味では、五郎はどこにも属さぬ一匹狼であり、相良はそうしたヤクザのしがらみから足を洗ってカタギになった。
恵子の父親もかつてはヤクザであったけれど、今は屋台とバーを切り盛りして、ヤクザを毛嫌いしている。なのに、やっぱりやっぱり……愛娘がヤクザ者にホレちゃったこともあるけれど、きっと一目見て、五郎がそんじょそこらのヤクザ者ではないことを、見てとったんだろう。

でも、あの五郎を、今お前になら止められるかも、だなんて、かつてヤクザ者とはいえ結局娘可愛し人の親ね。恵子は演じる松原智恵子氏の圧倒的な可愛さも伴ってザ・ヒロインだが、そりゃないよと思うほどの世間知らず。
かつてヤクザだったお父さんを持ち、今は亡き母親の言葉を胸に刻んでいるとはいえ、しがらみこんがりまくっているヤクザ状況に、私と一緒に働きましょう、足を洗って!!とか言うだなんて、アホかと思っちゃう(爆)。

先述した、相良の奥さん百合は、その立場上リアルな葛藤がある。愛する夫とお兄ちゃんのはざまで苦悩し、雨の中、夫を店から車までの短い間、赤い傘で相合傘するシーンなんて、めちゃグッときちゃう。
どうしても一歩引いた感じになるこうした任侠映画の女たちの中で、これまでになく目を引く存在で、ああよかった、最後まで生き延びて、愛する夫とこの先の未来があった。

古賀のその上、老いぼれと言いたいぐらい、もう何このジジイ!!という輩がいるんである。でっぷりとした身体を女たちに揉ませている、それっておいおい、性感マッサージじゃないのかよ!というきわどい部分のモミモミまで見せちゃう。
コイツは結局、ここに至るまではずっと、まるでテレビ電話のように高みの見物で、下々のコマがどうあがこうと、どうでもいい、とあしらうような存在だった。それは今も……いや、古今東西にある、感じている、気配だ。それをこんな風に、引きずり出して成敗することは実際には、ほとんど出来ないだろう。
クジラのような巨体を女たちにもみもみさせている、権力の権化を判りやすく示しているこんなジジイを、私たちはほとんど引きずり出せない。それどころか、その存在すら知らないまま。

亜紀もまた、死んでしまうんだよね。もともと身体が弱かったのに、こんな苛烈な状態に置かれ、誘拐され、取り戻されたけれど、心臓が弱くて手術もままならず、死んでしまう。
ご臨終です、と言って医者と看護婦たちがさっさと出て行っちゃうあまりにもの冷たさに呆然とする。

ラストアクションは、何あれは、ペンキ工場??やたらペンキ缶を倒しまくって、色とりどりに汚れまくりながら、ナイフを双方差しまくってギャーギャー言いまくるという、なんかアトラクションみたいなにぎやかさ。どんなに色とりどりの色でも、重なり合いまくると灰色になっちゃうのね、という……。

そして、沢田の金として、奥さんに残す筈だった300万を、五郎は死守し、相良に託す。血だらけ、ペンキだらけになりながら電話をし、埠頭の牛乳屋に預けたからと。困惑の表情の牛乳屋のおっちゃんが可笑しい(笑)。
五郎さん、行かないで!と恵子に電話口に出させる相良、そりゃないだろー、おめーが引き留めろっちゅーの。ハズかしいわ、絶対そんなんムリに決まってるんだからさぁ。

虚弱で、いつもはかない奥さんであった亜紀だけど、結構しっかりメイク、青いアイシャドーと指の爪にはパール系のマニキュアを丁寧にあしらっていて、うーむ、リアリティ薄し!!とついつい思ってしまいました。★★★★☆


不倫妻 ねっとり乱れる
2002年 47分 日本 カラー
監督:深町章 脚本:岡輝男
撮影:清水正二 音楽:
出演:岡田智宏 里見瑤子 若宮弥咲 岩下由里香 川瀬陽太 浅井康博 丘尚輝

2024/4/17/水 録画(日本映画専門チャンネル)
47分とは。一般作品と比べて短めの尺のピンク映画だけれど、私の知る限り最短の尺ではなかろうか。
しかもタイムファンタジーとは。この尺の中でなかなかの大風呂敷を広げて見せるけれど、そのつながる先は学生運動、全共闘時代。今は亡き友と、その友と共に愛した女のいる時代なのであった。

ぜぇったいに53歳である筈がない当時の岡田智宏氏、スプレーでもしたかのような不自然な白髪メイクだけでそう見せるのはあまりにもムリがあり、何でだろうと思ったら、そのつながる先の、彼の大学時代というのがもう一つの軸になっていたから。
まぁその大学時代に比すればまた、当時の岡田氏は当然、ずっと年がいっているんだけれど。

だからどっちもなかなかに不自然さは否めないのだが、そのつながる先……時空を超えて携帯電話でつながる先はブルーがかったモノクロの世界。
そして当時、一心不乱に何かを信じて闘っていた学生たちは、今の同じ若者たちよりずっと老成していて、だから確かに、大学生の岡田氏、そして川瀬陽太氏はなんだかリアリティがあるのだった。

現代の時間軸にいる岡田氏演じる広志はうだつの上がらない営業マン。ああいう飛び込みの営業で契約を取るのは、特別な才能がなければムリな気がする。広志は見るからに、おどおどとしていて、そっち方面の才能はいかにもない感じ。
うなだれて直帰してみれば、妻は間男を引き込んで情事の真っ最中。この短い尺の中で、広志が妻の不貞を目の当たりにするというこの情事を、実に長く、しんねりと見せる。
まさにタイトル通りである。このタイトルが示す事実は特段物語自体には影響しないのに、一応はタイトルに偽りなしでしょ、という示し方をするのがピンク映画の面白いところ。

ホント、この長さをずっと広志は眺めてたのかしらんと思っちゃう。その場に怒鳴り込むこともせず、彼は背を向け、車を走らせた。
山の中のトンネルの先に、切り立った崖の下、まるで壮大な落とし穴のような場所、竹林が緑まぶしくわっさわさとまばゆい晴天を突き刺すような、そんな、確かに何かが起こりそうな、どこか異空間につながりそうな場所で、広志の携帯電話は、過去へとつながるんである。

広志は今の仕事が見るからに上手く行っていないし、年下上司にイヤミを言われるとか心の中で愚痴を言いまくるし、電話ひとつでリストラを言い渡されて終わっちゃう。
結局、そのイヤミな年下上司含め、職場の様子は何一つ描かれないのよね。描かれるのは、間男としっぽりやっていたくせにしれっと良妻の顔を見せる妻と、反抗期真っただ中の娘、わっかりやすく、パパのパンツと一緒に洗わないでとか、いかにもチャラ不良な男の子とよろしくやっているのを見せつけたりとか。

仕事、会社のことは愚痴で語られて終わりで枠外。あくまでこれは、家族の物語だということなんだろう。甘美な過去に引き戻されそうになるけれど、それは、広志が懺悔するように、すべてを自分以外の要因のせいにしていたということなんだろう。

最終的には娘ちゃんに関しては、彼女からの感動的な手紙が広志を現実に引き戻すのだけれど、奥さんに関しては、どうなんだろう……だって、間男引き込んでズコバコやってたじゃん。タイトルの責務を果たしたってことでお役御免なの??そんなバカな。

とにかく。本作はやっぱり、電話でつながる先の、全共闘時代である。つまり、広志はこの時代に、すべての後悔があるのだった。愛する女性、親友、それを、彼の判断によって死なせてしまったと、思っている。
ある意味それはそうかもしれない。広志は、この時代から早めに決別していたから。飽きたのか、疲れたのか、いや、焦燥があったのだろう。 就職活動をしなければと思った。それは、闘っている彼らに言える訳がなかった。愛する女性、毬子は共闘メンバーである五十嵐と交際している。毬子は五十嵐が、彼が信じる革命を決行するために、外部とつながろうとしていることを危惧していた。
結果的にそれが彼らを粛清という名の殺害される運命に導いてゆく。まさに当時、起こっていたことである。こうした切ない恋人たちが、きっときっと、沢山、いたに違いないんである。

結果的に言えば、広志の選択は賢明だったし、反抗期だけど、そのことを自覚していて反省している心を見せる娘の気持ちも知れたし、奥さんの不倫をスルーしちゃうのはどうかとは思うが。
あの時代、あの時、散っていってしまった若者たちは……とてもとても気の毒だけれど、時代の潮目を読めなかったと言えば、そうなのだ。残酷な言い方だけど。結局、今の時代から見ればどうとでも言えるけど。

毬子が五十嵐と、闘争の中、ヘリのローター音が鳴り響く中、人目をしのんでセックスしている場面、ブルーがかったモノクロ、ちっとも色っぽくないダルダルの白パンツに綿のブラジャー。
勝負パンツなんていう言葉が産まれるずっとずっと前だ……この、命がけの、信じるために闘っている中で、求め合うのに、そんなものはいらなかった。このセックスには、エモーショナルがありこそすえ、セクシャルはあったのだろうかと思うほど。それが本当のセックスなんじゃないかと思うほど。

そう思えば、タイトルを示すためだけとも思われた奥さんの不倫セックスも、ここと対照的にするためだったのだと思えば、確かにそうかもと思えてくる。
奥さんの不倫セックスには、セクシャルはあるけれど、エモーショナルはない。切羽詰まった恋心からくる欲望は、ここにはない。どっちがいいかなんて判らない。平和を求めるならば、諦めやタイクツがついてくる。でも理不尽に粛清されるより、マシだもの。

毬子から五十嵐のことを相談されて、広志は彼女と男女の仲になった。ある危険な作戦に誘われている五十嵐に違和感を感じて、毬子は広志に、闘争から抜けないかと持ち掛けた。
一方で、五十嵐からも相談を受けてしまう。しかも、親友として。更に衝撃の事実。毬子は五十嵐の子供を身ごもっているんだという。

それを受けて、広志は身を引く決断をした、という言い方をしたけれど、就活をしなければという焦りを持っていた彼は、自分に言い訳して、身ごもっている毬子なら五十嵐を引き留めることができるだろうと勝手に想像して、彼らを粛清という死へと追いやった。
そのことを、今家庭を持って、慣れない営業仕事に疲れ果て、リストラに直面した広志は、トラウマがフラッシュバックするように、蘇ったのだろう。

ちょっと、引っかかったのは、結果的には二股かけてる状態の毬子が身ごもったのが、そらぁそんなこととは知らない五十嵐は、自分の子だと言うだろうけれど、広志が、自分の子かもしれないとはつゆほども思っていないっていうのが。
それとも、妊娠するほどの交渉を持つ間柄ではなかったのか。まさか。そりゃキスシーンだけにとどまっていたけれど、セックスしてないってことはないよねぇ、愛し合うようになったとハッキリ言っていたじゃん。自覚がないのか、無責任なのか、脚本上の問題なのか、そりゃないよなぁ。

広志は、あの頃と電話がつながっているのだから、当時は毬子に別れを告げたけれど、それを覆せるかもしれないと思う。
組織から抜けると、一緒に離れると、毬子に告げれば、新しい未来が待っていると思い、実際に実行してしまう。電話で、一緒に逃げるための待ち合わせを約束する。

そして……その後彼が見るのは、つまりは、妄想の未来、なんだよね??これまた不自然なカラースプレー白髪同士の岡田氏とピンクのミューズ、里見瑤子氏。
優秀な一人息子と家族団らんの食事シーン、そしてお定まりの布団セックスはまー長い長い。色気ダダもれの岡田氏と、脱いでもセックスしてもなぜかさわやかに清楚なさ里見瑤子氏だから、めっちゃ没頭して見ちゃうけどさ。

妄想の未来、なんだよねと悩んじゃったのは、それまでは電話がつながっても、未来を変えるような発言はしていなかったから。
なのに、未来を変える、毬子と逃げ出し、彼女を死なせない、つまり自分と共に生きる選択をするために、そう彼女に告げたのだから、これで未来は変わるのだと思ったけれど……そこは、どうなんだろう。

過去とつながる不思議の崖の下。未来を変えるまでの力はなかったのか。いわば広志は決死の覚悟で毬子に電話をしたのに、妄想まで見ちゃうのに、娘からの手紙一発で、こんな素晴らしい娘を、その存在を消そうとしたのかとあっさり鞍替え。
素晴らしいってほどでも、ないけどね。そしてやっぱり、奥さんには言及しないんだな。不倫していたことも、冒頭ショックを受けていた時以降、特に触れることもないし。夫婦なんてこんなもんなのかもしれないけど、夢見る独女は、ずっとずっと、ラブな夫婦でいてほしいんだよなぁと思ったり。

粛清されて、五十嵐も毬子も、山奥の雪の降る中遺体で見つかったんだというショットとか、美しく、リアリティが過ぎる。学生運動時代の、ブルーモノクロームがエロくも美しくもはかなくも残酷で、その他の、白髪の不自然さとかを補って余りあると思っちゃう。
うーむ、だからこそ……不自然さとゆーか、雑さが目立っちゃうんだけど。もうちょっとやり方あったんでは……。★★★☆☆


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