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「く」


2024年鑑賞作品

朽ちないサクラ
2024年 119分 日本 カラー
監督:原廣利 脚本:我人祥太 山田能龍
撮影:橋本篤志 音楽:森優太
出演: 杉咲花 萩原利久 森田想 坂東巳之助 駿河太郎 遠藤雄弥 和田聰宏 藤田朋子 豊原功補 安田顕


2022/7/4/木 劇場(TOHOシネマズ日比谷)
ヤスケンが別立てのクレジットで、おお!もうそんな重鎮になったか!!と感慨深かったが、それだけの大オチを任せられるだけのキーマン中のキーマンであったことが判ると、もはやキャストクレジットの立て方だけでちょっとそうしたことが予測できちゃうんだなぁと思わなくもない。
そして、ヤスケンの立ち位置によって明かされるその大オチが、……そこに果たして納得できるか、というか、そうか!と思えるかどうか、という部分が、本作の最も大きなキモだったように思う。

うーむ、奥歯にものが挟まったような言い方になってしまう。うずうず。そりゃここはオチバレ前提でゴメンねということをいつも言っているけれど、それにしても最初から書くのはどうかなとか思って。えーと、もう少し先延ばししようか(汗)。
原作小説が、気になった。その、納得できるかどうかという部分がどうなっているのかを知りたかったから。大オチなんだからそこが違ってる訳ではないだろうとは思ったけれど。

今はありがたいもんで、小説のあらすじをまとめたサイトなんてものがあるんである。すみません、読みもしないでこんなところで確認するなんて失礼千万だし、原作と映画は違うものだということは重々承知なのだが、時々、映画化に際してトンでもない改変をされる場合もあるから。

ほとんどが、きちんと踏襲している。ワキ登場人物の設定をまとめて一人にしているぐらい。そういう意味では真摯な映画作りであると思う。
そしてこの原作は続編も誕生し、人気シリーズとなっていっているという。それを考えると……これがテレビドラマだったら、違ったかもしれないなどと考えてしまう。誤解を恐れずに言えば、テレビドラマが持ついい意味でのおもねりというか、フィクションを前提にしているという暗黙の了解というか。

ああもう、うずうずしすぎだから、言っちゃう。公安がイコール悪だとされているのが、その一点で言わばどんでん返しされているのが、なんだか腑に落ちなかったのだ。
で、これがテレビドラマならば、というのは、テレビドラマを下に見ているように聞こえたら本意ではないんだけれど、あくまでフィクションとして、エンタメとして、公安は悪、と描けるメディアなのかなと思って。
公安でなくても、かつての刑事ドラマで、キャリアとたたき上げとか、そういう図式が明確に示されるのは、エンタメとしてのドラマだった。それは決して、リアリティという部分ではない、いい意味で。

で、映画となった本作は……原作小説は結局私は未読だからそんな言えた義理はないんだけれど、リアリティマンマンで描いているから、公安は自身の正義を貫くためなら多少の犠牲、人の命さえ葬り去るというのを、まっすぐに言っちゃってるから、えぇ……いいのいいの、だって公安って、実際にある機関なのに、こんなマジな瞳の杉咲花氏に言わせちゃっていいの、とか思っちゃったのだ。

ああだから、これがテレビドラマならね!この“事務職のお嬢ちゃん”森口泉が警察官となって、自分の正義を信じて闘っていく成長を楽しめたのに。その場合は、相手は公安のみならずだったかもしれないし。

いい加減、物語に行こう。女子大生へのストーカーの末、殺人を犯した神職の男が逮捕された。ストーカー被害がずっと受理されず、しかもその間慰安旅行にまで出かけちゃって、その矢先での悲劇だったもんだから市民からの苦情が殺到。
慰安旅行に出かけていたということを、警察署で事務職についている泉は、新聞記者である親友の千佳にふと漏らしてしまい、慌てて、これは記事にしないでよ、と言っていたのに、ばっちりすっぱ抜かれたもんだから、泉は親友を疑ってしまう。

傷ついた顔をした千佳は、疑いははらすから、と言って……水死体で発見された。一見事故に見えたけれど、そう見せかけられたという証拠が残っていた。そこから芋づる式に、実際のネタ元であると思われた派遣社員の女性も自殺のような形で葬り去られる。
そもそも被害届を受理していなかった署員の様子がおかしかった、のは、その派遣社員女性との関係もささやかれていたけれど、突然辞職してしまう。泉は親友への贖罪の想いもあって、この事件を解決したいと個人的に動き始めるのだが……。

まさに、“事務職のお嬢ちゃん”の奮闘記であり、このそもそものスタンスにフェミニズム野郎の私は色々言いたいこともあるけれど、原作においてはこれから始まるシリーズの旅なのだと思えば、事務職から警察官となることを決意する本作のラストなのだから、そこはぐっと飲み込まねば。

ストーカー被害を受理しなかったのは怠慢ではなく、どこかからの圧力があったことが、次第に判ってくる。
被疑者がカルト信者であることが明らかになったことで、教団がその事実を隠したいために圧力をかけてきたんだということに、中盤あたりで落ち着くんである。

結果的には、てゆーか、泉の考え、泉の上司の富樫(ヤスケン)に言わせれば、なんの証拠もない、妄想に過ぎない、まさにそのとおりなのだが、つまりは公安の仕業だと。
公安の考え方は、大勢の犠牲を産み出さないために、少々の犠牲は仕方ない、どころか、必要なのだと。カルト教団によるテロを防ぐためには、そのカルト教団の信者をスパイに雇って、その存在を知ってしまった記者の一人や二人は、闇に消し去るのが公安の正義なのだと。

千佳だけではない。ストーカー被害の受理を圧力によって伸ばされていた署員の交際相手、派遣社員だった女性も、殺された。ネタ元として突き止められ、千佳が接触した相手。
そして千佳は、親友の上司として信頼できると話にも聞いていた富樫に、こともあろうに富樫に、相談してしまったんであった。カルト教団の圧ではなく、その信者をスパイに使っている公安の圧なのだということを。

彼女は知っていたのだろうか。富樫が元々公安だったことを。少なくとも泉は知っていたのか、この件で知ったという感じではあったかもしれない。だから、千佳はそりゃ、知る由もなかったかもしれない。
それが、それほどの重大なミステイクだなんて、思いもよらなかった。やり方が違えど、人の命を重んじる正義は一緒だと思っていたに違いないから。まさか、多勢の命のために少々の(という言い方もイヤだが)犠牲を何とも思わないとは、思わなかったから。

この部分、なんだよね。公安。どこか都市伝説気味に語られるのは、確かに現代でもそんな感じはある。ピンと来てなくて、ついついウィキなんぞを覗いてしまうと、要出典だらけで、本当に都市伝説みたい。
確かに存在はしている筈なのに、そんな風に得手勝手に悪者にされても文句も言えない、言わない秘密結社みたいな。戦前の話で出てくる特高警察みたいな理不尽さで本作でも描かれているけれど、そことも系譜がつながっている的な論調は本当なのかどうかさえ、無知な私には知りようがない。
でも、その論調をフィクション的面白さに転換して、公安には何も文句は言えないだろ、みたいな大オチ披露に見えて鼻白んでしまう、のは、考えすぎなのだろうか??

これが、続編にもつながっていくシリーズなのだから、先述のようにテレビドラマのように長いスパンで描かれるのならば、と思う部分がいくつもある。その一番は、泉を慕っている後輩男子である。
あきらかに恋の感じだし、好きな先輩を助けたい一心。もちろん、自分の上司である、圧によって被害届の受理を遅らせ、世間の批判を一身に浴びている辺見を心配する気持ちはあるのだけれど……。

絶妙に印象が弱く、なのにウロウロしてるから、コイツがなんかキーマンなのか、ネタ元とか、宗教団体とつながってるとか、そーゆーどんでん返しなのかと勘繰っていたら、全然違って、フツーに泉に恋してて心配しているだけだった(爆)。
シリーズならね、今後成長するスパンを見られることもあるんだろうけれど……言っちゃなんだが、ジャマだったな(爆)。このシリアスなお話の中で、ただピュアすぎて、誰の助けにも結局ならないし。

ヤスケン演じる富樫、元公安で泉の良き上司が、最後の最後に泉に喝破されるように、真実をかぎつけた、つまりそれだけ優秀な人たちを、公安の正義によって虫けらのように殺したことが、あくまで泉の妄想として語られる。
富樫はかつて、このカルト教団による毒ガス事件を防げなかった。慎重に監視していたのに、目の前でリンチされている信者をうっかり助けてしまったことで、公安の監視を知った教団が事件を早く起こしてしまった。

まさに、アレである。あの教団であり、あの事件だ。こんな、思いっきり本気の事実の事件を、フィクションとしてでも示されると、何も言えなくなる。千佳を皮切りに幾人もが、再びの悲劇を封じるためという、聖なるいけにえのように公安によって葬られた。そんな図式を示すなんて。
千佳を殺させたのは、富樫がリンチから救った青年、浅羽だった。スパイだった。泉や、事件を追う血の気の多い刑事、梶山(豊原功補)も、結局は富樫にしてやられたのだった。

でもさでもさ……浅羽が千佳を殺した犯人だと。それは、千佳の爪の間から検出された皮膚片が、浅羽が喫茶店で残したタバコの吸い殻から採取したものとデータが一致したから確実。
梶山は意気込んで浅羽逮捕に向かうのだが、あまりにも浅薄。上司から慎重に行けと言われていたのに、逃げ出した浅羽をカーチェイスよろしく追いまくって、事故らせちゃって、真相は闇の中、だなんて、浅はかすぎる。

確かに梶山のそうした、短気なキャラは示されてはいたけれど、これはないなぁと思ったなぁ。だってそこまで、なかなか手がかりがなくて、それこそ彼が言う、事務職のお嬢ちゃんの頑張りによってたどり着いた重要参考人なのに。逃げだした相手をあんな猛追したら、そりゃそうなるのは目に見えてるじゃんねぇ。

本作の、原作が、その後シリーズとして続くということが判ればすんなりと、あのクライマックスの恐ろしさは、飲み込める。泉の思う推測は、富樫言うところによれば妄想であり、今はまだただの事務員である泉には、富樫を看破することはできないのだと。
本作は一本で完結してしまう映画作品だからこそ、その後は待てないからこそ、都市伝説のように公安を扱い、秘密結社の悪で決着するような結末にリアリティを感じることができないのだ。

そしてそれは、かつて恐ろしき真の事件として震撼させたカルト教団の事件を、そのまんまを想起させる教団を登場させるのだけれど、それこそがリアリティがないというか……。
なんかね、テーマパークか、ライトノベルか、エロイムエッサイムとか言いそうというか(爆)。
薄暗い中での宗教的祈りをささげるシークエンスは、彼らが洗脳されている、狂っていると、判りやすく示す。そのとおりなのかもしれない。でも、宗教を信じることそのものが憲法によって保障されていることを鑑みると、ある特定の宗教を信じている人たちを、そうじゃない人たちが洗脳や狂気だと断じることこそがおかしい。

他から見たら洗脳や狂気だとしても、彼らにとっては普通の、日常に他ならない筈で、だったらあんな、おどろおどろしい、薄暗い中での儀式とか偏見に満ちている。あの白い宗教服はまぁあるのかもしれないけれど、きっともっと普通の、日常に違いないのだ。そこを理解した上でなければ、あの事件は、真に解決できないと思うし、本作で描かれたように……団体マークや、呪術的な儀式に終始してしまって、一人一人の人間の顔は、見えてこない。

私は一体、何が言いたいのか、判らんくなってきた……。決して決して、もしかしたらホントにそんな公安や、忘れられないあの事件を起こしたカルト教団を擁護をするんじゃないんだけれど……。
記号化されてしまって、悪だと判りやすくされてしまって、顔が見えなくなったことが怖くて。そして、それを、若くて可愛い女の子が正義で斬って捨てるのが、怖くて。正義に、見えちゃうだけに。★★☆☆☆


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