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「な」


2024年鑑賞作品

ナース姉妹 やさしく愛して (ナース姉妹 桃色診察室)
2003年 63分 日本 カラー
監督:佐藤吏 脚本:佐藤吏
撮影:長谷川卓也 音楽:大場一魅
出演:佐々木ユメカ 佐々木日記 紺野美如 松田信行 本多菊次朗 新納敏正 なかみつせいじ


2024/3/1/金 録画(日本映画専門チャンネル)
佐々木ユメカ氏の実妹、佐々木日記氏の出演作品は、あまり遭遇した記憶がなく、だからこの姉妹の共演作品というのも初体験。
似てない、全然違うタイプ。ユメカさんはスレンダーでさっぱりした姉御のようなタイプ。妹さんの日記さんは大胆無邪気。いやそれは、本作の二人のキャラ分けなだけかもしれないけれど、そんな真逆の姉妹がばっちり似合っている。

ナースといやぁそりゃぁ、エロものには欠かせないし、日記氏のナース姿はコントかAVかと思われるような、ないだろ、というミニ丈にナースキャップ姿で、そうした欲求にこたえてくれるけれど、ユメカ氏はまじめでかたい看護師さんである。
まぁでも今ではこういうピンクのワンピース型ナース服もなくなっているかもしれないなぁ。看護師さんはパンツスタイルが主流になっているように思われる。特に、こうした総合病院でバリバリ働いている彼女たちなら猶更。
そうか、もう2003年って20年以上前なのか。呆然としちゃう。2000年なんて、この前みたいなのに。

ユメカ氏演じる智香子の、幼い頃の記憶からはじまる。父親とボールの投げっこをしている。その父親の顔は、ぼんやりとしてはっきりとしない。
そして恋人、啓司とのラブホテルでのセックス。事後のまったりとした睦まじげな様子は、彼らが平凡ながら穏やかに愛を育んでいるのを感じさせる。彼とは常にラブホというのが、智香子は妹に居候されているというのはあるけれど、彼側はどうなのかなぁ、どうでもいいことがちょっと気になったりして。

そう、智香子のアパートには、妹の和香子が居候している。母親との電話の様子では、和香子は母親と同居してたのかなと思われる。
あの子はあなたと違ってだらしないから、と母親は心配げである。そのだらしなさが、恋愛事情にも及んでいることを母親もまた知っているかどうかは判らないけれど、姉である智香子は心配している。

でも、優良な恋愛を営んでいると見えている智香子もまた、そうでもないのだ。
啓司からのプロポーズに、喜んで即答すると、観客だって当然思っていた。電話でそのことを聞いた母親も、勤務先の同僚も、智香子の逡巡をいぶかしんだのだが……。

一方の、奔放な和香子である。先述したように、個人病院で院長と、ナースは彼女一人。不倫関係にあるのだが、院長は産まれたばかりの子供にメロメロで、和香子との約束も忘れがちなんである。
一見、和香子は、しょうがないっすね、てな感じのはすっぱさでいなし、だったら昼休憩の時間にヤッちゃいましょう、今後はこういうことが増えるかも、だなんて軽口をたたいて、何度となく診療室でせわしないセックスを重ねる。

いかにもなエロ、いかにもなピンクに思えなくもない。でも、後に智香子の同僚の美紀から指摘されるように、この姉妹は真逆に見えて、似た者同士なのだ。姉は堅実な恋人との結婚にしり込みする。妹はそもそも堅実な恋愛を拒み、年上男性との不倫を選択する。
美紀は、智香子に問うた。両親が離婚したのはいつ頃なのかと。智香子は物心がついていた。冒頭の、ぼんやりとしたボールの投げ合い。でも和香子は2歳、覚えている訳もないけれど、でも、出て行ってしまったお父さん、という喪失感が、自覚のないままに彼女重くのしかかっていることを、思いがけず第三者である美紀によって指摘されたんであった。

そしてこの美紀もまた、なかなか複雑な恋愛真っ盛りである。入院患者であるバツイチ子持ち男性と、自身もバツイチ子持ちである彼女は積極的にアタックし、夜中に忍び込んでセックスしちゃう。
いやーこれは、いかにもピンクだが、どうやらこれがバレてクビになり、それをさばさばと智香子に報告する彼女の様子を見ていると、覚悟の上、というか、もう計算の上、というか、そんな気さえしてきちゃう。
演じる紺野美如氏の、さっぱりとした頼りがいのある同僚、てな魅力が素敵なんである。

で、そう、まったく違うキャラとして育った姉妹だけれど、美紀から指摘される通り、父親という存在が未成熟なまま彼女たちの中でくすぶっていることが、それぞれにこじれた恋愛を抱えていると言われれば、確かにそうかもしれないと思うのだ。
なぜ啓司からのプロポーズに戸惑ってしまったのか。それどころか、断られるのは自分の方かも、だなどと電話の向こうの母親に吐露してしまう智香子。

一方和香子は、院長に対しては強気な態度を見せるけれど、誕生日の日に一緒にいられず、しょんぼりと帰ったら、姉と同僚の美紀がこれまた彼女の誕生日を忘れていて愉快に飲み交わしてる。
これは、キツいと思った。美紀の幼い息子が、天真爛漫に誕生日おめでとうと言ってくれて、和香子は涙を流したのだった。結婚なんて興味ない、セックスを楽しむだけなら年上との不倫がちょうどいいぐらいにうそぶいた和香子も、素敵な恋人からのプロポーズにしり込みした智香子も、その理由はただ一つ。
まぁ言ってしまえばファザコン、しかも、見えない父親に対するファザコンだったのだということを、他人、第三者の美紀から指摘されちまう訳で。

美紀は、入院中の患者とよろしくなってしまうという、一番のぶっとびキャラとも言えるのだけれど、禁を犯して入院患者のデータを覗き見て、アプローチし、退院後の結婚まで確約するというのは、20年以上あとの現代、自分にピッタリの相手を探すために、まずはデータ重視、あらゆる手段を尽くすというところにつながっていて面白い。
20年以上前だけど、もう携帯電話は浸透していて、でも通話が基本、メールは出てこず、当然LINEなんてものは誕生以前。母親との通話は、あちらは固定電話だろうと思われるし、院長が家族と会話しているのも診療室の固定電話なのだ。
彼は、和香子との恋愛関係に、秘密の通信を持ち込んでいない。現場で、完了している。それじゃぁもう、和香子の行く先は当然、見えている訳で。

迷っている智香子の元に、母親からの連絡が行ったのか、ずっと会っていなかった父親が現れる。無粋にも預金通帳を預けて姿を消そうとしたもんだから智香子は怒る。こんなことで償った気になるのかと。
本当は、そこまで、強い気持ちではなかったのかもしれない。夢のような存在の父親が、恋人からプロポーズされたことで、急に自身のアイデンティティに立ち昇ってきたということだったのだから。

預金通帳は固辞し、でも、どこからか現れたボール、ほんと、どこから現れたの(爆)。古い8ミリフィルムで映したような、ぼんやりとしたあの記憶そのままに、ボールを投げ合う。
そして、あの頃の記憶と同じように、智香子は、父親から投げられたボールを受け取れなかった。いや、受け取らなかった。そして二人は、もうきっと、二度と会うことは、ないのだろう。

姉からその話を聞き、会いたかったなという和香子、そんなにかっこよくなかったと智香子は言い、笑い合う。まだ決心まではいかないけれど、啓司とはずっと一緒にいたい、いつか結婚しようと彼女自身から言うことができた。智香子と美紀はそれぞれの事情で勤務先を辞し、それぞれの人生を新たに歩み始めた。
ナース三人、恋愛事情。それぞれのエロはしっかりたっぷりだけれど、それぞれのエロの時に、みんなこの先を考えている。いや、和香子の不倫相手の院長だけはなんも考えてなかったか(爆)。年齢的には20代半ばから後半、当時はもう、焦り始める時期だったんだろう。今ならそんなことない、そういう点ではいい時代になったと思うけれど。★★★☆☆


ナミビアの砂漠
2024年 137分 日本 カラー
監督:山中瑶子 脚本:山中瑶子
撮影:米倉伸 音楽:渡邊琢磨
出演:河合優実 金子大地 寛一郎 新谷ゆづみ 中島歩 唐田えりか 渋谷采郁  澁谷麻美 倉田萌衣 伊島空 堀部圭亮 渡辺真起子

2024/10/6/日 劇場(TOHOシネマズ日比谷)
さぁ困った。これほど共感するところのないヒロインに出会ったことはなかったかもしれない。もちろん誰もが違う誰かで、だからこそ魅力があり、惹かれるのだけれど。
カナという女の子。何もかもがつまらなくて、誰彼を罵倒して、友達の話を上の空で聞いて、タクシーの窓からゲロして、別れも告げずに同棲している恋人の前から姿を消し、次の男と同棲し始める。しかも中身の入った冷蔵庫まで運び出して。

うーむ、凄い。こう書いてみるとなかなか凄い。めちゃくちゃ行動力があるようにも思えてきた。何もかもがダルいと思っていたら、こんなめんどくさい行動とらないよなと。
いや、でも一番めんどくさいところは確かにスルーしているのだ。つまらないと思い始めた恋人に、そのことを告げることや、別れを切り出すことを、当然のように投げ出して、同時進行していたもう一人の誘いに乗っているのだから。

これを、今の若者の、などと言ってしまってはいけない。そんなこと言ったら今の若者に怒られちゃう。きっといつの時代にもカナのような女の子はいるに違いないのだから。
めちゃくちゃ非常識な女の子みたいに書いちゃったけど、まぁそのとおりなんだけど(爆)、仕事は淡々とではあるけれどきっちりこなしているし、中国のお母さんからのビデオ通話、親族大集合で大騒ぎに対しても、にこやかに応対する。
何より、恋人(二番目)の家族らが集合したバーベキューに参加する時には、着ていく服や手土産などを心配するという、しごくまっとうな、礼儀正しい日本の女の子を見せるのだ。

思えば、友達に対しても、確かに上の空ではあったけれど、なぁんとなく話は合わせていたし、その友達が話したい話題……同級生の自殺という、スキャンダラスさに対して、その友達が一見落ち込んでいるように見えながら、実はこの話題を面白がっているからこそカナを呼び出したことも判っちゃう。
それは、カナとこの友達の関係を透けて見えさせる。友達をホストクラブに連れ込んで飲ませれば元気になっちゃったよ、とカナは恋人のホンダに告げたんであった。

友達が会いたがっているとウソをつき、二股をかけている男に会いに行くカナ。第二の男、ハヤシは自分の立場を知っていて、ホンダと別れてほしいと、ベッドの中で甘やかにささやく。おやおやこれは修羅場が始まりますか!と思っていたら、先述したようにカナは別れも切り出さず、冷蔵庫を持ち出していきなりハヤシの元へ移動してしまうもんだから、とても驚いてしまうのだけれど……。

閑話休題。とにかく共感というか理解が難しい女の子なものだから、少し休憩。そもそもの、このタイトルの不思議。これって、何だろう。ちらりと見える、カナがスマホで漫然と見ている動画が、定点観測の、砂漠の中の水飲み場に来ている、あれはなんだろう……不思議な動物、角も毛皮の色もめちゃくちゃオリジナリティのある、そのゆっくりとした定点観測動画が、ラストクレジットで改めて示される。
これは……カナがもてあましている、たいくつ極まりない人生のことを示唆しているのか。でも、カナがなぜだかずっと見続けちゃうこの動画であり、名前も知らぬこのおっとりとした動物たちが、過酷である筈の砂漠の中の、貴重なオアシスに集まって、水を飲んでは離れていく繰り返しの動画は、なにか、なんだか、深い意味を感じるものがあった。

カナのルーツが中国にあって、それは家族バーベキューに招かれるシーンでハヤシの母親に聞きだされて明らかにされる。そして先述したように、お母さんからのビデオ通話で、いかにも中国らしい大家族のわちゃわちゃが示される。
カナのクールさはそういったファミリー感とはあまりにも真逆で、でもハヤシの母親との会話シーンではそれなりに常識ある女の子をいわば取り繕うし、なんだろう……彼女の中で、じわじわと蓄積されていく何かはちょっと感じたかもしれない。

このバーベキューの場面で、もうすぐ産まれそうなお腹を抱えた女性と出会う。その後のシークエンスでカナは元カレのホンダに中絶したとウソをつき、今カレのハヤシには引っ越し荷物の中から見つけた胎児のエコー写真を突きつけて激高する。
ほぼ同時進行で描かれる、二人の男に対するウソと責め立てが、女が使っちゃいけない武器と、使っていい武器を、あまりにもベクトル真逆に示されるもんだから……これこそが、これは、共感できないわ、という最も大きな部分。
それは、同じ女として、絶対にやっちゃいけないことと、やる権利はあるけれど、それを振りかざして相手の話を聞かない態度をとればもう終わり、という、もうもろ刃の剣ばりばりで。

カナはなぜ、元カレのホンダに、中絶しただなどと言っちゃったんだろう??まるでそれが、真実だったかのように、自分でついたウソが自分の中で真実になっちゃったかのように、ホンダを罵倒し、ゴミのように捨て去った。
一方で今カレのハヤシにいわば証拠を突きつけて、自分は全く関与していない彼の過去、元カノを暴こうとして、プロレスなみの大げんかになる。

ホンダにしてもハヤシにしても、カナに対してベタぼれで、どんなに理不尽な目に遭わされてもごめんを繰り返し、カナをつなぎとめようと必死だった。
特に、訳も分からず姿を消された元カレホンダなんて、仕事場近くで待ち伏せ、どうか帰ってほしいと懇願し、しまいには拉致状態でムリヤリ連れ帰ろうとし、それがかなわぬとなったら、道路に崩れ落ちて、泣き崩れるまで、なったのだった。

今カレ、ハヤシにはもっと重症かもしれない。暇を持て余し、つまり、自分の人生において希求することが何もないことを自覚するに至ったカナが、その空虚を満たしてくれないハヤシに対して、理不尽な怒りを爆発させまくる後半の、しつこいぐらいの、ぐらいじゃない、しつこい、執念深い、繰り返される二人のバトルは、かなり体力を持ってかれる。
めちゃくちゃ理不尽。同性として、女がそういう風に見られるから、ヤメてくれよと言いたくなるぐらい。仕事中をジャマされるのが一番キツい。お腹空いた、かまってかまって、赤ちゃんかペットじゃないんだからさと。

でもそんなワガママに対して、ハヤシは大人の対応を心がける。いや……結局は、元カレから奪ったからという後ろめたさっつーかなんつーか、それは絶対あったよねと思うけれど、でもそれでも、男子たちがカナに惚れ切ってしまうのには……やっぱり何かが、あるんだろなぁ。
正直さ、二人とも、こんな自分勝手なワガママ女、どこがいいの、さっさと別れなよと思い、特に、理不尽を押し付けられまくる今カレハヤシには同情しかないのだが……。

なんだろ、ハヤシはMなのか?いやいや、すみません、冗談が過ぎました。でもさ、ハヤシは特にそうだけど、元カレのホンダも、カナにひたすら謝るじゃない。とりあえずゴメン、みたいな。
謝るポイントがそもそもズレているというのがあるんだけれど、彼女をつなぎとめるために、怒らせないために、とりあえずゴメンと言っとこう、てのが凄くあって、一見してカナが、女が、優位に立ってそうに見えて、全然そうじゃない、カナの言うことなんて、つまり女の言うことなんて、男たちは全然聞いてないじゃん、と思うのであった。

後半シークエンスになると、カナがカウンセリングを受けはじめ、なんかそれなりのアドバイスを受けて、なんかそれなりに彼女が納得しちゃったりするもんだから、えぇ……こっちで決着しちゃうの、という、肩透かし、というかここまで理不尽なヒロインを力強く示してきたのに、結局は心療内科カウンセリングで決着させちゃうの??と……ヘンなんだけど、なんか悔しさを感じたというか。

どう考えても自分勝手で自分の物差しでパートナーをジャッジし、外の人間関係には、まぁそれも最低限ではあるけれどそれなりに常識的な顔をして、それなのに私こそが傷ついてます、てなカナに対しては、……最初の最初に書いたように、これほど共感できないヒロインはないんだわさ。
ただ……カナがカウンセリングに行きはじめて、先述したように、それで決着させるのかよとは思ったけれど、心の中で思っていることを、言わずにいれば、その内容がどんなにイリーガルであっても、思っているだけならオッケーだということを、そんな当たり前のことを、思想の自由ということを、カナが許せないという思想であったことが示されて、そういうことか!!と一気に霧が晴れた感じがした。

だってさ、だってだって、心の中でどんな邪悪なことを思ったって、誰に知れることじゃない。そこで自分の気持ちを整理して、次に進む、当たり前のこと。それをカナは怖いと、心で思っていることと、言っていることが違う人って怖いじゃないですかと。
こうして文字に書き起こしてみれば、なんだか純粋な乙女少女が言いそうな台詞で、そうかそうかと思いそうになるけれど、ちょいちょいちょい、あんたはもう成人している大人の女であり、しかも純粋乙女少女でもない、この東京という大都会を(クサいな)闊歩しているんじゃないの。

ああでも。でもでも。心で思っていることと言ってることが違う、それが、自分自身がまさしくそうだっていうことに、気づいていないのだとしたら、まさしくそれが、それこそが哀しいってことなのか。
中絶したというウソさえも、ウソをついたという意識がなさそうに見えたカナだったから、だからカウンセリングに行ったのかと思えば整合性はつくけれど、でも、あんなにも傍若無人ヒロインをそこに落とし込むのは、ここで急に、道徳的映画になってしまった気がして。

カナに恋する男たちが、カナにゾッコンが故に、彼女をつなぎ留めたい故に、やたらと謝り倒すのが、カナもいら立っていたし、観客のクサレ女の私もいら立っていたし。
全く共感は出来ないけれど、あらゆるエネルギーに溢れたカナに、めちゃくちゃ色々、心を振り回された。それにしても、なんでそんなに男たちは、カナ、ひいては彼女のような女が好きで仕方ないのかなぁ??★★☆☆☆


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