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「つ」


2024年鑑賞作品

罪と悪
2024年 115分 日本 カラー
監督:齊藤勇起 脚本:齊藤勇起
撮影:大西健之 音楽:Teje yehezkel raz
出演:高良健吾 大東駿介 石田卓也 村上淳 市川知宏 勝矢 奥野壮 坂元愛登 田代 柴崎楓雅 石澤柊斗 深澤幸也 大槻ヒロユキ 朝香賢徹 しゅはまはるみ 蔵原健 中野英樹 成田瑛基 齋賀正和 大迫一平 安部賢一 守屋茜 本田旬 桝田幸希 仁也 佐藤浩市 椎名桔


2024/2/5/月 劇場(TOHOシネマズ日本橋)
オフィシャルサイトで、「最後に出した答えも正しかったのかは分かりませんが高良さん、大東さん、石田さんの3人が導き出してくれた結末は自分も考えていなかった時を超えてのアンサーでした」との監督さんの言葉に、妙に腑に落ちた気がした。
そもそもは監督さんの遠い記憶の中に引っ掛かっていた出来事がベースになっているとのことだけれど、その出来事から監督さん自身が引き出しているある一つの答えがおぼろげながらにあったのかもしれないが、映画として結末をつけるのに、役者さんたちとのディスカッションがあったのだということを明確にしている。

それはなかなかない、有意義なクリエイティビティと思われるが、妙に腑に落ちたというのは……三人でいわば種明かしをするようなラストに唐突感を覚えたから。なんか、急に付け足したような感じがしたというか……そんなことはもちろん、ないんだろうけれど。
そして、この種明かしは朔が言うように、春と晃の単なる妄想に過ぎないかもしれないのだ。だって目撃していた訳じゃないのだから。

と、いきなりオチに行っちゃってゴメン。ミステリ苦手な私は正直、恥ずかしながら結構混乱していたんであった。少年時代の三人プラス一人、二人。一人は死んでしまい、一人は引きこもり、大人になった今は三人になっている。
名の知れた役者さんたちが演じればすんなりと役の見分けはつくのだが、まだぽよぽよとしたお顔の少年たちなもんだから。わちゃわちゃと、急ぎ足でその家庭環境とか、友人関係とか、見も知らんおっちゃんのとこに遊びに行くかどうかとか、かなり駆け足でそのバックグラウンドを語りまくる。

忙しく頭の中で、あの子はこういう状況、双子の兄弟はここ、警察官のお父さんがいて、友人の家庭環境に口出ししたりして……と忙しい咀嚼が追い付かないうちに、正樹という男の子が死んでしまう。
春、晃、朔がそのおっちゃん……おんちゃんと呼んでいる老人が犯人に違いないと性急に突進し、何か殺しちゃって、火をつけちゃって、春がそのすべての罪を背負い……ちょっと待って、ちょっと待って、と思っちゃう。

もうメンドくさいからオチバレで言っちゃうと、正樹と朔はこのおっちゃんにレイプされていたんである。
少年たち、そして老人の男による性的虐待、まさに今起こっているあの社会問題を思い起こさずにはいられないが、アレは口淫でとどまっていたらしい(という言い方もアレだが)に対して、もうこっちはばっちり、ヤラれちゃっている描写が後半出てきて、きっついんである。

正樹が遺体で発見された後、朔がおんちゃんをそういうヤツだからと言ったんだけれど、おんぶされた時にお尻をもまれた、そんなことだけで犯人扱いしたのは確かにおかしかったのかもしれない。
後から思えば、大人になった春たちに言わせれば確かに、朔が異常な殺意をもっておんちゃんにスコップで殴りかかったのは、それこそ異常だったのかもしれない。

でも、それは、そう言われれば、である。彼らの家庭環境のあれこれや、大人になってからのバックグラウンドのあれこれ、警察官とヤクザの裏取引的な関係、いわゆる半グレと呼ばれる若者たちを取り仕切る春とか、後から考えればそんなことに頭を悩ませる必要なかったなと思わせるものに、アホな私は頭を悩ませちゃうんである。

おんちゃん殺しの罪を一人かぶった春が、少年院から出た後、警察とヤクザの間を受け持って、若者たちを取りしきって、危うげな建築業やらコンビニ経営やらしている。
彼が面倒を見ている若者たちがハッキリ言ってアホで、ヤクザの裏金を強奪して無邪気に遊んだりするもんだから、こ、これは、なにか深遠な裏があるんではないかと考えているうちにどんどん先に進んじゃう。
結果的に、本当にアホな若者たちなのだけれど、今は叱るとかそういう時代じゃないからだなどと、なんかぬるい指導で終わってしまうもんだから、なにこれ、この危うさにこの物語のキモがあるのかしらんとヘンに引っかかったり、してしまう。

確かにこうした、地方都市の、警察やヤクザや半グレたちの癒着が、つまらないプライドによって崩壊し、簡単に殺し合いになったりしちゃう、というのが大きな要素であり、だからこそ、この地方都市で生まれ育った彼らが、結局はそのわだちから抜け出せなかったということなんだろうとは思う。
でも、ヤクザの裏金でウハウハ遊んじゃうとか、バカでしかないだろー。完全に得意がってるのに、やんわりと収めている時点で、春のやり方は甘すぎると思うのだが……。

春が罪をかぶったのは、結果的に致命傷を与えたのは朔にしても、彼自身、おんちゃんをぶん殴りまくったこともあるけれど、父親をぶっ殺したかった、リアルにそれを考えていた、だからいいんだと。
父親は酒浸り、母親は水商売で家に寄り付かない(この設定は昭和過ぎると思うけどねぇ)。幼い妹が死んでしまったのが、父親が春を殴りながら言うように父親のせいなのか、明らかにされない。
ただただ、春は、両親から見放されているだけである。死んでしまった幼い妹、という重い要素を投げているのに、それがまったく返ってきてないことに、今更ながら気づいて、気になっちゃうんである。

晃は、彼らの中で、客観的に見れば一番恵まれた家庭環境にあったのだろうと思う。サッカーのスパイクを、2万円もするのを、買ってほしいとねだればかなってしまうほどに。
お父さんは警察官、明るいお母さん、お姉ちゃん二人、家族団らんの食事シーンは本当に平和そうだったし、そうではない環境の友人たちに心を寄せる優しさも晃は持っていた。

でもそれも、“そうではない環境の友人”にとっては、偽善でしかなかったのかもしれない。
正義だと思っていた警察官である父親が、後に晃の上司となる佐藤が、自分がその立場を引き継いだ、つまり、半グレたちを目こぼしし、ヤクザの事業とつなげていることが明らかになる。春は晃の父親に世話になったと言いつつ、つまりは心底、軽蔑しているのだ。

晃は劇中、まさにこんな大人になって、あれこれ事態が明るみになってからそんなことも知るんだけれど、それ以前から彼はイライラとしている。結婚をし、子供ももうけているのだけれど、家庭崩壊寸前である。
それは、少年時代の、殺人の秘密を抱えているから。春にだけ、負わせてしまっているから。それは朔も同じだった、筈なのだが、あの事件以来引きこもっている双子の直哉、正樹と同じく川の中で遺体発見をされる半グレの少年、という事態になって、思わぬ真実があぶりだされることになる。

あぶりだされた、のだろうか??先述したように、ラストにいきなりとってつけたように思えたのは違うのだろうか??
正樹がおんちゃんにレイプされているのを朔が見てしまった、助け出すどころか彼もまた巻き込まれてレイプされてしまった。狭い村社会でこの事実が漏れるのを恐れた朔は、正樹が春に相談していたんじゃないかと誤解し、ケンカになった。河原でもみあいになり、倒れた正樹の頭が石に強打され、死んでしまった。

そんなんあるかい。まだまだか細い少年のケンカで、そんなバカな。いや、まぁなくはないけれど、結局これって、不慮の事故であり、殺人じゃないんだよね。劇中でも、オフィシャルサイトでも、朔が正樹を殺した、という認識で進んでるけど、違うじゃん。
ここを間違わなければ、こんな悲劇は起こらなかったが、そこはヤハリ子供だということなのだろう。でもさ、今の時間軸で、大人になった春も晃も、あくまで妄想でではあるけれど、朔が正樹を殺した、という認識で問い詰めているのはないなぁと思うけれど。

いや、この場に居合わせてしまった朔の双子の兄弟、直哉こそがネックというか、間違ってしまったのかもしれない。朔の間違いを隠蔽した共犯者、その心労のために引きこもってしまった。しかも、朔によって罪を負わされ、自殺に見えたけれど恐らく……彼もまた、殺されたのか。でもそんな風に思っちゃったら、妄想ゲームに巻き込まれちゃったことになる。

春は、グレーゾーンの仕事をしてはいるけれど、若い社員たちを愛し育てているし、二人の幼い子供、身重の奥さんに対しても愛情たっぷりである。どんな仕事をしていようが、危ない橋を渡っていようが、彼が彼自身として、自分が納得して生きていれば、イイのかもしれないんである。
罪だと断罪されても、自分自身がそうじゃないんだと思っていれば、だなどと、ギリギリのヤクザ一家言みたいなことが言われるのとはちょっと違うかも知れないけれど、自分を偽って生きてきたっぽい晃や朔と違って、春は、親に対する憎悪を、罪を肩代わりする形で発露し、心に正直に生きてきた、という点では、三人の中で、ひょっとしたら一番、幸せだったのかもしれない。

いや、そうだろうか。結果的に、友達を殺すことになっても??正直、あの結末に納得できるかと言ったら難しい。春が、この狭い社会にがんじがらめになっていたのは判る。警察とヤクザの板挟みになって、特別出演でヤクザトップ会長に佐藤浩市氏まで召喚して、この世界で10年生き抜ければラッキーぐらいに脅されて、そりゃキツいとは思うさ。この厳しさの中でも、家族をもうけ、部下たちを育て、やってきたのだから。

いわば、ヤクザ社会のけじめをつけるためにも元凶であった朔を片付けることはマストだったのだろう。でもさ、最初から言ってるように、感じているように、違和感マシマシなように、とってつけたように……春と晃の妄想だと断じられればそうでしかない。実際の警察官である晃が自嘲するように、一度決定した罪はまず覆らないのだから。
ひょっとしたら実の兄弟をその手で殺めてしまったのかもしれない朔。でも、一度断定してしまった直哉の罪をくつがえすほどの物証も、目撃証言もない。まさに、朔が言うように、妄想でしかないのかもしれない。そして朔が言うように、この辛い罪を共有した友達たちに、そんな疑惑を投げかけられて、こんなひどい、辛いことはないのかもしれない、のだ。

朔と同様、観客にも、そんな具合に、納得させきれなかったことが、残念だと思う。いやそれは、私がアホすぎる可能性が高いのだが(爆)。
後から思えばの、雑貨店での買い物、お金がない二人、正樹が朔の家に忘れた財布の行方とか、思わせぶりな伏線になるほどと思わなくもなかったけれど、結局目撃した訳じゃない部分を全部想像で語るんじゃぁ、それは弱すぎると思ったかなぁ。

濁流する川、深い深い山あい、高い高い陸橋。抜群の景観はとても魅力的。こんなにもはるかなロケーションなのに、狭い村社会に苦しんでいるなんて、皮肉すぎる。★★★☆☆


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