home!

「つ」


2024年鑑賞作品

妻の秘蜜 夕暮れてなお
2016年 76分 日本 カラー
監督:城定秀夫 脚本:城定秀夫 長濱亮祐
撮影:田宮健彦 音楽:
出演:天使もえ 飯島大介 守屋文雄 千葉誠樹 和田みさ 麻木貴仁 桃宮もも


2024/8/7/水 録画(日本映画専門チャンネル)
古い一軒家に暮らす義父と若い嫁、恍惚の人のフリしてスカートの中を覗いたり、ひざに触ってみたり、しまいには身体を足で踏ませるわ、ぱんついっちょで背中を流させるわのエロじじいっぷりは、この古い家屋の感じ……ダイニングキッチン、義父の狭い和室、雑然としたタイル張りの浴室といい、あいまってとても、懐かしの時代のAVな雰囲気を思わせる。
欲望を持て余す若い嫁に懸想する老義父という組み合わせはそれこそ何千何万と作られ続けてきただろうが、どれだけそれが世間的に信憑性があるかってのはそりゃぁ男子の需要によってつくられたものなんだからと思い、だから最近はあまり見ないかも(私が知らんだけだろうが)とも思う。

つまりなんだか、ノスタルジックなのだ。昭和さえも感じさせるAVっぽさもちょっと狙っているんじゃないかとも思わせる。老義父を演じる飯島大介氏が、白アンダーシャツに着流しのいでたちで、真っ白い髪は落ち武者のようにざんばらだったり、なかなかに記号的というかマンガチックな風貌だというのもそんな感じ。
しかも結構なオーバーアクトで、耳が遠いことを演出しているのかやたら声がデカかったり、ちょっとうわーとか思ったりして(爆)。

クレジット的には、そしてもちろん需要的には無知な私もお名前を聞いたことのある天使もえ氏が主役に決まっているのだが、このエロ老義父が主人公に違いないと思わせる。いや、若い嫁が主人公だというのも確かに間違いないけれど、だとしたら彼女の中の本音、というか、欲望、というか、愛している筈のダンナに言えなくなってしまったこじらせを表に引っ張り出してくれたのがこの義父という訳なのだ。
そういう意味では若嫁と義父という古典的なAVスタイルを取りながらも、二人は共犯、というか、男と女の本能たるエロと分かちがたい愛というものを渇望しながら、持て余しながら、吐露しあう。これ以上ない親友のような戦友のような相手かも知れないと思ったりして。

そこまで持ち上げるのはやりすぎかしらん(爆)。若い嫁と老義父という古典的な設定についつい引っ張られがちだけれど、確かにそれがメインであり、その二人によってけん引される物語ではあるんだけれど、結構、人間関係は張り巡らされている。
嫁は絶賛不倫中である。後に、それは夫が不倫していたことへの当てつけが本気に発展してしまったことが、それを嗅ぎつけていた義父に当たり散らすように暴露する形で知れる。
つまり今の時点では夫は潔白っつーか、相手はいないんだけれど、でも仕事と家との往復で、ベッドに入ればいびきをかいて寝っぱなし。あぁ、この画もアダルトでよく見る図式、そうして欲求不満の嫁さん、みたいな。

確かによく見る図式ではあるんだけれど、ちょっと違うのは、そこから起き出してこの嫁さん、ダイニングキッチンの暗闇で一人、酒をかっくらうことなんである。
全編通して彼女は、酒飲みである。それは……哀しい酒なのだ。酒飲みとしては女子が酒飲みな描写は嬉しいが、でも彼女の酒は哀しいのだ。誰とも共有してない。不倫相手とのラブホでもビールを何本もかっくらうけれども、不倫相手はダンナにバレるよと小心クズ男で、一緒に飲んだりしてくれない。そう、だから……一緒に飲んでくれたのは、エロ老義父だったのであった。

でも、一緒に飲んでくれたのは、クライマックス、ずっと後。彼が懸想しているこの若い嫁さんが酒飲みだということは当然知っている義父は、ボケてるふりして彼女の飲んでるキッチンに迷い込んで観察している。
実際、彼女がこのエロ義父がボケてなんかいなくて、自分をそーゆーよこしまな目で見ていることには、早い段階で気づいている。それを決定的にしたのは、義父が綴っていた日記だった。それもわざとらしく、部屋を掃除してくれと言って目につくところにおいて読ませたに違いなかったから、彼女はそれに対して憤るのだけれど……。

女子的には色々と、かなり色々と、ないだろと思う展開や描写のオンパレードではある。いちいち言いたくないほどにね。でもなぜだか捨てきれないものがあると思っちゃうのは……結果的に、このエロジジイと嫁は、最後までは行かなかった、というより、行けなかった、というところに尽きると思う。
義父のよこしまな欲望、嫁のダンナと不倫相手に対する複雑な気持ち、あれこれをぶつかり合って、酒飲み二人がダイニングキッチンでついにチョメチョメする(爆。昭和や……)シーンに至るのだけれど、老義父は、老、ということもあれど、それよりも、本作の大きなキモ、余命いくばくもない、ということがあるのであった。

そう……最後まで行けない。嫁は、ほらもうこんなに硬くなってる、だなんて、確かめもしないうちから定型文のように言って、つまりここまでエロエロしてたら当然だと思ってまさぐっても、そうじゃないのだ。ハッとする彼女に義父は哀し気で、これは、凄く、残酷な場面だったと思う。
だって、ここに至るまで、ハッキリセクハラでしょと断定できるほどのあれこれを仕掛ける義父に対して、自分の不倫を知られている、弱みを握られている嫁は耐えに耐えて、でもどこかで、それを言い訳にして、夫が自分にしてくれないことをこのエロジジイがしてくれるんじゃないかというジレンマというか。まぁ女側から思えばそんなんないでしょと言いたくもなるが、これは男子側目線のファンタジーだから(爆)目をつぶるとして……。

だからあれこれ目をつぶるとして(爆)、自分の弱みを握られた、つまりは、誰にも言えずに、誰にも相談できずに、のめり込んだ不倫も決して幸せじゃないどんずまりに至っていた彼女が、ねじれた形とはいえすべてを共有できたのがエロ義父というのを、確かにこの図式はAVではなかなかお目にかかれないなぁ。
嫁と義父、それは嫁の夫であり、義父の息子の不貞によるという、共通認識の敵であり、共通の身内であるという背徳感の図式だけはアダルトのモティーフの王道であるのは勿論だけれど、そこからの展開なんだよね。

だって人生は続くのだもの。義父は余命いくばくもないからこそ自分の欲望に忠実になって、そして自分の息子がこんないい嫁を哀しませているということを、つまりは言い訳にして、勇気を振り絞る。振り絞るっつーか、ただエロの欲望で突進しているだけのように見えなくもないけど(爆)。

嫁側は、どうだったんだろう。夫への当てつけの筈だった不倫相手にのめりこんで、でもその不倫相手、かつての職場の上司は、まぁ不倫なんだからある意味当然なんだけど誠実さのかけらもなく、性急に欲望を満たすために、路肩に車を止めてさっさと口でヤッてよ、とか言うんである。それに激しく抵抗する彼女。

こういう場面がとても大切で、私やたらAV、アダルト言っちゃってるけど、こういうところは、ないんだよね。世間で不倫と言われていても自分は本気の恋愛の気持ち、でもその気持ちの裏ではやましい気持ちや計算する気持ちがある、その葛藤が不倫相手に一ミリもなく、さっさと口でやってよ、と言われるショック。
そらまぁ身勝手な被害妄想だと言われればそれまでだけれど、報復のつもりがうっかり深みにはまってしまって、それを思いがけずエロ義父によって暴かれた彼女の葛藤が、確かに判る気がしちゃって。

そう思うと、ダンナは何一つ判っちゃいないんだよなぁ。むしろ嫁の不倫相手の方が、ちゃんとそれに直面して、お別れになったのだから。
かつてあった彼の不倫騒動は、義父がカネで解決した。だからこそか、夫婦間で話し合っていない、どころか、不倫の事実をあらわにさえしていない。夫婦は今やただの同居人状態、セックスなんて雰囲気すら発生してない。
義父の余命いくばくもないことから、先述したエロバトルあれこれがあって、義父は、自分はもう出来ないから、自分とやってるつもりで息子とセックスしてほしいという。それを覗き見たいのだと。

で、先述したけど、だから、エロ義父と嫁は、セックスには至ってない、のだよね。いや、挿入に至らなければセックスじゃない、という単純な言い様に対しては色々反論したい気持ちはあるけれど、それは女子側の満たされ願望というワガママに過ぎず、男子としてはヤハリ挿入、射精まで至らなくても挿入はマスト、というのがあるのかもしれず。

女子的には、そうじゃないのに。ここに古今東西、過去も現在も未来も、シンプルな男女のセックスに対する齟齬が、絶対にあると思うのだが、なかなかそれを、女子側の気持ちを満たしてくれる作品は現れないなぁということを本作に接して改めて思ったり。
嫁を満足させられないから、息子にその代役をさせる。でもその間、自分としていると思ってくれ、だなんて、一見純愛な切なさのように思えたけれど、やっぱり、勝手だよなぁと思う。

これがさ、嫁と老義父という図式、見え方だからなんか納得させられそうになるけど、そうした障壁のない恋人同士が、何らかの障害が発生してしまった時、自分の代わりにあいつとセックスしてくれ、自分を思いながらしてくれ、だなんて、こんな侮辱ない、バカにすんなとぶっ飛ばすに違いないんだもの。
でも、彼女にとって愛するダンナを取り戻したいというのはあるし、義父にとって、息子が可愛い嫁との関係性を修復してほしいというのもあるし、そして三人がそれぞれエロの欲望があるし……なんか、ズルいズルい!!

恋する嫁とすべての想いを通わせ、余命を確認しつつ、入院となった義父のもとに、嫁は毎日通い詰める。ダンナはのんきに、仲いいなぁなどとつぶやき、何一つ気づいていないなんて、そんなのどかなことあるんかい。
まぁ正直、ダンナは嫁の苦悩のタネとしてのキャラクターでしかなく、仕事と家との往復でしか描かれてなかったからしゃーないかなぁ。
そして最後は、幽霊?となった義父が、嫁の元にあらわれるというラストなんだから、この二人がダブル主演ということだったんだろうと思う。★★★☆☆


罪と悪
2024年 115分 日本 カラー
監督:齊藤勇起 脚本:齊藤勇起
撮影:大西健之 音楽:Teje yehezkel raz
出演:高良健吾 大東駿介 石田卓也 村上淳 市川知宏 勝矢 奥野壮 坂元愛登 田代 柴崎楓雅 石澤柊斗 深澤幸也 大槻ヒロユキ 朝香賢徹 しゅはまはるみ 蔵原健 中野英樹 成田瑛基 齋賀正和 大迫一平 安部賢一 守屋茜 本田旬 桝田幸希 仁也 佐藤浩市 椎名桔平

2024/2/5/月 劇場(TOHOシネマズ日本橋)
オフィシャルサイトで、「最後に出した答えも正しかったのかは分かりませんが高良さん、大東さん、石田さんの3人が導き出してくれた結末は自分も考えていなかった時を超えてのアンサーでした」との監督さんの言葉に、妙に腑に落ちた気がした。
そもそもは監督さんの遠い記憶の中に引っ掛かっていた出来事がベースになっているとのことだけれど、その出来事から監督さん自身が引き出しているある一つの答えがおぼろげながらにあったのかもしれないが、映画として結末をつけるのに、役者さんたちとのディスカッションがあったのだということを明確にしている。

それはなかなかない、有意義なクリエイティビティと思われるが、妙に腑に落ちたというのは……三人でいわば種明かしをするようなラストに唐突感を覚えたから。なんか、急に付け足したような感じがしたというか……そんなことはもちろん、ないんだろうけれど。
そして、この種明かしは朔が言うように、春と晃の単なる妄想に過ぎないかもしれないのだ。だって目撃していた訳じゃないのだから。

と、いきなりオチに行っちゃってゴメン。ミステリ苦手な私は正直、恥ずかしながら結構混乱していたんであった。少年時代の三人プラス一人、二人。一人は死んでしまい、一人は引きこもり、大人になった今は三人になっている。
名の知れた役者さんたちが演じればすんなりと役の見分けはつくのだが、まだぽよぽよとしたお顔の少年たちなもんだから。わちゃわちゃと、急ぎ足でその家庭環境とか、友人関係とか、見も知らんおっちゃんのとこに遊びに行くかどうかとか、かなり駆け足でそのバックグラウンドを語りまくる。

忙しく頭の中で、あの子はこういう状況、双子の兄弟はここ、警察官のお父さんがいて、友人の家庭環境に口出ししたりして……と忙しい咀嚼が追い付かないうちに、正樹という男の子が死んでしまう。
春、晃、朔がそのおっちゃん……おんちゃんと呼んでいる老人が犯人に違いないと性急に突進し、何か殺しちゃって、火をつけちゃって、春がそのすべての罪を背負い……ちょっと待って、ちょっと待って、と思っちゃう。

もうメンドくさいからオチバレで言っちゃうと、正樹と朔はこのおっちゃんにレイプされていたんである。
少年たち、そして老人の男による性的虐待、まさに今起こっているあの社会問題を思い起こさずにはいられないが、アレは口淫でとどまっていたらしい(という言い方もアレだが)に対して、もうこっちはばっちり、ヤラれちゃっている描写が後半出てきて、きっついんである。

正樹が遺体で発見された後、朔がおんちゃんをそういうヤツだからと言ったんだけれど、おんぶされた時にお尻をもまれた、そんなことだけで犯人扱いしたのは確かにおかしかったのかもしれない。
後から思えば、大人になった春たちに言わせれば確かに、朔が異常な殺意をもっておんちゃんにスコップで殴りかかったのは、それこそ異常だったのかもしれない。

でも、それは、そう言われれば、である。彼らの家庭環境のあれこれや、大人になってからのバックグラウンドのあれこれ、警察官とヤクザの裏取引的な関係、いわゆる半グレと呼ばれる若者たちを取り仕切る春とか、後から考えればそんなことに頭を悩ませる必要なかったなと思わせるものに、アホな私は頭を悩ませちゃうんである。

おんちゃん殺しの罪を一人かぶった春が、少年院から出た後、警察とヤクザの間を受け持って、若者たちを取りしきって、危うげな建築業やらコンビニ経営やらしている。
彼が面倒を見ている若者たちがハッキリ言ってアホで、ヤクザの裏金を強奪して無邪気に遊んだりするもんだから、こ、これは、なにか深遠な裏があるんではないかと考えているうちにどんどん先に進んじゃう。
結果的に、本当にアホな若者たちなのだけれど、今は叱るとかそういう時代じゃないからだなどと、なんかぬるい指導で終わってしまうもんだから、なにこれ、この危うさにこの物語のキモがあるのかしらんとヘンに引っかかったり、してしまう。

確かにこうした、地方都市の、警察やヤクザや半グレたちの癒着が、つまらないプライドによって崩壊し、簡単に殺し合いになったりしちゃう、というのが大きな要素であり、だからこそ、この地方都市で生まれ育った彼らが、結局はそのわだちから抜け出せなかったということなんだろうとは思う。
でも、ヤクザの裏金でウハウハ遊んじゃうとか、バカでしかないだろー。完全に得意がってるのに、やんわりと収めている時点で、春のやり方は甘すぎると思うのだが……。

春が罪をかぶったのは、結果的に致命傷を与えたのは朔にしても、彼自身、おんちゃんをぶん殴りまくったこともあるけれど、父親をぶっ殺したかった、リアルにそれを考えていた、だからいいんだと。
父親は酒浸り、母親は水商売で家に寄り付かない(この設定は昭和過ぎると思うけどねぇ)。幼い妹が死んでしまったのが、父親が春を殴りながら言うように父親のせいなのか、明らかにされない。
ただただ、春は、両親から見放されているだけである。死んでしまった幼い妹、という重い要素を投げているのに、それがまったく返ってきてないことに、今更ながら気づいて、気になっちゃうんである。

晃は、彼らの中で、客観的に見れば一番恵まれた家庭環境にあったのだろうと思う。サッカーのスパイクを、2万円もするのを、買ってほしいとねだればかなってしまうほどに。
お父さんは警察官、明るいお母さん、お姉ちゃん二人、家族団らんの食事シーンは本当に平和そうだったし、そうではない環境の友人たちに心を寄せる優しさも晃は持っていた。

でもそれも、“そうではない環境の友人”にとっては、偽善でしかなかったのかもしれない。
正義だと思っていた警察官である父親が、後に晃の上司となる佐藤が、自分がその立場を引き継いだ、つまり、半グレたちを目こぼしし、ヤクザの事業とつなげていることが明らかになる。春は晃の父親に世話になったと言いつつ、つまりは心底、軽蔑しているのだ。

晃は劇中、まさにこんな大人になって、あれこれ事態が明るみになってからそんなことも知るんだけれど、それ以前から彼はイライラとしている。結婚をし、子供ももうけているのだけれど、家庭崩壊寸前である。
それは、少年時代の、殺人の秘密を抱えているから。春にだけ、負わせてしまっているから。それは朔も同じだった、筈なのだが、あの事件以来引きこもっている双子の直哉、正樹と同じく川の中で遺体発見をされる半グレの少年、という事態になって、思わぬ真実があぶりだされることになる。

あぶりだされた、のだろうか??先述したように、ラストにいきなりとってつけたように思えたのは違うのだろうか??
正樹がおんちゃんにレイプされているのを朔が見てしまった、助け出すどころか彼もまた巻き込まれてレイプされてしまった。狭い村社会でこの事実が漏れるのを恐れた朔は、正樹が春に相談していたんじゃないかと誤解し、ケンカになった。河原でもみあいになり、倒れた正樹の頭が石に強打され、死んでしまった。

そんなんあるかい。まだまだか細い少年のケンカで、そんなバカな。いや、まぁなくはないけれど、結局これって、不慮の事故であり、殺人じゃないんだよね。劇中でも、オフィシャルサイトでも、朔が正樹を殺した、という認識で進んでるけど、違うじゃん。
ここを間違わなければ、こんな悲劇は起こらなかったが、そこはヤハリ子供だということなのだろう。でもさ、今の時間軸で、大人になった春も晃も、あくまで妄想でではあるけれど、朔が正樹を殺した、という認識で問い詰めているのはないなぁと思うけれど。

いや、この場に居合わせてしまった朔の双子の兄弟、直哉こそがネックというか、間違ってしまったのかもしれない。朔の間違いを隠蔽した共犯者、その心労のために引きこもってしまった。しかも、朔によって罪を負わされ、自殺に見えたけれど恐らく……彼もまた、殺されたのか。でもそんな風に思っちゃったら、妄想ゲームに巻き込まれちゃったことになる。

春は、グレーゾーンの仕事をしてはいるけれど、若い社員たちを愛し育てているし、二人の幼い子供、身重の奥さんに対しても愛情たっぷりである。どんな仕事をしていようが、危ない橋を渡っていようが、彼が彼自身として、自分が納得して生きていれば、イイのかもしれないんである。
罪だと断罪されても、自分自身がそうじゃないんだと思っていれば、だなどと、ギリギリのヤクザ一家言みたいなことが言われるのとはちょっと違うかも知れないけれど、自分を偽って生きてきたっぽい晃や朔と違って、春は、親に対する憎悪を、罪を肩代わりする形で発露し、心に正直に生きてきた、という点では、三人の中で、ひょっとしたら一番、幸せだったのかもしれない。

いや、そうだろうか。結果的に、友達を殺すことになっても??正直、あの結末に納得できるかと言ったら難しい。春が、この狭い社会にがんじがらめになっていたのは判る。警察とヤクザの板挟みになって、特別出演でヤクザトップ会長に佐藤浩市氏まで召喚して、この世界で10年生き抜ければラッキーぐらいに脅されて、そりゃキツいとは思うさ。この厳しさの中でも、家族をもうけ、部下たちを育て、やってきたのだから。

いわば、ヤクザ社会のけじめをつけるためにも元凶であった朔を片付けることはマストだったのだろう。でもさ、最初から言ってるように、感じているように、違和感マシマシなように、とってつけたように……春と晃の妄想だと断じられればそうでしかない。実際の警察官である晃が自嘲するように、一度決定した罪はまず覆らないのだから。
ひょっとしたら実の兄弟をその手で殺めてしまったのかもしれない朔。でも、一度断定してしまった直哉の罪をくつがえすほどの物証も、目撃証言もない。まさに、朔が言うように、妄想でしかないのかもしれない。そして朔が言うように、この辛い罪を共有した友達たちに、そんな疑惑を投げかけられて、こんなひどい、辛いことはないのかもしれない、のだ。

朔と同様、観客にも、そんな具合に、納得させきれなかったことが、残念だと思う。いやそれは、私がアホすぎる可能性が高いのだが(爆)。
後から思えばの、雑貨店での買い物、お金がない二人、正樹が朔の家に忘れた財布の行方とか、思わせぶりな伏線になるほどと思わなくもなかったけれど、結局目撃した訳じゃない部分を全部想像で語るんじゃぁ、それは弱すぎると思ったかなぁ。

濁流する川、深い深い山あい、高い高い陸橋。抜群の景観はとても魅力的。こんなにもはるかなロケーションなのに、狭い村社会に苦しんでいるなんて、皮肉すぎる。★★★☆☆


トップに戻る