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SEX配達人 おんな届けます
2003年 64分 日本 カラー
監督:堀禎一 脚本:奥津正人
撮影:橋本彩子 音楽:網元順也
出演:恩田括 ゆき 加藤靖久 佐々木日記 涼樹れん マメ山田 星野瑠海 伊藤猛
そんなことはどうでもいい。美香はオサムと同棲も長く続いていて、結婚したいのだけれど、オサムは煮え切らない。結婚とか苦手だって知ってるだろ、とよーく考えてみれば意味不明なことを言ってはぐらかす。まぁセックスではぐらかすんだから仲のいい二人と言えるんだろうけれど。
冒頭、二人が買い物袋やらトイレットペーパーやらを下げて商店街を歩くシーンからスタートするし、給料日前のつましいおかずの話なんぞも優しくって、確かに仲はいいのだ。セックスではぐらかせるというのが、単にまだまだ性欲のあるお年頃だからという訳じゃない。まぁそれもあるかもしれないけど(爆)。
でも、倦怠期、という言葉が浮かんでしまう。長い同棲生活から結婚へのハードルは、双方の温度差が違うほどに上がりまくる。美香は商店街を歩いている時から、通り過ぎる子供が可愛いと何度も口にしていたし、それに対してのオサムは一度は相槌を打ったものの、二度目になるとそうでもないだろ、と気がなさげだった。
美香が結婚を望んだのは、子供が欲しいというのも大きかったのかなぁ。いや、なんつーかね、ここ数年で女性にかけられる結婚や出産のプレッシャーは劇的に変化し、ジェンダーの多様化もあって、今こうした、それまでだったらテッパンのテーマで作品を作れなくなっていると思う。
でも、子供の話題を口にしたのは冒頭だけだったし、美香の同僚である中年女性夫婦も子供はいないようだから、フェミニズム野郎の私が気にしすぎなのかもしれない。
予算やプライバシーの関係上、ピンクに子供を登場させるのは難しいだろうことは想像に難くないけれど、でも、もちろんそれを踏まえた上での作劇なのだから、そこに意味はあると思う。
個人的に、この中年夫婦はかなりグッとくるものがある。まぁありていに言えば、風俗で働いていた経験のある美香に、勃起不全となったダンナをなんとかしたいと伝授してもらうという、いかにもな展開ではあるのだけれど、それを実践するカラミシーンももちろんあるのだけれど、なんていうか、この中年夫婦のたたずまいは、静かなわびさびというか、そんなものを感じるんだよね。
仲はいい。だからセックスが上手くいかないことが哀しい、それを若い同僚女性に相談して、ありがとう、だなんて。ピンクでしかありえない、奇跡的なしみじみとした中年夫婦の情愛。
達する時に足を突っ張ったら爪が伸びると言い張るのよ、と爪切りを探しているダンナを愛おしそうに言う彼女が、そしてしんとした部屋の中でぱちぱちと爪を切る中年旦那が、しみじみとしちゃうんである。伊藤猛氏が長身を折り曲げるようにして切っている姿が、イイんだよなぁ。
おっと、自分と年の近いワキにひっぱられてしまった。メインメイン。美香とオサムはそれぞれ、いわば恋をしちゃう。
美香がアルバイトをしている弁当屋にきっちり午後三時、毎日イカフライ弁当を買いに来る青年がいて、きっちりいつもだから、三時に合わせて美香はもうイカフライ弁当を用意しているんである。もうその時点で、この青年が気になっていると言ってるようなもんである。
この青年、進は、ある日意を決したように、美香に想いを告げる。しかもいきなりのプロポーズである。奥さん、と呼びかけていたから美香が結婚していると思いこんでいて、それでも旦那さんと別れて僕と結婚してください、という飛び越えようだった。
一方でオサムは、彼はデリヘル嬢の送迎ドライバーをしているんだけれど、新人のチアキに一目ぼれをしちゃって、客としてでいいから彼女とヤリたいと、美香に借金を申し込もうとまでした。でもドライなチアキにヤっただけであっさり袖にされちゃう。
一目ぼれをしちゃった、というのは、解説文からそうなんだと思ったけれど、正直そこまでの情熱なのかなぁという感じはした。美香から責められて、なんだかメンドくさくなっちゃった先での性欲処理、のような気もした。
そもそも彼は自分の仕事に全くプライドがなく、危険な客から逃げてきたデリヘル嬢をいたわるでもなく、どうしたの?きょとん、みたいな有様なのであった。
美香との出会いは風俗嬢であった彼女と客であり、風俗の仕事を辞めさせて今に至るのであろうから、彼の仕事の選択と、そのやる気のなさは、矛盾している。ピンクの中では風俗は特段否定的に描かれることはなく、日記氏のキャラクターに描出されるような達観した女性が時にカッコよかったりもするのだが、でも彼は、それが判っていないからこそ、ダメなんであろう。
美香の同僚の中年女性は、彼女が風俗の仕事をしていたと知ると、意外なことに驚きはするものの、そのプロフェッショナルに敬意を表し、アドバイザーとして教えを請うのだから、やっぱり根本的な、ここんところ、なんである。
美香にいきなりプロポーズをしてきた、“イカフライ”の男、進である。個人的に、オサムなんて切って捨てて、この青年に賭けてみれば良かったのにと思っちゃうのは、少女漫画的運命をついつい信じちゃう、ロートル女の悪い癖なのだろうか??
でも美香だって、きっかり三時に仕上がるようにイカフライ弁当の準備をしていたし、きれいですねとまっすぐに言われて、悪い気がする筈はなかった。一度デートしてみますかと提案して、お互い土木作業服と弁当屋の制服姿ではないことに新鮮さを覚えたのだけれど……。
そのトキメキを押し通して良かったんじゃないかなと思っちゃうのは、良くない?私は進の純愛(ちょっと猪突猛進過ぎてコワいけど)が、オサムの身勝手さを打ち砕いてほしいと思っちゃったけどなぁ。
美香はオサムの浮気を知ることはないけれど、オサムは美香からイカフライ青年の話を聞いているのだし、なのに、自分はチアキに岡惚れして大金をはたいたくせに、美香を縛り付けるような言動をするもんだから、フェミニズム野郎としてはキーッ!!となってしまう。
浮気に気づいていないにしても、オサムの煮え切れなさ、オナニーしているところを見せてよとかいう勝手さに美香が沸騰したことにめちゃくちゃ共感しちゃう。
今までは見せてくれたじゃん、って何それ!それは愛し合っているセックスの過程での、信頼関係があってこそでしょ!!マジでこれはサイアクだと思った……。なんか上手く説明できないけど、こうしたところに性加害のタネが潜んでいるような気がしてしまう。
すみません、フェミニズム野郎爆発して、脱線してしまった。えーと、なんだっけ。で、イカフライ青年、進をフっちゃって、傷心の進はデリヘル嬢を呼ぶ。
あ、言い忘れていたけれど、美香に対する恋慕は唐突なものじゃなく、実は風俗嬢時代の美香の客、しかも童貞さんだったんである。そりゃぁ、恋しちゃうよなぁ……。同じ客だったオサムが、恋人同士になっちゃうと、倦怠期を迎えるくせに束縛しちゃうというこの対照が、ああ、なんと人間は勝手なんだろうと思ってしまう。
だから、まぁ……もし進を選んだとしたって、また同じことに繰り返しだったのかもしれんしなぁ。客観的に、観客として見る限りでは、つまり同性としては、美香の気持ちがいまいち判らないというか、子供とか結婚とか、付き合って長いんだからけじめをつけるべきとか、昭和的アナクロニズムを感じてイライラしたのは正直なところ。つまり、美香は、ただオサムを愛していたというだけのことを、信じられたら、感じられたら良かったと思うんだけれど。
オサムにしても、美香に去られたことで彼女を愛していたことに気付いたというよりは、彼女が用意してくれた食事が尽きてから、弁当屋に赴き、姑息にも三時きっかりにイカフライ弁当を二つ注文し、一緒に食べよう、食べ終わったら結婚しよう、とか言いやがる。
食生活に困っただけやろと言いたくなるのはいけないのかなぁ。そうじゃない、そんなんじゃない、それだけじゃないことは判っちゃいる。
きっと同棲する時に買ったであろう、オシャレなテーブルが物置状態になっていて、その椅子も無駄に(爆)オシャレなんだけど、そのことを、オサムが美香に何気なく言うシーンがあるんだけれど、それが彼にとってどういうことなのか、彼女にとってどういうことなのか、この長い同棲生活がお互いの気持ちをすれ違わせていった象徴のことを話しているんだと思うから、こういうところ掘り下げに掘り下げて、地獄を見るほどに掘り下げてほしかったようにも思う。
だって、ぬるいんだもの。女の結婚願望を男が観念して叶えてハッピーエンドにしちゃったように思えちゃうんだもの。そうじゃないだろ!!と思うけれど、結局はオサムが大好きな美香が、その台詞に嬉しそうにしてしまったらそこでラストクレジットに突入しちゃったら、もうそりゃぁ、何も言えないじゃない。
女の幸せっつーことが、これだけ単純だった時代は、それはそれで、良かったのかもしれないけれども。★★★☆☆