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万事快調 オール・グリーンズ
2026年 119分 日本 カラー
監督:児山隆 脚本:児山隆
撮影:斉藤領 音楽:荘子it
出演:南沙良 出口夏希 吉田美月喜 羽村仁成 黒崎煌代 大政凜 櫻井健人 小坂竜士 池田良 Pecori 和田庵 テイ龍進 松岡依都美 安藤裕子 一金子大地
やっぱりそうか……だって大麻栽培で金儲け、ってなことを現実として誘発しかねない、と言われちゃったら困るもんなぁ。今やこんなことで炎上するんかい、という社会だから……。
ヤボヤボ、大いなるリアリティの中のフィクションこそがエンタテインメントなのだから。その大いなるリアリティの中に、今、この土地でこの時代を生きなければいけない少女たちの息詰まるような、でも確かに青春が、真実のものとしてきらめているのだから。
大麻栽培もヤバいが、東海村、という舞台もなかなかである。三人の少女たちのうちの一人、ザ・ヤンキーなお名前の美流紅(ミルク)の父親は原発施設の作業員で、転落事故、なのか、自殺、だったのか。
舞台となる学校と駅前、夜の寂寞とした大きな交差点。一貫して、こんな場所からは一秒でも早く出ていきたい、と語られる、あまりにも重い記号を持たされる場所。
こんなあからさまに彼女たちからそう言われて、そしてこのロケ地での撮影で、うわすっごいな、懐深いだなんてことじゃ収まり切れない度量を感じる。
地元を愛することを義務のように押し付けられることに対して、しかもこの原発施設のある場所で、そんなんクソだろと少女たちが口々に言うこの作品に、よっしゃと背中を押したのが、凄いなと思って。
ちょっと脱線してしまった。この三人。それこそ美流紅はいかにもスクールカーストの頂点にいるように見えた。社交性があって明るくて、いつもクラスの中心で笑いさざめいている。
そんな彼女を朴秀美は、私の席に座ってるんすけど、てな感じでダル気に見ている。その隣でこれまたダル気な岩隈真子、通称イワクマコは、秀美の友達のように見えたが、友達なんだろうけれど、実際にオールグリーンズを結成するまではそれほど密ではなかったのかもしれない。ただ、スクールカーストの底辺にいる二人、としてなんとなく美流紅を眺めていたのかもしれない。
ところで、彼女たちが通う高校はいわゆる工業高校で、技術系の才能を持つ学生たちの育成学校であるのだが、彼女たちに言わせると、いわゆる世間的な学歴社会から落ちこぼれてここにいる、ということらしいんである。
でもそうではないことが立証されるのは、イワクマコの漫画仲間である後輩男子が化学部に所属していて、見事な大麻圧縮凝縮技術をあっさりと披露するから。
地方とか、東海村とか、技術系高校とか、それらを自らを卑下する対象として描いてはいるけれど、そんなことない、そんなんじゃない。
彼らはみんな素晴らしい。若さと才能に満ち満ちていて、でも、家庭環境に苦しめられていたりもして、そのパワーに気づけてないだけだ。
朴秀美は、美流紅からいつでもそのフルネームで呼ばれるし、彼女が学校生活でなんとなく下層にいるのは、在日のルーツがあるから、なんだろうか?
そんな話は出ないし、彼女が苦しめられているのは暴君な父親と従順するだけの母親、引きこもりの兄、ただ一人の理解者だった祖母が死んでしまったこと、なんだけれど。
先述のように美流紅は父親が死んでしまって、そこから母親が壊れてしまい、童女のような母を支えるために家でも学校でもポジティブな女の子を演じるようになった。
本当は暗いとかじゃない、実際、リーダーシップ気質がある女の子なんだけれど、秀美に吐露するように、マンガチックな青春なんて漂白されたもので、意味がない、それを彼女は身に染みて判っているのだ。
なぜ大麻栽培なんて大それたことを始めることになったのか。そもそも秀美がラップに没頭しているところからである。秀美を演じる南沙良氏が、かなりの分量でラップを披露していて、それはこの年頃の女の子ならではの、初々しさと生々しさと、リアルな息苦しさを充満させている。
夜になると仲間たちとラップバトルで楽しむ。その地域のスター的ラッパーを紹介される。もうその時点でヤバそうな感じがしてしまう。
案の定、そのスターラッパーはクソ男で、秀美を犯そうとするのだけれど、秀美は母親からの教えで、男から出された飲み物を飲まずに取り替え、ソイツが昏倒。
でも、さっさと逃げればいいのに、財布とか金庫とか物色しちゃって、ヤバいものを見つけたところで男が目覚め、あぁ……鉄アレイで男をぶん殴って、指紋をぬぐって、逃げ出しちゃう。
これはなかなかに凄い。後にラッパー仲間から意識不明、誰に襲われたか判らない、ということを聞いて、安堵しちゃうのがこれまた凄い。
金庫から頂戴してきたのが大麻の種子で、このクソみたいな町から抜け出すためにと、栽培し、乾燥加工し、売って金にするために園芸同好会を立ち上げることを企画するのだが……。
こんな風にさらっと書いてみても、ちょっと凄すぎる。秀美の家庭環境がまず辛くて、たった一人の理解者のおばあちゃんとのシーンはそれほど多くはないんだけれど、それでもぶっきらぼうの秀美を、そんなことは気にもせずに、まるで幼い頃と同じようにお駄賃をその手に握らせるおばあちゃんは、まさしく無償の愛を注ぐ孫娘だったんだろうと思う。
おばあちゃんが亡くなった後、泣きもしない娘に心がないと冷たい視線を向ける母親は、そもそも暴力夫をこの家から排除することも出来ずに、娘が心がない状態のように見えるほどに追い詰められていることが判っていない、おめーこそ心がない大人なのだ。
決して交わることがないであろう、スクールカーストのトップと下層であった美流紅と秀美が、近づくことになる。
美流紅が授業中、機械に巻き込まれて指を切断したことで、ちやほや同級生たちがあっという間に離れていく。でも後に美流紅のことを知るにつけ、そんなことはへでもない、判っていたことなんだろうと思う。
秀美がラップしているのを見かけた美流紅、うろたえた秀美が逃げ出すと、美流紅は追いかける。この、二人が心を通わせる、だなんていうは弱すぎる表現、ぶつけ合う、コノヤローとばかりに!というシーンが良すぎる。
このシーンで、あぁ、あのポップな宣伝写真はぜぇったいに間違いだったと、心の中で叫ぶ。秀美のラップは本当に心の叫びで、でも根底にきちんと文学的素養があって、美流紅もまたその素養もある頭のいい子だっていうのが感じられて、秀美の才能に、うわー!とばかりに、ハグして喜んじゃうのだ。
一気に距離が縮まった二人がボウリングに出かけ、そこでバイトしていたイワクマコに遭遇したところから、急速に物語が展開する。
そもそもこの三人が、運命のような遭遇をその前にしていた。夜の閑散とした交差点、どうやら車から突き落とされた若い女と抱かれた赤ちゃん。
裸足で逃げ出す母子を呆然と見送るしかなかったそこに居合わせた三人は、後にこの母子が川で死んでしまったことを知る。夫から暴力を受けていたんだと。この土地ではこんな未来しか待っていないのかと、思う。
このシーンは本当に象徴的というか、心にずしんと投げつけられるというか……。
その後、この交差点が彼女たちの再出発、そんなことを感じさせるリフレインを描くのだけれど、でも、時間帯としては同じ夜で、あの母子の辛く哀しい記憶がそこに刻みつけられているのを感じずにはいられなくて、そしてやはりそれは、女にしか課せられない哀しみなのだ。
秀美がうっかり踏み入れてしまって、友達を巻き込んでしまった大麻ビジネスだって、代償としてセックスが差し出される女の怒りがスタートになっているんだし。
その後男子たちを巻き込んで結構上手くいっちゃうけれど、女子が取引現場に行くと途端になめられて、怖い目に遭ったり、ブツだけ巻き上げられてしまう。
本当に、腹が立つ。いや、そんなこと言ったら、大麻を栽培して売りさばく行為を肯定しているみたいだけど、そーゆーところを、原作も映画化となった本作も危惧していると思うんだけれど、そうじゃないんだよ。
いまだに、女というだけで、あるいは若い女というだけで、足元見られる、つまりは、相手にしていないっていうことが、表面上は社会的にそれがいけないこととして通っているように見えても、こうした、リアルな現場では、結局は女はなめられているんだということが判っちゃう。
それを、一番イキってる、世の中はクソだけど、私たちは違うと意気込んでいる彼女たちにそれが突きつけられるのが、本当に辛くて。
その中でも、心優しき男子たちもいる。ビニールハウスの中で生々しく裸の身体を重ねていた男子カップル、これはなかなかにインパクトのあるご登場で、しかも、見た目がかなり朴訥で、ワレラ腐女子が妄想するようなタイプじゃない、いわゆるイモ男子だからさ。
ちょっとしたユーモラス担当ではあるけれど、でも、彼らもまた、この保守的な土地柄であればなおさら、二人の仲を深められない立場ではあり、二人で暮らす資金を貯めるために、自分たちを雇ってほしい、と申し出る。
これが悔しいんだけれど、男子だから、売り買いの実地担当に役立つのだ。二人が一緒に暮らす内見のために休みたいと言い、秀美が代わりに出かけると、ヤンキー兄さんにすごまれてあわや、ということになっちゃう。あっさりなっちゃう。
悔しい。助けてくれたのがラップ仲間の男の子で、とても好ましい男の子で、後に告白もされるんだけれど、秀美は彼の申し出を、人を好きになるってよく判らない、と断っちゃう。
女の子は最強、と昔も今も思っているけれど、やっぱり昔も今も、悔しい想いをしているんだなぁ。
美流紅が母親に意を決して話をする場面、大麻で稼いだ金を半々にして、お互い暮らしていこうと告げる。それまで、お花畑の中で生きていたような母親が、急に正気に返るというか……えっ、てことは、ここまでの十数年、娘に対して演技してたの?それは……かなりコワい!!
どうなんだろう…でもとにかく、ここで腹を割れたのは良かったのだけれど。キラキラネームかと思っていた名前の由来が、親たちが知る筈もないと思って美流紅が作り出したハーヴェイ・ミルクから来ているというのが、まさかのホントだったというのがグッときちゃうし。
意識不明の重体であったクソ男が、だからこそ安心して大麻を栽培し、売りさばいていた秀美の元に、やってくるんである。通学中、耳元でささやくんである。一千万、それで手打ちにしてやる、と。
巻き込んだゲイ男子カップルは憤然として、断ち切って降りて行った。化学部男子は残ると言ったけれど、先輩のイワクマコに一喝されて降りた。
美流紅がさ、見捨てないと、言ったのだ。今あるもんを売りさばいて、そしてバックレようと、私は見捨てないよ、と言ったのだった。イワクマコが、だったら私も降りられないじゃん、と泣きべそ顔で言ったのがメチャクチャ可愛かった。
イワクマコが、私的には一番、共感度が高かったかなぁ。秀美も美流紅も、彼女にとってはぶっ飛んでいる存在。こんなヤバい計画には、私のような常識人がいなければ、というのがそうそう!と思ってさぁ。漫画愛を共有する後輩男子とのきずなもメチャクチャ良くて、恋でも友情でも先輩後輩でもない、崇高な結びつき。
正直、どう決着をつけるのかと思った。うっかり大麻の種子を手に入れて、その相手は意識不明、それをいいことに栽培して売りさばくだなんて、大丈夫なの、とずっと思っていたし、これはぜぇったいそのままじゃ行かないだろとは思っていたが、いたが……想像も出来ない展開!!
いやぁ……あのクソ男を、爆死させたんだと思った。これはすげー覚悟と思ったが……あんな大爆発で、ちょっと黒カスついたぐらいで生きてるだなんて、未成年である彼女に決定的な罪を与えないため、なんだろうなぁ。
コミカルで、楽観的結末でほっとしたところはある。大麻を栽培していたビニールハウスを爆発させたから、その煙で卒業式に参加していた学生や教師や
親たちがラリって笑いだすという超シュールなユーモアときたら!
秀美が屋上から、まるで投身自殺かのように落っこちるもんだからヒヤリとするが、途中の屋根にバウンドして、美流紅から激励されて、走り出す、この街を、いや、この世界から抜け出すために。
秀美にちょっと好きアピールするラップ仲間のジャッキーが凄くきゅんときたなぁ。秀美は、そうした感情そのものが判らないんだと言い、これぞ、現代的と思う。
多様化、細分化、そうしたあらゆる事象を学ばなければならないし、その中でのすり合わせで素敵な出会いや結びつきもあるのだと思う。いやー、良かった、凄く、良かったなぁ。★★★★★/font>
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