| home! |
ヒグマ!!
2025年 100分 日本 カラー
監督:内藤瑛亮 脚本:内藤瑛亮
撮影:伊集守忠 音楽:有田尚史
出演:鈴木福 円井わん 岩永丞威 上村侑 住川龍珠 占部房子 清水伸 金田哲 宇梶剛士
まさかクマ被害がこんなに深刻になるなんて、そりゃぁ企画段階では思いもよらなかっただろう。オフィシャルサイトに残された、公開延期に至る、そして満を持しての公開となる、ものすごく気を遣った挨拶文に、炎上社会になってしまった現代において、こんな(いい意味で)ふざけたエンタテインメントを許容する土壌も枯れてしまったんだなぁと思う。
もちろん、そこで書かれていたように、真摯に社会と自然の恐怖を描くというスタンスは当然あるにしても、闇バイトと熊襲撃はアイディア勝負のマッチングなんだもの。そういうオドロキにワクワクするんだもの。
内藤作品への参加というのは驚いたけど、福君の素敵なキャラクターはそのままに生かされているのがイイ。闇バイトに手を染めてしまうのは、父親が投資詐欺にあって自殺し、ゲームクリエイター系の大学進学に暗雲が立ち込めたから。
ゲームオタクというよりゲーム製作に心血を注いでいる、というスタートが、ゲームという、今は当たり前に地位を獲得した分野ではあるけれど、まだまだ頭の古い大人たちには偏見がある、そこんところを何たって信頼と安心の福君が、ゲームプレイヤーではなくゲームクリエイトの未来を夢見る若者、しかもその作ったゲームをまず母親にやってもらうというほっこりなスタートというのが、らしくて。
でもその直後にその悲劇。母親は何とか愛息子の夢を後押ししようと金策に走るが、当然、福君演じる小山内は進学しないと半ばフテているのだが、でも母親の気持ちも判るし……そんな中でうっかり手を出してしまった闇バイト。
封筒を運ぶだけで3万から100万。まずこの金額の幅がおかしい。100万もらえるかも、と思ったところで3万だったら、その後の誘導でそりゃぁずるずる抜けられなくなる、というシステム。
その中で、横取り中抜けしようとした若林の登場で、一気に物語はバイオレンスとなる。元自衛隊員というキャラ設定の若林を演じる円井わん氏は、彼女こそ内藤作品にピッタリ、その世界の住人という感じ。その彼女と、意外性な福君との化学反応が、本作の最大の見どころ。
のちのち、若林が執着しているホストと福君演じる小山内がソックリであるというシークエンスが出てきて、ピンク頭にメイクばっちりの福君に思わず笑ってしまう。
内藤作品は、一見してハードなバイオレンス、血みどろブシャー!が全面に出てて(それこそが大好きなんだけど!!)、怖い感じはあるんだけれど、抜け感があるというか、今回は特に、オフビートなユーモラスが際立っていて、何度も笑ってしまった。
それはやっぱり、鈴木福と円井わんという奇跡の組み合わせが化学反応を起こしたのは間違いないと思う。円井わん氏は元自衛隊員というキャラ通り、見事なアクションを見せて、めちゃくちゃカッコイイ。
で、そう、若林が、この闇バイトがあまりにも割に合わない、奪ったトルマリンの金額を知ってしまって、それを奪っちゃおうというところから、めちゃくちゃアクションがあって、彼女はトルマリンを飲み込んじゃったもんだから、山奥へ送り込んで、腹を割いて取り出して、死体を埋めちまおうなんてところにまで至っちゃう。
そこに至るまでに、小山内はもうすっかり後悔していて……つまりはさ、ザ・特殊詐欺の現場に立ちあわされてしまって、彼にとってはいたわる対象としか思えない筈のお年寄りを騙してカードを奪って、もう抜けたかったのに、身分証を抑えられ、後には母親への危害も示されたらもう……。
まぁ、なんつーいわゆるやっておかなきゃいけない設定は、ある意味どうでもいいというか。まさしく本作は、パニックムービーの面白さなのだから。
闇バイトの中での仲間割れトラブルのアクションももちろんもう一つの見せどころで、そこでおどおどするしかない福君の可愛らしさも含めて面白いのだけれど、そりゃーなんたって、タイトルからくる、ヒグマとの攻防こそが最高に決まってる。
ヒグマ、いや、タイトル通り、ヒグマ!!ヒグマ、ではない、のだ、きっと文字通り。劇中では宇梶剛士氏演じるハンターによってジュークと呼ばれる(最後のクライマックスで闇バイト主宰のエンジェルによって、ミュージシャンの19ネタでひとしきり笑わせてもらうまでがワンセット)凶暴なヒグマが登場してからこそ、なのだ。
ハンターによって語られるところによる、食料の木の実が少なくなったことに加えて、人間を襲うのが、食糧事情に加えてゲームとして楽しくなってしまったことこそが原因だと。
もちろん今のクマ被害事情とは違うんだけれど、何か……闇バイトに象徴される、近道で金を手にしようとする欲望、ヒグマに象徴される自然の脅威というものに対する軽視、その根底にあるのは、社会に生きる人間としての責任と自覚が、あまりにもなさすぎる今の時代、に真正面から警鐘を鳴らしている、のだと思う。
なんてマジメなことを言っちまったが、なんたって凶暴な、悪魔のようなヒグマとの対決が最高である。内藤作品は、人体損壊のカタルシス(やべ、言っちゃいけないこと言ってるかも)が何より最高で、うわー、うわーと目をおおいながら、指の隙間から見てしまう、という、心理に深く根差したアトラクションが最高なんである。
そこに福君が血みどろになりながら、飛んでくる人体の破片をブシャブシャと浴びながら、お姉さまの円井わん氏と闘い抜くだなんて、こんなサイイコーなこと、ないじゃないの!!
タイトルロールともなっている、ジュークと呼ばれるヒグマ君が、絶妙な着ぐるみ感を持ちながら圧倒的に怖いという、この奇跡のバランス感覚こそが凄いと思う。
これは、内藤作品がそもそも持っているというか、前提となっている、真正リアルというよりはフィジカルな、生理的なリアリティに迫ることに重きを置いていることなんだと思う。
軽トラの荷台でジュークの鼻先まで迫られるシーンなんて特になんだけど、めちゃくちゃ着ぐるみ感があるのに、そこまでの経過、そしてそれ以降もあることによって、安っぽさを意図的に感じさせながら、しっかり怖い、それがすごい。
アクションや圧倒的なカメラワーク、そして内藤作品ならではの、マットでダークな画の印象が、観客をしっかりと連れて行ってくれる。
その中に、ユーモラスがメチャクチャちりばめられていて、面白かったなぁ。時に小山内も若林も、嘔吐してしまうようなグロテスクな場面にも遭遇するんだけれど、その中でも、いやその中でこそ、うっわ、そのゲロの中でやんないで!というシーンもあるし、う〇ちの中から取り出したトルマリンを、う〇ちだからということを繰り返して攻防しまくるとか。
そうか、こう書いてみると、小学生レベルというか、懐かしき原点のユーモアを思い出させてくれるというか、メチャクチャ無邪気で、こんな血みどろバイオレンスなのに、ほっこりに引き戻されちゃう。
そうなのよね、それが徹底されてる。救世主だと思っていた、プロハンターが実は、ヒグマに襲われた人たちから金や貴金属や時計なんかをパクっていたのだという事実。
演じる宇梶さんが、そりゃさぁ宇梶さんだから、地元のプロハンター、孫娘が犠牲になったなんて聞かされたら、そうなんだと思っちゃう。小山内と若林は彼に協力し、ジュークと闘う覚悟をするのだが……。
宇梶さんが裏切り者でさ、若林と小山内は必死に逃亡するけれど、崖からの急流の川、二人ははぐれてしまう。ここからの、小山内の、演じる福君の、言ってしまえば普通の男の子の感覚の先に芽生えた最高の勇気、というのがめちゃくちゃイイのだ。
そのまま、逃げることだって出来た筈だった。心配しているお母さん、そのお母さんをブチ殺すと脅してきているエンジェル。なのに、小山内は自分を先に逃がしてくれた若林を救うことを決意していた。
福君が演じるから、それが当然と、福君がそうしないなんてありえないでしょ、というキャラクターの強さが、ここで発揮される。片耳がもげるほどの血だらけになっている鈴木福君を見ることができるなんて、内藤監督、ありがとうと言いたい。
そして、疲弊しまくっている小山内がパワー充電出来たのが、彼が作ったゲーム愛好者である少年、つーか、メチャ子供。めちゃくちゃいいキャラで、この子と小山内がゲームを通して信頼をがっちり固めていくシークエンスが最高すぎる。
キラーン!と二人で親指を立て合って最高の笑顔を作り合うシーンに、笑いながらなんか、涙ぐんじゃう。これですべてが解決できちゃう。
最後の最後、小山内と若林が、闇バイト軍団と、そしてジュークとの最終対決に、小山内君は自分が作ったゲームの経験を踏まえて、若林は彼からの指示でドライビングテクニックを駆使して、見事すべてを蹴散らしちゃう。
そうね、すべてを解決するには、すべての関係者が死んじまうことが条件であって、それを、内藤作品ならではのカタルシススプラッターでさっぱり片づけました!というのが凄い、凄いなぁ。
闇パイト主宰のエンジェルは、最後の最後登場する金田哲氏なんだけど、絶妙の軽薄さの中の不気味さ、妙な美しさもあって、メチャクチャ印象的だった。キャストの面白さ、次の作品を期待せずにはいられない!★★★★★/font>
トップに戻る