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架空の犬と嘘をつく猫
2025年 125分 日本 カラー
監督:森ガキ侑大 脚本:菅野友恵
撮影:山崎裕 音楽:Cali Wang
出演:高杉真宙 伊藤万理華 深川麻衣 安藤裕子 向里祐香 ヒコロヒー 鈴木砂羽 松岡依郁美 森田想 高尾悠希 後藤剛範 長友郁真 はなわ 安田顕 余貴美子 柄本明 立花利仁 堀口壱吹 藤中璃子
そんな、ある意味ズルい諦めの境地を、愛する息子を失った母親、雪乃はきっと自ら選び取ったのだ。しばらく、どういう事情なのか判らなかった。ホラ吹きの祖父、あっけらかんとした祖母、いつもパジャマを着てふらふらとさまよっているような母。そして父は……姿が見えたり見えなかったり。
二段ベッドに姉と弟は寝ているのだから、その下に弟がいたなんてことを、なかなか察することが出来なかった。
姉の紅は母親にずっとプンスカしている。弟の山吹は明らかに自分を通り越してどこかを見ている母親に、慈悲深く接している。それはクライマックスで明らかにされるところで、弟の事故死の原因が、自分にあったと思い込んでいる部分にあったのだった。
何より辛いのは、母親の雪乃が、もう最後の最後、自白のように吐露する、彼女は三番目の子供しか愛せなかったという事実、なんである。
子育ての不安、もう一度その苦しみがやってくる恐怖、それを通り過ぎたところに、ただただ愛情を注ぐ対象としての三番目の子供に対する愛を、彼女は誰に聞かせることもない独白のように、語った。
これは……キツいけど、ある、あるんだと思う。きょうだいのいる人たちは多かれ少なかれ、そういう感覚を持っていると思う。子供にとってはとても辛いし、不公平だと思うけれど、今すっかり大人になって、まぁ親になることはなく来てしまった未熟者だけれど、そりゃそうだと思うのだ。
等しく、同じ量の愛情を注ぐだなんて、聖人でなければ出来っこない。ただ、それが理解できるのは大人になってからであって、やっぱり子供に対しては、それを隠していかなければいけないんだと思う。薄々気づかれていたとしても。
ある意味正直に末息子への愛情を貫いたことが、この家族をぶっ壊してしまった。いや……ぶっ壊れては、いなかったかもしれない。
祖父は夢を語っては潰し、笑って天国へと旅立った。少年の山吹は祖父の夢を楽しく聞いて育ち、物語心、絵心を発掘されて、絵本作家となる結末に導かれた。
祖母はこの家庭の危うさを、表向きは楽天的に、でも繊細な思いやりで、支え続けた。何より、母親とぶつかりまくっている娘、紅に心を砕いた。
母親の雪乃が亡き息子への想いでさまよい、そんな母親をけなげに支え続ける山吹、という図式で、確かにただ一人の女の子である紅は、この、愛と言えば言えなくもないサークルから取り残されたと言えなくもないのだった。
祖母を演じる余貴美子は、女性としてのアイデンティティを強く感じさせる一方で、いい感じに力が抜けた素敵さがあって、彼女の存在そのものが、唯一無二のおばあちゃんとして、紅の背中を押した空気が見えたのだった。
紅が母親の雪乃にかみついたように、雪乃は、狂った状態を演じていたんだろうか……?判らない。スナックのママを愛人にして、外でよろしくやっている父親への当てつけだと紅は思っているけれど、そうかもしれないけれど、愛人との関係は二人とも割り切っているように思えるし、それは年月を経るごとに、そうなるというか……。
夫婦、恋愛、家庭環境、どこかでストッパーをやりくりしなければ、壊れてしまう、それを、父親と愛人の関係は上手く描いていた。それを妻の雪乃も判ってはいたけれど、彼女は自分の方法で苦しさから逃げていて、それが、子供たちを苦しめ続けたのは事実なのだった。
山吹が少年から大人になる、その青春時代が、バックグラウンドがそんな風に苦しいけれど、いろいろと甘酸っぱいのだった。後の妻となる、小学生時代の同級生だった頼、彼女がこの街から引っ越していく時の描写が忘れられない。
太っちょの友達(彼もまた、大人になっても友達のままなんである!)と、頼の家の大きな犬と戯れに遊びに行っている。頼の親は社交的で、友達の彼らに明るく接するけれど、当時の頼は引っ込み思案で、黙って山吹にラッピングした紙袋を手渡したのだった。
その中にはお手製のマスコット人形。こりゃー!!頼はこの時から山吹を好きだったってことっしょ!そしてバイト先で再会した時、山吹はそのマスコットを、ボロボロになるまでお守り的に持っていたのだった。こりゃー!!でしょ!!
でも、山吹は、通い始めた個人塾の、先生の姪っ子である一つ上の先輩のかな子に恋しちゃうんである。この恋心は、もうさ、どうしようもないっていうか、結果的にこのかな子先輩は、えっ、こんなめんどくさい女だったの、と観客側が驚くぐらいの行動を見せるのだけれど、そこに至ってようやく、あぁそういう人だったのねとも思うけれど、自分では選べない家族に対する苦しさの部分で共鳴してしまっていたという時点で、それを運命的恋心と受け止めてしまったことこそが、やっちゃいけないことだったのかとさかのぼって思ったりする。
かな子は、とっかえひっかえ恋人を作る奔放な母親、それだけじゃなく、この母親が自分に価値観を押し付けることに苦しんでいる。母親とその恋人との会食に山吹を借り出した時、これはてっきり山吹に対する想いがあるのだと、彼自身は当然、観客だって思ったのだけれど、迎えに来ていた恋人の元にあっさり去っていったからアゼンとした。
この恋人には頼めなかったこと、ということはつまり、この恋人とも上手く行く訳はないということであって、クライマックス、サイアクの再会をまたしても果たすのだが……。
その前にも、予感はあった。山吹が頼との結婚を祖母と父に報告した後、偶然かな子に出くわし、てゆーか、かな子はこの場合、手をつないで歩いている二人に、山吹に、声をかけるべきではなかったのだ。
いや、声をかけてもいいけど、話をしたい空気をビンビンに出して、気を遣った頼がその場を離れるなんてことを許しちゃいけなかったのだ。つまりそれは、山吹も悪いってこと!!
山吹は、姉の紅に会いに行く。祖母だけが紅の出奔を送り出したから、家族誰も彼女の行方を知らない雰囲気だった。父親は紅がつるんでいた友人たちに聞いたりもしたが、どうせ知らないだろうということは、判っている感じだった。
地方ならではの巨大なカラオケ施設の前でたむろして、一緒に遊んでくれる見知らぬ男子たちを呼び出してキャッキャ言ってる同級生たちと、紅は明らかに距離を撮っている感じだったから。
後に山吹が姉を訪ねる……つまり、この姉弟は連絡を取り合っていたということだと思うんだけれど、それでも、彼女が出奔してから、山吹が結婚を決めたタイミングだから、ひょっとしたら10年ほどの時が経っているんだろうと思う。
温泉街のようなところの、古びた写真館。出迎えた店主はさっぱりとした女性。どうやら名前は聞いていたらしく、その女性がその人だと知って山吹が驚いたのは、てっきり男性だと思っていたから。
それは、姉の紅の、つまりパートナーだということを認識していたから、ということも含めてだろうと思う。明確には示されない。シンプルに友人関係とか、仕事上の相棒だとかいうことも考えられる。けれど、そうじゃない。明確に示すなんてヤボなことをしない、というだけ。
想いをたっぷりためこんで、10年もの間を経てお姉ちゃんに会いに来た弟君に対しての店主の樹、演じるヒコロヒー氏がとってもとっても素敵で、もう彼女の存在だけで涙がこぼれそうになった。
三人で、唐揚げ弁当を食べる、次第に山吹が、抱えてきた自責の念を、そして、卑怯にけなげな子供を演じてきたことを吐露して泣きじゃくる、ただ背中をさするしかできないお姉ちゃん、そんな二人を見守り、そっと席を外す樹、メチャクチャ良くて。
山吹と頼は結婚、なかなか子供が出来ない中、祖母の死があり、その葬式に、ハラボテ状態で雨に濡れたかな子が凸してくるという修羅場である。毒親である母親に苦しめられているのは判っていたけれど、その対応に山吹を使っていた過去もあったから、この時点で、うっわ、この女マジヤバいんじゃん、と確信し、山吹もさすがに突き放す。
さすがに、というか、山吹は実に30年もかかって、自分が本当に優先すべきこと、愛する存在に対してのそれを、ようやくようやく、理解して、でも、そのためには残酷なふるまいをする必要があったのだった。
山吹と頼の夫婦にはなかなか子供が出来ない。どうやら二度流産してしまったらしいことが、そのひそやかな会話から示される。その経過があったから、頼は、それでなくてもかな子への複雑な感情があったのに、ハラボテ状態で乗り込まれたらさ、キッツいよ。
正直ね、このサイトでは何度も言っているけれど、実子至上主義は本当に良くない、でも、養子とか、特別縁組とかなかなか成熟していないと、そもそもその考え方が共産主義的にとらえられもするし、難しいけれど、でもでも、やっぱり、考えなければいけない時期に来ていると思う。
それこそ、実子であっても、愛せる愛せないという問題に直面せざるを得ないのならば、家族という形態への議論は必要だと思う。
山吹と紅の母親である雪乃が、末息子の死で狂乱したということが、紅の言うようにウソだった、演技だったのか、ハッキリとは判らないものの、心療内科で処方された薬をバサリとごみ箱に捨てる場面があるのだし、クライマックスで、これは誰も聞いていないのかもしれない、彼女だけの独白かもしれない中で、はっきりとその心持を言っていたのだから、やっぱりそうだったのかなぁ。
だとしたら、実に10年もの間、演技……でもそれが、彼女にとっては楽だったのかもしれないし、その演技自体が彼女そのものだったのかもしれない。自分のために、末息子のフリして手紙を書き続けていた山吹に対してどう思っていたのか、聞くのはちょっと怖い気がするけれど。
こうして思い返してみると、ヒドい母親である筈の雪乃に対して、案外と一番、心を寄せちゃってる気がして、我ながらちょっとビックリもした。
年齢が近いこともあるかもしれない。私は経験出来なかった子供をなすこと、これまた経験出来なかった子供を失うこと、想像するのも辛くて、自分自身が子供なのに、子供を育てるパワーのなさに苦しむことを、想像するだけでキツいと思って。
でも、未来のある子供たちこそを優先して考えなければ。頑張って納税します。それしかないわ。★★★★☆/font>
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