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白の花実
2025年 110分 日本 カラー
監督:坂本悠花里 脚本:坂本悠花里
撮影:渡邉寿岳 音楽:フジモトヨシタカ
出演:美絽 池端杏慈 蒼戸虹子 河井青葉 岩瀬亮 山村崇子 永野宗典 田中佐季 伊藤歩 吉原光夫 門脇麦
でもでもでも、友情という名の純愛でつながれている同性同士のティーンエイジャー世界は、異性や大人やセクシャルな凌辱によるアイデンティティの殺人によって、もろくも崩れ去ってしまうというのは、いつの時代も、男の子も女の子も同じことなのだろうか。
あーあ。トーマに引っ張られて、オチまで言ってしまった。いや……オチ、というのは違うかもしれない。あくまでそれは、この閉じられた世界で、日記というひそやかな遺物によって導かれた、ある意味俗っぽい想像でしかないのだから。
物語は大分スネた女の子、杏菜が、娘を扱い兼ねた両親に寄宿学校に放り込まれるところから始まる。……と書いてしまうとどんな毒親かと思うが、本当に、扱い兼ねた、という感じで、杏菜はこの年頃の女の子らしい論理的に聞こえなくもないヒネた正論を振りかざして、親、特に母親を困惑させる女の子なのだ。
でもそれも、物語の最後にはこの母親もまた、自分がその年頃だった頃を思い出し、その苦悩が、大人になったら折り合いがついてしまった、と、だから大丈夫と言う訳でもなく、あぁ、忘れていたと、本当にシンプルにつぶやいて、親子がつながれる感覚になる。
でもそこに至るには辛く哀しい物語があり、そして、最後には父親の優しさも垣間見えるものの、こんな具合に、父親をはじめとした異性は、見事なまでに杏菜たちフィメールの物語に関与してこない。
満を持して関与してくる時は、完全なる異物、汚らわしきエラーコードとして、なんである。
杏菜が放り込まれる寄宿学校は、そのアンティークな建築が一見ステキ、と思うが、アンティークは建物以外の、すべての意識的なものへも作用している。
まず、制服がオールドクラシックというにもかなりのガッチガチで驚く。紺サージ、スカート丈はまちまちながら平均長め、白ブラウスの下にも黒いアンダーを着こんでいる異様さ。
ブラウスは首元まで隠すデザインだし、ティーン女子のアイデンティティとも言える無防備な素足は、無粋な濃いオレンジのカラータイツにびっちりと包まれている。
これは保守的という以上に、暴力的なほどに彼女たちの女の子としての誇りを檻から外に出さない仕打ちだが、一見して彼女たちはわちゃわちゃと楽しそうにしてはいる。
ただ……その中に、まさに異物たっぷりに迷い込んできた杏菜が、まさに湖に小石が投げ込まれて波紋が広がるように、彼女たちの世界を壊す。
いわば、今まではこの閉じられた、守られた女の子の慎ましい友情世界を、杏菜がぶっ壊したのだった。
それはでも、ちょっと可愛らしいぶっ壊し方だった。幽霊がいる、私には見える、と、杏菜は転校初日、ダンスの練習をしている、ふわふわとしたチュールスカートをまとった女の子たちを怖がらせたのだった。
杏菜のその、まぁつまり霊感は、後に栞から糾弾されるように、自分を守る欲望が働いた、マユツバものに見えたのだが、実際のところはどうなのか。
でも作り手側の描き方としては、杏菜は確かに、他の人には見えないものが見えて、実際、自ら命を断ってしまった莉花の魂が入り込んでしまった、というのも本当なのだろう。少なくとも劇中の、杏菜自身のアイデンティティとしては、真実なのだろう。
そんな書き方をしてしまうのは、先述したように、その人自身が何かをよりどころにしてこれが真実だと語るに過ぎないものであって、客観的事実としては結局は一つも、明らかにはされないから。
でもそれは、この物語世界だけではなく、すべての事象においてそうであるとも言える……絶対的に真実だと思われていたことも、ずっと遠い未来に、その歴史がくつがえされることなんて多々ある。それが、この小さな、ミニマムな、純粋で透明に見える世界の中でも起こっているということなんだと思う。
フテ女子の杏菜がこの寄宿学校でルームメイトになったのが莉花だった。謎の飛び降り自殺を遂げ、その時になってまるで後付けのように、学園の天使のように語られるのが、世間の縮図がこの天使たちの集まる寄宿学校でもあるのだなと思ったりした。
まぁ、それなりに女の子の残酷さは描かれるし、異物である杏菜はそれにさらされもする。でも、世の中に横行しているようなイジメまでは描かれない。
でもその方が杏菜にとってはある意味残酷だったかもしれないような気がするのは……杏菜とルームメイトになった莉花は、他の女の子たちが杏菜を遠ざけているのに対して、彼女だけが杏菜を心配して、優しくて、だからこの前半部分では、この二人がシスターフッドの雰囲気があって、心中キャーキャー言いながら見ていたのであった。
大好きなカトリック寄宿学校の耽美な雰囲気、ダンス練習しているチュールフリフリスカートに無防備なカジュアルTシャツの女の子たち、意識的に差しはさまれる、床に円形に寝転がったり、ささやき合う女の子たちのひそやかに印象的な美しき絵は、そのまま絵画として切り取ってしまいたいぐらいだったのだ。
でもそもそも、この学校、集められる女の子たちは、一クラスにも足りないぐらい、礼拝堂で聖歌を歌っても、ダンスを練習しても、莉花が哀しき自死を遂げ、その真相を追及するための保護者説明会が行われても、その集まる人数は、その一クラス未満分ぐらい。どんどん生徒数が減っていって、それでもプライドが捨てきれなくて、この前時代的寄宿学校を維持しているよう。
異物のように扱われていた杏菜だけれど、ひょっとしたら、皆が彼女のように、どこにも行き場がなくてここに来ているのかもしれないと思うような。
ルームメイトの莉花が、ブンむくれた杏菜を優しくカバーして、イジワルで隠されたリボンを、自分のを貸してくれようとしたり、とても優しかったから、この二人に萌えを見出しかけたのだが、結局は、杏菜と莉花は、友達とまではいかなかったのか。先述のように、どこを事実とカウントするかが難しくて、そのカウントによっては、とてもとても傷つく子たちが出てきちゃうそうで。
ただ、杏菜は、ヒロインではあるけれど、一方で、本作の、語り部的存在であったと思う。最後まで、外からの闖入者、ひょっとしたら莉花の自死を引き起こしたんじゃないかと言われかねないところを、意外にそこはスルーされて、この閉じられた社会を、居心地がいいように見えた世界がそうじゃなかったことを、あぶりだす存在として位置付けられる。
語り部、言ってしまえば狂言回しで、あんなにも居場所がなく、転校を繰り返し(てたらしい)、両親もお手上げな状況で放り込まれた寄宿学校、一見して優しい友達を得たと思われたのが、その友達が死んでしまって、これはイタコだよね、彼女の魂を自分の身体に下ろして伝えるんだもの。
イタコ、と言ってしまうのは、そんなオールドクラシックな文化を言ってしまうのは、どうなのかなと思いつつ、でも杏菜が莉花の青く光る魂をその手に受け止めた時、こりゃーイタコだと、思っちまったんだから、しょーがない。
実際、女子がそうした、魂をおろす、引き受ける職業を担ってきた長い歴史があるんだから、それは私は結構、信じてるところがある。特に、若い生命体は、産まれる以前の世界と近いし、女子はやっぱり、さ……今の時代はあんま言いたくないけれど、やっぱり、違うじゃん、男子とは、そういう命をつなげる宿命っていうのは。
生理がケガレと言われたりといった、理不尽さを抱え続けたことも、現実や科学では説明できない女子の持つ何かがあると、なんだかんだ私は信じてる。
先述したような、ガッチガチの制服スタイルの外にも、なんかピクニックみたいに出かける、校外学習っぽい、自然の中からダンスのネタを探しましょう、みたいな時のファッションも、一見ナチュラルで可愛いかもと思わせながら、デザインは若干たがえながらも、色は同じオフホワイトのセーター、またしても不自然なパステルピンクのタイツで素足を隠し、でもきゃわきゃわと楽し気に湖や森の中を歩く彼女たち。
制服、ダンスのレーススカート、そしてこの校外学習スタイルまで、絶妙に違和感のある指定された監獄感、でも彼女たちはそれに気づいていない、っていう恐ろしさが、籠の中の鳥、という言葉を思い出させる。
でも、彼女たちはその中で楽しく暮らしているんだと思うと、何が正解か判らなくなる。この世界がおかしいと知っている杏菜、莉花、そして、知っているかどうかはわかないけれど、莉花と親友だったから、親友の死に苦しんでいる栞。
莉花が残した、いかにも女の子らしい白いレースが施されたぶ厚い日記が、このミニマムな世界をかきまわすんであった。
先述したように、ここには異性がいない、排除されている。莉花の自殺でヒアリングが行われ、男性スタッフが一人入り込むけれど、明らかにやる気がない様子である。杏菜の父親もまた、娘と母親の関係性に入り込もうとさえせず、いや、排除されていると判断して踏み込まないようにしているのかもしれない。
こんな具合に、後半に至るまで男性性の入る余地がない中で、突然、土足で踏み荒らすがごとく、莉花の父親が入り込んでくるもんだから、杏菜たちは勿論、観客側も、はぁー??と思っちゃう。
土足、まさに土足。それは文字通りの意味で杏菜が、靴を脱いでくださいと言うぐらいなんだけれど、それ以上に、土足で踏み荒らすのだった。
女子だけの寄宿学校に、その部屋に、つまりさ、女子が寝ているベッドに、娘のところだからと、靴も脱がずに、哀しみを理由にして寝転がるだなんて、あり得ない、あり得ない!!土足以上の凌辱、そこでマスをかいてるというぐらいの凌辱だよ!!半世紀生きた老女がそう思うんだから、リアルティーンがどれだけ吐き気を及ぼすか、ですよ!!
この無神経な、愛情押し付けの父親が、娘の莉花を実際、怯えていたという莉花を実際、……だったのかは、判らない。自殺してしまったという事実から、ヤッたんだろ、と思われても仕方ないし、担任教師や栞はそう確信したのだし。
でも、ここで、ある意味不思議な立場の杏菜、なんだよなぁ。彼女だって莉花の父親のずうずうしさには生理的嫌悪感を隠せなかったけど、でも、莉花が受けた何かを断定することはなかった。ただ、防御するしかなかった、出来なかったのかもしれないけど。彼女自身がふわふわと定まらなくて、まだまだ子供で、友達に対して以上に、家族に対して立ち向かえていなかったから。
なんだか上手く、締められない。一見して耽美な女の子たちの世界に酔いしれそうで、苦しいあの頃を思い出しもするし、でも私たちの頃とは違う、現代ならではの苦しさもあるし。
それらをすべて包括して、思い切ってのファンタジー、記号を用いている世界を構築していることが凄いと思う。オレンジのタイツは凄いなぁ、ちょっと見たことない。★★★☆☆/font>
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