home!

「の」


2002年鑑賞作品

野良猫ロック ワイルドジャンボ
1970年 84分 日本 カラー
監督:藤田敏八 脚本:永原秀一 藤田敏八
撮影:安藤庄平 音楽:ホリ企画
出演:梶芽衣子 藤竜也 地井武男 范文雀 夏夕介 前田霜一郎


2002/7/23/火 劇場(中野武蔵野ホール/レイト)
女囚さそりシリーズで惚れずにいられない、メチャカッコいい梶芽衣子が出ているということで興味をそそられ観に行ったものの、最終的にずうっと目を奪われっぱなしだったのは地井武男のカッコよさだったのだ!最近はすっかりバラエティ色の濃い、人のいいオジサンといった趣になってしまったが、若い頃こんなにカッコよかったなんて!あーびっくり。だって私ってばせいぜい「太陽にほえろ!」ぐらいからしか知らないからさあ。精悍に日焼けした締まった体も勿論だけれど、基本、地井さんってこんなにハンサムだったのかあーッ!ちょ、ちょっと田辺誠一をワイルドにした感じじゃない?この頃から、今に見られるようなシャイな味も入っているところもまたそそられるんだよなあ。もうー、本当に素敵なの。ビックリしたよ!

藤竜也なんかはトレードマークの口ひげなど、この頃からもうすっかり出来上がってて藤竜也ーッ!って感じで、それはすでにギャグかもしれない……でもカッコいいけどね。特に、そう、これは彼自身なのか監督がなのかはわからないけど、彼が一番カッコよく見える顔の角度とか、熟知しているなあ、って感じ。サングラスを下にちょっとズラしてやや上からのアングルで見上げた顔のアップとか、くぅーってぐらい、キザだけどやっぱりカッコいいよなあ。そう、彼は全編キザ。もう“藤竜也”っていうひとつのキャラクターになってる。考えてみれば藤竜也はじめ男性役者陣はキャラ者ぞろいで、地井さんだけがある意味フツーだから、余計に地井さんがカッコよく見えたのかなあ。うん、そうかも。

んで、この初見の“野良猫ロック”シリーズ、この当時の、無軌道な若者たちのアナーキーな生活、行動を活写したシリーズということで、この藤田監督の一作だけが唯一の原作モノだとか。その原作が“ジャズ文体で書かれた……”というのが、時代よね。ジャズ文体とかジャズ文学というのがあったというのは聞いたことがあるけれど、実際にそれに触れたのは(映画化といえども)初めて。日々何となく集っては、テキトーに遊び暮す女一人、男四人のグループ。敵対するグループとやりあったりなどということはあるものの、基本的には特になんということもない、ブラブラした生活をしていた。そんな彼らのうちの一人が、ある高校の校庭をまるで狂ったように堀りまくり、そこから銃の山を発見する。悪い予感。この武器がただ彼らの遊び道具にだけ終わるはずがないから。

時を同じくしてタキ(地井武男)に宗教団体、正教学会の幹部の二号さんであるというアサ子が接触してくる。彼女は学会の大祭で信者たちから集まる寄付金を狙おうと持ちかける。ショボい毎日に飽き飽きしていた彼らはこの作戦にのっかるのだが、思いもよらぬケガ、予定通りにいかない現金輸送など、トラブルが頻出して……。

アサ子と出会ったあたりから、地井さん扮するタキがガラリと変貌するんだよね。それまではグループの中でどちらかというと地味な存在。危ないことには手を出さず、女にはシャイで。でもアサ子から作戦をもちかけられ、自分一人で下見に行き、勝ち目ありと判断して、最初のうちは仲間たちにも何も言わずに訓練キャンプに引き入れる彼。突然スーツをビシリと着てきて、並々ならぬリーダーシップをとる彼。でも……結局はさ、皆、みーんな死んじゃって……後から考えれば彼の計画って、用意周到そうに見えて結構肝心な点がヌケてたりして、やっぱりちょっと、アサ子の魅力にちょっとだけ血迷ったかなあ、って気もしなくもないというか……。

このアサ子役に范文雀。若い頃はこんなに可愛かったのかあー。乗馬に興ずるお嬢さん姿、地井さんを翻弄する女、そして幹部の愛人であるという色香。うーん、確かに血迷っちゃうかもなあ。いや、実はさ、この映画を観に来る目的であった梶芽衣子が、全編笑顔満開ですっごく意外で……彼女の笑顔のイメージって、本当に私の中に全然なかったんだよねー。「女囚さそり」はこの後だから、梶芽衣子のもともと?ってこんな感じだったのか、っていう……。終始パンツスタイルで、男と対等にポンポン口聞いてじゃれあって遊んではいるものの、ビキニ姿とかも披露しちゃうし結構オンナって感じで。もちろん「女囚さそり」でもオンナの魅力は凄くあったんだけど、あちらとは非常に両極な感じのそれなんだよね。一方、本作の范文雀は破滅への引き金を引くファム・ファタル。皆が死んじゃった後で、ラストシーンは傾斜した砂浜を彼女が撃たれて倒れる引きのシーン。おいしいとこ持ってっちゃうんだからあ。

なぜ彼らが失敗したかというと、いつもは後ろに白バイ一台だけが付き添っている現金輸送車が、この大祭の時には前後に二台いたから。でも考えてみれば当たり前だよねー。だっていつもの金額とはケタが違うんだからさ。一台の白バイを跳ね飛ばしていただいた現金を、海面下で待機している水中班に投げ入れてトンズラする、という計画が、もう一台の白バイ警官によって通報されてしまい、陸上班はすっかり袋の中のねずみになってしまう。そんでまたあの武器を持っていたことがマズかったんだよねー。あの大勢の警官たちとまともにやりあえるとでも思っちゃったのか、しかし抵抗したことが逆にアダとなり、警官たちは迷いなく彼らを撃ちぬいていく。一人倒れ、二人倒れ……命からがら逃げたC子(梶芽衣子)は水中班のタキに「皆死んだ……」と息も絶え絶えに報告する。そんな二人を狙って、追ってきた警官の銃がとどろく。美しい青い海に、鮮血が溶ける。ひとり残されたアサ子は手に入れた現金を海中に手放し、砂浜に上がってくる。そしてあのラストシーン。

銃で抵抗していた彼らは仕方ないけど、C子、タキ、アサ子は全然抵抗していないのに、撃たれちゃうというのは随分とセンチメンタル。まあ、そうでなきゃこの人生、青春の無為さは出ないんだけど。本当、一人残らず皆死んじゃうんだもん。徹底的に。でも確かに無目的に生きている彼らが、世間的な大人になって……みたいな将来、全然思い浮かばないけど。でもそれって、そういう人間には生きている資格がないみたいな、そんな残酷な突き付けにも思えちゃって。今、実にショボい世の中になっちゃって、くだらない犯罪が多々横行してるようなどうしようもない世の中で。もしかしたらそういう無為な生活を送っていた彼らが、こういう刹那の大バクチに出会わないまま“世間的な大人”になっていたら、そんな結末を迎えてたんじゃないか、みたいな、そんな考えさえ起きてしまう。だとしたら、彼らはひょっとして幸せだったのかも?

劇中に音楽としてかぶさる強烈なR&B、チラリと歌っている姿も出てくる若かりし頃の和田アキ子。そうだよ、そうだよ、和田アキ子のR&Bってこんなにカッコいいんだよー!今でもステージではこんな風に歌っているんだろうけど、彼女の現在の歌手イメージってどちらかというと歌謡曲よりになっちゃってるじゃない?もったいないよねー、こんなにカッコいいのに!彼女のこんなシャウトを聞いちゃうと、近年ぞろぞろ出てきているディーバたちも、凄く上手いなと思っていたにもかかわらず、あっというまに霞んじゃうぐらい、本当に凄い。実にタイムリーに、先日彼女がNHKのインタビュー番組に出ていたのを見たんだけど、やっぱりカッコいいんだよなあ、歌手としての姿勢が。で、やっぱりやっぱりブルースが一番好きで、年寄りの不良になって、温泉旅館借り切って、いつ出てくるか判んないよ、といいながら、そのかわりに出てきたら最高のミュージシャン集めて最高のものを見せるからって。それって凄い聴きたい、絶対!。★★★★☆


トップに戻る