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「ぬ」


2005年鑑賞作品

濡れた赫い糸
2005年 103分 日本 カラー
監督:望月六郎 脚本:石川均
撮影:田中一成 音楽:サウンドキッズ
出演:北村一輝 高岡早紀 吉井怜 奥田瑛二 


2004/8/8/月 劇場(銀座シネパトス/レイト)
望月監督の映画って、極道だのチンピラだのゲイだの娼婦だの、そしてセックスがドギつくて、登場人物の服やら髪型が最悪のセンスだったりして、そんなのがあーヤリすぎ、ついていけん!と思うこともなくもないんだけど、でもそれでもなんだか追いかけてしまうのは、そんなベタなドギツさ一辺倒のように見える中に、なぜだか、不思議に、見落としてしまいそうなぐらいひっそりと、繊細なものが存在しているからなのかもしれない。そしてそれをイコールでと言っていいほど体現するのが北村一輝であり、なるほど彼が望月監督に熱心に使われるのは、だからなんだと、今更ながらに思った。同じく望月作品のレギュラーである奥田瑛二にもそういう匂いがある。彼も酒好きで、女好きで、彼が出れば必ず出てくるようなセックスシーンはドギついのに、なぜだか、ほっとけなくなるような、繊細な心をふいと匂わすのだ……それが母性本能をくすぐる、というヤツなのかもしれない。

望月作品で二人が競演するのは「皆月」に続いて二度目?今回は前回よりもがっぷりと組んで、二人の共通性をより際立たせているように感じる。役柄的にも、奥田瑛二扮するナカさんが、北村一輝扮する茂に自分と同じ匂いを見出だして、いわば自分の後を継がせるような感じでスカウトするしね……。奥田瑛二は近年、そして本作では特に枯れた魅力を発揮していて……それはでもスケベジジイが到達するそれなんだけど(笑)。つまり、すべてを知り尽くしてて、女はどんな女でも平等にカワイイと思ってて、スケベさにイヤミがないオジサン。彼、このままいくと森繁久彌状態になっちゃうんじゃないの(笑)。で、奥田瑛二の前段階を考えると、そう、確かに北村一輝なんだよな、と思う。相応の年にはなったけれど、まだどこか青臭さともてあます精力が抜けきれない男である彼。ひと目惚れなんていう直球を信じてて、腕っ節が強くてヤバいくらいの色気があって、でもそこには……今の奥田瑛二を予感させる、憎めない可愛さがある、みたいな。

そう、ここなんだよね、北村一輝の真骨頂って。
彼ってあのとおり濃い外見で、例えばチンピラとか、ヒモとか、ホストとか(時にはオカマさんとか)やらせると、そう入力したら出てきそうなぐらいの劇画チックなハマりようを見せる。くっきりと縁取られた瞳と、ジーナ・ガーションのようにめくれた唇が、ウラ街道の匂いをぷんぷんとさせるのだ。
でも、彼、優しい男、優しげな男を演じると、これが驚くほど……繊細な魅力を見せるんだ。
それはそうしたベタな印象とのギャップもあるのかもしれないけれど、私は北村一輝のそういう繊細さが本当に好きで、なぜ世の作家さんは彼のこうした面を引き出して撮ってくれないんだろうと思い……望月監督は、北村一輝の、そういうベタな面をまずは取りつつ、そうした繊細さをひょっとしたら見逃してしまいそうなぐらいのひそやかさで引き出してくるから……その一瞬にアッと思って、胸がぎゅうっとしちゃって、だからもう……ああやはり、望月作品の役者、なのだ。

物語設定といい、舞台といい、いかにも望月監督な感じである。関西のとある色町。忍山という娼婦宿。10分7500円で女を抱かせるそこは、ヤクザとも関係なく、女たちは事情がありそうな感じなんだけど、皆肩を寄せ合って寮で一緒に暮らしてて、従業員の男たちはどんな事情がある女でも彼女たちを全力で守ることを大前提にしてて、まるで家族みたいに、暖かく、暮らしているのだ。
勿論、こんな場所があるわけはない。ある意味ファンタジーである。でもそのファンタジーがきゅんと胸を締めつける。そりゃ女たちはこんな仕事がしたいわけはない。男たちもそんな女たちを気遣っている。お互いにそれを判っているから、信頼しあっているのだ。
で、奥田瑛二扮するナカさんは、その従業員の古参である。彼が女たちを心底可愛いと思い、彼女たちの下着を嬉々として干したりなぞしている姿は、至福の表情にさえ見える。彼に誘われた北村一輝扮する茂は、女のヒモなんて冗談じゃねえ、と突っぱねるのだけれど、ナカさんは、それこそが男にとって誇り高き、最上の仕事だと、知っているのだ。

表向きは柔らかな物腰のナカさん、女三人にホレられて、一人はそのせいで精神を病み(自閉症、なんて言ってるけど、それは違うでしょう……誤解をまねくって)あとの二人も嫉妬に狂って彼を取り合いしたんだけど、すっかり困った顔のナカさんに、彼が困るぐらいなら、と仲直りして今は仲良く暮らしている。そんな経歴をモノクロのストップモーションでスライドショーのように見せる遊び心とリズムがなんとも和ませる。そう、そんな風に「彼が困るぐらいなら」と思わせるようなところがナカさんにはあるのだ。それは一見、ただの優柔不断の女好きのように見えながら、そうではない。彼は等しく女たちを愛していて、そんな都合のいい話ってないんだけど……それがナカさんの場合通用してしまうのだ。
で、ナカさんは、こんなただただ柔らかい男のように見えて、実は極道だった過去があって、物語の後半、トラブルを片付けるために一人乗り込み、でもそこでも決して腕力には出ず、奇妙な都都逸なぞ口走って、事態を丸く収めたものの……でも、死んでしまう。そのなんとも不思議な死に様も、いかにもナカさんらしくて、女たちは誰もが、嫉妬したことも忘れて、皆で彼を悼むのだ。

……思いっきり話が先に行ってしまった。で、北村一輝はというと、そんなナカさんにスカウトされる茂である。この物語の筋としては、二人のヒロインに翻弄される茂、ということなんだろうけれど、私にはどうしても、ナカさんと茂のラインが重要に見えてしまう。ナカさんみたいな男って、ありえないけど、男にとっても理想だろうし、ひょっとしたら女もこんな男にホレるのが夢なのかもしれないって思う。
でも、茂はまだそこまではいってない、というかいけてない。彼は冒頭、一人の女にホレる。高岡早紀扮する一美である。あ、これは先に言っておきたいんだけど……高岡早紀にしても、もう一人のヒロイン、吉井怜にしても、今の望月映画のヒロインはおっぱい出さなくてもすむのかー?えー……なんかナットクいかないなあ。物語的にも展開的にもここまでやっといて、おっぱいどころか一枚も脱いでないぞ状態なんてさあ……。望月映画は女の性のドギツさがあってこそ、その情念や心の機微がギャップとしてあぶり出されるんじゃないのお?なーんか物足りない気がして仕方がない……特に高岡早紀なんて、女優として飛躍した「忠臣蔵外伝 四谷怪談」でアッサリ脱いでるんだから、なんで今更躊躇するかなと思う。吉井怜だって、死の淵から生還して、もう怖いものなんてないでしょ。その上で望月映画に出るんだったら、当然それぐらいやると思うじゃない、と……。
でも、吉井怜はイイ役だったし、脱がないまでも、かなり頑張ってた。それにとてもカワイかった。一美は茂にホレられる役、一方吉井怜扮する恵利は茂にホレぬく役。この二人がぶつかって、事態は悲劇の展開を迎えるんである。

一美にひと目惚れしてしまって、それまで付き合っていた彼女とも別れる茂なんだけど、彼女は色町の娼婦であり、しかもそこのナカさんの言うことには、かなりヤッカイな女らしい。茂はこんな仕事を辞めてもらいたいと思って、二人一緒にいられるサウナの住み込みの仕事を見つけるんだけど、そんなところに一美のような女がいられるわけもなく……彼女はね、ま、ひと言で言ってしまえば魔性の女。彼女は本気で男を愛することのない女なのかもしれない。
茂のことは好きだと言っていたけれど、でも一方でダンナがいて、それはヤクザの組長。でもそのダンナに対しても愛情があるようにはあまり見えない。男が自分に陥落するのが当然で、それであとは別にいいやって感じで気まぐれで……それはなんだか、あまり幸せなことではないような気がする。
この一美に裏切られたことで、ホストとして次の人生を歩もうとしている茂の前に現われるのがもう一人のヒロイン、恵利である。あ、ところで北村一輝のホスト姿って、ほっんとうに……ホストだよなーって感じ。それも、ヤバそうなホスト。絶対、ヤクザとか後ろにつけてるでしょって、タイプの……。テレクラでひっかけたオヤジから金を盗んで逃げようとした恵利を茂はひっつかまえるんだけど、殴っても殴ってもカラカラと笑うばかりの恵利に苛立つような感じでなんだか誘い込まれちゃって……寝てしまう。彼は恵利を娼婦として売り飛ばすんだけど、妊娠している上に病気持ちだということで逆にトップから弁償を迫られてしまうのね。

実はこの病気だっていうのは彼女のウソだったんだけど……。つまり茂と一緒にいたいがためのウソだったんだと。恵利はとにかく茂が好きになっちゃって、彼をかつてクビにした会社に乗り込んで鉄パイプ振り回したり、もうメチャクチャな女の子なのだ。そんな恵利と一緒にいる時に茂が見る妄想めいた夢が、いかに彼女が破天荒な女の子かというのを示唆している。この夢もそうだけど、本作にはシュールな展開がそこここに見られてそれもかなり面白いのだ。例えば忍山の経営者夫婦とか。特に諏訪太郎扮する夫の方は、場面に映るたんびに一心不乱に食べていて、それは大抵、てんこもりに盛られた奥さんの手料理であり、彼らのラブラブぶりを実に物語っているのよね。
で、このご主人さん、あまりに食べ過ぎてノドにでも詰まらせたのか、いきなりことっと動かなくなって死にかける。カットが変わったら、いきなりお遍路さんのカッコなんである。「死にかけた命を助けてもらえたから」と。んで、奥さんも「ついていくわ」と。何だよ!この展開って、物語になんか関係あんの!?でも、ぼーぜんと見送る従業員たちとのコントラストがなんともシュールで可笑しくてさ!

あ、だからそうでなかった。何の話だったんだっけ……。あ、そうそう、恵利の話だった。彼女は血を吐いて私は病気なんだと、言っていたのね。吉井怜の元の病気のことを考えると結構シャレにならん話なんだけど……。恵利がそんな理由で彼女をスカウトした茂の面目を潰しちゃって、茂はやむなく元の巣に帰ってくる。イケてたホストのスーツ姿を脱いで、忍山のハッピをはおって、ノンビリと女たちの面倒をみる日々を送るようになる。
恵利は「売春はイヤ」と言いながらも、茂と一緒にいられることが嬉しいんだと言う。茂はここでもっと頑張るために、自分でも女の子をスカウトしてこよう、とホテトル嬢を呼んでみる。すると、「一番カワイイ子」と言ったのに、デブでイケてない女の子が来てしまう。でもね、その子が事態を察知して「チェンジしましょうか」と言っても、茂は彼女を抱くんだよね。こーいうところが茂の茂たるゆえんで、ナカさんが後継者と見込んだ部分でもある。この子は、「こういう仕事をすれば、女として扱ってもらえると思ったんだけど、ダメだった」と言い、「でも、あんたは違った」と言うんである。茂は彼女をほっとけなくて、忍山に連れ帰る。てっきり使い物にならないとか言われるかと思いきや、意外や意外、「こういうのが好きなお客さんもいるんや」と……。でもそんな風に言う経営者夫婦にもね、ナカさんや茂にあるような、女の子を慈しむ優しさがあって……ちょっと笑っちゃいながらも、その繊細な優しさにきゅんとなってしまうのだ。

茂の優しさは、言ってしまえば誰にでも無節操な優しさ。でもそういう優しさだって判ってても、事情を抱えた女たちは彼を好きにならずにいられない。
このデブちゃんも勿論茂にホレてしまう。ある日、ナカさんが女の子たちの慰労のために豪勢にアワビを食べに連れていってくれた帰り、「うちは茂がいないとダメ」と言う恵利に、「うちもや」と言ったこのデブちゃん、「じゃあライバルやわ」と恵利は走っている車から彼女を突き落としてしまう。「大丈夫、うち体は丈夫やから」などと言うデブちゃんについつい笑ってしまうんだけど……この時恵利は病気なんかではないことが茂にバレてしまって、茂のショックの受けようもやけに激しい。「ウソだったのかよ!」ともううろたえまくっちゃって、「お前は俺の人生をメチャクチャにしたんやぞ!」って、もう、見も世もなく(ホストとかでキマってる時より、こういううろたえた彼が断然、イイよね)……それを恵利がじっと冷静に見つめているというのも皮肉であり……で、彼女は彼の元を去ってしまうのね。

このおデブちゃんは、その後もなあんか、泣かせるのだ。恵利は去ったけど、その後、一美が舞い戻ってきてしまった。ダンナがまた刑務所に入り、彼女はお金に困っているんだと言う。彼女に裏切られた過去を忘れられない茂は一度はつっぱねるものの、ホレた弱みで結局彼女を忍山に連れてきてしまうのね。で、おデブちゃん、彼女が茂の思い人だってこと……あなたが寝言で言っていた名前ね、って言って、彼と一緒にいた部屋を黙って去るのだ。彼と一緒に寝ていたベッドだった。そこで編み物なぞしていた。でも、なあんにも言わずに……「茂、たまには、会ってね」うう、女にそんなこと、言わせんな!茂が「行くとこあるんか」「ナカさんに頼んで泊まるとこ探してもらったから」「……そうか」あのね、彼女ほどいいコはいないよ。あんたが振り回されている一美よりも恵利よりも、ずうっと、イイ子なのに。ナカさんが死んだ後、経営に四苦八苦している茂を助けているのも彼女なんだもの。
ところで、このオデブちゃんを演じてるの、佐倉萌、なんだよね!?ビックリしたー!いつのまにこんなに太っちゃったの!?それともこの役のために太ったの!?いや……でも2、3年前に見かけた時に、なんか既にヤバそうだったから、これはやはり自然現象か!?結構な美女だったのになあ……なんかもったいない気がするよー。

でね、戻ってきた一美、結局トラブルを持ち込んでしまうのだ。でもそれは、一美というよりは、あの時茂から去っていった恵利が関係してた。15歳だという女の子を忍山に送り込んで客をとらせ、脅迫し、話し合いに向かったナカさんは殺されてしまった。恵利が……いたんだよね、そこに。恵利は、茂と出会った時とおんなじように、狂ったように笑って、オメコしよ、なんて言って……その時茂はナカさんのかたきをとりにきてた。一美が、そんなことするなら別れるしかない、と切り札を出しても、茂は聞かなかった。一人、乗り込んだ。でも、茂は誰を殺そうとしてたの?あの、しょーもないチンピラ?それともやっぱり……最初から、恵利が標的だった?恵利は乗り込んできた茂に、狂喜の笑い声を炸裂させるんだけど、包丁を見てうろたえて、焼き鳥の串を舌にグサグサさして、そう、あの時、ウソの血を口から吐いたことを重ね合わせて……茂が好きや、好きや、好きや、って……一体何回言っただろう。茂が、いいよ、もういいから、と彼女をかき抱くと……彼女、茂をグサッと刺してしまうの!ちょっと待って!何で!?と思う間もなく、本作上最もシュールな場面へ……彼女に刺された傷を抱えたまま、ベッドインする二人。意味の判らんまま指は詰められるわ、痛みにモーローとした頭のまま彼女に指を尺八のごとくしゃぶられてなぜだかイッちゃうわ(別にモノをしゃぶったわけじゃないけど、それと変わらない激しさで指をしゃぶる吉井怜……そこまでするんなら頑なに脱がないのもどうかと思うけど)、だって彼、わき腹あたりに刺された傷がそのままなんだよ!?死んじゃうかもしれないのに……それでも彼女が傷つくことを恐れて、一緒にいてやるあたりが茂、なんだよなあ……。

茂、殺されたかと思ったら、無事戻ってきてる。オデブちゃんが面倒を見つつ、帳簿なぞつけて。恵利はどうなったのかなあ……判らないけど、とにかく茂はナカさんの後をつぐカタチで、これからも女たちを家族のように大切にし、時にはこんな騒動もありながらも、彼女たちを守っていくんだろう。

これは、シネパトスだけの、しかもレイトとはもったいなくないかい?別にそんなエロでもないのに……。★★★★☆


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