home!

「ら」


2006年鑑賞作品

楽園 流されて
2005年 106分 日本 カラー
監督:亀井亨 脚本:永森裕二 亀井亨
撮影:中尾正人 音楽:奈良敏博
出演:街田しおん 榊英雄 小林且弥 不二子 佐藤貢三 野村貴志 鈴木一功 ベンガル


2006/2/14/火 UPLINK X
こんな意欲作がこんな小さなところでひっそりとかけられているなんて。この監督の前作は残念ながら観てないんだけど、これはちょっと、本当に凄い。
こんな脚本を渡されたら、役者は誰だって、この役を他人には渡したくないと思うだろう。主役の一翼である榊英雄は実際、そう口にした。しかも彼は舞台となっている五島列島の出身だという(へえー!)し、そのガッチリネイティブにもかなり驚かされる。
しかしなんといっても主役の男女とも、身体も含めた全てをさらけだす覚悟がないと、やれない。たとえ小さなバジェットで小さな公開でも、それだけの価値がある役だ。

漁だけが糧みたいな、小さな田舎町を選挙カーがめぐっている。ちらほらといる住民たちに向かって賑やかにアナウンスされてはいるものの、車の中の当の立候補者、多々野恵利香(街田しおん)はやる気のなさそうな顔をしている。
「ここ、パパの地盤でしょ。回る必要、あるのかしら」
美人でスタイルはいいけれど、一見して高慢ちきで横暴な女。しかも局アナなんかやって顔が知られているもんだから、プライドが高く、父親からひきついだスタッフをアゴで使っている。

と、いうキャラなのに、もうムカツク女のはずなのに、私は彼女に最後まで腹が立たなかった。かなりステロタイプだからなのかな、と思っていたんだけど、見ていくうちに、違う、と思った。
彼女と比較される形である男性側の主役、洋平(榊英雄)の方にこそ腹が立ったせいもあるんだろう。この洋平が彼女の言うように、恐らく人間の大多数のタイプであり、彼に腹が立つのは近親憎悪なんだろうなと判るから。
彼女が彼を、そして周りの男たちを、指示待ちなだけだと喝破した時、とても気持ちが良かったのだ。
それは一見、女王様のようにただただ命令するムカツク女のように見えながら、指示されなければ何も出来ないその他大勢を、鋭く見抜いているから。彼女は服従することや、自分を否定することが何よりキライなのだ。ただそれだけなのだ。

一方で、洋平は何が目的ともしれず、父親の漁の手伝いをしている。あとを継ぐ、という積極的な姿勢も見られない。ただ不満げに暮らしてる。
しかも彼はヨメをイラつくままに、口げんかの末、殴って海に落として殺してしまった。本当に、くだらないことだったのに。
セックスの時声を出さない彼女に、パート先の店長との浮気疑惑を問いつめると、
「なんて言ってほしいわけ?店長との方がキモチイイって?じゃあ言ってあげる。あんたのセックスは今まで付き合った男の中で下から二番目よ」
これに彼は逆上してしまう。
自信がなかったからなのか、あるいはあったのにぶち壊されたからなのか。そんなことにしか、男としてのよりどころがなかったのか。
洋平はそれを誰にも話さないまま、恵利香たち選挙活動の島巡りのために、漁船をチャーターボートに仕立て、運転する役目を引き受ける。

それにしても島での選挙運動はヒドいもんだった。恵利香が、「こんなの選挙の押し売りじゃない」と言うのは実に当たってたのだ。寝ているところをたたき起こして、「ご挨拶にうかがってまーす」だなんて。相手がキレるのもムリはない。
彼女はただ引き下がろうとしただけなのに、選挙スタッフはまた彼女のワガママが出たかと引き止めようとする。たたき起こされた男は更にキレて、ホースで水をぶちかけまくる。

もう島を回らない、と言う彼女を置いて、選挙スタッフたちは後で迎えにくるからと、船を出してしまった。
恵利香とともに残された洋平。彼女は夕方までに本土に帰ってテレビに出なきゃいけないのよ、と、あなた漁師なら何とか方法考えなさいよ、と毒づく。そんなこと言われたって……と相変わらずのらりくらりとやる気のない洋平。
業を煮やした彼女は、小さなエンジンつきボートに勝手に乗り込んでしまう。ほら操縦しなさいよ、と。
かくして二人は迎えを待たずに、その小さなボートで本土に向かうんだけど、途中でガス欠になってしまうのだ。

ボートを出せと言ったのは恵利香なのに、ここでも怒るのは彼女である。なんでガソリンの点検をしなかったのよ、とか言って。
さすがに、そりゃねえだろうと思いそうなんだけど、やっぱり思わないんだよな。私、フェミニストすぎるのかな。
でもさ、彼女が命じたからという理由で、気が進まないのに押し切られたのは彼だもの。
それは最初から、責任の所在を彼女の方にしたいという無意識が働いているように思えるんだもの。
しかも彼女は、どんな事態になっても、悲壮感がない。それは一見、ただ一人の他人である彼に命じてればいいという傲慢に見えそうになるけど、違う。
こんなところで終わるわけがないという、自分への自信があるからなんだ。

結局彼らはそのまま漂流を続け、ある島に流れ着く。
どうやら、無人島らしい。
ただ漫然としている彼に、彼女は言う。あなたも指示待ち人間なのね、と。じゃあ私が指示してあげるわよ。その方があなたにとってラクでしょ、とここでもまた女王様のごとく、あれこれと命令する。まず飲める水を探してきて。それから食べ物、寝る所、と。
彼はしぶしぶ立ち上がる。水を探し出し、魚をとろうとするも上手くいかない。
「あなた本当に漁師?」そうくりかえし聞く彼女にキレる。しかも「私、魚って好きじゃないの」なぞと言うもんだから、じゃあ食うな、俺がとってきたんだから、となってしまう。
彼女、半ばハンスト状態のようになる。「一ヶ月ぐらい食べなくたって、死なないでしょ」いや、死ぬと思うが……。

彼女は誰かが探しに来るはず、と確信しているのだ。彼女は彼にこう言った。
「この世の中に必要とされている人はたった一握りなの。私は必要とされている人間。そして必要とされていない人間は、私たちの指示を待っているの」
ちょっと、違った。彼女も必要となんてされてなかった、彼ももちろんそう。父親にさえ。だから助けになんて来なかった。二人とも嫌われてるから、せいせいするぐらいに思われていたんだ。
だから定義が違うんだ。必要とされているんじゃなく、そう思い込んでいる人間と、そうじゃない人間ってことなんだ。
前者である彼女は幸せな人である。必要とされていないことなんて知らずに、自分から必要を取りにいくバイタリティがある。
必要とされていない自分を自覚している彼は、ただミジメなだけ。それが多分、大多数の人間だ。

彼女は無人島なハズのこの島で、一人の中国人(多分)の男を見つける。
女物のワンピースを着て、ツーショットの写真を飾っているところを見ると、彼もまたこの島に漂着し、ここで恋人が死んでしまったのか、あるいは恋人に捨てられてここに流れ着いたのか、判らないけれど……。
身振り手振りで食料をくれと懇願する彼女。彼は分けてくれた。けれど替わりとばかりに彼女のキレイな膝をまさぐり、タイトスカートをたくし上げ、後ろから突っ込んだ。彼女はあの時の洋平のヨメのように、声ひとつあげなかった。ただ必死に食べ物を口に押し込んだ。
こんなところでも女の武器はこれしかないなんて哀しいけど、それを割り切って使う彼女はやっぱり強い。

かくして洋平との立場は逆転、彼女はこの島での生活を謳歌するようになる。
中国人とのセックスも、次第に積極的に行うようになった。あられもない姿で抱かれた。それを覗き見た洋平、「いいご身分だよな。食べさせてもらって、抱いてもらって」とそれは皮肉のつもりだったんだろうけれど、本当にそのまま彼女の意思でやっていることなのだ。
でももちろん、このままこの島にいるつもりはない。彼女は中国人の男にオールを削らせていた。エンジンはダメになっていてもボートがあるんだから、こぐオールがあればこの島を脱出できるはず、と。

しかしそれが出来上がると、この中国人男、一人でこいで行ってしまう!
呆然と、浜を走って追いかける彼女。「どうして!どうして!」と叫びながら。小さくなっていく中国人の男はのどかに手を振った。
残された彼女の日傘には「再会(再見、じゃないんだ)娼妓」と書かれてた。
結局、娼婦なだけなんだ。でもそれは、判っていたはずなのに。
この中国人にカラダを差し出す代わりに食べさせてもらってくることぐらい、承知してた。でもそれは相手を満たしていると思ってたし、一緒に脱出するつもりだったからこそ、オールを作らせていたのに。

一方、洋平はこの島を出る気はないらしい。
魚をとるのもだんだん上達してきて、島のイモなんぞも掘ったりして、ホタルや光る海に見とれたりして。
最初、無人島と思っていた時、彼は彼女に言ったのだ。この島にたった二人なんだから、と。暗に、だからいがみ合わずに上手くやっていこう、という含みがあった。
でも三人目があらわれて、彼はひとりぼっちになった。その頃の彼は魚もとれなかったし、つまり生活力がないから選ばれなくて当然だった。なんかこれって、まるで男女の関係の縮図みたい。
でも、また二人きりになった。念願の、たった二人。
「たった二人の生活だから、楽しく暮らしたいと思っただけだよ」彼はまた彼女にそう言う。そうかな。この状況を待ち望んでいたんじゃないのかな。

その台詞を謝るように言ったのは、中国人に去られた彼女に逆に毒づかれた彼が、土砂降りの中、彼女をひんむいて、犯してしまったから。
「気がすんだ?」言い放つ女に、うなだれる男。
男はいいよね。力まかせに女で気晴らしが出来るんだから。
でも、それは最もミジメなことなんだけど。
弁が立たないからという理由で、彼女に暴力で対抗する。それも判るけれど、やはり腹が立つ。なぜかこの高慢ちきな彼女よりも。
弁が立たないというのは言い訳に過ぎなくて、彼は彼女の言うとおり、自分で何も決められない指示待ちなのに、それを他人のせいにしているからなのだ。

と、いうことを、この期に及んで彼は自覚するようになる。彼女に積極的にかしずくようになる。
そうなると不思議なもんで、彼女からもあの高慢さが薄れ、「魚ってこんなにおいしかったっけ」などとかぶりつくようにさえなるのだ。
しかし一方で、彼女は浜辺に壊れかけたイカダを見つけてて、こっそり修復していた。それを見つけた彼は、バラバラにして海に流してしまった。
でも、このイカダ、長年この島にいたらしい中国人の男が見つけてないというのもおかしいけどな……。
中国人の男も逃げる気がなかったっていうんなら別だけど、結局彼らの乗ってきたボートに乗って、逃げたじゃない。
それとも彼女に出会って性のエネルギーを満たされたことで、外への意欲がわいたのかな、うーん。まあ、彼の話題は終わったからいいんだけど。

あ、いや、微妙に終わってないんだった。だってどうやら脱出に失敗したらしいこの男の遺体が、浜辺に流れ着いちゃうんだもの。何も言わずそこから立ち去る恵利香と、遺体を無言で海に押し出す洋平。
ある日、洋平は恵利香を海岸に誘い出す。光る海を見せてやると言って。何、ロマンチックにして私を抱こうって気?なんてせせら笑う彼女だけど、まるでその賭けに乗ったかのように、ゆっくりと服を脱ぎ出す。
「誤解しないでね、そんなんじゃないから。ただ、私は寂しいだけ」
好きになったわけじゃない、とか、心を許したわけじゃない、っていう意味だけど、こっちの方がよっぽどロマンティックで赤裸々だ。これだけでも彼女が正直な人間だってことが判る。高慢ちきは、人間が恥じて出せないキャラクターであるだけなんだ。

そうは言いつつも、キスまでに、時間がかかる。今更恐れるように、唇が触れたり離れたりする。凄いクローズアップでドキドキする。まるで好きになるのを恐れるかのように……。実際、思いが伝わるキスは、最大重要事だ。
光る海をバックに、ひとつになる二人。
その後、彼は彼女に告白する。イカダを流してしまったこと。島でヨメを口げんかの末に殺してしまったから、無人島に流れついたのは、彼にとってラッキーなことだったのだと。
もう戻れない。戻る気がない。海に漂流してる時から携帯で連絡をとろうともせず、海に沈めてしまった。
だから、彼女が見つけてひそかに修理していたイカダを流してしまった。
戻る気がない、のに、一人でいるのは怖い。身勝手な男に、当然彼女はキレるんである。
そして彼は彼女のために、木を切り出して、小さなイカダを作り始める。

彼女は、二人で脱出すると、思っていた。けれど彼は乗らない、と言った。自分の無責任な今までの人生を反省している、ここで一人でやっていこうと思う、そう言って彼女を送り出す。そんな彼の言葉を、目をしばたたかせて、涙を落として聞いている彼女。
ここですんなり送り出せば美しかったのに、土壇場で、行かないでくれと彼女にしがみついて、引き戻そうとするんだから……なんか、哀しくなる。愚かで。そんなみっともない彼を蹴散らして彼女は海に出る。

彼女は無事、船に拾われた。でも本土に着いても彼女を迎える人は誰もいない。選挙はとうに終わってて、彼女のポスターには、当人不在のため資格が失われた旨のメモが張られていた。
彼女も、必要となんてされてなかった。
でも、彼女、全然メゲないんだよね。島でちょっと殊勝なキャラになったかと思ったのに、すっかり戻っちゃった。
選挙の責任者を電話口に呼び出し、今から行きますから、と居丈高に言い渡し、もう誰も手助けしてくれる人なんていないから、一人、いつ来るともしれないバスを待ってる。でも、でもやっぱり悲壮感はないんだ。島から戻ったばかりの、着たきりスズメの汚れたミニのタイトのスーツのまま、かかとを折ったハイヒールのまま。なのに。
洋平が、誰からも必要とされない人生に虚しさを感じて、だからあの時、ふいに彼女を引きとめたんじゃないかと、今にして思う。
でも、そんなこと、関係ないんだ。自分に必要なのは自分だけ。ただ生きていくだけなんだ。生まれる時も死ぬ時も、自分の力しか頼りにならない。

バス停で彼女がすれ違ったのが、洋平の殺したはずのヨメに似ているように一瞬見えたのは、やはり気のせいだっただろうか。
そのとおりだとしたら、なんて皮肉なことなのか、と思う。

光る海や、飛び交うホタルや、雨や、がちょっとCGクサイのが気になるところではあるけれど……あ、気になるといえば、彼も彼女も、ひげも腋毛ものびないんだよな。まさかこんなところにカミソリや毛抜きを持って行っているとは思えないんだけど。
街田しおんはさすがモデル出身だけあって、美しいヌード。榊英雄は案外……たるんでたな。白いし。これだけ無人島にいて、あんな白いのもどうかしらん。こんなんでシメるのも何なんだが……。★★★★☆


ラブ★コン
2006年 100分 日本 カラー
監督:石川北ニ 脚本:鈴木おさむ
撮影:音楽:川口大輔
出演:藤澤恵麻 小池徹平 玉置成実 山崎雄介 工藤里紗 水嶋ヒロ 南海キャンディーズ(しずちゃん・山ちゃん) オール阪神・巨人 畑正憲 温水洋一 谷原章介

2006/7/20/木 劇場(銀座シネパトス)
こういうのに満点つけると、また山下さんはーとか思われるんだろーなー。だって好きなんだもん!こーゆー少女マンガで育ったんだもん!というか、まだこーゆー少女マンガがあるのね、ああ、ホント別マチック。
昨今は少女マンガであってもセックスが当然のように入ってくるみたいだが、私にとっては少女マンガはやはりコレである。だってさー、あの恋のドキドキをとことん追わないなんてもったいないのだ!セックスが入っちゃうと、それがとたんに壊れてしまうんだもん。人間ガマンが大切よ。恋のドキドキはつまりは忍耐力なのよ。それによって人間は成長するのよー!

と、なんだか言ってることが意味判らんくなってきたが。つまりヒロインが口にする「キュン死にしそうや〜」という台詞が全てを物語っているのよね。
というか、観てるこっちがキュン死にしそうだよ!だって……なんなの、小池徹平君のあの完璧な美少年っぷりは!こんな美少年がいていいのか!完璧すぎる。可愛すぎる!肌キレー!前髪をピン止めで止めてるよおー、似合うー!
あたしゃあドラマは殆んど見ないので世間の事情に疎く、彼に関しては去年年末の紅白歌合戦で、うわ、なんてカワイイ男の子なんだ!と遅まきながら目をひんむいたのであった。
いや、正確に言うとその前に一度観てる。しかも演技を。「誰がために」で殺人者を演じた彼をね。
そんな役だったから、笑顔はひとっつも出なかったのだ。だからこんなにカワイイ子だなんて、その映画を観た時にはぜえんぜん気づかなかった。というか、あの映画自体、私にとってはかなりの疑問符だったからさあ……。
「誰がために」はやはり間違いだった。こんな美少年の魅力を殺して使うなんて!

などと興奮してしまったが、実は更にスバラシイのはヒロインの方なんである。
コミックス原作ってのは、それもこういうコメディ要素の強いものに関しては、そのキャラに負けないくらいの表情の豊かさが命。徹平君も、笑った時の歯の奥まで見える感じとかコミックスさながらなんだけど、その点に関しては藤澤恵麻ちゃんは更にすばらしいの。
マンガそのままの表情を見せてくれているんではないかと思われる「えー!?」みたいな顔なんか、もう女の子捨ててるって!しかし、これがまた超絶美少女で、小顔にまつ毛バシバシだし!
で、彼女のプロフィールをつらつらと眺めていたら、ふんふん、NHKの朝ドラ出身……ってこんな子いたっけ…………ええー!あの子か!と唐突に思い出してビックリする。

まあ私は実家に帰省した時にちらりと見るぐらいなのだが、近年では珍しく演技経験のないこの子が抜擢され、こりゃ半年持たせるのは難しいだろうと思われる、まあその……ヘタ演技だったんだよね。
ただやっぱりすっごくカワイかったし、素直で一生懸命な感じが痛々しいぐらい伝わってきた。
ワキを固めるベテラン役者さんたちがこのコを助けて盛り上げたから、撮影終了の時には彼女だけでなく皆して感無量だった、なんていう記事を読んでて、あー、なんか泣けちゃうわあなどと思っていたもんだから、アラビックリ!
こんなハジけたキャラクターを思いっきり演じている彼女があの彼女なんて、観ている時には全然気づかなかったよ!
そういやあ冒頭、観客に向けて徹平君とともにメッセージのVが流れるんだけど、その彼女は朝ドラで見てた時の、おっとりした感じで、とてもこのジェットコースターのようなヒロイン、リサを演じるようには見えないのよ。ああ、彼女、頑張ったんだなあ……などと、オバサンはもうそれだけで勝手にカンドーしてウルウル来ちゃうのよねー。

と、前置きがすっかり長くなってしまったが。ところでこの監督さんも、いきなり長編デビュー組かい?最近、多いなあ。今回は原作の個性と脚本の良さに助けられた気がするから、とてもこの一作だけでは計れないけど。
だってこの作り方は原作あってのものでしょ!ま、読んでないけどさ。デッカイ女の子とちっさい男の子、コンプレックスを持った同士の恋物語、ってまあ言ってしまえばそれだけのコトが、これだけドキドキ、楽しいのはさ!
なんたってもう、この大阪弁の台詞の応酬が最大の魅力なのよ。その言葉選びの面白さも殺さないために、台詞と同時にポップな字をそのまま画面にちりばめる。映画のテンポも同時に良くなる。うんうん、スバラシイ。

冒頭、二人の息の合いようを一気に観客に納得させてしまう漫才コンビさながらの「合ってる」やりとりが、実に、実ーにスバラシイのである。
お互いのデッカさ、ちっささを揶揄する応酬がなんとも面白いんだけど、デッカさを巨神兵(ナウシカかい!とのツッコミもスバラシイ)だの、大林素子だのとぽんぽん出してくるのには、ついつい吹き出してしまう。まさしくつかみはOKなのである。
しかもこのシーン、さまざまにアングル変えて、「合ってるのになあ」「ほら合ってる」と合いの手を入れる同級生の画をメインにして、二人が画面の隅っこに「合うてへんわ!」「偶然や!」とさながらツインツッコミのごとくに小さく入り込んでくるっていうのがまた絶妙なのよね〜。いや、実にスバラシイのさ。

なんつっても高校生活の思い出となるべきイベントが、もらさず全て盛り込まれているのも重要事項よねー。放課後にダベる喫茶店でしょ、合コンはカラオケでしょ、二人で観に行くクリスマスライブ、夏祭り、修学旅行、文化祭、そしてクライマックス、バスケの、スリーオンスリーの対決!
この10代のキラメキを、ともに20代に突入している二人が、臆面もなく高校一年生から演じるのがイイ。
臆面のなさは、この映画の命。臆面のない映画、大好きさっ。

まず、二人が共に「海坊主」(バンドらしい)のファンであることが発覚するんである。その場所は、リサが彼氏を作ってやる!と息巻いて友人にセッティングさせた合コン。でも結局意気投合しちゃったのは大谷とだった。
それから急接近する二人、リサは大谷のことがどんどん気になって、「キュン死にしそうや〜」とあいなるわけである。
でも、リサはやっぱり自分の身長が気になるんだよね。大谷は黒板の上の方が届かなくていつも消し残しがある。それをリサはラクラク届く身長で消してやりながら何とはなしに嘆息する場面とか、上手く物語ってるんだよなあ。

そしてクリスマス、海坊主のクリスマスライブに大谷が誘ってくれた。有頂天のリサ。しかし、大谷の元カノが中学のバスケ部同窓クリスマス会を告げに来て一転、雲行きが怪しくなる……。
とまた、この大谷の元カノっつーのが、このあと夏祭りの時にも登場するのだが、また反則なぐらいカワイイのよねー。それに大谷より、背が小さい。リサは自分はヘイキだから同窓会の方に行って来なよ、と気持ちを押し隠して言うのだが……。
幸せそうなカップル満載の街の中、すっ転んでタイツに穴あけちゃったリサ。もう自分が情けなくなっちゃって、つい涙を落とす。
そこへ、「小泉ー!」と大谷の声!人ごみをかきわけて、大谷が走ってくる!
「お前がひとりで行くって聞いて。お前との約束の方が先やからな」
そしてリサの涙に気づいて、「何で泣いてんのや」更にその膝小僧のキズに気づいて、「消毒せんと」とリサの手を引っ張る。驚いて手を引っ込めるリサに怪訝そうにするも、気にせず再び彼女の手を引っ張り駈けてゆく。
ああ、ああ、手をつなぐだけでこんなにドキドキするなんてっ。これが恋の素晴らしさなのよー。
元カノよりリサを優先したことが、もうリサを好きなんだってことに、まだまだ彼は気づいてないのである。

それにしても海坊主っつーのがね。カラオケで流れるPVが寺島進出演の海の男バリバリのロックでさ、ナンジャソリャーなのよっ。
いろんな人を、思いもせぬ使い方するんだよなあ。恋する二人の表情から気持ちを読み取るムツゴロウさんが登場したりもするし!いいのかー!ってもうハラがよじれる!

そして、夏祭り。これは絶対にハズせないイベントである。だって女子は浴衣である!いつもつるんでいる友達たち、すでにカップルとなった二組はラブラブで、特にメガネ同士のカップルの方がね、メガネ美少女の方がね、もう萌え萌えなのよー。彼氏がいつもあらぬ想像をして、鼻血ぶっぱなすのが判るーって感じ。
そのメガネ美少女は同級生のはずなのに、なぜか一人敬語を使っているあたりも、萌え萌えなんである。
しかもしかも、彼女はそのおっとりさでいきなり刺激的なことを言う。「(浴衣だから)私、ノーパンです!」そりゃ彼氏、鼻血出してぶっ倒れるって!
この友達たちは、誰よりお似合いの大谷とリサがなかなかくっつかないのを心配してる。で、リサから大谷に告白させようと、この夏祭り、二人きりにさせるよう画策したんである。

で、あの元カノが登場。どうやらこの元カノ、大谷に未練があるらしい。元カノについてきた友達は、「この人が彼女なわけないやん。だって先輩より背高いんやで」と言うもんだからリサは深く傷つく。しかし大谷はキッと前を向いて、「オレの彼女や。背なんて関係ないやろ」と言い放ち、リサの手を引いてその場を去るのである。
大谷は、とっさにそんなことを言ってしまったことをリサに謝る。昔、背の高い女の子にフラれたことがあるから、そんなことを言ってしまったんだと。しかし、リサの気持ちは止まらない。だって、背なんて関係ないって言ってくれたもん!
更に夜空に打ち上げられた花火が、完璧な舞台を作り上げてくれたし!
決死の覚悟で、「大谷のこと、好きや!」しかし大谷は「冗談ヤメロやー」しかもしかも「オレが背の高い女にフラれたって聞いて、ハメようとしたんやろ、お前は危険な女や!」リサ、心の中で「ええー!!(濁点つけたい……)」
この場面を様々にアングル変えて、ムツゴロウさんに解説させるのが爆笑必至!

そしてこれも絶対にハズせないイベント、文化祭。大谷に気持ちが伝わらなかったことで荒れるリサ、お岩さんを熱演してお化け屋敷で客を怖がらせるのが、「お前、リアル過ぎるんや」と大谷から引きずり出される。それでも壁のワラ人形にドスドス釘を打ち込むリサが、か、カワイイ……。
しかし更にカワイイのが、ドラキュラっぽいいでたちに、頭にナイフ突き刺さった大谷。うっ、徹平君、なぜそんなカッコがカワイイんだ!!
理科室?に逃げ込むリサ。人知れず泣いているところに、彼女を捜して大谷が入ってくる。泣いている彼女に驚く。好きな相手に気持ちが伝わらないと訴えるリサ。しかしこの期に及んでも全く気づいていない大谷に業を煮やした彼女、キレ気味に叫ぶ。
「目の前にいるアンタに決まっとるやろ。他に誰がおんねん」
驚く大谷。考えて答えを出すと約束した彼は、授業中も頭かきむしって考えてる。うっ、カワイイ……。もうカワイイしか出ない。そしてその答えは修学旅行に持ち越される……。

ああ、修学旅行!こんなにハズせないイベントが多かったかしら、高校時代って。……忙しい……。共に寝坊して飛行機に乗り遅れた二人、気まずいまんま合流し、しかしバスでも二人して居眠りし、取り残されてしまう。でも一緒に街を散策しているうちに、いつもの名コンビっぷりが戻ってくるのね。
二人を乗せた人力車の引き手は、なぜかオカマメイクの田中要次、……意表をつくベテランキャラにヤラれっぱなしである。
二人でいると、メッチャ楽しいのね。リサは思うの。告白をなかったことにすれば、こんな風に友達同士に戻れるかもしれない。なかったことにしてもらおうと。
でもそれを言おうとしたら大谷に先を越されちゃう。リサのことは好きだし、一緒にいて楽しい。でもそれは恋じゃない、って。リサはその場は取り繕うものの、凄いショックを受けて、道に膝をついて泣き崩れる。
「予想以上にくるやん」
本当は、リサが相手だから楽しいのに、それが好きだってことでいいのに、大谷はそれが友達だからだと思ってる。子供だ!

リサの気持ちが他の誰かに行くことで、大谷にはそのことにようやく気づく。ってんで、キューピッド、舞竹先生の登場である。
登場で、「よろしクイーン」とブチかますこの舞竹先生が、いつもやってる恋愛ゲームのホストにソックリなのでリサは有頂天「ケイン様や!」と目がハートなんである。
マイティーと呼ばれることになるこのセンセを、もー、谷原章介がノリノリで演じてる。こういう役が彼は似合う!というか、少女マンガ原作が彼は似合う!
私が彼を最初に見たのって、「デボラがライバル」のオカマさんだったんだよね。あれが凄い強烈な印象で。だってまるで迷いがなかったんだもん。今回もはじけっぷりが実に堂に入っている。

舞竹先生はリサが大谷への恋心で悩んでいることを知って、なぐさめてくれるもんだから、リサはますます有頂天、マイティーファンクラブを作っちゃって、やけにキラキラし始める。
大谷はこのキザセンセが気にいらない。しかも頑張った末にキャプテンとなったバスケ部の顧問に舞竹先生が就任したから、更に気に入らない。
だってリサが音頭を取るチアガールが、舞竹先生を応援にバスケの練習に乗り込んで来るんだもん。
更に、舞竹センセが「リサちゃんはなぜ君みたいな背の小さい男がいいのかな」などと挑発したもんだから、大谷大爆発!舞竹センセにスリーオンスリーの決闘試合を叩きつけちまう!
もー、この時点でリサのこと好きって言ってるようなもんよねー。
勝てるわけない、ヤメなよ、と止めるリサに大谷はキッと向いてこう言うのだ。「どうせオレはアホや。アホのおちびちゃんや!」あうー、もう、カワイイ(何度目だよ)。

舞竹センセは国体に出場経験アリ。強力な助っ人はどっから連れてきたんだよっていうガイコクジン。一方大谷はいつものヘタレ友人二人を従えて……って、勝てるわけないよー!
しかも観客はマイティーラブ!のチアガールで埋めつくされてる。当然その中にリサもいる。
でもあまりに一方的な試合展開に、リサの顔はどんどん曇ってくる。そしてついに大谷が膝をついて屈辱の敗北宣言をしようとしたその時!
「もうあきらめるんか!負けてもいいから惚れさすような負け方せんかい!」とそのよーな趣旨のことを叫び(ここらあたりになると、興奮しきりなので記憶がアイマイ)ざん!と下げた垂れ幕は、「アイラブちび」!
大谷は顔をあげニッコリと笑う(だからもう……カワイイんだからもう)「もっと早く出さんかい」
もう残り時間はほとんどない。それでもあとほんの100点か、などとカマして、必殺技を見せる。友人二人を踏み台に空高くジャンプして、叩きつけるダンクシュート!カッコイー!
試合には負けたけど、そして女の子は皆マイティーの周りに集まってるけど、それでもいいんだ。
メチャメチャ惚れさす負け方だったから!

そして帰り道、河原を並んで歩きながら大谷、リサに向かってこう言う。「やっぱりオレ、お前がおらんとあかんわ」
ちょ、ちょと待った!今君、なんて言った?それはそれはそれは、つまり標準語で言いますると、「お前が必要だ」つーことではないかい!?
とオバサンが興奮しておると、大谷、リサに向き直り、背伸びして下からキス!はあうっ。死ぬー!
ああ、まぢでみぞおち入った……。
しかも唇が離れた後、リサがつぶやく台詞がイイのさ。「やきそばパンの味がする」あ、あ、あまずっぺー!

……だから興奮しすぎだって。

脇役に個性的な輩が続出で枚挙に暇がないんだけど、最もいい味をブチかましているのは、リサの姉役のしずちゃん。
彼女はホント最高。あのブキミな存在感は誰にも真似できん。しかもブキミなのになぜかカワイイ。これは凄い。そのマイペースとどんよりした喋り方がねっ。
姉妹共に背が高い設定からの抜擢だろうが、背が高いお姉ちゃんときたら彼女しかいないよねー。
いつも妹の部屋にスナック菓子片手に、ニヤリと入ってくる。ニヤリと入ってくるなんぞ、彼女にしか出来ないよ。彼女はドアの閉め方だけでも笑えるのよ。凄いなー。
しかもこのお姉ちゃんがお気に入りのテレビ番組というのが、またキテるんである。
「彼女さん、こんびんわ」というB級の香りがプンプンするタイトル、イタい彼女ののろけ話と、ドヘタな歌、後ろに掲げられるダサイ彼氏の写真、とゆー、究極の激痛っぷり。
しかもこの憧れの番組に、彼氏がいるとは到底思えないこのお姉ちゃんがついに出演!すっごいアイシャドウにつけまつげで目も開けられないような状態で(サイコーだなー)、嬉しそうにのろけるその彼とは……。
「脂ぎった顔、犯罪者のような目つき……それが好きなんです」
当然山ちゃんなんである。ヤッター!

しかもこの番組に、ラストでリサも出ているというのがすばらしいオチである。
しかもしかも、デートの待ち合わせ場所にある大画面から、大谷に呼びかける!
大谷、ドびっくり。周囲のクスクスに大テレながら、大画面のリサに向かって、「お前、アホやー!」
あのキスシーンで終わらないあたりが、テレ屋さんっ。

教室にシカの頭があるとゆー、マンガチックにしても凄まじいポップな美術、そのカラフルに目がチカチカしそう。
んでもって、脚本は、ほお、鈴木おさむ氏なの。私、彼が関わっている映画は初めて観るな。このマンザイさながらのテンポのいい応酬は、さすがって感じ。そしてこのラブラブな世界を臆面ゼロパーセントで描くスバラシサは、現在幸せ夫婦、のオーラかしら、ヤハリ。

ラストクレジットは撮影風景を点景。これまたカワイイのだ……。あ、ウエンツ君、一体どこに出てたの?二人に見とれて気づかんかったよ。ドゲザ出演って!?★★★★★


トップに戻る