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妄想少女オタク系
2007年 113分 日本 カラー
監督:堀禎一 脚本:尾上史高 多胡由章
撮影:佐久間栄一 音楽:虹釜太郎
出演:甲斐麻美 中山麻聖 馬場徹 木口亜矢 滝川英治 森下悠里
一応、本作ではその定義はハッキリとしている。腐女子であることを共通項にして仲良くなるヒロインの浅井留美と松井曜子(通称まっつん)は、外見はメガネ少女とゴージャス美少女という正反対。
実際物語の前半は、お互いがまさか同じ腐女子であるなんて思いもせず(まっつんの方がそれを隠しているからね)、まっつんが留美の教科書をゴミ箱に捨てたりといったイジメも描かれるんだけど、お互い腐女子であることが判明すると(まっつんがそれを確信して近寄るわけね)一気に大の仲良しになる。
二人の腐女子たる要素は、「鋼の王子様」(通称、ハガプリ。明らかに「鋼の錬金術師」と「テニスの王子様」の融合だ……)のファンで、私は最初、これは普通のマンガで、彼女たちがそれをBL読みしているのかと思ったけど、最初からBLとして描かれているものという設定かな。私らの年代だとやおいとは言わんのかなとも思うが……今はやはりニュアンスが違うと思われる。
BL、そう、ボーイズラブ。他のBLマンガも大好きで、自らマンガを描いてコミバ(コミック・バンケット。コミケを模していると思われる)に出席しようと意気込んだりし、しかしその抽選に漏れてひどく落ち込んだりもする。
で、留美は、現実の世界にもBL趣味を持ち込んでくる。純朴少年、阿部と学校一のイケメン男子、千葉の仲良し二人がBLであると思い込み、というかそう思いたがるのね。
二人が中学時代水泳部で一緒だったと聞けば「水泳部、イイっすね!」と何を妄想しているかは明らかだし、ウッカリこの留美にホレちゃった阿部の決死の告白にも「ムリしてるんだね」「千葉君との仲をジャマしたりしないよ」とまるで聞く耳を持たない。二人のラブを妄想しては、幸せに浸る毎日なんである。
一応、そんな自分を「私、本当に腐ってるわ」とつぶやいて修正したりしようとする姿勢も見えるんだけど、腐女子であることは止められない。
まっつんはその点、ちょっと現実が見えている。彼女は一端BLシュミから離れた女の子。というのも中学時代の彼女は70キロのおでぶさんで、しかもオタクということもあってイジメられていた訳。
そんな自分を変えようと一念発起、死ぬぐらい辛いダイエットをし、その時にオタク趣味も捨てたのだった。でもハガプリだけは捨てられず、ハガプリ好きを公言している留美に興味を持ったのね。
だって留美は「オタクだけど付き合えるヤツだよ」という評判で、クラスメイトとも男女問わず普通に接していたから。留美をイジメたのは千葉とも仲の良い彼女に嫉妬した面もあるけれど、やっぱり羨ましかったからに違いないのよね。
で、留美一人だけの美術部に入部したまっつんが、自分と同じ趣味を持っていることを知った留美は大喜び。「この学校でBLの話が出来るなんて思わなかったよ」とムジャキに喜び、まっつんもそんな留美に心を開いていく。
教科書を捨てた犯人は実は自分だったと告白したまっつん、すると留美ニッコリして、「可愛くて腹黒くてスタイルいいなんて、最高じゃん、カッコイイよ!」なにー!
うう、でもこういうマゾ的なところも腐女子なのだな。この留美の言は判る気がする。しかも留美、教科書捨てられたことも確かに別にショックなんて受けてなかったし。
てゆーか、一緒に捨てられてたハガプリのクリアファイルだけを慌てて拾い上げて、「この全プレ、もう手に入らないんだよ!あっぶねー」と。ふ、腐女子め……。
という図式なので、留美とまっつんという腐女子チームに、阿部と千葉という男子チームが対抗するというのがメイン。
そこに千葉がBLだという噂を聞き及んだ(腐女子チームが作成した合成キス写真が発端)柔道部エースの塚本先輩が千葉に愛の告白をしてきたり、千葉のお姉さんが実は留美たちが憧れるBL漫画家だったりと、思ったよりも?波乱万丈な展開が次々と押し寄せて、いつしか役者のユルい演技もまあまあ気にならなくなってくるんである。
千葉がやけに腐女子やBLのことに詳しかったり、何かを隠しているような、気持ちを見せない部分があるのは、こんなお姉さんがいるからだと後半になってようやく判明はするんだけど、それにしても千葉の気持ちは一番、判んないんだよね。ずーっと、ナゾだった。
実は留美が妄想するように、親友の阿部のことをホントに好きなのかとか、塚本先輩の告白に動揺して顔を赤くしていたから、この先輩が意中だったのかとか、いやいや実は阿部に遠慮して気持ちを隠しているけど、実は彼も留美のことが好きなのかとか、すんごく悩んじゃったもん。
だって留美のことを意外にカワイイなと言ったのは、千葉の方だったし。でもそれは、留美の寝顔に釘付けになっていた阿部の気持ちを、わざわざ代弁したのかな?
結局は最初から、千葉もまっつんのことを好きだったのかな?でもそれもまた、ビミョーである。
まっつんは千葉にフラれても彼のことが諦め切れなくて、他の子の告白に付き合ったり、留美の教科書を捨てたりして千葉への接触を図ろうとするから、ウンザリした千葉は彼女に、ホント嫌いなんだよ、サイテーだなという言葉を叩きつけもする。でもそれにもめげずにまっつんは、私には、私だけには判る、千葉は私と同じなんだよ、人を好きになれるのが羨ましいんだよ、と言うのが……その時点ではえっらいストーカー的な女だなと思ったけど、案外的を得ていたのかもしれないと思って。
ということは、まっつんも最初から千葉を本気で好きな訳じゃなかった?学校イチのモテ男である彼を落としたいだけだったのかも……でも執着しているうちに本気で好きになったとか?それこそ私も、妄想しすぎだが。
しっかしやはり、主人公の浅井留美だわよね。どこか時東ぁみを思わせるメガネっ娘。アナクロなおさげ髪も似合う。こういう女の子も明るく可愛くなれるのは、最近の制服のデザインのせいもあると思われる。チェックのミニスカは、たとえ顔やヘアスタイルが地味でも、元がよっぽどヒドくなくてニコニコしてれば、イイ感じに可愛くなれるもんだと思う。紺サージ膝丈世代には、うらやましいやね。
腐女子の定義など判るハズもないまっすぐな阿部は、まだ彼女が腐女子だと判らないうちに、カワイイ寝顔に恋に落ちてしまう。
あ、ちなみにそのシチュエイションは、少女マンガの王道、保健室。しかも「保険の先生が会議でいない」というこれまた王道の(笑)。留美は、千葉と阿部が着替えの最中、乳首がどうのと男の子らしいじゃれあいを演じていたのを覗いていて、のぼせて倒れちゃったのだ。まさに腐女子である。
阿部がドアを開けた拍子に留美が倒れたので、自分のせいだと思い込んだ彼は、おわびをさせてくれ、と言う。留美は意を決してモデルになってくれないかと頼むのだ。
留美はたったひとりの美術部。密室でモデルの彼を見つめる彼女、という図式は恋愛の王道だが、留美の中には当然、そこまで成熟したラブの気持ちがある訳もない。
阿部に猫耳のカチューシャをつけて、にゃん、と言わせて喜んだりするあたりは腐女子まっしぐら。「脱いでくれない!」「だって阿部くん、キレイな身体してるんだもの」とダイタン発言して、ハダカの肌にそっと手も触れるけれども、だからこそ阿部は留美への気持ちを一層つのらせるんだけれども、彼女はそれをBLとして妄想しているわけで。
ハダカで後ろから抱きしめられるなどとゆー、最も理想形の鼻血告白をされたってのに、このバカヤロー!しかもアンタがキレイな身体だと思わず触っちまった、鼻血モンの華奢な男子高校生のハダカでだよ!(私も腐女子だな……)
千葉は留美が自分たちのことを誤解していることも、即座にかぎつける。留美に「攻めの反対は?」と引っ掛けてみると留美は「受けでしょ」「やっぱりな……普通、守りだろ」と確信を得る。留美はあからさまに、しまった……と動揺を隠せない。オタクはバレてても、BL好きまでは公言していなかったから。
千葉は阿部に、腐女子の何たるかを教えようとする。ホモが好きなわけじゃない、しかし自分たちがホモだと思いたがっている、オレたちがヤッてる場面を想像したりして喜んでいるんだと聞かされるほどに、阿部は混乱する。ところでホモって、いまだに言うのかしらね……。
阿部はしかし、真摯に理解しようと努力するんだけど(このあたりの二人の対照は笑える)、結局は留美が好きだという気持ちを持ち続けること、いつか判ってもらえると信じることしか出来ないのだ。
結局留美の親友となったまっつんは、彼女の夢を壊すことを承知で、だけど彼女の恋を成就させたいからと、彼らがBLなんぞではないこと、阿部が留美のことを本気で好きなんだと諭してあげもするんだけど、なかなか留美は承服しない。
いや、最初から判ってはいる筈。自分が腐女子だという自覚はあるんだし、まっつんから「あいつらデキてないんだよ。もっと早く言うべきだったね」と言われた時も、下を向いて落ち込んだようにも見えたけど、じゃあ阿部が自分のことを好き?ありえない!という展開になっていったのは……腐女子としての自分が、恋愛に立つという不安があったからだと思うんだよね。
あくまで一途な阿部に一度は、「私、阿部君のこと大佐って呼んでいい?私のことは王子って読んで!」と、ハガプリ、BL好きとして精一杯の思いを返す。それを言われた阿部は何のことやら判らなかったんだけど、まっつんから「ハガプリで大佐と王子はベストカップルなの」と言われて歓喜。しかしまっつんは「そう簡単じゃないと思うけど……」と顔を曇らせる。しかししかし阿部は、そんな奥深い腐女子の気持ちも判るわけなく、ただただ歓喜。
確かに、まっつんの危惧は当たっていたのだ。阿部に思わせぶりなことを言った留美だけど、次の日にはコミバの抽選にもれたことに意気消沈して、昨日の自分の言動などどーでもよくなっちゃってるんだから。
それはあくまでBLとしての恋愛、つまり恋愛に敏感なクラスメイトたちが言うように「浅井はまだまだおこちゃま」で、あるいは自分の気持ちに向き合う勇気がないだけかもしれない。
でも結局は最後、留美は「私、男として阿部君のことが好き!」と言うんである(ちょっと表現違ったかも)。その意味が判らなくて阿部は喜んでいいのかどうか、戸惑う。
それを聞いた千葉は、今後しばらく続くであろう阿部の苦労を想像して爆笑する。そんな千葉を阿部が水中に突き飛ばす(あ、シチュエイションは阿部が夏休みバイトしているプールね)。二人がじゃれ合っているのを見て、腐女子二人は生々しいBLなアテレコをして盛り上がる。うう、腐女子め……。
ところで彼らが暮らす土地がどこなのかよく判んないけど、ちょっと田舎な感じ。夏休み、留美とまっつんは憧れである「オトメロード」に遊びにくる。恐らくあれは、まんだらけのようなものを模しているんだと思われる。
そこでは二人の憧れの漫画家、柊雪姫の作品特集をやっていて、しかもしかもそこに、……千葉が王子のカッコをしているんである!
彼は夏休み、バーテンのバイトで東京に来ている、筈なのに。二人は驚き、よりも歓喜の笑顔で彼を追い掛け回す。「なんで、なんで千葉君が王子なの!?」と。そこへ外で待たされていた阿部が「ゴメン、タイクツだから来ちゃった」と入ってくる。「サイアクだ……」と頭を抱える千葉。
もうそっからはコスプレ大会。当然留美とまっつんはご満悦だが、流れでムリヤリコスプレさせられる阿部ともう開き直っている千葉は、すっかり腐女子の勢いに押されるばかり。
猫耳の阿部に「カワイイ!」とウキウキする留美は、「お願い、一度でいいから二人、キスしてみて!」オイオイオイオイー!
もはや開き直りまくってしまった千葉が、やってやるかと勢いで千葉に襲い掛かるもんだから、腐女子二人はキャーキャー。ふ、腐女子め……。
なんて場面もあるから、千葉は阿部のこと……と思ったんだけどね、違ったんだね。その帰り道、まっつんを送りしな千葉は彼女から「キスもしたことないんでしょ」と挑発され、「出来るさ、キスぐらい。でもそれで、期待するなよ」とそっとキスするシーンさえ用意されているんだもの。数少ないフツーの恋のときめきの場面だから、ちょっとドキドキする(爆)
まっつんが留美にBLを好きになったキッカケを聞く場面は、興味を引かれる。それまでも少年漫画を好んでいた留美。ギリギリのバトルの中での男同士の友情関係には、女の存在はいらない、そのことにショックを受けていた気持ちは何となく判る。
そしてBLに出会ってこれだ!と思ったと言うけれど、その中にも女子は存在しないという矛盾に、彼女が気づいているのかどうかは判らない。ただそんな留美の述懐にまっつんも判る判る!と手を打ち、見ているこっちもまた、判る……かもしれない、と思う。
確かに留美の言うことは矛盾しているけれど、恐らくBLの中に女の子が入り込める、心ときめかせても許される領域を感じているんであり、それは恋愛という部分なんだよね。
ちょっとね、それは切ない気もするのだ。だって結局BLの中に女の子は当然、入り込めないんだし、そしてそのリアリティが希薄な世界は、ほぼありえない夢の世界だし。
生々しい恋愛に拒絶反応を示しながらも、恋愛というときめきは捨てきれず、結局は全てから排除されている状態という切なさは、美しい男の子同士の恋愛、というほぼありえないからこその切なさにも通じていて、加速度的に、切ない。
でも少女漫画って、フツーに男の子と女の子の話でも、多分にそういう要素はあるけどね。あるいは少年漫画の荒唐無稽なありえなさも、同じなのかもしれない。
「留美は元がいいんだから」と、まっつんがメイクをしてあげるシーンが好き。静かな夕方のガーリーなときめき。やっぱり女の子同士、こういうシーンは外せない。めがねを外してメイクした顔を鏡で見て、うるうるとした表情を浮かべる留美=甲斐麻美ちゃんのかわゆさに心ときめくんだわあ。
しかも二人、制服姿は勿論、浴衣で花火を見に行ったり、オトメロードでコスプレする場面なんて、マンガチックにキュートな留美と、胸の谷間に吸い寄せられるまっつんのセクシーに鼻血が出そうだし、阿部のバイトしているプールに遊びに来る時は当然水着姿だし、かなり楽しませてくれるのよね。
結局留美は「(自分が)男として阿部のことが好き」とBLから抜け出せない結末で、阿部のこれからの苦労が察せられるわけだけれど、いわばこれって変形型のSMなわけで、恋愛の燃え上がる形なのよねっ。
それにしても塚本先輩は切なかったけど……結局千葉にフラれて、しかしみんなの良き理解者、友達になって、恋に足踏みをする彼らを後押ししてくれる、というのがさ。
「草叢」の監督さんなので足を運んだということもあり、脇にはピンクの俳優さんも色々出てきて楽しい。教師役でちらっと出てくる川瀬陽太氏、スキンヘッドで眼光鋭く、凄みがありすぎるって……。★★★☆☆