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「ち」


2008年鑑賞作品

ちーちゃんは悠久の向こう
2007年 94分 日本 カラー
監督:兼重淳 脚本:山室有紀子 兼重淳
撮影:伊東伸久 音楽:Di'LL(北城浩志・北城かずみ)
出演:仲里依紗 林遣都 高橋由真 波瑠 奥村知史 小野まりえ 永山菜々 飛田光里 中山祐一朗 霧島れいか 堀部圭亮 西田尚美


2008/1/29/火 劇場(渋谷シアターN渋谷)
いきなりだけど、宣伝で言ってた「衝撃のラスト」ってさあ、よもや、このちーちゃんが実は死んでいた、っていう部分じゃないよね?
だってそれじゃあまりにも早くに読めてしまうし、それ以前にタイトルから容易に察せられてしまうじゃない?宣伝もズバリ「死んでも、終わらない恋」じゃあ、もう最初からバレバレだし。
やっぱりそっちじゃないのかな。あの最後の最後のワンカット、武藤先輩にちーちゃんが乗り移ってしまったかのようなことを指しているのかな?

なんて、いつも以上に掟破りの、ネタバレオチバレ大全開だが。
だあって、やっぱりその部分って、気になっちゃうんだもん。タイトルクレジットが冒頭ではなく、わざわざちーちゃんが向こうの世界へ旅立ってしまった後に差し出されるってことは、やっぱりちーちゃんが実はとっくに死んでいたことこそが“衝撃”という風に見えるじゃない?
でもほんっとに……あっという間にバレバレだったんだもん。

冒頭は、ちーちゃんこと歌島千草とモンちゃんこと久野悠斗の幼き頃、一緒にシャボン玉を飛ばした桜の木の下や、ベランダから魔法使いのマネして傘をかざして飛びっこした、愛しい日々が描かれる。ちーちゃん大好き、モンちゃん大好き、と二人で言い合って、ずっとこのまま一緒にいられると思ってた。
そして、そのままの関係で高校時代が始まった。ちーちゃんの、右手を軽く上げて握って開くのを二回繰り返す挨拶もあの頃のまま、授業中も目配せしあって、お昼はいつも屋上で二人で食べて。ちーちゃんの手作りのおかずをひとつ分けてもらったり。

確かにね、正直、ちょっと幼い感じはした。え?高校生になって、小さな頃とまるで変わらない、こんなくっつきあった関係がなんの戸惑いもなく続けられるのかって。それに対して同級生がからかったりとかもないの?って(まあそれこそ、ベタな少女漫画的描写だが……)
そして、ちーちゃんが実はこの場所にはいない、モンちゃんだけに見えているってことは、かなり早い段階から読めてしまう。

ヒントがあからさまなんだよね。霊感があるというウワサの留年生、林田さんが、うっそうとした黒髪と眼鏡の向こうからモンちゃんの背後をじっと見つめて言う「うっとうしくない?」という台詞。
その時、彼女はクラスの女子からイジめられていて、見かねたちーちゃんがモンちゃんに「何とかしなよ、男の子でしょ」とけしかけたことで、モンちゃんは仲裁に入ったんだけど、林田さんは助けられたことに礼を言うわけでもなく、ただ彼の背後にじっと焦点を合わせるのだ。
当然その背後にはちーちゃんがいて、自分が死んだことに気づいてない彼女は、林田さんの自分に対するイヤミだととる。でもこの時点で、ねえ、そう観客も感じることだって不可能ではないとは思うんだけど、ちょっとムリがある。

林田さんは再三モンちゃんに向かって、巻き込まれるよとか、悪い空気がたまっているところに首を突っ込まない方がいいとか忠告するでしょ。それは全て、オカルト好きのちーちゃんが学園の七不思議をかぎまわっていることにストレートに直結しているから、もうかんったんに察せられちゃうんだもん。
B組の死んでしまった花子さんってのは、つまりちーちゃん自身なんだって。林田さんは幽霊としてのちーちゃんを見てて、この世界に縛りつけられている悪い霊としての彼女に巻き込まれると危険だと、モンちゃんに忠告しているんだって。
明るくて陽気で、そんなことからは無縁だと思われる人ほど、つまりそれだけ陽の当たる生というものに執着があって死んだことに気づかない、なんて、怪談話ではあまりにも王道なんだもん。

ちーちゃんがオカルト研究部に入った一方で、モンちゃんは弓道部に入る。部長を差し置いていまだ幅を利かせている三年女子に目をつけられたモンちゃんは、しょっちゅう居残りさせられるんだけど、その現部長である武藤先輩が見かねて彼に声をかけてくれた。
まだ一年生は実技には入れないんだけど、皆が帰ってしまった道場で、武藤先輩はモンちゃんに型を教えてくれる。そっと彼の腕や腰に触れて姿勢を正してくれるシーンにめっちゃドキドキする。武藤先輩の、「弓を引いていると、頭が真っ白になる瞬間がある」という言葉にモンちゃんは同感し、何たって憧れの先輩だから、二人きりの帰り道に心もときめかすのだ。でも……。

林田さんのヒント以降も、ちーちゃんが“呪いの鏡”に映っていなかったり、武藤先輩がちーちゃんを無視してモンちゃんと会話を進めたり、しかもその場面、ご丁寧にちーちゃんのカットだけが二人の会話から完全に切り離されていたりする。
モンちゃんがちーちゃんの手作りのお弁当を食べても、彼の空腹はおさまらないし(育ち盛りの男の子だからというだけで片づけられるのだが)、ちーちゃんはあれだけ明るいのに、クラスでモンちゃん以外に話す人がいないのも違和感があるのだもの。
ちーちゃんが入ったオカルト研究会でも、彼女は「それぞれが好きなことやってヒマを潰している」と言うけれども、それが格好の言い訳になって、彼女はこの会のメンバーとひと言も会話を交わしていないんだよね。

あるいはモンちゃんが遅刻した時、ちーちゃんがすぐ後ろにいて一緒に遅刻したのに、先生は彼女に対しては何も言わなかった。バスの運転手さんに「降ります!」と叫んでも無視されてた。
もう言い出したらキリがないくらい、林田さんの指摘の後の伏線は張られているんだけれど、林田さんの指摘の時点でもう気づいちゃったもんだから、思わせぶりなそうした伏線が、なんか段々うっとうしくなってきちゃうのよね。

まあこれは、林遣都君を鑑賞するために足を運んだんだから……。もう、ほんっとに、彼は美しい。じっつに鑑賞するに足る美少年。正直まだまだぎこちない感じは否めないけど、でもそのぎこちなささえも愛しいのだ。
それに彼は、演技に対しての真摯な気持ちがにじみ出ている。それが実に今後を感じさせて好感が持てるのだよ。泣きのシーンで涙が出ないくらい、許しちゃうのだ!こーゆーシーンでアッサリ涙が出るような若手の方が信頼できない(と、すっかり美少年びいき)。
だって、ほんっとに美しいんだもの……。吸い込まれそうな大きな瞳がまばたきする時は、音がしそうなほど。相手役の仲里依紗嬢よりも、透き通るほどの色の白さに漆黒の黒髪が映える。はあー、こんなに美少年にためいきばかりが出たのは小池徹平君以来。彼よりもためいきの数は多いんじゃないかしらん。

一方の仲里依紗嬢は、大傑作「時かけ」の声をやったコという認識しかなく、演技を観るのは初めてなんだけど、「時かけ」が前提にあるからという訳でもないんだけど、もんのすごいアニメチックな大げさ気味のキャラクターなんだよね。演技、ではなく、キャラクターが。
うん、これは演技ではなくキャラクターが、と言うべきだと思う。まあそれに林君がなかなかついていけずに、彼女とのバランスが上手くとれなくて、「仲良しの幼なじみ」という雰囲気が今ひとつ出ないまま終わってしまったのはキビしかったけど。

正直観てる時は、その大げさな表情と下の歯までグワッと見える笑顔に少々引き気味だったんだけど(だって林君があまりに奥ゆかしいからさあ)そうか、彼女はほんの幼女の頃に死んでしまったんだもんなあ、と思うと、そのキャラづけにもきゅんと切なく思うところがあるのだ。
まあ、里依紗嬢がそこまで考えて演技したかどうかは判らないけど(爆)、この少々ウザイほどのあけっぴろげは、ある意味得がたい魅力よね、と思う。

ウザイなどと思ってしまうのは、正直、彼女以外の女の子キャラに心惹かれるものがあるから。
先述したクラい留年生、林田さんは、メガネっ子美少女の真髄をついていて、やはりメガネっ子はこういう陰の部分を打ち出してこそ萌えるのよね、とネクラなメガネブスの私は思うのであった。
だって留年生ってのは、年上の女のミステリアスだし、それがウザがられてクラスメイトからヒドイイジメを受けてもヒクツにならず、彼女だけの真理をじっと見つめているさまが、じっつにステキなのよねー。

ちーちゃんにまとわりつかれてるモンちゃんに、化学の授業の準備(王道!)の際、戸棚(スクリーン)から見切れたり現われたりして進言するシーンはしびれた。彼女には全てが見えている。もちろん、ちーちゃんが生きている人間じゃないことも、それ以外の……すべての運命が。
恐らく林田さんは、自分が近々死んでしまうことも見えていたんじゃないかと思う。彼女は自分では、霊感があるとか自殺未遂をしたとかいう巷のウワサを肯定することはなかったけれど、モンちゃんにだけ、自分の留年の理由を話した。
それはウワサで言われているような自殺未遂の末の引きこもりなどではなく、脳梗塞にかかってリハビリに一年かかってしまったからだったのだ。それをモンちゃんにだけ言ったってことは……やはり彼女はモンちゃんのことが好きだったのかなあ。

林田さんが本当はどう思っていたのかは判らないけれど、モンちゃんにハッキリと自分の気持ちを伝えるのは、武藤先輩である。三年生のオエラ方に主導権を握られて、存在感を発揮できずにいるけれど、いつも真摯な態度で弓道に臨んでいた。
マジメで部員のことをよく見ている彼女のことを、モンちゃんも慕っていたに違いない。一緒に帰る道すがら、彼女にパピコアイスをおごられたりなんていうドキドキのシーンの初々しさなんて、たまんないものがあるしさ。

この武藤先輩、後輩のモンちゃんに対しても敬語を使うのが、たまらなく萌えるのよねー。正直、演じる彼女は林君以上に演技はキビしいものがあるのだが、それがまたイイのよ。
モンちゃんが横暴な元部長に堪忍袋の緒が切れて、部を退部しかける場面、慌てて武藤先輩が追いかけてくる。何故だと聞かれると、「久野君が好きだからです」と。
そこに降って来る雨(お約束!)、恐る恐る彼に近づき、途中でカバンを落とし、雨にビショヌレになりながらそっと彼を抱き締める武藤先輩、いやー、ドキドキなのだわね。それだけに彼女の恋が破れるのが切ないのだが……。

そう、モンちゃんは、先輩のことは慕っているけれど、ちーちゃんがいるから、ちーちゃんのことを誰より大事に思っているからと言って、ごめんなさいと頭を下げるんだよね。
あのね、ちょっと疑問に思ったのは、武藤先輩がちーちゃんのことをどこまで認識していたかってことなんだよね。
モンちゃんから幼なじみのちーちゃんの話は聞いていた。そして、学園の七不思議を追いかけていたちーちゃんと、苔地蔵のところで“遭遇”もした。その場面こそが、ちょっとナゾだったのだ。

弓道部の練習をサボって、ちーちゃんと校舎の裏手に消えたモンちゃんを追ってくる武藤先輩。苔地蔵の前でオカルトな芝居をしかけた彼女は「からかっただけですよ」とふっと笑った後、「やっぱり久野君はちーちゃんが大事なんじゃないですか!」と言い放ち、走り去ってしまう。まるで彼女がちーちゃんの姿か、あるいは気配を感じ取ったみたいに。
実際、バスでちーちゃんが、武藤先輩の後ろの席に座って、モンちゃんのことを問いただす場面でも、イヤホンをして音楽を聞いている彼女は、……いやそうじゃなくたってちーちゃんは死んでるんだからその声が聞こえる筈もないんだけど……リアクションをとることはないんだけど、しかし一瞬、振り返るんだよね。なんだよ、うるさいな、みたいな感じで。
でもそれだけで、また前に向き直ってしまう……一体武藤先輩は、ちーちゃんの“存在”を認識していたんだろうか?

そういったあらゆることは、あくまで現時点での話である。冒頭の幼いちーちゃんとモンちゃんはとてもほほえましく、この純粋な初恋が、まるで「小さな恋のメロディ」のように永遠に刻まれるかと思われた。
「魔法使いだって、傘を持って空を飛ぶんだもん。こんなに大きな傘なんだから大丈夫だよ」とちーちゃんに言われて、ちーちゃんのお父さんの大きな傘を手にバルコニーから飛び降りて、したたかにお尻を打つモンちゃんのシーンで、幼い二人の場面は終わる。そして高校時代にジャンプするのだ。
その時点で、すぐ気づいていれば良かったのかもしれない。ちーちゃんは、モンちゃんに続いて、そう、彼の失敗を見て、私は失敗しないわよぐらいの気持ちで、傘を持って飛び降りようとした。だけど……足が滑って、そのまま落下した。うつぶせに倒れたまま動かないちーちゃん。呆然と見つめるモンちゃん。一時の間、彼女の母親の悲鳴。 モンちゃんはいつからその場面を、記憶から排除してしまったのだろうか。

ちょっとだけ気になるのは、ちーちゃんの方は母親のみ、モンちゃんの方は父親のみしか登場しないことなんだよね。
モンちゃんの親に関しては、高校生になった時点からの登場。母親が男を作って出て行ったことで父親が酒びたりになり、一人、モンちゃんが苦悩するという図式である。
モンちゃんの母親は電話での声だけだったり、父親から「やっぱりお前はアイツの血が流れている」と理不尽に殴られたりと、パーフェクトにお約束で王道な展開。

しかしちーちゃんの方は……。仲のよい幼なじみである二人が一緒に布団に潜って怪談話をしていたら、驚いたモンちゃんが勢い余ってちーちゃんのベッドカバーを破ってしまって、それをちーちゃんのお母さんが優しくアップリケをつけて直してくれる。そして手作りの美味しいミルクプリンを出してくれたりと、すんごく家庭的なんだけど……幼い頃からお父さんの影は見えないんだよね。
ちーちゃんは、モンちゃんが持って飛び降りた傘はお父さんのもので、モンちゃんが壊してしまって後から凄く叱られたと言うけれど、そんな訳はないのだ。
だってモンちゃんに続いてベランダから飛び降りようとして……飛び降りそこねて、彼女は死んでしまったのだから。

モンちゃんはちーちゃんに、両親が離婚寸前だということを打ち明けたけれど、それを彼女が学校の七不思議なんぞに引っ掛けて苔地蔵にお願いしたりするもんだから、彼は憤る。でも……ちーちゃんの現時点での親がまったく出てこないことの方が不自然だということに、気づかなければならなかったのかもしれない。
モンちゃんが全ての真実を知り、十何年ぶりにちーちゃんの家を訪れた時も、父親の影はない。
あの時、ベッドカバーにアップリケを縫い付けてくれた優しいお母さんが、初物のさくらんぼを娘の仏壇に供えて、手を合わせているだけなのだ。なんだか妙に、寒々とした空気が流れているのだ。

そうした喪失感を抱えて、二人は強固な結びつきを得ていたのかもしれない。だからちーちゃん本人はもとより、モンちゃんまでも、彼女が死んだことに気づかない……というか、気づかないフリをしていたのかもしれない。
でも、判らないんだよ。本当にずーーーっと気づかないままでいたのかなんて。それってあまりに不自然なんだもの。
ちーちゃんが死んだのは、本当に幼少のみぎり。ムジャキに遊んでいた5歳ぐらいの頃のこと。その後の小学校、中学校もあんな具合にモンちゃんが幻想を見ていたなんていくらなんでも思いにくい。
恐らく高校入学の時点で、そんな幻想にとりつかれてしまったんだと思った方がしっくりくる。学園の七不思議、ミステリアスな同級生、心乱される先輩との淡い思い……夢のような出来事はあまりにも溢れていたんだもの。

ちーちゃんが死んでしまったことをようやく思い出したモンちゃんは、必死になって七不思議の場所を探し回る。血の滴る音楽室のピアノ、眼をつぶって登ると一段増えている階段、全てがちーちゃんが言ったとおりになっている。
そして最後の場所は……幼い頃、二人してシャボン玉を飛ばして遊んだ桜の木の下。
そこでぼんやりと、ちーちゃんは座り込んでいる。いつものようにモンちゃんに作ってあげたお弁当を持って。
さよならが近づいている。でもそんなこと信じたくない。モンちゃんは、自分はちーちゃんがいないとだめだ。ちーちゃんが好きだから、と言う。ちーちゃんは「ずっと好きって言ってくれるのを待ってた」とつぶやき……二人はキスを交わす。
二度目のキスの時、彼女の姿はふっと消え去り、そして、青いハンカチで包まれたお弁当も消え去った。
天を仰いで「ちーちゃんを連れて行かないでくれ!」と叫ぶモンちゃん。
……さすがにこれはちょっとメロドラマすぎ……。

で、衝撃のラストはこっちか、というのは、いつものように……今度は一人でお昼を食べに屋上に来たモンちゃんを待っていたのが武藤先輩で、しかも彼女が差し出したお弁当は、あの青いハンカチで包まれていたのだ。
「もう!判んないかな」と言ったその口調は、いつも敬語で喋ってた武藤先輩のものではない。明らかにちーちゃんのもの。
ええー……。武藤先輩は、彼女のキャラこそが素敵なのに、ちーちゃんに侵食されてしまうの?なんかそれって衝撃のラストっていうより、ヤだなあ。ヤなラストだなあ。

モンちゃんの父親の堀部圭亮、ちーちゃんの母親の西田尚美の二人が、魅力的なキャスティングだった。西田尚美はこんな大きな子供を持つ設定の女優になったんだなあと思うし、堀部氏はもっと映画で見たい逸材。サブ監督には重用されていたけれど、彼は最近撮ってないし。もっと出てもいいのに!★★★☆☆


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