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「ゆ」


2008年鑑賞作品

ゆーのーみー(おんなたち 淫画)
2007年 分 日本 カラー
監督:大西裕 脚本:西田直子 加東小判
撮影:田宮健彦 音楽:
出演:吉岡睦雄 宮崎あいか 花村玲子 川瀬陽太


2008/4/22/火 劇場(ポレポレ東中野/R18 LOVE CINEMA SHOWCASE Vol.5/レイト)
また不思議な才能が現われたものだ!あまりの不思議さにあぜんと口を開けっぱなしで観終わっちゃった。ところどころでかなり笑わせられもするものの、不条理とリアルの間をかなり強引に行き来しながら、だけど妙にまったりとした雰囲気が漂い続けていることに驚く。
この人は、天才なのか、天然なのか、どっち!?いやいや、これは相当練り上げられなければ出来ないのかもしれない、などと頭の中が激しく混乱する。

奇しくもこの日カップリングされたもう一方が、こちらが最新のピンク映画ならば今回の特集上映の中で最も古い85年の作品で、しかもそのバイオレンス味たっぷり、ゲリラ撮影の驚愕たっぷりの佐藤監督とのあまりの対照的にも口アングリさせられたんだけど、でも、もしかしたら何かのワクを壊そうという思いの強さは似ているのかもしれない、負けてないのかもしれないと思うほどに、両極をのすさまじさを感じた。

実に12年の間助監督生活を送り、30になるまでに監督作品を撮るんだと言っている間にズルズルとその年になり、しかし一向にホンは書けず、すっかりビンボー生活も板について半ヒモ状態になり、しかもそれがすっかり慣れきってしまったせいなのか他に女まで作ってしまうダメ男の話。
これがもう、まんま大西監督の姿に重なってしまうんである。そのあたりも、「3年助監督をすれば、監督作品が撮れる」という話でピンク業界に入り、そのとおり25歳でデビューした佐藤監督と(恐らく、他のほとんどのピンクの監督さんも、似たような足取りだと思う)実に対照的なだけに、この日のプログラムと新旧二人の監督の顔合わせは非常に興味深かったのね。

私はこの大西監督という人のことはちっとも知らなかったから、舞台挨拶でこの監督の今までを聞いていなかったら、あるいはこんなに身につまされる思いにはならなかったかもしれない。
いや、身につまされるなんていうのは、ヘンか。他人だし女だし、ピンク業界にいる訳でもないのに。
でも、そう感じさせる不思議な力があるんだよね。監督の目線が自分の身体に入り込んでくる。ことに女には、この人、ほっとけない、と勝手に思わせてしまう力がある。それは劇中、こんなダメ男に引っかかってしまった女二人に、ひどく感じ取ることが出来ちゃう。

なんか、そういう、半ノンフィクションなあたりとか、私がいなきゃダメだとか、私しかこの人のことを判ってあげられないと思わせるダメ男ってなあたり、なんかすごい、太宰みたい!と思ってしまった。
もう、そう思い始めると、どんどん太宰だーっと思ってしまう。私も太宰に迷い込んだクチだから。
太宰も、自分自身に重ね合わせて作品を作った人。でもそれは全てが事実じゃなくて、絶妙にフィクションを組み合わせ、最終的にはまったきフィクションの傑作になってる。でも多くの女性読者たちはまんまそれを太宰そのものだと思い、のめりこみ、私だけがこの人を判るのだと、思ってしまうのだ。

この作品、明らかに自分をモティーフにしていて、男の名前だって有(ユウ)だし、演じる吉岡氏がザ・ダメ男、ほんっとダメ男を演じさせたらこの人の右に出るものはいない!って感じの人だし。
私は最初のうち、舞台挨拶でステージにちょこんと座っていた大西監督と吉岡氏のダメッぷりがあまりにカブるので(雰囲気がね。容姿は全然違うんだけど)、本人が演じているのかと思って何度もスクリーンを凝視してしまったくらいなんだもの。

そんな男になぜか引っかかってしまう女二人。しかもその一方は、10年間の交際を続ける古女房、遠藤である。もはや彼女相手に有は勃たず、若い女の子と二股をかけたのは、自分の欲求を満たすためなんじゃないかと思ってしまう。
このあたりの描写は、かなりあからさまで結構ヒヤリとさせる。遠藤が彼のモノをさすっても「昔はこれですぐにリアクションあったのに」と言うと有は悪びれもせず、「恋愛の賞味期間は4年っていうからね。もうワールドカップも3度過ぎたし」なんて言って、身体を離しやがる。ムッカー!ときそうなもんなんだけど……なんかひょうひょうとしていて、怒る気にもさせないところが逆にムカつくというか?

遠藤は深いため息をつく。だってそのワールドカップを3回過ぎる間に、彼は漫然と助監督生活をズルズルと続け、恐らくあまたの後輩に抜き去られ、メガホンをとることが、半ば夢になりつつあるのだ。
ゴダールだのクロサワだのといったシナリオマニュアル本が山と積み上げられているのが、笑っちゃうけど、あまりに哀しい。だってそれって、自分自身の個性が全く見つけられずにこの10年を過ごしてしまったってことなんだもの。
気がつきゃ彼女の部屋で酔って眠り込んでいるコイツに、「脚本を書くんじゃなかったのかよ!」と怒鳴り散らす遠藤だけど、彼女の焦燥ほどに有は堪えていない。いや、というか見ないフリをしてる。彼女の焦燥がどういう意味を持つのかまで、恐らく彼は考えてないんだよね。
「……泥舟に乗っちゃったかな……」遠藤はつぶやく。キツイ台詞だ。もう別れようにも別れられない。運命を共にするしかない。しかもコイツはそこまで切実だってこと、判ってないのに!

そして新しい愛人、見るからにピチピチの、目の下のホクロやぷるんと厚めの唇がそそられる女の子、愛も、このダメ男にハマってしまったことで苦悩していた。
彼女は自分が2番目だってことに、薄々気づいてる。そのことをサクッと描写する場面が、まずこの監督のカラーを示してて笑える。
本屋でバイトしている愛、そこへ彼女に会いに有がやってくる。仕事が終わったら電話するよ、と愛は彼にバイバイを送る。すると横に立っていた先輩、そしてカウンターからもぬっと顔を出すもう一人が、「あれがウワサの二股男?」「早く向こうと別れさせた方がいいよ」とかわるがわる忠告する。
それが実にのーんとした感じというか、すんごいオフビートなんだよね。こういう間(ま)は、短めの尺がキッチリ決まってるピンクではなかなか味わえない。
そしてそれは、二人の恋人、特に古女房の方の遠藤にも凄く感じて、これがピンクっぽくない女優さんの魅力でいいんだよなあ。なんか、アネキって感じで。

愛の部屋に転がり込んできた有、カネがないから傘もなくて、びしょぬれ。こういうあたりが女の母性アンテナを揺らしてしまってズルイ!のだ。しかもいきなりヤル気マンマンだし!
愛は苦悩を抱えてた。それは二股をかけられているってことだけじゃなくて、……妊娠、してるんだよね。それを今日こそ彼に伝えようと思った。
性急にヤろうとする有に、「ダメ、生理……」と言いかけると、彼「いいよ、別に」思わず観客も、この自分勝手なダメ男に苦笑しちゃう。
愛は「違うの、生理、来ないの……」とついに口に出す。固まる有。愛はいたたまれなくなって、「嘘。ビックリした?」と笑顔を見せる。「……びびったー!」とあまりに正直すぎる有。こんなにも本気じゃないってことを示されたら、言えないじゃない、子供が出来たなんて。

で、さ。いわゆる凡百の恋愛映画なら、この時点でこのダメ男を見限って、彼女は一人、生きていこうと思うと思うわけ。だってこんな顔見せられたら、ムリだもの。でも彼女は子供をおろし(婦人科病院から出てきた描写は恐らくそうだと思うんだけど……それとも確認しにいったのかな)、彼のボロアパートが近々取り壊されるなら、自分と一緒に住もうと彼に提案する。それを有は泥酔しながらテキトーにうんうんと相槌を打っている。
そういやー、有は、すっごくノンビリと荷造りをしていたんだっけ。エッチビデオを箱にしまおうとしたら、遠藤にアッサリゴミに捨てられてしまったりさ(笑)。
愛は彼の荷物を自分の部屋に移し始めた。でもその事実を目にした有は、服を入れたダンボール箱を抱えて「ゴメンー!」と走り去ってしまった。
うう、どこまでダメダメ男なのだ……。

一方の遠藤。有の部屋で一服していると、そこで愛と遭遇してしまう。まさに修羅場。双方共に当然、彼と別れてくれと言う。
「あんなヤツと付き合っても、このままズルズルいくだけだよ」「だったらそっちが別れてくださいよ」「私のズルズルは年季が入ってんの!もうやめられないの!」
ううう、なんか遠藤の方にグッときちゃうのは年のせいなのだろーか……。
遠藤は、夢を追い続けている有をずっと近くで見てきていた。30になるまでに撮る、という言葉を信じていた。恐らくそれを契機にしての結婚という文字だって、浮かんでいたに違いない。
でも予想以上にダメ男だった彼は、30を過ぎても双方の女に「とりあえず、2千円貸して」と言うヤツなのだ。この台詞も、キビしすぎる……。とにかく台詞が、言葉が、ものすっごいヴィヴィッドで驚いてしまう。

そしてここらあたりから、物語が確信犯的な崩壊を始める。いわばここまでだったら、自らの恥部をさらけだしているとはいえ、まったり天然な雰囲気とはいえ、ある意味青春ラブストーリーにのっとった形をとっていた。
しかし、女二人の修羅場に遭遇したことで彼の頭がトンだのか、やっかいな先輩に再会したことで運命の輪が狂ったのか、あるいは以前からなんとなく衝突してたホームレスたち(有があからさまに粗大ゴミを投げ捨てるから)との関係が悪化したからなのか。

突然訪ねてくる先輩、レイは、かつてピンク業界で監督をしていた。今はなんか怪しげな「環境保護」の仕事をしているという。
まあ後に、どうやら彼はヤクザ稼業に手を染めて、ヤバいものを運搬しているってなことが何となく判ってくるんだけど、ひたすら「地球を守る」「環境保護」と言って有を巻き込むこの先輩、演じているのがもはや老練の!?域に達している川瀬陽太氏だからさー。
この人はホンット、緩急の上手い人。こんな奇妙に天然入ってる作品にも、しっかりと合わせてくる。見た目はこんなにアヤしいのに(笑)。

もうこのあたりになると、ピンク映画だとかいうことも、忘れそうになってくる。いや、一応忘れないようにということでか、あるいはピンクの原則を守らないとヤバイからなのか?この先輩がデリヘルを呼んだ話なぞをし、そのシーンが描かれるんだけど……でもそれは、有が妄想したシーンなのね。だって先輩が言う女の風貌が、有の二人の女に妙に重なるんだもの。
思えば冒頭から、有の中途半端なホンのアイディアなのか、そうした妄想シーンは出てくるんだけど、内容は3Pとかなのにソフトに紗がかかってたりして妙にロマンティックなのが、このダメ男の甘さを示しているようでさあ。
で、有は先輩のアドヴァイスに従って、パクリのホンを書いてみたりするんだけど、「こんな、マンマじゃバレるだろ!」と窓から放り捨てられてしまう。てゆーか、レイ、本気で後輩の面倒、見る気、ないだろ……。

しっかし、レイが有に運ばせていたものは結局何だったんだろう?なんか洞窟みたいなところに連れて行かれて、黒づくめに目と口だけがあいたニットのマスクをかぶせられて、“ただ置いてくるだけ”とはいえ、ヤバさ満点の仕事。しかも車のダッシュボードの中には、拳銃をしのばしてるし……。
有がこの仕事をなかなか断われない描写も、ダメ男全開でさあ。しかも拳銃を発見してしまったことで、妄想とかもバンバン見ちゃうし。
というか、ここらあたりから妄想だけで展開していくような感じになってきちゃうのだもの。スゴイ壊れっぷり!

有の前に、二人の恋人がかわるがわる現われる。消えかかった裸電球がパチパチと明滅するたびに、二人、段々と衣服を脱ぎ捨てて、かわりばんこに登場する。キスをする。押し倒す、挿入する……。その度にかわりばんこの二人の恋人は、かつて口にした台詞を、しかも違う方の彼女が言った台詞を口にするんである。
泥舟に乗ったかなと言ったのは遠藤だったのに、それを口にしたのは愛。別れてもいいよと言ったのは愛なのに、それをここで口にしたのは遠藤だった。

双方の女の思惑は、当然共通するところも多いから、絶妙にリンクする。だけど、決定的に違う部分も抱えているから、同じ台詞を言うことで余計に対照的になって、特にオバチャンの私は、遠藤にシンクロして見てしまう。
口にする台詞は同じでも、どんな気持ちを抱えて言っているかは、やはり女の年齢が10も違えば、天と地ほどに意味が違ってくるから。
前半の、どこかナンセンスギャグ気味の自虐的なストーリー展開から、主人公が完全に置き去られているのが凄い。凄いというか、なんかもう、彼が無意味になっていくのが、自虐を超えすぎているというかさ……。

二人の女に対峙して、有が手に持っているのは小さな家庭用ビデオカメラ。いよいよ自分も監督作品を撮るんだと、二人のインタビューを試みる。そして、自分は二人がいないとダメだ、三人で仲良くやろうなどと、フザけたことを言いやがる。
しかしもはや結託してしまった二人の女は、お互い顔を見合わせてニッコリ笑い、彼を崖の下へと突き飛ばす(!)。楽しそうに笑い合う二人の女。
崖下には居住地を奪われたホームレスたちが、呆然と撤去作業を見詰めてる。行き場のなくなった男たちの虚無が、実にアッケラカンと示されてる。

でもね、このラストシーンも、女二人はなんか現実感のないすとんと単色のワンピース姿だったりするし、中盤からもう、完全に破綻した世界観になってるのがスゴいんだよなあ。
でも全体の、のーんとした雰囲気は変わらないのだ。主人公はすっごい焦るべき状況で、実際焦っているのに、ずっと天然な間(ま)を保ち続けてる。恐るべき強心臓。昼日中のコアラみたいな感じの監督なのに!

女から携帯に電話が来た時に、二股かけてる相手の存在を隠すために、「本番!」と撮影中を装って叫んで電話を切るのが、可笑しくも悲哀に満ちててさあ。
だってそれがゴマカシとして成立しちゃうってことは、それだけ長い間撮影現場のプロとして居るのに、自分の監督作品が撮れてないってことを一瞬で示してるんだもん。
それに本番、ってホンバン、と重なるっていうピンクならではの(ホンバンはそんな、ないだろうけど……)、そして二股をかけてる彼に対する一種の謎解きにもなるしなあ。

でもこれ、脚本に監督の名前が連ねられていないのが不思議でしょうがない。えーだって、彼自身の話じゃないの?って、ホント太宰的に騙されてるわ。クヤしい!★★★★☆


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