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「そ」


2010年鑑賞作品

続社長紳士録
1964年 95分 日本 カラー
監督:松林宗恵 脚本:笠原良三
撮影:西垣六郎 音楽:山本直純
出演:森繁久彌 久慈あさみ 岡田可愛 山本忠司 杉山直 小林桂樹 加東大介 三木のり平 英百合子 司葉子 左卜全 中村伸郎 フランキー堺 草笛光子 新珠三千代 田崎潤 京塚昌子


2010/1/21/木 劇場(銀座シネパトス/森繁久彌特集)
本作はホントに社長シリーズが終わる雰囲気万点なんだけど、ホントに終わらないんだよね(笑)。
だって、最後に本社の社長就任の前に社長学を学ぶためにと、世界一周旅行に夫婦を送り出すパーティーで皆が蛍の光を歌ってさ、で森繁が一人一人挨拶をして回る顔ぶれは、歴代の出演者じゃなさそうな人たちも含まれててさ、ガッチリと握手して笑顔を交わす様は、あれってひょっとしてスタッフたちじゃないのかなあ?なんても思われてさ。
しかも森繁は「これまで社長シリーズを……いやこの会社を支えてくださり……」なんて挨拶もするし、そして飛行機がアメリカへと飛び立つ様で終わるなんて、ホンットに感動のシリーズ終了を思わせるのに、人気があるからこの後も続いちゃうのはなんかやっぱりマヌケなんだなあ(笑)。まあ沢山観られるのは嬉しいが。

で、そう、“続”だからね。一応前作で一旦お話は終了しているんだけれども、登場人物は勿論、エピソードの多くをきっちり引き継いでいる。
んでもってエロ中心の細かいギャグが多数散りばめられていて、もうそれを拾っていくだけでも大変!
だってもう冒頭からよ。新婚旅行から帰ってきた原田君夫妻、社長森繁、いやさ小泉が「初めてだったから大変だっただろう」などとナニを聞くんだという質問を投げかけたら(それともこれを聞いたのは奥さんだったかしらん)「いや、三度目だからラクでした」!?奥さん共々目を丸くする小泉夫妻!ま、まあそうなの?みたいな顔しちゃって……オイー!オチは鹿児島は房代ちゃんの故郷だから飛行機で行くのは三度目だと……うう、最初からかっ飛ばしてくれるぜ。

小泉が社長に就任して以来、大正製袋は右肩上がりの業績。それもダンプ営業課長と呼ばれる、富岡君の頑張りだと褒めると、定年までそう年数のない富岡は「もうダンプもガタが来てまして……」とククと泣くも、褒められて嬉しそうである。
そして小泉夫妻のカカア天下は相変わらずで、彼が寝室で挑みかかるも、今日は疲れてるのとつれない態度。すごすごと自分のベッドに戻っていく小泉は「ここで寝たって意味がないじゃないか」いや、あなたのベッドでしょうが(笑)。い、意味って(爆)いやー、ホントにかっ飛ばしてくれるなあ。

さて、今回のメインは、新潟の北越瓦斯が化学肥料大量生産に入る情報をキャッチし、早速現地に飛ぶことにあいなったんである。猿丸がこの北越瓦斯の社長と同級生ってことで、実際は入札形式をとるところを何とか接待で切り込もうと、こう相成ったんであった。
でさ、そりゃあ猿丸が小泉と、ていうか三木のり平と森繁が一緒になれば、期待せずにはいられないわなあ!
ていうか、猿丸はもう飛行機に乗り込んでいる時点からホンチャンの接待より宴会に心が向いていて、さっそく取り寄せた新潟芸者のガイドブックを社長に進呈するんである。
がっついて見ている小泉に、後ろの席の人が窓から見える山を「あれはナンタイ山」ですね」とご親切に教えてくれるのにすげなく、「こっちは女体の話をしてるんだ」にょ、女体て(汗)。
つーか、それを言うためにナンタイ山がフリに使われてるって……なんてお山に失礼なことときたら(汗汗)。しかもこのナンタイ山、男体山と書くんだわね!

まあ、とまれ新潟に到着、先方との話し合いもいい感じに上がり、さー、お楽しみの宴会の時間(笑)。
しかし今回は森繁と三木のり平の宴会芸というよりは、この場にはべっている新潟芸者たちとの邂逅なんである。
小泉はひと目見たとたんその可憐な美しさに釘づけになった、新潟イチの芸者、菊千代にさっそくメロメロ。
猿丸はといえばもの凄い巨体の天竜姐さんに目を白黒させ「向こうが見えないからどいてくれよ」だの「特技は相撲の解説だろ」とか失礼千万なんである(爆笑!)。でもこういう年季の入った姐さんこそが、きっとステキな芸者さんなんだろうなあ。
原田君は相変わらず飲みより食い気で、家にいる時みたいにせっかちにバクバク食ってるから、小泉社長は、粋じゃないねえ、と眉をひそめているんである。いやしかし、そういうアンタはその粋を女性に手を出すことにすり替えてるんじゃないの(爆)。

宴会芸はともかく、とか言ったけど、でもやっぱり最高に面白かったなあ!今回は小林桂樹も加わってるんだけど、彼は早く新妻の房代ちゃんに電話したいもんだから若干気もそぞろで(笑)。
猿丸はいつにもましてノリノリで、愛する人に去られて狂気に陥った女性をあの白塗りで熱演!
アドリブ(という設定)でスケベジジイだのなんだのと小泉を罵倒しまくるもんだから、宴会芸だと判っていても小泉がつい激昂、問い詰めるも猿丸の言い様もちょっとさあ!「キチガイだから何を言ってもいいんですよ!」オイオイ、あんたそりゃあ、ちっと言いすぎじゃなかんべか(爆)。

そんな上司二人に呆れておいて部屋に帰り、さっそく新妻の房代ちゃんに電話をかける原田君。電話越しにチュッとやって「判るよね、この音。房代ちゃんもやってごらんなさい」……一生やってろ!
しかしそこに、原田にすげなくされた芸者が乱入、押し問答のやり取りが電話ごしに聞こえちゃったことで、後々の騒動に発展してしまうんである。

一方の小泉はその騒動の元凶を作ってる(爆)。美人芸者の菊千代と二人きり個室にしけこんで、さあ、これからしっぽりというところにお約束の、彼女への呼び出しが。
うーむかなりイイ雰囲気で、もうちょっとで接吻というところまで行ってたのに。この雰囲気作りはさすが森繁、もー、マジでドキドキしちゃったもん。
でも結局は女性からソデにされるあたりが、やっぱり森繁なんだよね。「どうしてこうオレは女運に恵まれないんだろ。ハァー♪……歌も出ないや」こういうトコがなんとも愛しいんだよなあ!

ま、というわけで一応は何事もなく帰ってきたんだけど、あの芸者ガイドブックをポケットに入れたまんまだったのが運のつき、しかもそれを発見したのが子供たちで、しかもしかも菊千代の紅での印つきという言い逃れようのない状態。
それを子供たちの手から取り上げて、夫を問い詰める奥さんの恐ろしさは……最高!「あなた……こちらへ」と殊更に低―い声で彼を呼び寄せ、しかも部屋にガチャリと鍵をかける(!!)。
このガイドブックをね、不良出版物って呼ぶのが最高に可笑しいんだよね!しかもね「本屋さんで売っていないようないかがわしい本」この定義はまさしくサイコーだな!
もうすっかり追いつめられたかと思いきや、小泉はトンでもない言い訳を!これは原田が持っていたものだと、こともあろうに新婚の彼に濡れ衣をかけるという暴挙に出る!
勿論、だからといって彼らの問題なんだからという口止めめいたことはするものの、そうカンタンにいかないのは明らかで……あー、もう騒動が目に見えちゃうんだもん!!

その前に重要なお方のご登場がまだでした!ていうか、前作でも彼の登場は中盤も過ぎてからで、なのにそこからスッカリさらっちゃうんだよね!
そう、フランキー堺。もう猿丸ちゃん大好きの南国澱粉の若社長、日当山である。
最初からスッカリつけ狙われる猿丸は、まさに蛇ににらまれたカエル、いやそれどころかライオンに狙われた小リスとでもいった風情。
ぴったり身を寄せられて肩を抱かれ、耳たぶをいじられる様は最高!何とかその手を押さえ込もうとするも、この手はジャマとばかりにどけられ、耳たぶいじいじされまくる……ううー、フランキー堺は実に楽しそうにやってるんだけど、三木のり平はマジでイヤそう(爆笑!)

彼はところでなんで東京に来ているんだっけ?(爆)あ、そうそう、見合いをするんだって話だったんだっけ。ええー、彼が(だって彼は絶対……いやいや)見合い!?しかしその場面は最後まで出てこないんだよなあ。
幼なじみの房代ちゃん(原田君の新妻ね)に同席を請うシーンだってあるのに、ここまで振っといてその場面が出てこない。てことは、彼は我が道を行くことを決意したのだろうか(爆爆)。
そういやあ、最終的には小泉にまで色目使ってきたもんなあ。「なんで気付かなかったのか……このカワイイ口ひげ」とか言ってあの悩殺!?耳いじり攻撃!超焦りまくる小泉、でここでフェイドアウトしちゃうのが、逆に生々しいっての!一体その後どうなったんだあ!?

てか、そうそう、彼はね、なんでだか原田家に居候しちゃってたんだよな。東京に来て見合いを控えてなんか風邪を引いちゃったのか、原田君の家でビールを飲みながらきったないクシャミを繰り返すんだもん(爆)。原田君が思わずビールのコップに手でふたをするのがやけにリアルで……実際アレはちょっとねえ、ヤメてほしい(爆)。
しかもそんな彼に、熱を測った方がいいんじゃないかと原田君の母親が言い、寒暖計ならありますよ、って、寒暖計で計ってどうする!こーゆー細かいギャグがほおんとに無数に散りばめられているもんだから、油断できないってーの!
でね、母親が泊まっていきなさいというのを原田君が「いやうちはトイレも水洗じゃないし……」と牽制するも「よかよか、親しみがあってよか」いや、それある意味バカにしてるだろっての!

一方小泉の奥さん、房代ちゃんにご注進したつもりが、夫が言っているのは逆のことだと言い返され、この二人の奥さん、すっかりおかんむりになってしまうんである。
ヤハリ小泉家のキビしい奥さんのやりようがおかしかったなあ!まず当然のように夫を部屋にいざない、ガチャリと鍵をかけ、小泉が何とか言いくるめて他のドアから出ようとするも「そこも開きません!」こ、コワッ!
ウソなんかついていない。僕の目を見なさいと言われて奥さんが彼の目を覗き込み「真っ赤に血走ってます」と言った時にはもう大爆笑!血走ってたらダメだよ!
それでもさ、こうやって問い詰めるってことは、つまりはラブラブだってことなんだよなー。ステキっ。

原田家の方は結局難ないっつーか。原田君はあらぬ疑いをかけられて家を飛び出すけれども、奥さんは「あの人は照れ隠しにお酒でも飲んで、帰って来ます。だって私を愛しているんですもの」とこうよ!
実際、ちょっと拗ねて社長と日当山と三人、居酒屋で杯を重ね、小泉が「結婚なんかするもんじゃないかもしれない」などと言い出すと「僕は房代ちゃんのところに帰る!」と決然として席を立ってしまう。
いやー、これが新婚ラブラブだからではなく、これこそが新時代のカップルだと思いたいけどね(爆)。
でもなんだかんだ言って小泉だって、芸者に迫られてもそれを知られたくないと思うぐらい、奥さんとラブラブなんだしなあ。

そうなんだよね、ウワキしかけた菊千代とはその後再三あってさ、再びのチャンスはなんと、この菊千代と同郷時代先輩後輩だったというクラブ・パピヨンのマダム、そう、小泉が前作でちょっとクラッときかけたこのマダムの来訪によってジャマされる。
だってこの女二人、超酒豪なんだもん!……そして菊千代が、またしてもチャンスをふいにしてしまったことをわびる意味も込めてわざわざ東京まででばってきて、いざホテルでコトに及ぼうとするも、また当然ジャマが入り……しかもなぜここを知ってるんだという原田君からの電話であり……本社の社長が倒れたというんである!

前作でも出てきた、圧倒的な存在感の左卜全扮する社長。
驚くべきことに彼から告げられたのは、本社の次期社長を彼に譲るというものだった。てなわけで、一気に大団円に向かうんだよね。
ダンプの威力も切れかけで「そうすねるなよ」と小泉社長に慰められていた営業部長の富岡が、大正製袋の社長を引き継ぎ、そして先述のとおり小泉は皆に蛍の光で見送られる。全てを洗い流す、まさに大団円のラスト。

本作で印象に残ったのは「紳士でも、男は立つべき時には立たなきゃいかん!」
確かこれは……女の元に行こうとする森繁……いや小泉社長に、「いつでも紳士たるべき」という社訓を提示して苦言を呈した富岡に彼が返した言葉だったと思うけど、いろんな意味で、そういろんな意味で(立つべき時には立たなきゃ……うーん、いろんな意味だ(爆))深くて、そして不謹慎な(!)そしてそして、森繁というキャラを実に象徴する言葉なのだよなあ!★★★★☆


ソラニン
2010年 126分 日本 カラー
監督:三木孝浩 脚本:高橋泉
撮影:近藤龍人 音楽:ent
出演:宮アあおい 高良健吾 桐谷健太 近藤洋一 伊藤歩 ARATA 永山絢斗 岩田さゆり 美保純 財津和夫

2010/4/8/木 劇場(シネリーブル池袋)
即座に出た感慨は「なんか、弱いなあ」というものだったのが正直残念な気持ち。この監督さんは本作が長編デビューらしいのだが、それが原因なのか否か。
本作の展開が、原作をどの程度なぞっているのかによるような気もする……。確かに繊細な雰囲気はそれとなく魅力を感じるものの、登場人物たちの動機や情熱がイマイチ希薄に感じて引力が弱いと感じるのは、私が俗にまみれたオトナになってしまったせいなのだろうか?
あの程度で「会社、辞めちゃおっかなあ」とつぶやいてホントに辞めてしまうヒロインに、いやそんなことで本気で引くこともないと思いつつ、あーあと思ってしまうのはやはりダメだろうか?
プロになる気もないバンド活動を、しかもフリーターの立場でダラダラと続けている種田には最初から共感要素はないけれど、むしろ彼が彼女にぶつける「理想を全部僕に押し付けてプレッシャーかけないでよ」という台詞の方に共感してしまうのはいけないのだろうか??

あーあ、この時点で私、本作を観る資格自体、多分ないな(爆)。
でも確かにキビしいと思った。劇中彼らはちらりとプロへの欲望を見せはするものの、結局はこれまた青い“理想”の壁に阻まれてアッサリと挫折してしまう。
その時点で、えー、青すぎる……ともつい思っちゃったし、そしてその後種田が、プロになるとかはどうでもよく、こうして皆と一緒にバンドをやっていきたい、それが大事、みたいな発言をするに至って、あー、ダメ……と思ってしまったら……ホント、ダメだよな。
種田が劇中、突然事故死してしまうのは、つまりはそんなことが一生続く訳はないという、ある種強烈な皮肉だったのかもしれない。でもそれならそれで、皮肉をもっともっと強烈に響かせてほしかった気もする。その青さの方にばかり気をとられてしまった。

あー、また突っ走っちゃった(爆)。最初から行こう。最初……どこだ(爆)。
あ、そうそう本作は、宮崎あおい嬢が主演し、そしてギターに挑戦したことが大きく取り上げられていて、それがいわば惹句的なものになっていた。彼女の歌声が告知段階では伏せられていたり、かなり引っ張っていた。
確かにあおい嬢のギター姿は新鮮だし、汗だくでのパフォーマンスは見るに値するとは思うけれども、その歌声は伏せるほどだったのかしらん?フツーにカラオケで上手そうな程度って感じがしたけど……(なんか私、ムチャクチャ言ってるけど)。

でも、それならそれでもいい。最後の最後、クライマックス、彼女が熱唱するライブシーンは、まんまフルで聴かせても良かったんじゃないのお。
こともあろうに、一番のサビの部分で種田との思い出のシーンをかぶせて彼女の歌声が抑えられるなんて、演出としてもクサイし、彼女のパフォーマンスに対しても随分と失礼だと思っちゃった……。
まあ二番のサビはきちんと聴かせるにしても、なら、それをやるなら二番にしとけよ、と思ったり。
なんかね、ただでさえここまで若干の冗長さを感じてもいたから、つまり最初から煽られていたあおい嬢のライブシーンがようやく来てこれだから、ちょっとガッカリしちゃったんだよなあ。

だーかーらー。あーもう、話が進まないっつーの!
ていうかさ(また寄り道……)なんかあおい嬢はこういう(なんて単純に括っちゃうのは良くないことは判ってるけど)作品のパッケージとしてそれなりに話題を呼びそうな、みたいな、言ってしまえば口当たりの良い話題作の主演、ばかりが続いている気がするのがちょっと気になるんである。
しかも常に主演、だよね。注目される存在になってから、主演作でなければ映画に出なくなった。しかもそれが、いつもそこそこの作品、で終わっている感じがして、ちょっと最近それが気になりだしてしまった。悪くはないんだけれど、記憶や記録に残るまでではない、みたいな。
監督が誰とかじゃなくて、主演として立てる作品であること前提、みたいな気もちょっとしちゃう。なんかもったいない気がするんだよなあ。

でもむしろ、本作に足を運んだのは、いわば彼の方が本当の主人公であったかもしれない、種田を演じる高良健吾君の存在の方が大きかったように思う。
彼を最初に見たのは「M」で、その時は作品自体に……な気持ちがあったので記憶に留めていなかったんだけれど、ふと気付くと最も気になる役者の一人になっている。
とはいっても、ちゃんと作品を追っかけてる訳でもない。意外に若いので(いや、別に意外でもないか……なんか凄く冷静な演技をするなあと思ったから)若い系の?作品は観逃しているものも多いんだけれど、どっちにも転べる柔軟な普通さがとにかくいいなアと思った。
私はそういう“普通”にイイ若い役者さんが好きなのだ。女の子ではその“普通”さがなかなか重用されずに消えていってしまう子も多いのだが、男の子はどうだろう?彼にはぜひ踏ん張ってほしいところだが。

本作は、むしろ彼の方が主役である。途中事故死してしまって存在を消すんだけれど、それだけに強烈な印象を残し続けるから、ヤハリ彼の方が主役だよなと思うんである。
彼の想いをついで、ギターを猛練習し、ステージに立つ芽衣子に、メンバー二人は一瞬、種田の姿を重ね合わせる。
ベースの加藤はギターのアンプの調整も、偶然だろうけれどピッタリ種田と同じだった、と熱に浮かされたような顔で語り、種田の死によって休止状態だったバンド活動の始動を決意するんである。
そもそもだからね、芽衣子は種田とは大学時代、軽音サークルで一緒でね、恐らく彼女自身は取り巻き的な位置づけで楽器をやってる風はなくてさ、種田と恋愛関係に陥るだけの意味合いだったと思う。
いまだズルズルと大学に留年し続けているベースの加藤と付き合っている小谷にしたって、恐らくそうだと思う。そうして芽衣子はまあいわばフツーに就職し、この就職超氷河期だからやりたい仕事である訳もなくストレスがたまっている。
小谷の方はそれなりにキャリアウーマンぽく、ブティックでバリバリ働いていたりなんかして、仕事を辞めちゃった芽衣子に大丈夫なのと心配してくれたりするんだけれど、芽衣子は「こう見えてわりと貯金あるんだよ。一年ぐらいはなんとかなるかな」と見た目だけはサバサバした雰囲気。
母親が上京して来てこの現状に怒って衝突したりもするけれど、それもまたサラリとスルーされちゃうんである。

この厳しい就職難時代に、就職出来たラッキーとはいえ「お前の替わりなんていくらでもいるんだよ!」と言われる悔しさはすごーくよく判るけれど、判ると思う気持ちを通り越して、芽衣子自身が「そもそもこんなところで働きたくなかった」オーラをありありと出しているから、なかなか難しくてさ……。
そのあたりはさすがあおい嬢は上手いと思うんだけど。だって、そんな程度にしか仕事のことを思っていないことは後々に明らかにされるんだもの。

でもね、それが明らかにされるのは、同棲中の彼氏によってなんだよね。「他人のためにお茶くみしてコピーとって、それで芽衣子さんは幸せなの」と。
まあでも、この台詞を聞かされた途端に「なんて青い……」と私だけでなく思うと思うけどさ。気持ちは判るけど、じゃあ自分に何が出来るのか。
日本の企業の男性社員は、“お茶くみとコピー”すら自分じゃ出来ないのだよ。私はさ、いまやそれを誇りを持ってやってるよ。これって実際、バカに出来ない仕事だよ。
劇中の芽衣子もやってるけど、コピー機の修理だって、誰もが出来る訳じゃない。「そんなことは私は出来なくていいんです」てなスタンスの、ブリブリの若い女子社員に芽衣子が憤るのは判るけど、若いのは今だけだし、“イイ男を捕まえて結婚”したって、“イイ男”は一生イイ男とは限らないんだからさ!

……ついつい個人的感情で関係ないところまで突っ走ってしまった……だからね。芽衣子は仕事を辞めてしまうのよ。同棲してて、バイトしながらバンド活動を続けていた種田は、彼女の予想以上に戸惑ってしまう。これからが不安だと、酔った上でとは言え正直に吐露してしまう種田。
……私ね、種田の気持ちの方が判るなあと思っちゃったのだ。確かに彼は、そんな会社辞めちゃえよとは言った。なんとかなるよ、自分が何とかするとも言った。
でもね……いくら恋人でも、いや恋人だからこそ、真に受けちゃダメだよ。こういうの、古い感覚かもしれないけれども、女が恋人の「オレがどうにかする」というコトバを信じて仕事を辞める時は、それはつまり「オレが養ってやる」つまりつまり「結婚」という前提だということだもの。そう受け取ったからこそ、今の時点でそんなカイショなどある訳ない種田は戸惑ったんじゃないの。
いやいや……ヤハリ私は古いのか。なら、百歩譲って結婚という文字がないとしてもさ、でも、「男としての自分」に突然委ねられる恐怖は絶対、あったよね……。
彼は彼女のことを芽衣子さん、と呼んでいてさ、彼女の方はいつも種田、と呼び捨てだった。その関係性が既にしてこのすれ違いを生み出していたように思うのだけれど……。

そうは言っても、芽衣子さん、と呼び、甘え上手なキャラのメガネ男子、高良君は実に萌え萌えなんだけどね!
いやー、彼はいいよなあ。あまりに順調すぎる経歴がちょっと不安だけど(爆)、陽と陰の柔軟さがとてもいい。本作の種田なんて、ほおんと彼なら、突然姿を消しそうだし(爆)、突然死にそうだもん(爆爆)。
芽衣子の前から突然姿を消すシークエンスは、とても印象的なんだよね……惰性で続けていたようなバンド活動に、初めて本気になってレコーディングして各方面にデモCDを送ってさ。大手に引っかかるもグラドルのバックバンドの話を持ちかけられて、こともあろうに芽衣子が断わっちゃって(ていうか、大体なんでカノジョを同席させるか……)。
種田自身も、彼らを呼び寄せた営業が、憧れのミュージシャンだった冴木で、こんな俗な商売に手を染めていることに愕然とするのだ。

で、まあ一世一代のホンキがこんな具合に空中分解してさ、しばらくはそれに対して見て見ぬフリみたいな時期が続いたんだけど、種田は突然、ある日の夕方、芽衣子にチュッとキスをした後、ちょっと出かけてくる、と言ったっきり、五日間、帰って来なくなったのだ。<p> この、夕方の場面、現実味のない空気の中で、種田がちょっと出かけてくる、と言った時点で、もう帰ってこない気がしていた。むしろ、五日後に彼が連絡してきたことの方が驚いた。
死んだように寝込んでいた芽衣子は、種田からの電話に涙して、もう別れるなんて言わないよね、と念を押す。
そうそう、その前のシークエンスで別れ話が出て、先述の「オレにばかり理想を押し付けないでよ」という転換期があったんだった……。まあそれは、メンドくさいから割愛(いや、とっても大事なシークエンスだったのよ!)。
このシークエンスの時、芽衣子は「種田が何とかするって言ったんじゃん!」とか言わば言っちゃいけない台詞を吐いて、それでその場がなんか収まっちゃったから、イヤな予感はしてたんだよな……。

種田は芽衣子のもとに帰る途中、事故に遭って死んでしまう。そのシーン、バイクに乗った種田が、現実の苦しさがよみがえるフラッシュバックにギュウと目を何度もつぶって、赤信号に突っ込んでいくという形なので、草食系男子……と思う一方で、自らを責める芽衣子を慰める周囲、という描写に、いやいや、確かにアンタが追いつめたかもしれんよ……などと思う。
その最たるものは、芽衣子が勝手に断わってしまったグラドルのバックバンドの話、そのグラドルのPVがテレビに流れていたのを目にして、種田の死にふさぎこんでいた芽衣子がテレビをぶち壊してしまう。
その惨状を目にしたバンドメンバーのビリーが何やってんだよ!と揺さぶるも、ほっといてよ!と返されてしまうという……。
あるじゃん、有名歌手のバックバンドからメジャーになる話なんていくらでもさ。安全地帯とかアルフィーとかさあ(古いか……)。
彼らを呼び寄せた冴木が、種田からプライドはないのかと責められて、君たちにもいずれ判るよ、という青春映画そのもののシーンがあるけれども……その前に種田も芽衣子も青すぎというか、うぬぼれすぎというか……。
呼ばれたっていうことは、その時点で才能をある程度は認められたってことなんだからさあ。最初がどうでも、その後いくらだって浮上出来るじゃないの。自らの才覚があればさあ。ていうか、それがそもそもフツーだよね?ゲーノー社会なんてさあ。

……あるいは、最初から自分の才能と力で勝負できる、みたいな風潮が一方で確立されてしまった現代社会が、この厳しい風潮を更に助長してしまったのかもしれない、そのことを皮肉めいて本作は示しているのかもしれない、とも思う。
そう考えれば、芽衣子が“あんな程度の理由で”会社を辞めたのも。そして大手レコード会社から声をかけられたのに“あんな程度の理由で”それを断わったのも。
だって結局は彼らは、自分の趣味の段階で満足しちゃうんだもの。いや……それこそが正解なのだろう。でもでも、そう結論付けられるのこそ残酷すぎる。
死んでしまった愛する彼の意思を継いで、それこそが種田が人生で大事に思っていたことなのだと、息子の遺品を整理しに来た父親によって知らされて、芽衣子は彼のギターを抱えて、彼が一世一代レコーディングした曲、「ソラニン」を歌いたいと思う。

その披露する場は、種田の後輩がレコード会社から声をかけられて、ライブを見せるための会場だった。つまりかませ犬としてのタイバン。
だけどそこに、あの時種田のデモCDを取り上げてくれた大手レコード会社の営業で、種田の憧れのミュージシャンだった冴木がいた。
ロッチ(種田たちのバンド名ね)って、女性ボーカルだったっけ?彼は種田が死んでしまったことを知らなかった。そして会場に入った。ムチャクチャながらも汗だくで歌う芽衣子たちのステージに見入った。
芽衣子のモノローグのとおり、そのステージはメチャクチャな演奏だったのだろう。でも芽衣子は「ソラニン、間違えずに歌えたよ」と空の上の種田に話し掛けた。

やっぱりね、やっぱり、うん。作品力の弱さがキビしかったかなあ。
芽衣子が何に人生を懸けたのか、あるいはこれから懸けるのか。結局は恋人に依存しているだけの現状じゃないのかとか。
仲間たちにしても……実家の薬屋を継ぎながら「お前の夢についていく」と、メッチャ安全パイを敷きながらだったり、もう一人のメンバーも留年しまくりで6年目の大学生活を送っててさ、恋人から「あいつは普通の人生を送るようなヤツだから、今のうちに遊ばせてあげようと思って」なんて、つまりはヒモ状態じゃん。
なんか甘すぎるこの現状。それでいてバンドを続ける理由が最終的に、皆と一緒にいつまでもいたい、なんて結論ってさ!
……うーうーうー、私って、すんごい古いよね!でもでも……そんなことが許されないからこそ、人生って厳しいんじゃないの?いや、確かに彼らはその洗礼を受け始めてはいる。つまりはこれからもっともっとツライ現実にぶつかり続けるのだろうけれど……。

多分、「それぐらいで会社辞めるか!」て憤りからのめりこめない理由が始まってるんだよな……私って、私って、俗や!!!! ★★★☆☆


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