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デコトラ・ギャル 奈美
2008年 80分 日本 カラー
監督:城定秀夫 脚本:城定秀夫
撮影:田宮健彦 音楽:タルイタカヨシ
出演:吉沢明歩 今野梨乃 吉岡睦雄 松浦祐也 中村英児 なかみつせいじ 森羅万象 ホリケン。 稲葉凌一 野上正義
そうだよなー、つまりはこれってある意味女王様で、こんな美しくて強い女王様に、ムダな腕力や減らず口ばかり達者な男たちが次々にひれ伏すしかないというこの痛快さ!
しかし一方で、勿論それは強がりで、女の子らしい弱さをその男まさりの中に抱えている、ってのは当然!なファクター。
そんな彼女をいつも見守っていて、だからピンチの時にはすかさず受け止め、包み込むのが、見た目は見るからにイケてない幼なじみのトラッカー、そんな男を演じたらもはや右に出る者はいない吉岡睦雄だから、もう間違いはナイっての!
ほおんとに彼は、さらりとこういう役をこなすんだよなあ。ホントに顔はイケてないのに(ゴメン!)彼がそばにいてくれていると思うと本当に安心する。
いつも突っ張ってばかりの奈美も、ふと弱いところを見せてしまうのが、なんかすっごい判っちゃうんだよなあ。
そう、奈美、なのよね。別に全然関係ないんだけど、なんかその一匹狼のツッパリ具合といい、女囚さそりのナミを思い出してしまった。ほおんとに、関係ないんだけどさ(爆)。
でもそれこそさ、本作はOVの枠から飛び出して、れっきとした劇場公開作品に昇格し、シリーズ化もされているっていうんだから、何気に今後の展開にも期待してしまう。
そうか、これもピンクではないんだ。今回の特集は監督特集ということもあるけれど、ピンク映画ということにこだわらないことを旨にしているように思う(いや……去年ずっぱりこのコレクションを見逃ししてるから、何とも言えないが(爆))。
つまり、エロがあるとはいえ、“一般映画”で堂々の主役を張ったアッキーの存在感たるや!実際、私は今更ながら、女優、吉沢明歩の実力に思い至った。カワイイだけの、エロだけの女優じゃなかったんだと、今更ながら気付いたなんて言ったら、ホント怒られちゃうよね。
でもそれぐらい、ホント、先輩、好きです!って言いたくなるぐらいカッコよかったし、美しかった。
そう、これを、本当に男っぽい女優がやってしまったら、やっぱり違うのよ。基本キュートでスウィートな彼女がやるからこその奈美。
そして、先輩、好きです!と言いたくなる、ってあたりもしっかりカバーして、カワイイ後輩がキャピキャピとついてくる。そしてそれは切ない結末を迎えるんだけれども……。
ていうか、あまりにアッキーにはしゃぎすぎて、ちっとも内容に入れない(爆)。
えーとね、彼女は伝説のトラック野郎の一人娘。幼い頃から助手席に乗せられて育った、生っ粋のトラック娘なんである。
その父親は友人に裏切られて、多額の借金を背負って死んだ。その借金を返すために、彼女はしゃかりきになってトラックを走らせる。
どんな厳しい条件下でも、定刻どおりに荷物を運び入れる彼女の手腕は荷主たちから高く評価され、そのために仲間の仕事をぶんどってウラミを買うこともしょっちゅう。
果ては地域のデコトラ集団にまで目をつけられ勝負を持ちかけられるも、なんたって生まれながらのトラック娘、汚い手を使って迂回させられたりもするも、しっかり時間通りに荷主に荷物を届けるんである。
そんな彼女をサポートし、助けているのが、彼女の父親から無鉄砲な娘を頼むと託された幼なじみの男の子(役名忘れた(爆))。
奈美は実はお人よしだからさ、トラック野郎たちに身体を売って暮らしている桃香をウッカリ拾っちゃって、なんか子犬みたいになつかれてさ。桃香が離れ離れになった自分の子供といつか一緒に暮らしたい、だからマジメに生きたいんだ!とトラックの窓につかまって必死に訴える姿に、ついうっかり、しょうがねえな、と言っちゃったのだ。
顔はしかめつらだったけど、こういうのにきっとメチャクチャ弱い、お人よし、なのだ。
それはきっと奈美が、男手ひとつで育てられた過去があるからに違いない。ていう、彼女のバックグラウンドは、死んだ父親の回想がちらりと挿入される程度なのだが、なにせトラック野郎なのだからやっぱり、そうした過去作品を下敷きにしてたりするんだろうか?(すみません……トラック野郎シリーズとかは全然観てなくてホント判らない(爆))。
この桃香は、登場シーンこそはいかにもなカラミ要員か?とも思われるのだが(だって、流れの娼婦なんだもん。シリコン入ってんのか、てな爆乳だしさ)、彼女が呼吸困難に陥るたびにポーチの中から取り出した錠剤をばらまいたりするのを見るにつけても、これはつまり……死んじゃってオチ?と、ありがちなシークエンスを予想できたりもしちゃうんである。
確かにその予想はバッチリ当たってしまうのだが、なんか妙に難しい病名を持ってきたり(とにかく、子宮のどっかの、婦人科系の難病)なんとなくリアリティもあるし。
なんといってもこの子がやたら無邪気でさ、大トラブルがあって、あわや納入に間に合わないか!というヤマを無事越えて、吉岡睦雄演じるあの男の子と共に三人で宿で祝盃をあげた時、食べ散らかして、のみ散らかして、すっかり酔っぱらって、ご機嫌になって、そのまま寝てしまった。
そんな彼女を奈美は「野生児かよ」と呆れながらも、なんとも優しい目で見ていたのだ……。そして桃香が余命いくばくもない状態だと知るや、何とか彼女の子供を探してやろうと奔走するのだが……。
この宿のシーンではね、それまでつっぱっていた奈美が彼に、酔っぱらったこともあってか、やけにしおらしくなるんである。
それに誘われて、彼は積年の思いをぶつけずにはいられなくなる。何するんだよ!と一度はまあ、拒否するわな、キャラ上は。
でも、ずっと好きだったんだ、抱きたい、と言われると、充分に予測と期待があったであろう彼女は抗う訳にも行かず……。
ていうか、その前の“大トラブル”ってのが、ほおんとに、大トラブルでさ、なんとまあ、ヤクザが運んだシャブを、ひょんなことから積み荷とカン違いして積み込んでしまう訳!
てなわけでヤクザ二人組に訳も判らず追われ、訳も判らず捕まり、バラす前についでとばかりにレイプされそうになってしまう。
そこに助けに入ったのがこの彼なのだが、結局は三人一緒に縛り上げられて荷台に詰め込まれる。
ハダカ状態で縛り上げられた奈美の綱を口で解こうとにじり寄る彼に、「こんな時に、何ヘンな気起こしてんだよ!」とカン違いしたことが、あの宿のシーンにつながってくるわけで……。
そりゃ落ち着いて考えれば、この場面でそんなヘンな気になる訳もないのだが、あられもないカッコで幼なじみの前で縛られているという女心と、何よりアッキーの美しすぎるおっぱいが観客にもそんな想像をかき立ててしまうのであった(爆。だってホント、あれは芸術品だよ)。
それにね、何より、この二人のセックスを、無邪気に寝ていた桃香が声に気付き、襖をそっと開けて覗き見て、キャーとばかりに口を両手で押さえて、本当に嬉しそうな顔をするのが、それが、なんか、たまらなく可愛くて、ほほえましくて、だからその後、彼女が発作を起こしてしまうのが、イヤな予感を感じさせてヒヤリとしてしまったのだ……。
てかさ、てかさ!このヤクザ二人組がサイコーなんですけど!
市場の食堂で食べた定食についていたしめさばを「なんか、酸っぱいっすね」「バカヤロー、しめさばなんだから酸っぱいのは当たり前だろ!」
しかしその直後、同じ定食を食べていた奈美が、「オヤジ!これ腐ってるぞ!」ありゃリャりゃりゃー。
彼女はこの定食屋を再三、こんなマズイとこ、とくさし、それに対してオヤジさんは、イヤなら来るな!と返す。市場の食堂でありそうな光景だ……。
こんな印象的な作品で共演してるのに、「老人とラブドール」で再び共演した彼女のことを覚えていない発言(なんかのインタビューで読んだ)するなんて(涙)、野上さーん!!
まあ、それはいいんだけど(爆)。でね、そのしめさばが見事当たっちゃって、なんか中国マフィアあたりと取り引きしたシャブを車に積み込む直前にピーゴロが我慢できなくなった二人は、お尻を抑えながら路肩に(爆)。
その間に、奈美と桃香が、路上に置かれたそのハコを、積み忘れた荷物だと思い込んで積み込み!
慌てたヤクザ二人だけれど、ピーゴロは止まらず、お尻丸出しにしながら、追いかけようとするも結局ゲリには勝てず(爆爆)、持ち去られてしまったのであった。
もう、もう!路肩でブリブリ下痢する二人の、そのなんとも言えない表情もギャーだけど、お尻丸出しで、内股になりながら追いかけようとして、しかし断念せざるを得ずに、その場でああ……とブリブリしちゃう黒づくめヤクザの、情けなくも可笑しすぎること!なかみつさん、ハジけすぎだよ……。
しかし、その後のチェイスの展開の方がスゴいかもしれない。とにかく奈美を守ることが大命題であるあの彼は、車体を伝って運転席に踊りこむという、荒唐無稽にしてもトンでもないことをしでかすんである。
あのね、本作はアッキーの生まれながらのトラック女っぷりが実に痛快に描かれていて、だからマッチョなトラッカーとのチェイスシーンも、勿論運転席のシーンと実際にデコトラが道路を走るシーンとはうまいこと編集して、いかにも彼女が運転しているように見せててさ。それもホント上手くて、車窓の風景の流れ方とかも、ほとんど違和感ないんだけど、このシーンだけは、勿論確信犯として、超ワザとらしいわけ!
トラック後部の扉を開けてそこに広がる風景は、勿論わっかりやすくCGアリアリ!そしてそのまま運転席まで伝って移動するなんて、ありえなさすぎ!
しかもこのヤクザ二人はなぜかラジオで怪談話なんぞを聞いており、ドアの窓にいきなり顔を出した彼の姿に超マジにビビリまくり!このあたりのテンポはほおんと、素晴らしかったなあ。
でも、その後はすんごいウェットな展開に……いくら探しても見つからない桃香の子供、知っていたのはあの食堂のオヤジさんだった。
数々の男を渡り歩いた彼女は、誰の子か判らない子供を宿した。それでも産もうと決めたけれども、その子供はそのまま……天に召されてしまった。
彼女はそのことを判ってて子供と一緒に暮らしたいと言ったのか、それとも願望がいつか妄想に変わって、本当にどこかに自分の子供が生きていると思い込んでいたのか。それは、自分が親としての存在価値を自身も認められない自己嫌悪が産んだ哀しき願望だったのか……。
産まれた筈もない子供の手を引いて、キラキラ星を歌いながらそぞろ歩く、願望とも妄想とも夢ともつかない場面が胸に突き刺さる。
それは、いつも助手席にいた父親を仰ぎ見ていた奈美の回想と伴って、今、ここにはない、焦がれても届かない、風景なのだ。
桃香の遺灰を海にまき、そして今日も奈美はトラックを走らせる。女トラック野郎、アッキーのオットコマエなこと!
市場人としては、結構日頃見慣れているデコトラと、トラッカーや市場の男たちの描写が意外に違和感なく見られたのも大きかった。こんなカワイイトラック娘はいないけどね(爆)。いたら絶対、私だってまとわりついちゃうんだけど!
奈美たちが運ぶ発泡の箱が、どんなに重そうに演技しても明らかにカラなのが判っちゃうのはちょっとアレだったけど……せめて、積んである山ぐらいは、重さを演出してほしかったなあ。
マンガチックな警官に追いまくられるシーンとか、ギャグな展開も満載で、娯楽映画として非常に優れている一方、なんかウルッとさせちゃうあたりも確かにエンタテインメントなのね! ★★★☆☆
あくまで日本ベースの制作なれど、全編英語、なにより主人公が青い目の(かどうかはモノクロだから判らんけど(爆))外国人青年であるということから、世界視野、ことにハリウッド云々が実現しなかったことへの挑戦のような気持ちも感じさせる。
一方で「英語で撮る必要はなかった」といった揶揄めいた指摘があったというのも、つまりは鉄男にめんどくさい物語性など必要なく、というか、言葉など必要なく、それだけで世界を黙らせる衝撃があるという褒め言葉にも思える。
と、思うほど、ちょっとビックリするほど、まるであのオリジナルの鉄男の衝撃そのものだったから。
逆に私はオリジナルの鉄男の解説なんぞを今更ながら読んで、こんな、いわゆる筋めいたものがあったかしらん、と思ったほどだったのだった。
私の記憶にあるのは、どんどん身体を鋼鉄に侵食されていってしまう男の恐怖、その男の前に現われた挑発的でやたら強靭な男、そして最後には最初の姿も判らぬほどに鋼鉄でボコボコ状態になった彼とその敵との、街をも巻き込んだ壮絶なバトル。もう、ホントに、そんなシンプルな記憶しかなかった。
本作に関してはそのオリジナル(私が忘れているだけで、そのオリジナルにもちゃんと物語性は用意されていたのだけれど(爆))よりも、更に深遠なる物語が用意されている。
なんたって話は親子二代に渡って描かれる。鉄に侵食された、“青い目の鉄男”の父親は元科学者で、人造人間を研究していた。その名も「鉄男プロジェクト」
しかし研究仲間の日本人女性と結婚したが、彼女は癌で早世してしまう。彼女の最後の望みをかなえて、彼は彼女のアンドロイドを作った。子供さえ作れるほどの精巧なアンドロイドを……。
この鉄男プロジェクトが劇中、回想の形で描かれるんだけれども、そもそもモノクロ(とも言い切れないような、ギリギリ色を残したような場面もあって非常に印象的)な上に、思わせぶりなチラ見せで残酷な“鋼鉄人間になりかけて成功しなかった試作品”が、まるで……そう、まるで、戦場の悲惨な死体の様に映し出されるもんだから。
あるいは、主人公の彼、アンソニーが、こんな事態になったルーツを探るべく探し出した集合写真、父親も写りこんでいる単なる記念写真のように見えるそれにも。
そう、記念写真のように見えるからこそ、鉄の腐食が体にブツブツと出来てしまったような、生気を失った人間?を囲んで集合写真なぞ撮っているというその不気味さがひどく気味が悪く……その写真のフラッシュバックが何度となく示されて、なんともトラウマのように印象づけられるのだった。
でも、そんな悪夢の過去をも取り込んだ深い世界観を示しながら、不思議なほどに、私が衝撃を受けたあのオリジナル「鉄男」の印象を継承し、そのままに、まさに世界向けにパワーアップしているという感があったんだよなあ。
鉄男はね、とてもアナログな世界だと思う。本作においては人造兵器というファクターも用意され、この新しい時代における世界戦争への警鐘も鳴らされてはいるけれど、そしてなんといったって当時の鉄男の時には考えられないほどに進歩した現代の映像技術もそれなりに取り入れられてはいるんだろうけれど、でも、あの「鉄男」をいい意味で逸脱しなかったんだよなあ。
もちろん塚本作品、そしてなんたって「鉄男」だから、撮影も編集も、とにかく映画を見渡せるすべてを塚本監督自身が手がけている。
彼の盟友とでも言うべき石川忠の脳を揺さぶる爆音ミュージックは、オリジナルをまんま継承してまるで古びなく、鉄がメリメリと侵食していくスピード感と恐怖がマッハで増殖していく攻撃的映像は、あの「鉄男」で世に打って出たあの頃の塚本晋也と一ミリも変わりはしないのだ。
しかも、“ヤツ”として 年を経て同じ役にトライした塚本監督自身も……その目バリを入れた憎たらしい風貌も、怯え気味の主人公を圧倒的な存在感で一度は凌駕しながら、しかし結局は飲み込まれちゃう弱さも、なんともなんとも変わらないのだよなあ!
この世界観の変わらなさは、それが普遍であるという証明であるのだと思う。私はね、オリジナルを初見した時は、こともあろうにビデオだったのよ。今から思えば鉄男をビデオで観るなんて、そんな人がいたら、それは間違ってる!と怒るぐらいだと思うんだけど、それぐらい、鉄男はスクリーンからはみ出しそうなゴツゴツとした不条理な恐怖と、一目をはばからない耳をつんざく爆音こそが魅力だった訳でさ。
でもね、一人家でビデオで鉄男を見ていながらも、私は衝撃を抑えられなかった。凄い爆音に母親が心配して部屋を覗きに来たぐらい(当時就職浪人で実家に帰ってたのさ(笑))。
鉄に侵食されていく恐ろしさ、玉の汗を浮かべながらその恐怖に向かう主人公の田口トモロヲ、彼を初めて観たこともあって、あの独特の薄さが(笑)、余計に恐ろしさを増幅させたんだよね……。
あのトモロヲさんの弱々しさこそが鉄男となっていく衝撃のギャップで、あのオリジナルの最大の魅力だったと思う。今や押しも押されぬ売れっ子役者のトモロヲさんだけど、あの時は、あの薄さこそが、前提だったのだもの。
歯の中に鉄が侵食して来ている、というのがオリジナルでもあった描写だったかなと思うけれど(それとも皮膚に突起物があるとかいう設定だったかな?)、最終的に鉄にボコボコに侵食される姿よりも、この初期の徴候が一番鮮烈なんだよね。
そもそも鉄男ってさ、まあそれなりに血も流されるし、戦いのシーンはふんだんに盛り込まれてはいるんだけれど、基本的にはこのメタリックな恐怖に尽きる訳でさ。
で、そのメタリックっていうのは、今の緻密なマシンやロボット的な世界観ではなくて、本当に、メタリックなだけ、鋼鉄であるだけ、言っちゃえば、クズ鉄のアナログ、なんだよね。
本作で描かれる、死んでしまった愛する妻を元に作ったアンドロイド、そしてそこから生まれてきた息子、という設定も、いわば確信犯的なアナログでさ、生殖の複雑さとか緻密な部分をそれなりに提示することもせず、わりとアバウトに「私は妻のアンドロイドを作った」とするだけ。
これっていい意味でのアナログさ、なんかさ、お茶の水博士チックというか??だから、確かに進化した鉄男なんだけど、物語も二代に渡ってるし、美しい女性が二人も関わってくるし、オリジナルよりステージアップされているのは明らかなんだけど、ヘンンにかしこまらずにやっぱり鉄男そのものだ!っていうのがなんとも嬉しいのだ。
何よりエネルギーを注ぐのは、鉄に侵食されていく過程であり、鉄がメリメリと画面を凌駕していく、あの懐かしくも今でも新鮮なハイスピード映像であるのだ。マシンではなく、素材そのものの、鋼鉄。それが、今の脆弱なコンピュータ映画とは一線を画しているのだ。
“青い目の鉄男”に関わる二人の女性の、モノクロに映える美しさは進化した鉄男にふさわしいものだった。
主人公、アンソニーの妻であるゆり子役の桃生亜希子は、子供を轢き殺された悲しみを背負い、しばらくは夫の異変に気付かないものの、それに気付いた後は、ひたすら彼につき従う。
やあーっぱ、塚本作品の、モノクロのヒロインは、陶磁器のような白い肌と艶やかな黒い髪の日本女性が映えるわよねー。そんな具合に楚々と見えて、実はミニスカから美しい足をスラリと出しているあたりもそそられるのよね。
そして、アンソニーの母に当たる、命が止まった人造人間として地下に眠っている、中村優子の美しさも素晴らしいのよね。いわば、過去だけの出演、今生きている(訳ではないよな、アンドロイドなんだから)ままに眠っている彼女にしても、過去を生きていたに過ぎない訳で、なんかそのあたりに、オリジナル鉄男の時代との橋渡しを感じる。
生物としての自分が死に行くことで、彼女は思い切った決断をするのだ。愛する夫との子供が欲しい。だから、自分のアンドロイドを作ってほしい。皮膚も瞳も髪も私の全てを観察して解剖して……ってあたりまでは、SFロマンにありそうな台詞だが、そうして子供が出来るアンドロイドを作ってとまでは、やはり思い切った飛躍だったと思う。
テクノロジーが格段に飛躍し、人間と変わらないアンドロイドが現われたって不思議ではなくなった現代において、その存在を一方では示唆しながらも、しかしあくまで“鋼鉄に侵食される男”というアナログにこだわる鉄男は(まあ、ていうか、それこそが鉄男だからさ)、“コンピューター(パソコン)でなんでも出来る”と考えがちな現代に警鐘を鳴らしていると思えなくもない。
いや、そこまでうがった考えを想像してしまうのはファンだからではあるけれど……でもさ、ある意味“鉄女”であった彼の母親(のアンドロイド)が登場し、子供を成したが死んでしまい、その子供が怒りをエネルギーに人造兵器へと変貌していくっていうのは、それだけ見ればちょっとした反戦、平和への希求、じゃない?
怒りがトランスフォームを促がすことを知っていた父親は、常に息子や孫の動向を気にしていた。孫が謎の男に轢き殺された時、あの時あの子はその間際にまるで虫が脱皮を図るように、鋼鉄の正体を見せたんだよね。まだ自分の正体を知らなかったアンソニーだったから、その幻想にしばらくの間悩まされる。
あの子が、ほんの一瞬にせよ怒りを見せたのなら。恐怖ではなく、怒りを見せたのなら、それは……頼もしいと思うべきなのか、それとも……。
息子の方が手ごたえがあったなとナゾの男に挑発されるアンソニーは、愛する妻を人質に取られたこともあって、追い詰められて追いつめられてようやく、怒りをあらわにする。
ナゾの男からあと30秒で爆発するというネックレスを奥さんにかけられ、本気で怒れ!と挑発される。俺を殺すか、世界を破壊するのか、と。
何度もカウントをかける男。最後の最後の最後の最後に、ようやくアンソニーはエネルギーを爆発させるんだけれど……。
必死に駆けつけた奥さんが、敵は目の前の男ではなく、あなたの心の中だと叫ぶことで事態は収束するんだよね。
いや、そんな単純じゃなく、この場面はとにかくもの凄いバトルが繰り返されているんだけれど……でもこの言葉に結局は反応するアンソニーであり、思わせぶりな五年後の場面になにごとも起こらなかったりするのは、やはり平和への希求を示しているのかなあ?
そうなの、ちょっと疑問だったのね、ラストシーンは。あのギリギリの場面で、実は妊娠しているんだと奥さんから告げられたアンソニー、忌まわしき自分の血を残すことに躊躇したものの、結局は敵を倒し、平和な日々を取り戻した。
エリオットと名付けた二番目の息子は愛らしく、妻子に微笑みかけて彼はいつものように出勤する。何かが起こりそうな雰囲気でチンピラに取り囲まれる彼。
その直前、ナゾの男とのバトルの最後で、彼を鋼鉄の身体に飲み込んだ時、彼が残した最後の言葉「中で暴れてやる」がここで示されると思いきや、あっさりとスルーされる。どこかあっけにとられているチンピラたち。
正直このラストシーンは??な感覚の方が大きくてさあ……。ならばなぜ、この5年後を用意したのか、幸せな家庭を見せるだけならまあ判るけど、あの思わせぶりなチンピラたちをスルーする場面はなんなのか、チンピラたちにはアンソニーの中にいるあの男が見えていたのか、それをアンソニーが見事抑えているんだという結末なのか??
などと、メンドくさいことを言いつつも、新生鉄男、が素直に嬉しかった。正直、その時にはトモロヲさんを続投、とも思ったけれど、きっとどこかに出ている筈!と信じていた。
そのトモロヲさん、カメラが夜の都会をめまぐるしく徘徊する、そのほんの一瞬、ビルの窓に映し出された、“歯を磨く男”として登場!新生鉄男のアンソニーが、歯に鉄が侵食していることに違和感を感じた場面と見事に呼応して、素敵なカメオ出演!とメッチャ喜んでしまった!
★★★★☆