home!

「わ」


2010年鑑賞作品

若妻痴漢遊戯 それでも二人は。
2005年 69分 日本 カラー
監督:城定秀夫 脚本:城定秀夫
撮影:飯岡聖英 音楽:タルイタカヨシ
出演:西野翔 RIRICO 畠山寛 吉岡睦雄 重松伴武 皆川尚義 むかい誠一 長門薫 高田亮 中村英児 皆川尚義 坂本裕一郎 大滝由有子


2010/7/1/木 劇場(ポレポレ東中野/城定秀夫監督特集/レイト)
このヒロイン、西野翔という人も売れっ子のAV女優さんだということなんだけれど、すいません、私は知らなかった、初見。
本作に限って言えばAV女優さんっぽさというのは全く感じられなかった。いや、ぼさ、というのがどういうものかと聞かれればアレなんだけど(爆)。
いや、さ。ワキ、というかカラミ要員として、わっかりやすい巨乳のお姉ちゃんが、それもわっかりやすくフーゾク嬢として登場するんだけれど、その彼女は確かにAV女優さんっぽいなあ、と思ったのよ。顔立ちも身体つきもファッションも(ま、イメクラだからコスプレだし)メイクに至るまでくっきりと、プロっぽかった。
それと対照的だから余計に、この西野翔は、いい意味で輪郭があいまいで、いい意味で現実味がなかった。ガッツリ肉体系のAV女優さんっぽさとは対照的なところにいた。

それは勿論、あくまで普通の女性、若妻というエロものとして判りやすい引きがあるとはいえ、平凡な恋愛をして平凡な結婚をしているごくごく普通の女性、という役柄設定だからこそであり、演出手腕もあるんだろうけれど。
それに彼女、決して、お世辞にも演技が上手いという感じではなくて、それでいったらそれこそ、フーゾク嬢を演じている女の子の方が達者でさ、彼女とビールで酔っぱらってゲラゲラ笑いながら宇宙人の話をするところなんて、西野嬢の笑いがあまりに不自然なので見ていてハラハラするほどなんだけれどさ。
でもそれもこれもひっくるめて、ふと“穴”に落ちてしまった、若妻の初々しさ、世間からはぐれている感じが、妙に生々しかったのだ。

とはいえ、彼女は内職で英語インタビューのテープを翻訳しておこす仕事なぞもしているし、つまりは結構手に職も持っていて、決して世間知らずの箱入り娘という感じではない。
でも、内職、なんだよね。いつも一人きり、河原から聞こえてくるヘタクソなサックスを聞きながら、時にはそれがうるさくて思わず窓を閉めたりして、たった一人、ヘッドフォンをして粛々と進めている内職。
出来上がった原稿を届けるために昼のすいた電車に揺られて都心まで出るのが、彼女が唯一世間と触れる時間。そういう意味で言えば、ちょっとした箱入り娘、ならぬ、箱入り妻状態。

そんな彼女が、そのまっ昼間の、すいた電車で痴漢に遭う。やめてくださいと震える声を絞り出しながらも頬が上気する。
電車が駅につき、飛び出した彼女が振り返ると、今まで彼女の恥ずかしいところをまさぐっていた男が、ドアの窓から彼女をじっと見つめていた。一瞬の筈だったのに、まるで永遠に閉じ込められたように見つめ合う二人。

まあ、この場合はいつものように、痴漢というシチュエイションで女がこんな反応を示すなんてことはありえない、ということはワキにおかなくてはいけないとしてもね。
でも、ひとつのジャンルとして確立している痴漢モノとしても、その痴漢してくる相手がすぐに相手の女性に顔を見せてくるっていうのは、なかなかない展開だったように思う。
痴漢モノが純愛として成立してしまうのは、お互い顔を見せ合わないことによる切なさ(まあこれも、ワキに置いとかなきゃいけない事項があるにしてもね)がある訳で、こんな風に顔を合わせてしまうことって、あんまりないパターンだと思う。
それだけに新鮮だったし、何よりあの二人の表情のアップのカットバックが、運命的なものを感じさせてドキドキした。しかもこれも痴漢モノには普通ありえないことだけど、その痴漢相手は、ちょっとイイ男だった。なんか上地雄輔的な感じ?

それでいえばさ、私、この西野翔嬢を一見して、多岐川華子に似てるなあ、と思ったんだよね。あの、多岐川裕美のお嬢さんのさ。演技がちょっとイマイチなところまで似てるかも(爆)。まあ多岐川華子はこんな濡れ場をやるようなことはないだろうが……。
ヒロイン、そうだ、役名を言っておかないとメンどくさいわ(爆)。麻理子はね、翻訳の原稿を届けた時に、仕事を増やしてもらえないか、と頼んでいたんだよね。何、生活苦しいの、と編集部の人から言われると、いえ、そういう訳じゃないんですけど……と言葉を濁す。

実際、夫との生活に特に支障はないように見えた。朝出かける夫にお弁当を持たせて、いってらっしゃいとにこやかに見送る彼女に、そんな影は見当たらなかった。でも、彼女は気づいていたんだよね。夫が仕事をリストラされたこと。
あの痴漢に遭ってしまって、身体のほてりが抑えられなくなった麻理子は、珍しく自分から夫を求める。珍しく、というのは、夫の方から言われた言葉。でも夫は、「ゴメン……疲れてるのかな」彼女の求めに応えられない。
こういう場合、男は確かにツライと思う。とりあえず男が勃たなきゃ成立しないセックスってのは、まあ女にとっては悲劇も沢山あるけど、こと上手くいっているカップル同士だと、女の方はまあそれなりに、演技も出来ちゃうしさあ(爆)。

夫は、仕事で疲れている訳じゃなかった。それはこの時点で麻理子も判っていた、んだよね、後から考えれば。だってだからこそ先を案じて、翻訳の仕事を増やせないかと打診したりしたんだもの。
夫婦間に問題がなくても、夫婦生活がご無沙汰だったことが、思いがけず痴漢相手との情事に発展してしまったのか。いや、それは見た目上の、エロ要素が必要不可欠な作品形態としてのあり方であって、決してそうじゃなかったんだと思うなあ。

勃起出来ないほどに悩んでいるのに、それを自分に打ち明けてくれない夫に、どう接していいのか、これからの生活はどうするのか、という不安が、心の弱みが、ふと優しいところをなでられて、崩れてしまったんだと思う。
……などと生っちろいことを思ってしまうのは、やっぱり私が女だからなのだろうか。あくまで男性向きに作られたジャンルである本作、建て前は彼女の欲求不満が痴漢相手との情事に走らせたのだろうか??

やっぱりね、見てる自分が狙った客層じゃないってことが最初から判っちゃってると、ついついそんなヒネた思いを抱いちゃうのよ。
でもね……やっぱりね、夫への愛情を信じたいと思うんだよなあ。そりゃあこれはエロものとしてのビジネスで世に出たものだから、あくまでその、行きずりの情事のスリリングなエロさこそが見せ所であるのは間違いないのよ。
洗濯機が壊れてコインランドリーに通うようになった麻理子が、偶然その痴漢相手と再会する。彼女の欲望を見透かすように、避ける彼女にピタリとくっついて座り、スカートの上から次第に中までまさぐり、実に自然にベロチューまで持っていってしまう。もうすっかり麻理子は抗う気力もない様子なんである。

それ以降、電車の中で待ち合わせしては、出会いの時のように痴漢する側される側として(とはいえ、この時には彼女の方も彼のモノをまさぐっているのだが)スリルを味わう。そしてこともあろうに、ダンナがいない昼日中に夫婦で暮らすマンションに招きいれ、しかも夫婦で寝ている寝室でまぐわいまくる二人なんである。
ここがね、畳敷きでさ、夫婦で寝ている時も、畳に布団敷きの、今時珍しい和風スタイルでさ、その畳に直で、服を脱ぐのももどかしく、まさに情事って感じで二人が激しく求めあうのが、これは確かに、一度夫婦になった同士ではなかなかないよなあと思ってさ……。

でもね、勿論最後には、そんなスリルを楽しむようなものじゃなく、全てを受け入れ、一生を共にしていく夫婦としての、最初から生まれたままの姿同士で信頼しきって抱き合う、本当に幸せなセックスが用意されているんだけれど。そしてそれにとても満足するんだけれど。
ただ、この時には、そうしたいわゆる夫婦のセックスのカタチ、スリルとかそういうのとは無縁なそれとは違う、危険な逢瀬こそに彼女が没頭してしまっているのかもと思ってさあ……そう感じさせるのは仕方ない。だって、それが前提のジャンルなんだもの。

いや、でもね、夫とだって、かなーり濃いエピソードが用意されているのよ。てか、やっぱり夫のこと、愛しているんだもん。それなりに問題はあるにしても、幸せだし、ずっと彼と暮らしていきたいと思ってる。
妻を満足させられないことにストレスを感じていたのか、あるいは彼も、妻ではない相手となら興奮を感じてしまうのか、電車での痴漢をバーチャル体験出来るイメクラで、ご法度のホンバンを強要してフーゾク嬢からつまみ出されてしまう。てか、腕力で負けてしまうあたりが哀しすぎるけど(爆)。
しかもこともあろうに、フーゾク嬢が彼をつまみ出した事務所には、面接に来ていた麻理子が居合わせていたというありえない偶然!

大体、こんな仕事をするキャラじゃない麻理子が、なぜそんな気になったのかというのは……家庭の経済を危惧してと言われりゃー、そりゃ夫は言い返すことも出来ないけれども、あの痴漢相手にうっかりリアクションしてしまったことがあるのは当然否めなく、その彼と会いたいという欲望を抑えられるかもしれないと思ったからなのか。
「日中で、週に一回とかでも……」恐る恐る言う麻理子の条件は、稼ぎたいというよりも、欲望を満たしたいと言っているようにしか聞こえず、しかも「あ、結婚していらっしゃる」と店長にズバリと見抜かれたのは、日勤のあたりに他ならなく……。
そう考えると、ここって、会話の応酬だけだけど、結構キワどい意味合いを持ってるよなあ。とにかく脚本力が凄い城定監督のワザが、こんな見逃しそうなところでさえ、光っている。

フーゾク嬢に首根っこつかまれて、全裸で大切なところを手だけで隠した状態で事務所に連れ出された、夫の情けない姿、しかもそれを目の当たりにした妻である麻理子の方も、ピンクのナース姿だったんである。
双方責めたくても責めきれず、何とも気まずく帰宅し、それ以降も、夫の方はリストラを隠していたこともあって余計にギクシャクしてしまう。

でもね、この夫を演じているのが吉岡睦雄だから、もうその時点で、なんかこの後の展開も安心して見ていられるんだよなあ。
彼は決して、そう決して(言い直すな(爆))イケメンなんぞではないけれど、なんか、この人のそばだと安心できるし、確かに頼りないけど(爆)この人を守りたいと思うし。なんかほっとけなくて、なんて思っているうちに、こっちがどうしようもなくホレちゃっている、みたいにさせられている、魅力があるんだよなあ。つまり、ズルいんだけどさ(爆)。

でも、結局は彼の方が分が悪かったんだから、そんなこと言っちゃカワイソウかな。彼は結局、妻の浮気を知ることなく(自分たちの寝室に招きいれてエッチしてたのに!)、リストラされた状態からなんとか、かなり妥協したんであろう、カンヅメ工場の仕事をようやっと見つける。
そのことを妻に恐る恐るってな感じで切り出すけれども、そりゃあ女房はそれに対して文句なんて言わないさあ、仕事を見つかったことを朗らかに喜び、いつものように仕事のしたくをするだけ。
いっぱいカンヅメもらって帰るよ、と言う夫に、嬉しい、と返してさ。まさか妻がそんな“危険な情事”を犯していたなんて知らないのだもの。そして、スリルなんかは全然ないけれど、お互いに最初から肌と肌をぴたりと合わせた、夫婦の、幸せなセックスをするんだもの。

あのね、この結構シビアな物語の中にね、唐突といった感じで、宇宙人のエピソードが紛れ込んでくるのよ。彼らが住んでいる地域に囁かれるUFOと宇宙人の噂は、テレビの取材が来るほどだった。
それを麻理子は、あのイメクラで夫の相手をしていたフーゾク嬢が、その場面に遭遇したと聞くんである。痴漢相手と遭遇したコインランドリーでこれまた偶然、このフーゾク嬢と再会した麻理子は、しかも彼女が同じ団地に住んでいると知って意気投合する。

フーゾク嬢は宇宙船も宇宙人も見たことがあるという。鏡餅みたいな宇宙船、宇宙人はUFOがかなり揺れていたせいか顔色が悪く(船酔い!?)、はげちゃびんで、しかも太っていて“一応宇宙っぽい銀色のカッコ”はパツパツだった、と、やたら話し上手でさ、彼女が持参したビールですっかり酔っぱらった麻理子は笑いが止まらないんである。
これが先述した、やたらワザとらしく笑ってて、見ていられないっていう二人のシーンね。でもね、このエピソード自体はこんな風にサラリとヘタな演技で(爆)流すにはもったいない笑い満載。

私は城定監督に触れたのはピンク映画でのデビュー作、「味見したい人妻たち」で、とにかくその時から、シットリで、スリリングで、ていう印象だったから、笑いを持って来ること自体意外だったんだけれど、今の彼はむしろコメディに辣腕を振るう演出家なんだそうで。
すごいなあ、すごいなあ。コミカルと、エロのスリリングは、双方甲乙つけがたく、私いっちばん好きだし、何より映画で観客が求める一位二位を争う要素だと思うもん。

そして、その宇宙船と宇宙人は、一時スリルと甘美を味わわせてくれた痴漢相手に別れを告げた麻理子の前に現われるんである。
スリリングなエロに、麻理子も溺れそうになった。でも、この相手を、ダンナにプロポーズされた場所に連れて行くシーンは胸が詰まる。
そもそも最初から、光に満ちてあたたかで、ファンタジックで、それでいて冷たく見つめている美しいカメラは魅力的だったけれど、このシーンが一番その美しさが際立っていた。

恋ヶ窪という駅、ステキな名前でしょ、と麻理子は言った。言われた痴漢相手はピンとこない顔をしていた。
本当に、平凡な、ただ結婚してくださいと言われたプロポーズを話す。そう、痴漢相手の彼もそれを聞いて、予想通り平凡だと言ったけれども、その言葉を待っていたように麻理子は、あの時、本当に幸せだった。一生忘れない、と切り返した。そう思ったことを、忘れていたことを、思い出したのだ。
それを聞いてしまえばもうムリだもの。彼は電車に乗り、麻理子は一人、ホームに残された。もう二度と彼と会うことはない、だろう。

そして、麻理子の前にもあの安っぽいUFOが現われる。慌てて団地の屋上に駆け上がった麻理子。安っぽくも幸せな銀色の紙ふぶきはその後、あのヘタックソな河原のサックスプレイヤーにも降り注いだ。
調子っぱずれなサックスの音色がいきなりプロ裸足になめらかになるのは思わず笑っちゃったけど、でもなんか、素直に幸福だった。

全自動洗濯機が壊れて、そして治って終わる。直しに来た修理屋さんはやけに横柄に、洗濯機だから、洗濯しなくていい訳じゃないんですよ、と麻理子のメンテ不足を責め、部品の取り寄せは時間がかかりますよ、と言い捨てて出て行った。まさに洗濯機が壊れて、勝手に治ってしまう期間の出来事だったのだ。
そういうあたりはやはり、城定監督らしい職人的な作りだと思うし、あるいは一方で、それをこんなに記号的に出してしまうあたりは、初期作品と言われてしまう若さだったのかもしれないと思う。

今は彼が得意としているのはコメディなんだという。今回の特集でそれもちらりと見ることが出来たけど、その変遷ももっともっと観てみたい。 ★★★☆☆


脇役物語
2010年 97分 日本 カラー
監督:緒方篤 脚本:緒方篤 白鳥あかね
撮影:長田勇市 音楽:ジェシカ・デ・ローイ
出演:益岡徹 永作博美 津川雅彦 松坂慶子 柄本明 前田愛 イーデス・ハンソン 柄本佑 角替和枝 江口のりこ 佐藤蛾次郎 中村靖日

2010/10/29/金 劇場(ヒューマントラストシネマ有楽町)
一体永作さんはいくつの設定なの?と、割とどーでもいいことが最後まで気になってしまった。自身で女優の卵と自己紹介し、物語の最後には、ウディ・アレンのリメイクの主演に抜擢!と明らかに新進女優の扱い。
新進女優という言い方は、劇中でも何度か言っていたような気もするし。だとするとフツーに考えて22、3てとこだよなー。

うーん、うーん。そりゃあ永作さんはベビーフェイスだし、彼女のことを全く知らない海外の人とかだったら、さらりとそう思っちゃうであろう。実際これは最初から海外マーケティングを意識しているのか、英語字幕だし……。
監督さん自身が欧米で活躍している人なんだから、当たり前のことかもしれない。そして、キャスティングはあくまでそのキャラクターに合っていることが最も重要なことで、年齢だの何だのは関係ない。それは確かにそうなんだけど……。

ワレワレ、彼女の年齢を知っている当方としては、もはやベテラン女優としてのキャリアをつぶさに見てきたこちらとしては、どうしても気になってしまうのだよなあ。うーん、心が狭いな。
あ、そういえば本作って、主人公の父親が有名な戯曲作家であり、ヒロインのアヤが彼の大ファンで、その舞台に出ることを熱望しており、しかも、アヤが舞台に立つシーンなぞもあったりして……。

舞台ってその人と年齢が合うとかあまり、気にしないところがあるよね。何年も当たり役の同じ役を演じ続けたりさ、子供の役だって大人がやっちゃったりとか、若い頃からの一生を演じたりとか。
とすればこれは、舞台式キャスティングなのかも?いや……というより、本作って、とにかくウディ・アレンのリメイク作品に出たいがために奮闘する主人公、ヒロシの物語であって、ウディ・アレンってさ、どんなに年をとっても作品の中で若い女の子に恋しちゃうから、それを踏襲しているのかなあ。

実際は、永作さんの年齢ならヒロシ演じる益岡徹と恋に落ちてもそんなにおかしくないけど、劇中から察せられる年齢設定だと、ウディ・アレンの映画みたいに、年甲斐もなく若い女の子に恋しちゃう、って感じには映るよなあ。
でもそれを、日本だとそれが出来る年相応の若手女優がいないということなのかも?とまで考えるのはさすがにうがち過ぎ?
もしかしたらガチで永作さんの年齢設定がアヤなのかも……いやいやでもそれはやっぱりムリがあるなあ。
この年まで芽が出なくて、コンビニでバイトして「女優の卵なんです」はイタすぎるもん……て、どーでもいいことにこだわりすぎだな、私。

そう、そんなことはどーでもいいのだ。これはタイトル通り、脇役物語、万年脇役役者のヒロシが、ひょっとしたら主役になれるかも、という悲喜こもごもを描いたコメディ。
タイトルと、洒落た雰囲気の予告編、まさにヒロシを地でいくように、今回が初主演である益岡徹の眉毛に惹かれて……じゃなくて、主役っぷりに興味津々で足を運んだ。
正直、彼の顔はその眉毛がスゴいので(……すみません)インパクトがあり、劇中散々言われるように、いろんな人に人違いされるということはピンとこないんだが……スーパーの店員やら、劇場のスタッフやらに、あんな眉毛の人がそうそういるかしら(爆)。いや、眉毛は関係ないか(爆爆)。

少なくとも、誰にでも見えるような平凡なお顔立ちじゃないよなあ。彼(益岡徹氏自身ね)は確かに今まで主演はなかったけど、それはそのインパクトさゆえに、強烈な印象を残すバイプレーヤーとしての存在感が凄かったからじゃないのかしらん。
この入り自体から何となく違和感を感じてしまったら、いけない?まあ永作さんの年齢設定もそうなのだが……。

ヒロシの父親は有名な劇作家。そのことも、ヒロシの自尊心を微妙にピリピリさせるんである。アヤは無邪気にその舞台に出たいと言い、ヒロシにも勧めるんだけれど、ヒロシは苦々しい顔で否定する。親父の舞台なんぞに出られるかよ、と。
当の父親はただただひょうひょうとしていて、今はノンキに入院中である。父親にとって息子の苦悩は判っているんだかいないんだか、ヒロシがアヤを家に連れてくると子供のようにはしゃぐ、なんとも純粋な人なんである。
この父親を演じるのが津川雅彦で、そういうどこか、お坊ちゃま育ちのような、天然のような雰囲気が良く似合う。

この人は若い頃はめちゃめちゃ二枚目だったし、壮年期もいい男っぷりを漂わせていたのが、年をとるに連れていい感じに枯れて、茶目っ気を振りまき、理想的だなあと思う。
息子の恋人ともイイ感じになりそうな感じは、茶目っ気があるからこそであり、それは決して危険な感じじゃなくて、クスリと笑わせるような洒落っ気なんだよね。
劇全体からウディ・アレンを敬愛していることを感じさせる監督さんが、津川雅彦をキャスティングしたことが、なんとも納得って感じなんだよなあ。
この津川雅彦があまりにも泰然としているから、もう充分ベテランの益岡徹も永作博美も青い若手みたいに見えるところが、一番スゴいところかもしれない。

ヒロシはね、この脇役稼業から抜け出すチャンスを掴みかけているんである。ウディ・アレンの日本版リメイク映画に抜擢されている。
しかしそれが、思いがけないことで頓挫しかけてしまった。映画のスポンサーにコネがある大物代議士の妻に忘れ物の花束を届けたところをパシャリとやられ、不倫騒動でヒロシは降板を言い渡されてしまうんである。
慌てたヒロシは、実はホントに不倫疑惑のあるこの夫人のスキャンダルを暴こうと動き始める。そんなさなかにアヤとの関係も並行して動いていくんである。

アヤとは、スリに間違えられた彼女を助けたのがキッカケで知り合った。いつも誰かに間違えられるヒロシを、アヤは一発で「俳優の松崎さんですよね」と見抜く。
うるさがる彼に屈託なくついてきて、彼の父親が入院している病院にまで入り込んだアヤは、彼の父親が有名な劇作家の松崎健太だと知り、明らかにテンションがあがる。
「全部、読んでます」
息子のガールフレンドだと思い込んだ父親の方もまたはしゃぎまくり、無邪気に自著の本をプレゼントしたりする。そんなそばでヒロシは苦りきってるんである。

な、感じで自身のコンプレックスをがっつり挟んでヒロシとアヤの関係も進行していくんだけれど……出会って、次のシークエンスでは既にアヤがヒロシのことをヒロシ、と呼び捨てにしていて、えっ?と思ってしまった。それに対して彼自身も特に驚くことなく、アヤ、と呼び捨てにしている……。
うーん、その間に、時間的にも展開的にも、特に距離が深まった感じはしなかったけどなあ。まあそりゃあ、欧米ならばファーストネームの呼び捨てで呼びあうのはフツーだろうけれど、さすがにここは日本だからさ……違和感感じまくりなのよね。

しかもさ、アヤは“女優の卵”であり“新進女優”なんでしょ?こんな年上の先輩の役者に対して、ヒロシ、なんて恋人にもなっていないのに、呼ばないよなあ……ヒロシもまたしかりだよ。恋人でもなく、特に後輩として面倒を見ているわけでもないのに、アヤ、と呼ぶかなあ?
まあこれはウディ・アレン的に進行している物語だから、アリなのかなあ……でもここは明らかに日本、だよね??

まあそんな、ヤボな話は置いといて……。アヤはね、マネージャーをつけていない。単独で活動している。彼女いわく、マネージャーは役者を消費する商品としか見ていない、と言う。
それに対してヒロシは、自分はマネージャーに感謝しているという。そのマネージャーというのが……ちょっとハッキリしないんだよね。ヒロシの仕事に同行しているのは、彼をセンパイ、センパイと呼んでいるコスプレ好きで、巨大な万年筆型のモデルガンを「5万何千円もしたんスよ!」と言ういかにもバカそうな青年なんだけど、彼はマネージャーという訳じゃなかったのか、単なる後輩役者?
どうやらマネージャーは、事務所で植木鉢に水遣りなどしている、ガジローさん演じる山口らしいのだが……判り辛いよなー、この描写だと。

ま、そのバカそうな青年が、「指輪を落としちゃったんスよー」と言い、ヒロシが、俺はもう別れたから、と指輪を貸してあげる。
後々のシーンで「松崎さんから借りたんでしょ」とあっさり見抜くこの青年のワイフが、めっちゃラテン有色系!しかもやたら日本語流暢!
このあたりのオフビートを掘り下げてほしい気もしたが……うーん、でも、この青年自体、頼りがいのなさも中途半端だったしなあ。

後輩役者というならば、ヒロシが脇役としてついている現場の、イケメン俳優、望月こそがそうであろう。絵に描いたような、モデル上がりの(って、ヒロシが言っていたような気がしたが……そうでなくても、確かにそんな感じである)薄っぺらい役者である。
なんて言ったら、その望月を演じてる彼に失礼だが(爆)、まあそこは、そいういうキャラを演じきっている、ということであって(爆爆)。

一時はウディ・アレンの役をこの望月にかっさらわれそうになり、ヒロシは大いに焦り、そう、この時に「あんなモデルあがりのヤツ」という言葉を口にするんである。
これって、日本では、アイドル上がりとか、タレント上がりとか、いろんな言葉に置きかえられちゃうと思うんだけど……。
ある意味アイドルでもモデルでもタレントでも、その厳しいゲーノー界で彼らもまたもまれている訳だから、いつまでも脇役に甘んじているヒロシは実は、太刀打ち出来ない部分もあると思うんだよね。
まあ本作ではアッサリ、「望月じゃ、ウディ・アレンは出来ない」と再びヒロシにオハチが回ってくるんだけどさ。

と、いうところに行くまでに、代議士夫人の不倫騒動のシークエンスがあるんであった。
でっち上げられたスポーツ新聞の記事で、ウディ・アレンの役を剥奪されたヒロシは憤慨し、自分がその夫人の本物の不倫相手を探そうと思い立つ。
それには、あの、センパイと慕っている青年が、なぜか盗聴マニアで(おいっ)、協力を申し出るんである。
この夫人を演じるのが松坂慶子。彼女の携帯電話に盗聴器を仕掛けようと、陶器教室からフラダンス教室、はてはテニスにまで付き合うのが可笑しい。
で、彼女の不倫相手っつーのがなんとまあ、柄本佑で、これはある意味逆アレン状態??そういう意味では夢を与えてくれるかも……。

松坂慶子は正直、結構お太りになっちゃってもいるし、ちょっと見ていてイタい部分もあるのだが……でも、太って見えるのは、上半身に肉がつき気味な体型だから、なんだよね。
つまり、お顔と、特に二の腕がかなりたくましくなってしまう、上半身が太りやすいと全体にも太って見えてしまいがちなんだけど、カメラが下に行くと、足は不思議とほっそりとしている。それが妙に蠱惑的でね。
それに上半身は、ということは、つまり女として欲しいパーツであるバストはしっかりたたえてて、その谷間は、デブだなんて断じられない圧倒的な魅力がやっぱりある訳だしさあ。うぅ、うらやましい……。

それに、やっぱり、美しいのよね。どこか浮き世離れしたそのおっとりとした美しさは、柄本佑のような、親子ほどに年の離れた青年とのラブも、ひょっとしたらアリかもと思わせるものを感じさせる。
それこそ、本作には佑君の父親も、そして母親も!出ているんであって、両親としてはかなりやきもき?柄本明は、俺の方が年齢合ってるだろ!と思ったかもなあ、と(爆)。

人気のない場所で密やかにキスを交わし、その場面をヒロシにすっぱ抜かれると、土下座をして許しを請う二人の姿は、ヒロシならずともちょっとグッとくるものがあったかもなあ。いや、別に若いオノコと恋に落ちたい訳じゃなくてよ(爆)。
豊満な女体を持ちながらも、どこか童女のような松坂慶子の可愛らしさがなんともね、良かったんだなあ。
夫から暴力を受けていて、なんて設定なんぞなくても……ていうか、その設定はちょっと、このラブコメにはウェット過ぎて違和感があったかもなあ。

二人の恋人の姿に打たれたヒロシは、告発を断念する。しかして一方でアヤは全く意識せずに、ウディ・アレンのリメイク映画のキャスティングディレクターとして来日している女性と接触している。
この女性にコンビニで道を聞かれた時、たまたま店にいた万引き犯を取り押さえる場面と、ネットカフェでワケアリな小学生が宿泊し、お金の持ち合わせがなかったのを責め立てた店員を糾弾する場面に居合わせたんだけど……。

前段はともかくとして、後段のエピソードは、いくらなんでもアヤは怒りすぎじゃないかなあ。
確かにマニュアルどおりに店員は怒って「警察呼びますよ」と言ったのは、相手が子供だから大人気ないとしても、でも、踏み倒されそうになっている事実は変わらないんだからさあ……。
そこまでただただ怒る間に子供は逃げちゃうし、かといってアヤがじゃあ立て替えましょうという温情を見せる訳じゃなく、ただただ烈火のごとく怒るだけでさ……よう判らん、この場面のこだわりが。

で、キャスティングディレクターに見いだされたのかと思いきや、次の場面ではヒロシの家にこの女性ディレクターをはじめとしたメンメンが現われ「やっぱり望月じゃウディ・アレンはダメだわ」と再度ヒロシに依頼に来たのに。
なのに、なんかオフ音でヒロシとスタッフのやりとりが一瞬示されたと思ったら、次のシークエンスではアヤがヒロシに、自分が抜擢されたスポーツ新聞を携えてやってくる、って、なんだそりゃ??

アヤと思しき髪をひとつにまとめた後ろ姿にとうとうと告白する場面は、もう誰だって、あれはアヤじゃねーよなーと判っちゃう、お約束過ぎる。
いや、後ろ姿だけじゃ判らないようには映してるけど、映している場面が長すぎることもあって、これはギャグシーンだよなと、それだけでバレちゃうのよ。こういうところ、弱いよなーって思う。

んで、アヤが華々しい場面にデビューするのを見送ったヒロシ、会見していたアヤが、ヒロシの元に駆けてくる。
ヒロシが共演じゃなきゃ、出ないって言ったの。一緒に出よう」そして一拍おいて、ニッコリと笑って言う。「脇役だけどね」
アヤを抱き上げるヒロシ、キスする二人を、カメラがクルクル回る。うーん、じっつにロマンティックコメディのハッピーエンドだわ。

誘拐犯やら何やらと、やたら間違えられてブタ箱に入れられる息子のヒロシを、何度も迎えに行く父親、という図は確かに面白いけど、松坂慶子扮する代議士夫人の不倫現場を隠し撮りするシーンで逮捕されるのは、決して「誤解ですよ!」ではなかった気がするのだが……。★★☆☆☆


トップに戻る