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「ち」


2011年鑑賞作品

痴漢各駅停車 おっさん何するんや
1978年 62分 日本 カラー
監督:稲尾実(深町章) 脚本:福永二郎
撮影:笹野修司 音楽:芥川たかし
出演:野上正義 久保新二 桜マミ 桂サンQ(快楽亭ブラック) 沢木ミミ 北沢万里子 川口朱里 北乃魔子 中野リエ


2011/4/30/土 劇場(テアトル新宿/ピンク大賞ベストテン授賞式AN)
「老人とラブドール」が素晴らしくてその年の男優賞にも輝いた野上正義氏が去年亡くなったのを受けての特別上映。
無知な私はホントに彼の功績を知らず、若松作品などにも旺盛に出ていたことを知り、驚く。てか、知らずに彼の姿を目にしていたかも知れないんだなあ。

今回本作がセレクトされたのは「色々あって」ということだが、確かに快作、いや怪作?には間違いない。
晩年の野上氏のお顔しか判らない私から見ると、もう顔の判別がつかないぐらい若い野上氏と、その丁々発止の相手となる久保氏も、後に登壇されたんだけど、ホンットにもう、別人28号である。やっぱ顔立ちも時代を反映するんだよなあ。久保氏なんて若すぎてぽよぽよしてるんだもん。
髪型や眼鏡、スーツの色やデザイン、ネクタイの太さや柄、もう何もかもが時代やなーっていう、外見の古さに最初はちーと怖じ気づいたんだけど、あっという間にそのハチャメチャさに引きずり込まれる。
まさに、この作品を野上氏の追悼上映に選んだのは大正解!だって彼、やりたい放題なんだもん!

この場合はまあ、痴漢自体の云々に対する女としての色々言いたい気持ちは思いはまあ、おいといて(だけど悔しいかな、痴漢モノはホント、秀作が多いんだよね……)。
そもそも本作は確かに電車での痴漢シーンに始まって、痴漢シーンに終わるし、野上氏演じる上司も痴漢には一家言あるらしいんだけど、メインはそこじゃ、ないんだよね。

てか、痴漢ものぞきもフツーにセックスも、とにかくエッチ系なら何でもありなのだが、むしろその“フツーにセックス”には男二人、疲れ果ててしまっているワケ。
というのもこの上司の奥さんは精力絶倫(という言葉は女性に対しても使えるのだろうか……?)で、このままじゃオレは吸い尽くされて死んでしまう、と部下に回してみるものの、体力自慢の部下も毎日毎日吸い取られて、「休みを下さい」(笑)。屋上で思いつめて、ズボンを下ろしてパンツの中をじっと見つめる久保氏に爆笑!

おっと、なんかどーにもこーにも先走ってしまったけど。
そう、最初は電車の中の痴漢シーン。しれっとして痴漢行為を行う部下の早井はしかし、女性から「この人、痴漢です!」と指差されてしまう。
次のシーンになると、早井は上司に呼びつけられ、「チミチミ、今朝のあれは何だね」「ハァ?」そう、野上氏のこのズーズー弁が全編に渡って冴えまくり、これが可笑しくてしょうがないの!
最初のうちは女性を侮辱する行為だろう、とかマトモなことを言っているこの上司なんだけど、段々雲行きが怪しくなってくる
「チミは大体、要領が悪いんだよ!」「ハァ?」つまりこの上司は、痴漢は自分の満足のためにあらず、相手を満足させることこそが痴漢道だ!という哲学を持っているんである。

まあここで、そんな哲学、女に通用するかい!などとヤボなことを言っても(いや、ヤボでは全然ないが!)仕方ない。痴漢道、などという耳慣れない言葉を聞かされて早井は目をパチクリさせて、「ハァ?」を連発。
あのね、後に登壇した久保氏も言っていたけど、台詞の大筋は用意されていた上で、かなりアドリブ連発だったんだろうってことは、見ているだけでも判るんだよね。

というのも、野上氏の、常人の発想を超えるまくしたてもそうだし、ひょっとしたらその見事なズーズー弁も彼のアイディアじゃないのかな?
野上氏は北海道出身だから、と説明してたけど、このズーズー弁はもっと確信犯的な感じ、北東北か、ひょっとしたら上越とか、そんな感じがするんだよなあ。
一応上司と部下という設定だし、部長室に呼び出される部下、というシーンもあるし、彼らが勤める会社として大きなビルディングがどーんとそびえたっているのを仰ぎ映す画もあるんだけど、どーにもこーにも非現実的。もちろん、確信犯的にね。こんなアホアホなサラリーマン、いねーよ!ていうね。

アホアホな導入はまず、早井のアパートの隣の新婚さんカップルをのぞく、というシークエンスである。若いのに相手がいない早井は隣の新婚夫婦のアノ声に悩まされている、と打ち明けると、部長は早速チミの部屋に行こうじゃないか、とワクワク気分マンマンである。
早井が小さな汚いアパートに案内しながら、「お湯沸かしますよ」「なんでお湯なんか沸かすんだ」「いや、ココア飲むでしょ」「ココアなんか飲むか!」「飲まないんですか、ココア……」
このあたりも、野上氏の破天荒なアドリブに一矢報いてやろうと「ココア」という脱力的キーワードを久保氏が持ってきたような勘繰りをしてしまうし、実際、このココアの応酬には笑ってしまう。

しかしやはり野上氏の独壇場。隣の部屋はどっちか、といきなりドリルを取り出すのにはアゼン!そして爆笑!どこにそんなもん隠してたの!
押し入れの奥からギリギリギリと穴を開けてしまう部長に、貧乏賃貸人の早井君は大慌て。
しかし首尾よくその穴から新婚夫婦の初々しいマグワイが覗き見られると判ると、それのけ、やれのけと二人でおしくらまんじゅうをしだし、次第に早井君、若い彼はガマンの限界を超え、「ぶ、部長、出ます、もうダメです!」おいおいおいおいー!!
それでも部長は聞く耳持たずで覗きに夢中、アー!と臨界点突破の声、部長は頭から眼鏡にまでダラーリと、早井君のオノコの印の白濁液が(ヤダー!!)。
もう、キッタナイ、とか思いつつ、この畳み掛けるカッティングもあいまって大爆笑!

しかしハナシはここからなんである。二人は大阪に出張に出かける。というのも、先述した精力絶倫の奥さんに早井君を供するも、彼もまた精力を吸い尽くされて使い物にならなくなったからなのだが。
そうそう、この奥さんとのくだりもかなりおかしいので、やっぱりさらりと書いとこう。奥さんは若いオトコが来たことでもうめっちゃ興奮してる。てか、その前にダンナからこの提案を「欧米では、いや、日本でも流行っているんだ」と“スワッピング”を新しい文化みたいに紹介されて、最初こそ形式どおりに(!)夫への貞節が……などと言っていたのに、もう吹っ飛んじゃう。
これは夫も興奮出来る、つまり夫への貢献だとあっという間にそのとりなしに納得しちゃう。てか、もうノリノリである。

まあ確かにこのヘンタイ夫は実際にセックスするより痴漢だの覗きだのの方が好きみたいだから、それはそれで真実なんだけど(爆)。
そうなの、このアヤしすぎるちょびひげの野上氏が、まさに鼻の下を伸ばして早井君と奥さんのシーンを覗く場面はサイコーでさ、鏡に映る上司に早井君が腰が引けまくって「部長、カンベンしてくださいよー」「私のことなら気にするな!」気になるって!めっちゃ、ガン見だもん!

てか、そうそう、この若いオノコ、早井君を迎える奥さん、既にスケスケのネグリジェ(というのも懐かしい響きだ)に着替えてて、玄関先で迎えるや否や、ハアハアと吐息が熱く、居間に案内するでもなく玄関先でとおせんぼ状態になっているのがもう可笑しくて可笑しくてさあ。
で、そう、夫が部下を家に連れてきた、っていう体裁なのに、もう何もかもの手順をすっ飛ばして、寝室に連れ込んじゃう。まあ、最初からその目的だったんだから別にいいんだけどね(爆)。

さらりと行くつもりが結構ガッツリ行ってしまった(爆)。
そう、なんたってメインはアメリカでの取り引きのシークエンス。こんなエロアホ二人組に任せる会社もどうかと思うが、まーそういう感じだから、この二人が会社に属しているサラリーマンだという現実味はなく(だって他の社員とかも全然出てこないし)、いい意味でナンセンスさを徹底させてるんだよね。
で、彼らが相手にするのは何かアメリカの大企業の御曹司だということなのだが、これまたこのアホ御曹司一人しか出てこないから現実味はない。わっかりやすく、アホな御曹司である。

やたら関西弁が流暢なこの息子、髪を金髪に染めただけの安いキャラ設定かなと思ったら、サングラスを外してもちゃんと外国人のお兄ちゃん!
そのハンマーのような形の巨根を持つばかりに、性欲マンマンなお年頃なのに満足出来ないまま、欲求不満を募らせている、というこれまたオバカな設定。
で、この御曹司を演じるのが、当時桂サンQという高座名だった、あのいろいろと悪名高き快楽亭ブラック氏(いや、ウワサだけだが(爆))わっかーい!!それこそ彼が一番ポヨポヨしてる!!

彼は最終的に部長の精力絶倫妻に倒されて(剣客試合かよ)観念、この大きな取り引きの契約にOKを出すのだが、それにしてもオドロキ!
この日の久保氏の話では、彼は本当に巨根で……いやいや、そんな話はどうでもいいが(汗)。彼、劇中でもひと目惚れする設定の、クラブの歌姫役の川口朱里にゾッコン入れ込んでしまって、後に結婚!
ほー。確かにね、ホントに見てる時にも、まあただの欲求不満のボンボンな設定ではあったけど、でもこの歌姫に対しては確かに、「キレイなねーちゃん、キレイなねーちゃん」という入れ込み具合が違う気はしたなあ。

早井より更に若い、しかもハンマー型巨根のオノコに更に狂った奥様が「今日はどちらが相手してくださるの?」と流し目を送り、二人がサーッと青ざめるというお約束のラスト。
そしてまたあの電車シーン。部長はまさに痴漢道テクニックを見せ、標的の女の子はもう手の内に転がされて今にもイキそうなのだが(……まーだから、こーゆーのはありえんのだからね)、そこで無粋な早井がザックリ手を出してしまったことで覚めた女の子は豹変「この人、痴漢です!!!」
まあ痴漢道はことほど左様に奥深いってこと??いやいや!痴漢は犯罪よー!!!

とっても魅力を言い尽くせない野上氏のズーズー弁の巧みさ、それを含めた芝居のやりたい放題と言えるほどの自由自在さ。
久保氏がひきずられ、奥さん役の桜マミが負けじと乗っかり(その豊満な身体だからね!)、とにかく野上氏の引っかき回しが、ストーリーなんて大してないような本作を見事なナンセンスコメディとして昇華させたってのが、とにかくスゴイ。確かに本作が追悼上映作品として選ばれたってのは、判る気がする!

主題歌がね、♪おっさん、何するんや、あたしのどこ触ってるんや、とトンでもない歌詞なのに、すっごくブルージーでカッコいいハスキーボイスで、なんとも粋なのよ。
でも歌詞がね(爆)。こーゆーの聞くと、歌詞の意味を全然判ってなくて洋楽をカッコイイと思ってるのって、こういうことかなって思っちゃう??★★★☆☆


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